アクセサリーコンテストに向けて その4
炉の中へと『鉄鉱石』が自動で注ぎこまれる。
どういう仕組みか不明だが、やや騒がしい音と共に煙を吐き出し……。
材料が投入された入口の反対側から、簡素な造りの刀身が運ばれてきた。
「完成……みたいだな」
「早い!」
赤熱してもいないようだし、すぐに触っても大丈夫そうだ。
俺はNPCショップに売っている安い素材『柄・剣』を刀身に装着すると、『ブロードソード』の装備経験があるユーミルへと手渡した。
……間近から「触ってみたい」という強い視線が突き刺さっていたせいもあるが。
「ほれ、ユーミル。前に俺が作った剣を思い出しながら、比較してみてくれ」
「うむ!」
ユーミルは剣を受け取ると、その場で勢いよく素振りを始めた。
いや、そうじゃなくて……。
「……何だか、悪い意味で手応えが軽い感じがする! すぐ壊れそう!」
「分かるのか? すごいな。念のため訊くけど、今の装備と比較して言っている訳じゃないよな?」
「ちゃんと初期の頃にお前がくれたブロードソードと比べているぞ? ハインドが私に初めて作ってくれた装備だしな! 忘れるわけがない!」
「……ちっ」
「そこ、舌打ちするな! 誰だ!? リィズ、貴様だろう!」
愚問だったか……確か、わざわざホーム内の自分の部屋に保管していてくれているんだったな。
とはいえ、本当は武器性能の数値を思い出して比べて欲しかったのだが。
仕方ないので、ユーミルが持ったままの剣に触れて自分で確認する。
「上質の……+がなしか。一瞬ででき上がるのはいいが、これはちょっと……」
「弱いでござるなぁ……」
「まぁ、俺の鋳型の精度が低いせいもあると思うが」
「手作業でこいつを鋳型成形……鋳造? すると、どれくらいの品質なのでござる?」
「この鋳型だと……どんなに頑張っても、上質+2か3くらいが限界だったはず」
雑に作ったり失敗したりすると『上質な』の文言がなくなったはずなので、必要最低限の品質は保証されるといった感じだろうか?
しかし、もっとサンプルがほしいところだな。
セレーネさんには及ばないが、部屋に戻ればこれより新しくてマシな鋳型を持ってこられなくもない。
想像以上に自動生産が早かったことだし、ここは……
「――ハインド君。私も自動生産の鋳造、試してみてもいいかな?」
そんなセレーネさんの声と同時に、大きな光が部屋の中央から迸る。
……今の、『極上』装備が完成したときの光じゃなかったっけ?
何事もなかったように会話に加わってきたが、もう新しい炉を使いこなしたのだろうか……?
「え、ええっと……セレーネさん。通常生産の試用はもういいんですか?」
「うん。大体分かったから」
「大体分かっちゃいましたか……」
「ま、誠でござるか? 剣を一本打っただけで……?」
「?」
この中で俺と同じく顔を引きつらせたのは、トビだけだ。
他のメンバーはセレーネさんと同じく、よく分かっていないという表情をしている。
いくら温度計が付いたといっても、『魔導炉』の火力上昇には癖があると聞いているが……。
「あー……えっと、はい。その口ぶりだとセレーネさんはこっちの話、聞こえていたんですよね?」
「ううん。さっき、手が空いた時にリィズちゃんが教えてくれて……」
そりゃそうか、作業中のセレーネさんが周囲に意識を張っているわけがない。
気を回してくれたらしいリィズに視線を送ると、頬を赤らめつつの熱い視線が返ってきた。
……俺の視線の意図、ちゃんと伝わっているのだろうか?
「私も試してみたいし、検証するなら数は多いほうがいいよね?」
「はい、もちろん」
生産メインの先駆者は雑感を書き込んでくれただけで、『魔導炉』の詳細なデータは攻略サイトにまだ載っていない。
イベント情報などは特に、調べ終えた数時間後や下手をすると数分後に載ってしまったりもするが。
こういったものはプレイヤーごとに進行度の差が大きく――と、御託はこの辺りにして。
いつもの検証タイムである。
「じゃあ……よろしくおねがいします」
「うん。あの、ヒナ鳥ちゃんたち、手伝ってくれるかな? 今から言う材料を――」
そうしてセレーネさん主導のもと、いくつかの装備を自動生産で作った結果……。
判明したことがいくつか出てきた。
「まず、最大の懸念だった品質の低下だけど……」
「どうなった!?」
「鋳型のレベルによっては、最低限で済む。ただし――セレーネさん」
「あ、うん。一から鍛錬した装備を超えることはできないね。手作業の鋳造よりも少し落ちるし」
TBでは元から鋳造のほうが鍛錬よりも品質を上げにくく、自動生産にするとそれが更に落ちる。
どうやら、これは間違いない法則のようだ。
最高の装備を作りたいなら、とにかく鉄を打っ――
「もっと分かりやすく! 分かりやすくだ、ハインド!」
「いつものが出たでござるな……」
「ゲーム側曰く“いい物が欲しかったら手をかけてね!”……ということだ」
「分かりやすい!」
「先輩、今の変な声ってどこから出ているんです?」
ただの裏声である。
じゃなくて、本命のアクセ作りのこともある。
この自動生産が実用に足るのかどうか、そろそろ結論に移りたい。
「メインの鍛冶の横で、サブとして使うのには充分だな。同時に使用しても、何故か炉内の温度は下がらないし」
「では、セッちゃん装備量産で大儲けできそうか!?」
「俺もそう思ったんだけどな。残念ながら、強い武器ほど量産には時間がかかるらしい。ブロードソードは一瞬だったけど……」
ユーミルの視線を誘導するように、俺は今も稼働している生産設備に目を向ける。
『ブロードソード』と違い複数の材料が炉内に放り込まれるものの、炉から煙が派手に噴き出すところまでは一緒だ。
しかし、続けて炉内を覗く窓から様々な色の光が点いては消え……。
炉の下部に大小様々な魔法陣が出たり、蒸気が不規則に噴き上がったりを繰り返す。
そのまま少しの間だけ待ってみるものの、完成した武器は一向に出てこない。
しばらくそれを眺めていたユーミルだったが、焦れたように足を踏み鳴らす。
「遅っ!? 遅いな!」
「だろ? だから――」
「音が面白いです! シューって! ね、サイちゃん!」
「でも、ちょっと故障しそうで怖くない……?」
「あ、やっと武器が出てきたでござ――って、眩しっ!? これ、セレーネ殿の装備だと完成する度に光るのでござるか? 質が高いから?」
「確かに、目が痛くなりそうですねー。作業中は邪魔じゃないんですか? セッちゃん先輩」
「どのみち、熱した鉄は結構目にくるから……これくらいなら大丈夫だよ?」
「フリーダムだな、おい!? しかも感想の方向性が三つに割れているじゃんか!」
「すりーうぇい!」
ユーミルが三本の指を立て、俺に笑顔を向けてくる。
話が終わるところだったのだから、みんなにはもう少しだけ待ってほしかった。
黙って待っていてくれたの、リィズだけじゃないか……。
ちなみに自動生産の速度だが、鋳型に用いるのが「金型」か「砂型」かによっても差が出る。
ただ、これは後で必要になったときに改めて説明するとして。
「あー……いいか? つまり、何でもかんでも自動生産で賄う訳にはいかないって話だな。プレイヤーを補助する機能としては上等だが」
「品質低下と生産速度は気になるけど、一点物の依頼以外はどんどん使っていっていいかな。取引掲示板への出品と……あと、国軍兵さんたちへの装備供給には最適だと思う」
「だ、そうだ」
使い分けすればいいというセレーネさんの結論に、みんなが納得する。
セレーネさんは今まで売り物用の装備作りも並行してやっていたので、かなりやりやすくなるはずだ。
鍛冶場の自動生産については、そんなところで。
「さぁ、そろそろアクセ作りに入ろうぜ。縫製室の設備は私費でレベルアップしておいたから、必要な人はそっちも自由に使ってくれ」
「おー! ……って、ちょっと待つでござるよ!」
「な、何だよ? トビ」
背を向けたところで、トビに肩を掴まれる。
言いたいことはおおよそ分かっているが、できれば見逃してほしかった。
「何をしれっと大事な情報を混ぜているのでござるか! 縫製室はレベルアップ済み!?」
「だ、だって、鍛冶場に比べて費用が遥かに安かったし……」
「値段の問題でござるか!?」
「トビさん」
「何でござるかリィズ殿!? 邪魔しないで――」
「時間が押していますので、その辺りで」
「ハインド殿にだけあめぇーっ!」
叫びつつも引き下がる様子を見せるトビ。
……ありがとう、リィズ。
しかし縫製室のレベルアップは、実は俺が誤タップしてしまった結果の産物なんだよな……。
あっちはあっちで、みんなで施設レベルアップの様子を見るつもりだったんだけど。
全て自分のポケットマネーを充てることにしたのは、その罪滅ぼしの気持ちがあったりもする。
「……で、ハインド殿。縫製室は何が変わったのでござるか? そこだけ簡単に教えてほしいでござるよ」
「まぁ、変わったというか……増えた機能は、魔導炉の仲間みたいなやつだよ。名前は魔導――」
「はい! はい! 分かったぞ! 魔導炉の仲間で裁縫用ということは……魔導ミシンだな!」
「いやいや、ユーミル殿。まさかそんな安直な……」
「ユーミル、正解」
「「マジで!?」」
トビはともかく、答えを当てたお前まで驚くなよ……。




