アクセサリーコンテストに向けて その1
どんなアクセサリーにするかが決まったら、次は完成度の追及である。
もちろん現実同様、より精緻であることなども大事であるが――
「性能追及! 性能追及でござるよ! 見た目も大事でござるが、やはり性能も!」
「おい。最後まで聞けよ」
「だって……ゲームだもの!」
「おーい……駄目か」
以前も触れたように、ゲームならではの要素は無視できない。
それどころか、ステータスがあるおかげでデザイン面における被りはさほど気にしなくてもいいとさえ言える。
デザインが個性的であるに越したことはないが、突出したステータスも個性たり得るのがゲームの面白いところだ。
「ええと……ハインド先輩! 質問が!」
「何かな? リコリスちゃん」
呼びかけにそう返すも、リコリスちゃんの言いたいことはおおよそ分かっている。
ギルドホームの中ではちょっと狭めな鍛冶室には、八人と二羽が集合済みだ。
「具体的には、性能のどういう部分を伸ばせば……?」
「今回のコンテストの性質を考えると、自分が使いやすい性能を狙ってOKだよ」
「?」
第一回アクセサリーコンテスト要項、その中の一つ。
そこに“提出したアクセサリーは審査終了後、プレイヤーの皆様に返却されます”とある。
「最優秀賞の複製品が配られるというところに着目すると、汎用性が高く一般受けするアクセがいいように思えるけど――」
「配られるのは最優秀のアクセだけでござるし! どっちみち戻ってくるのであれば、自分好みでゴーゴー! その上で、みんなに喜んでもらえるものだったら嬉しい! そのくらいがいいと思うでござるよ!」
「こいつ……! トビ、お前――」
「他人の顔色ばかり窺ってんじゃねえええ!!」
「俺か!? それ俺のことか!? なあ!」
説明をインターセプトした上に、何故か俺を見てキレるトビ。
先程からの妙な勢いにリコリスちゃんは目を白黒させているが、ユーミルが腕組みしつつ頷く。
「では、早速アクセづくりに取りかかるとするか!」
「え、あれ!?」
「そうですね。リコリスさん、性能面は自分の戦闘を思い返しながら決めるのがよろしいかと」
「あ、は、はい!」
諸々の会話をスルーして、材料の選定などに移るユーミルとリィズ。
賢い選択だ……というか、できれば俺もそちらに混ぜてほしい。
「ま、待ってほしいでござるよ! 真面目にやる! 真面目にやるでござるから、もう一度拙者にチャンスを!」
「本当か? あそこまでハインドを邪魔したからには、ちゃんと分かりやすく解説できるのだろうな?」
「な、何度か実績あるでござるし? ゲーム知識だけはハインド殿に負けねぇー!」
トビのその宣言を聞き、シエスタちゃんが俺に「おいでおいで」と手招きする。
そしてユーミルと交代するように、リィズが前に出て一言。
「トビさん。次にハインドさんを馬鹿にする類の発言をしたら……」
「し、したら?」
「……」
「黙らないで!?」
工具が置かれた壁際の隙間に、シエスタちゃんと並んで膝を抱えるように座る。
あ……なんか落ち着くね、ここ。
「あ、あー……リコリス殿」
「はい!」
「TBのアクセは、効果が幅広いでござる。基本的なステータス強化に、詠唱短縮やらスキルWT短縮などの特殊なものまで……ここまではいいでござるか?」
「大丈夫です!」
いいな、基本的なことの復習から入るのは。
どれだけ長くプレイしていても抜け落ちてしまうことはあるし、折に触れて思い返すのは大事だ。
……ところで、シエスタちゃん。
どうして俺の肩をトントンしているのかな?
「で、自分なりの装備を考える前に覚えておきたいのが、職ごとの定番。いわゆるテンプレ装備でござるな」
「どうしてですか?」
「え? えーと……」
トビがこちらを見そうに……なったものの、頭を振ってリコリスちゃんに向き直る。
うん。助け船は出さないから、もうちょっと頑張れ。
「て、テンプレを知ることで、自分の装備を測る……あー……」
「指針とか、基準とかかな……?」
「そう、基準! ナイス、セレーネ殿!」
俺以外の助けはいいのか……それこそ、基準が謎だな。
テンプレを知っておくのは俺も大事だと思う。
「一般的な基準からどれだけ外れているかを知るのは大事でござるよ! 型を崩す際の基本でござる!」
「おー! ちなみにトビ先輩、私の騎士・防御型だとどんな感じなんです!?」
「ふおっ!?」
答えを用意していなかったのかよ。
誰か助け船を……し、シエスタちゃん?
その一定のリズム、何だか眠くなって……。
「騎士・防御型のテンプレアクセ装備は、確か一枠目にHPを上げるものを。二枠目は意見が割れていまして、防御を上げるか魔法抵抗を上げるか……という感じだったでしょうか?」
信頼と実績の助け船、サイネリア号が到着。
溺れる寸前だったトビが、それによって息を吹き返す。
「そ、そうでござったな! アクセは同系・同種の物を複数装備すると、効果が下がるという特徴がある故に」
「それがなかったらHPとHPで決まりでしたね!」
「然り然り。騎士の防御型はWTの重いスキルが少ないでござるし、短縮系アクセは相性がよくない。順当に耐久アップして、安定感を得つつカウンターチャンスを増やすのが鉄板でござるな」
シエスタちゃんの動きに合わせ、マーネが優しい声で鳴き始める。
優しく叩かれている肩の反対側が何だか重くなり、緩慢な動きで視線を向けると……の、ノクス?
もしかして、寝ちゃったのか……?
「そこからリコリス殿が欲しい! 足りない! と思うものを足していくといいでござるよ。例えば――」
何だか本格的に眠くなってきた。
どういうつもりで俺を寝かしつけようとしているのか、という疑問も眠気の中に溶けていく。
「かなりのレア装備でござるが、装備全体の重量に補正がかかるアクセ……こいつを装備して軽く!」
「動きやすそうです!」
「カウンターも取りやすくなりそうでござるな! 他には……防御型なのにあえて攻撃重視にして、相手の意表を突く変態型!」
「へ、へんたい!?」
「変態はお前だ」
「ゆ、ユーミル殿!? ド直球に酷くない!?」
トビからリコリスちゃんを庇うように前に立つユーミル。
ゲーム用語としては割と普通の表現だが、年頃の女の子の前で使う言葉としては不適切だったかもしれない。
……まあ、動物が姿を変えることもそう指すのだし、要は相手の捉え方次第ではあるのだが。
「し、失言でござった。ええと、要は……防御型だけど、ユーミル殿っぽい戦い方ができるようになる! という感じでござるな!」
「ユーミル先輩みたいに!? 素敵です!」
一応、対人用の初見殺しにはなるか?
斬撃系スキルが主体となる代わりにカウンターの使用頻度が減るので、二枠目にWT短縮アクセが選択肢に入って……あれ?
いつの間にか、ひざ掛けをかけられている気が……。
「ですが、トビ先輩。一つ疑問が……」
「質問大歓迎! サイネリア殿、どうぞ!」
「は、はい。あまり変な装備で戦っていると癖がついたり、上手くいかなかったりしませんか?」
リコリスちゃんの今の戦闘スタイルは、バウアーさんとの特訓の末に作り上げたものだ。
そして、リコリスちゃんはそれを柔軟に変えられるほど器用ではない。
バランスを崩すことをサイネリアちゃんが憂慮する、のも……とうぜ……ん……ああ、いかん。
思考が鈍ってきた……。
このひざ掛け、通気性がちょうどいい上に肌触りもよくて……。
「そうなったときのためにテンプレ装備を抑えておくのでござるよ! 迷走したら無装備状態に戻すよりも、拙者としてはテンプレ装備を試すのがオススメでござる!」
「なるほど……」
「改めて、多くの意見を集約した装備の使いやすさも再確認できる故に――と、こんな感じでどうでござるか? ハインド殿! ……って、寝てるし!?」
トビがやり遂げたことを見届けたのを最後に、意識が遠くなる。
シエスタちゃんが笑みを漏らしつつ、おやすみなさい先輩――と呟いたのが聞こえた気がした。