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着ぐるみVR体験 その2

「地方の、ちょっと無理のあるご当地キャラってあるじゃんか? 特定のどっかを批判する気はないんだけど」

「あるある!」


 特産品や地域の特色をキャラに落とし込むのは、それだけ難しいらしい。

 動物系に要素を加えるのが無難だが、インパクトに欠ける。

 担当者はさぞかし頭を悩ませることだろう。

 インパクトを取るか、可愛い系で無難にまとめるか。

 その試行錯誤の末に、生まれてくるのが――


「こういった怪物たちだな!」


 いつ目を付けていたのか、未祐が微妙なデザインのぬいぐるみばかり集めて持ってくる。

 テーブルに並べてどうするんだ、それ……。


「怪物言うな。顔だけ出ているタイプの着ぐるみじゃなかったのは、幸いだった……」

「うむ。そのおかげか、最低限の可愛さは保たれているぞ!」

「ああ。最低限な」


 顔文字のような雑なものだが、フライパン人間の顔にあたる部分には目が書き込まれている。

 その目の穴から外を覗けるのだが、視界は非常に狭い。

 着ぐるみ体験とはよく言ったものだ。

 不自由さを楽しむ類のゲームだろうか?


「……お前は大丈夫なのか? そのイノシシヘッド。ちゃんと周囲は見えているか?」

「私か? 多少の(わずら)わしさはあるが、そこまで不自由は感じないぞ! 問題ない!」


 論より証拠とばかりに蹄を動かし、テーブル上のぬいぐるみを縦に積んでいく未祐。

 おお、限りなくブサイク寄りのブサカワやら、謎のアンニュイ顔やらがタワーになっていく。

 凄い集中力だが、同時に感じることが一つ。


「あー。普段の視野が狭いから……」

「どういう意味だ!?」


 タワーが崩れると同時、フライパン目がけて直線的に突っ込んでくるイノシシ。

 その動きなら視野は問題にならないだろうな……。


「まぁ、何だ。このゲーム、本当は動物になってあれこれするゲームだったんだと思う」

「む? どうしてそう思うのだ?」

「プリセットの順序とか、自動診断の質問内容とか。流用できるものはそうしたんだろう、名残りみたいなのがあった気がする」

「ほほう」


 動物体験ゲームにできなかったのは、いつぞや触れた没入型VRの弊害があるからだ。

 それならそれで視覚と聴覚だけのVRに、コントローラーで遊ぶ旧来の仕様を使えばよかったとも思うが……どうしてこうなった?


「それはそうと、亘。私はお前がどうしてそんな姿になったのか、のほうがよほど気になるのだが? 詳しく話せ!」

「いや、その……」


 それこそ、どうしてこうなったと言いたいが。

 AIによる自動診断は序盤、好きな動物などの質問から始まり……。

 徐々に心理テストっぽいもの、趣味や普段の生活に触れるものへとシフトしていった。

 心当たりは……そう。


「多分、趣味関連の質問で料理方面に偏ったから……じゃないか?」


 その答えに、未祐は改めて今の俺の姿をしげしげと眺めた。

 頭の上から足元まで……そして、堪え切れずに三度(みたび)噴き出す。


「わはははは! 料理ではなく、裁縫なら無難に動物系だったかもしれないのにな!」

「糸巻きとかの道具系にされなければな。にしても、フライパンはなくないか?」


 せめてコックさん風のキャラとか、料理関連なら他にもあるだろうに。

 柔らかフライパンと化した俺の腹を突きながら、未祐イノシシが首を傾げる。


「む? では、包丁……」

「待て、子ども向けゲームのPCに包丁はないだろ。登場させるにしても、性質がよく分かるストーリー付きのNPCにしないと」


 どうせ包丁だとしても柔らか包丁になるに決まっているが、子どもたちに包丁が「危なくないもの」だと思わせるのはよろしくない。

 デフォルメがきつく本物と混同しようがない動物系はともかく、包丁は身近にあるものだ。

 その辺り、きっちりしていない子供向けゲームは……俺が知る限り、あまりヒットしない傾向にある。


「教育上の配慮というやつか……しかし、それはフライパンでも同じではないか? 振りかざせば鈍器だぞ?」

「鈍器は持った瞬間に、重量と硬さで振り回すと危ないものだって分かるじゃんか。子どもでも、感覚的に」

「そうか……ややこしいが、包丁の場合は刃の部分に触れると危険という性質を歪めるのがよくない。そういうことだな?」

「そういうこと。そっちは知らずに実物に手を触れてしまったら、その時点で怪我をしかねないからな。っていうか、ほら……いつまでも調理器具の話じゃなくてさ。着ぐるみ向けのキャラクターっていったら、料理のほうでも色々あるだろう?」

「料理のキャラクター……お菓子の精とかか?」

「それそれ」


 お菓子の箱に描かれているキャラのような、ああいったものを連想しているであろう未祐。

 キャラクターもののジャンルとしては、歴史が古くデザインにはずれが非常に少ないグループだろう。

 どうせだったら、そちらのほうが……とまあ、愚痴はこの辺りにして。

 さすがにもう再設定は手間なので、イノシシとフライパンのコンビで妥協。

 そろそろ外に――


「亘? 私の自動診断の経過については?」


 向かおうとしたら、蹄に押し留められた。

 自分の話も聞け、とイノシシが鼻を突きつけつつ迫ってくる。


「ええ……いいよ。どうせ直感的に答えただろうから、ほとんど内容を憶えていないだろう? 俺の決めつけだったら申し訳ないけど」

「そんなことは……」

「……」

「ある!」

「あるんじゃないか」


 今の無駄な溜めは何だ。

 ――そうそう、溜めといえば。

 おそらくだが、あの自動診断……答えるまでの秒数も診断結果に反映されている。

 未祐がイノシシにされたのは、きっと即答ばかりだったのも影響していることだろう。

 (うた)い文句はあくまで「あなたに合った着ぐるみを自動診断!」だったからな。

 あなた好みの、ではないところがポイントだ。

 そんなわけで、今度こそ出発――といったところで、またもイノシシが進路を遮る。


「亘、せっかくだ! このまま出発する前に、みんなも呼ぶことにしよう!」

「みんなって……みんなか?」

「みんなだ!」


 少々頭が痛くなる会話だが、みんなというのはいつものTBメンバーのことだろう。

 この後、TBもプレイ予定の上に全員来ると言っていたので、呼ぶこと自体は問題ないはずだ。

 こちらのゲームに参加するかどうかは、もちろん自由だが。


「でも、いいのか? このゲームは二人でサクッとってお前が……」


 くれぐれも他に誰も呼ぶな、特に理世はと言っていたのは未祐自身だ。

 俺としては例のケーキにさえ到達できればそれでよかったので、特に反対しなかった。


「いいのだ! ……思った以上に、この格好では二人きりの意味を感じないというか……」

「お前がいいなら連絡してみるけどな。じゃ、一旦ログアウトしよう」




 連絡は各自のスマートフォンに。

 気が付かずにTBにログインしてしまってもいいように、TB内でもメールを残すという形で連絡は終了。

 次々と了解の返信がくる中、俺は我が物顔でベッドの上で寛ぐ未祐に目を向ける。

 

「……」

「ふお!? 亘、亘! この巻、前回まで重症だった主人公が奇跡の――!」

「やめろやめろ!? 悪質なネタバレは!」


 何でこいつ、俺より先に買ったばかりの新刊漫画を読んでいるんだ? 俺のだぞ?

 まぁ、その展開は大体予想できていたけれども! 畜生!


「はぁ……ところで、未祐」

「何だー?」


 仰向けの無防備な体勢から、適当な返事を寄越してくる。

 聞いているのかいないのか分からないが、一応言っておこう。


「みんなをあのゲームに呼ぶってことは、お前のイノシシ姿も見られるってことになるけど……それはいいのか? 覚悟の上なのか?」

「あ」


 やっぱり気が付いていなかったのか……。

 とりあえずその胸の上に落とした漫画を拾ってくれよ、紙の本なんだから。

 ページが折れてしまう。

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