賭けと二人への期待値
「そういや、出場者の俺達も賭けには参加できるんだな」
「みたいだね。自分達に賭ければ?」
「その前に、今の賭け率とかどうなってんのか知りたいんだが」
「おお、私も知りたい! 私達は何番人気なのだ!?」
俺達のその言葉に、秀平は気まずそうに目を逸らした。
おい、まさか……。
「お、俺の口からは何とも……公式のオッズを見るといいよー。ほら」
そう言って秀平は公式サイトを表示したタブレットを渡してきた。
嫌な予感がするが、取り敢えず見てみよう。
「あー……上から見ていくと見事に名前が無い――あ、あった。これだ」
「八位……倍率49倍……っておおい! 一番下ではないか!」
「う、うん」
何だこの酷い順位は。
はっきりと突き付けられた数字は残酷で、俺達が優勝すると思っているプレイヤーはほとんど居ないようだ。
まだ戦ってもいないのに妙に敗北感があるんだが。
未祐と秀平の分を出した後、自分の湯飲みにお茶を注いで飲むと普段よりもちょっと渋い味がした。
「当人である俺が言っちゃなんだが、秀平。本当に大丈夫か? こんなのに大金を賭けちゃって。完全に大穴狙いになってるけど」
「ちょっと後悔してる……で、でもわっちが何とかしてくれるし? きっと大丈夫! 当たればデカいし!」
「そう言われてもな……」
「しかし納得いかん! 秀平、何がどうしてこういう流れになっているのだ!? 詳しく教えろぉ!」
「それも掲示板を見た方が早いかなあ……。優勝を予想するスレがあるんだけど、ちょっと待ってね……あ、はい。これ見たら大体分かると思う」
【ラスボス】グラド帝国主催・決闘イベント大会 優勝予想スレ2【アルベルト】
TBで開催中のPvPトーナメント・優勝を予想するスレです
賭け率、賭け金などについての雑談もここで
スレはマナーを守って正しく使いましょう
次スレは>>900が宣言して立てること
2:名無しの魔導士 ID:c2ZdELy
前スレまとめ
ベスト8(8組16人)の職別人数
重戦士3・軽戦士2・武闘家2・騎士3・弓術士4・魔導士1・神官1
3:名無しの魔導士 ID:c2ZdELy
正午(12:00)時点でのオッズ ※公式サイトから引用
一位 傭兵アルベルト(重)・フィリア(重) 1.4倍
二位 リヒト(騎)・ローゼ(騎) 5.3倍
三位 ヒポポタマス(重)・ファルケ(弓) 8.6倍
四位 出涸らし緑茶(武)・乾燥しいたけ(弓) 10.1倍
五位 盗賊エドワード(軽)・弓兵アイリス(弓) 30.7倍
六位 ずっと蛹(軽)・未完の大器(弓) 35.9倍
七位 ワルター(武)・ヘルシャフト(魔) 42.5倍
八位 ユーミル(騎)・ハインド(神) 49.2倍
4:名無しの騎士 ID:LpcPafa
スレ立て乙!
5:名無しの軽戦士 ID:nLbGEeY
立ておつー
それにしても一位に賭ける旨味少ねえなあ
6:名無しの神官 ID:BAxfMw5
しかも配当金の倍率まだ下がりそうなのが
最終的に1.2倍とかになりそう
7:名無しの魔導士 ID:NSZe6h7
グループAの決勝が圧巻だったかんね
二対一になってから一人で試合をひっくり返すんだもん
8:名無しの弓術士 ID:jBsCZa2
アルベルトのオッサンは色々とオカシイ
そしてフィリアちゃんはカワイイ
9:名無しの軽戦士 ID:TphkGPw
あの筋肉ダルマとどういう関係なんだ
幼女、というか小学生くらいにしか見えないけど……娘?
10:名無しの弓術士 ID:SnzsbLX
まさかぁ、全然似てないじゃん
11:名無しの神官 ID:Gn4RuKR
奥さんが美人ならワンチャン
それに意外と目元は似てるよ。可能性はある……と、思う
12:名無しの魔導士 ID:KwNgwXF
真偽は分からんが大斧を振り回す少女はロマン
野郎ばかりになるかと思いきや、女性プレイヤーが意外と残っていて私は嬉しい
13:名無しの重戦士 ID:urQQUmy
えーと……フィリアちゃん、ローゼちゃん、アイリスちゃん
お嬢様に勇者ちゃん、それとワルターちゃんか。六人だな!
14:名無しの弓術士 ID:SnzsbLX
あれ? 今何か混ざらなかった?
15:名無しの騎士 ID:PWhc8rf
気のせいだろ
俺は何も見ていない
16:名無しの軽戦士 ID:X7UXVd7
ワルターチャンハショートカットノカワイイオンナノコダヨ!
ホントダヨ!
17:名無しの武闘家 ID:gzDg469
リプレイ動画で簡易プロフィールを二度見したのは俺だけじゃないはずw
あんなの詐欺だよ、詐欺
18:名無しの重戦士 ID:8wPUixb
ふぅ、断トツでビリの勇者ちゃんと本体さんに賭けてきたぜ
前イベの再現頼む……頼む!
19:名無しの魔導士 ID:bTSiSWA
前イベって、勇者ちゃんはダメランだっけ?
20:名無しの重戦士 ID:8wPUixb
>>19 そうそう
最終日に本体さんがサクリファイスかまして、勇者ちゃんがアルベルトから一位を奪ったんよ
21:名無しの騎士 ID:23J84Pg
でも、どうかなぁ? 一位と二位の二組はグループトナメで圧倒的だったからね
両前衛はやってみると難しいだけに、余計に強く見えるわな
現にオッズはこれこの通り
22:名無しの魔導士 ID:SEYc8Y7
後ろに魔法職を置く方がRPGの戦術としてはオーソドックスなはずなのに
どうしてこうなった
23:名無しの神官 ID:8CuuAL6
後ろに弓術士がTBのスタンダードなのさ……
24:名無しの魔導士 ID:HkWNs2Y
どうしても詠唱時間が足を引っ張るのよね
前衛の負担が弓より大きいのはかなりのマイナスポイント
はぁ……
25:名無しの神官 ID:fmRF9rW
>>22-24 せめて勝ち残った魔法職を応援しようぜ
もう二人しか居ないんだし……
折角だから俺も勇者ちゃん達に賭けてくるわ、少額だけど
あ、これ俺のせいだわ。
どうも魔法の瞬発力の無さ全般が、決闘では致命的と見なされているようだった。
「流行りはやっぱ弓と前衛って形なんだな。てか、ヘルシャが怒りに燃えている様子が目に浮かぶんだが……名前を初めて見た時は驚いたけど」
「まあ、上位二組の両前衛はグループトーナメントの圧勝を受けた例外として。わっちとヘルシャちゃん達以外の四組は、全部弓が入った形だしね」
「ただの職差別ではないか! 浅はかな!」
「それもあるだろうけど、俺達はグループ決勝で大苦戦したからなあ」
「フフーン!」
トビが誇らしげに胸を張る。
普段なら調子に乗るなと言いたいところだが、昨夜はかなり落ち込んでいたので放っておいてやろう。
と、そこで何かを考えるように口元に手を当てていた未祐が息を吸い込む。
「……決めた。私も自分達に賭けるぞ!」
「おおっ、未祐っちやる気だね! その言葉を待ってたぜ!」
そして宣言と共に椅子から立ち上がり、気合を入れるように胸をドンと叩いた。
弾みで双丘がポヨンと揺れる。
「賭けるのは結構だけど、額はほどほどに――」
「……全部だ」
「え?」
「手持ち全部だ! 当たり前だろう!」
「うひょー! さすが未祐っち、話が分かる!」
こいつら、外れた後のことを全く考えてないな……。
盛り上がる二人をよそに茶を飲んでいると、何故か急に静かになってこちらに期待のこもった視線を向けてくる。
え、俺も賭けなきゃいけない流れ?
「じゃ、じゃあ少しだけ」
「「はぁーっ……」」
何だよ、その「お前にはがっかりした」って顔と反応は。安定志向の何が悪い。
大体、いくらゲームとはいえ賭け事って好きじゃないんだよ。
こちとら普段の生活で、如何に節約しつつ過ごすかに対して腐心しているのに。
外れたら0だぞ、0。何も返ってこない。
だったら、少し贅沢して美味しいものでも食べた方がよっぽど――
「亘、長い付き合いだ……お前が考えていることは大体分かるぞ。だが、これはゲームだ! ゲームなのだ! 現実のようにリスクばかりを気にして、一体何が楽しい!? 賭けるのだ、お前も! 己に!!」
「!!!」
その未祐の言葉に、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。
た、確かに……ゲーム内のお金が無くなったとして、それがなんだと言うのか。
また一から稼ぎ直すという苦労も、ゲームなら色々な手段を考えるという楽しさに繋がるものかもしれない。
どう考えても乗せられている、乗せられているが――こういう時くらいは、別に乗っかってしまっても構わないかな……。
「――分かった。俺も全額賭けるよ」
「「っしゃあああああっ!」」
「お前らうるさい。全力は尽くすけど、後悔しても知らんからな」
駄目だったらイベント終了後は金策地獄に決定だ。
と、そこで時計を確認したらもう十五時が近かった。
そろそろおやつを用意しようかと席を立つと、背中から秀平が声を掛けてくる。
「ところでわっち、自分以外の誰かに賭けるとしたらどうした?」
「あ? そりゃあ――」
アルベルトの兄貴でしょ、普通に考えたら。
俺がそう言うと、二人はやっぱりな……という顔をして笑うのだった。




