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放課後・過去語り 後編

「その子の名前は……ルミちゃん」

「ルミ、ちゃん? 正式名称?」

「あっ……正確にはルミナス!」

「縮めてルミちゃんか」


 随分と親し気な呼び方だ。

 だとすると、先程の微妙な表情が益々気にかかる。


「この子については……うーん……」

「……」

「まぁ、そのうち分かるよ! 多分、今でもメディウスの傍にいると思うし!」

「え」


 深く詮索するのも失礼だとは思う。思うが……。

 一旦、話す姿勢を見せてからのそれはズルくないか?


「だ、だってルミちゃんって、妙に俺にだけ当たりがきつくてさぁ。あんまり思い出したく……」

「そうか。それなら仕方ないな」


 秀平にだけ特別に当たりが強かった……何となく察せられるものがあるが、ここは黙っておこう。

 本人の言う通り、会う機会があれば分かることだ。

 それはそれとして、話を本筋に戻してもらおう。


「で、だ。そこからどうプロゲーマーやらに繋がるんだ?」

「あ、そ、そうだね。さっき、メディウスが大学卒業間近だったって話はしたよね?」

「ああ」


 その話の切り出し方で、その先がおおよそ分かってしまう。

 もちろん修業した後に別分野なり、更に深い領域なりに入り直す人もいるとは思う。

 しかし一般的に大学を卒業した後、次に続くものといえば……。


「卒業を機に、メディウスはプロゲーマーの団体……事務所を立ち上げるって言い出してさ」

「やっぱりか……」


 普通なら鼻で笑うところかもしれない。

 だが、相手は大学を飛び級で卒業するような神童だ。

 ともすると、並の大人よりも上手く……もしかしたら、出資者や後援者などを見つけるのも普通より簡単だったかもしれない。

 そんな俺の想像に、秀平は頷きを返す。


「あいつの場合、子どもの戯言(ざれごと)じゃ終わらないんだよね。実現させるだけの力があったから。プロモーションもマネージメントも、ちゃんとしっかりした事務所を作るって言ってた。そんで、中学を卒業したら俺もそこに入らないかって誘われたわけ」

「……やっぱりか」


 孤高の天才だったメディウスを、プロゲーマーを志すまでにゲームに()まらせたのは秀平だ。

 メディウスが一緒にやろうと誘うのは、自然な流れであると言えるだろう。


「聞いた時は、正直びびったよ。だって、プロだよプロ! ゲームは昔から好きだったけど、そんなの一度も考えたことなくてさ。俺、色々考えて、悩んで……それから――」

「……」

「それから……断ったよ。お前と一緒に、プロにはなれないって」


 そうだろうな……今の秀平の肩書は単なる高校生だ。

 しかし、具体的に断るに至った経緯を訊いていいものだろうか?

 そこが今回の話の要点であり、それを話すために秀平は俺を自宅に招いたのだと思うが……。

 俺が訊きあぐねていると、察した秀平がにやりと笑みを浮かべる。


「実はわっちには理由を聞く権利、ちゃんとあるんだぜ?」

「聞く権利……?」

「なんだ、やっぱり気付いていないんだ」


 先程思い返した際にも、特に思い当たる節はなかった。

 改めて考えてみても……うぅむ。

 今より付き合いが浅かったこともあるし、やはり記憶を探ってみても答えを得ることはできない。


「その時期、わっちとゲーセンに初めて行ったじゃん?」

「ん……ああ、あのころなのか? お前がメディウスの申し出を断ったの」

「そうそう」


 中学時代の俺は、基本ゲーム断ち……というほど大袈裟なものではないが。

 家庭環境の変化から家事などに追われ、ゲームに()く時間をほとんど作ることができなかった。

 そんな中、しつこくゲームセンターに誘う秀平に根負けし「短時間なら」という約束で遊びに行ったことがある。


「ゲームもゲーセンも久しぶりだったから、軽く浦島太郎状態だったな」

「わっちのゲームの趣味が渋くて驚いたよ。しかもレトロゲー関連、めっちゃ強いし。未だに一度も勝ったことないしね、俺」

「逆に最新ゲームは、お前に全く歯が立たなかったがな……」


 特に体感型ゲームがきつかった。

 予測と経験則があまり役立たないゲームは今でも苦手だ。


「そんな俺らだったから、行き着いた先が……わっち、憶えてる?」

「憶えているよ。老若男女、誰でも同じレベルで遊べるメダルゲームだったな」


 協力型のゲームでもよかったのだが、久しぶりということで目が痛かった。

 画面を凝視しなくてもいいゲームということで、そちらに落ち着いた形だ。


「そしたら、わっちってば……くくっ」

「……あの時は大変だったな」


 結局、俺は短時間でゲームセンターを出ることができなかった。

 何故なら、そんな時に限って……連続で大当たり(ジャックポット)を引いて大量のメダルが排出されることになったからだ。

 確か、中央で数字の付いたボールがくるくる回るタイプの大型筐体(きょうたい)だったと記憶している。


「……何であそこのゲーセン、メダルを預けるシステムがなかったんだろうな?」

「余ったら丸々返却っていうシステムだったね。でも、わっちが勿体ないって言い出して……」

「だって、金を投げ捨てているみたいで気分が悪いだろう!? 違うのは分かっている! 違うのは分かっているけれども! ただのメダルだけれども!」

「ま、まあ、気持ちは分かるよ。偶々(たまたま)、近くにいたクラスの女子に消費を手伝ってもらったり……」

「それでも減らないから、近くの家族連れにあげたりもしたな。もしかしたら迷惑かとも思ったけど、結果的にすごく喜ばれた」


 今になって思えば、設定が緩めのサービスデーか何かだったのかもしれない。

 とにかく、周囲を巻き込んでのメダルゲーム祭りになってしまい……。


「時間がないとき、それから預けるサービスがない店では二度とメダルゲームはやらないと誓ったぞ……」

「俺は物凄く楽しかったけどねー。わっちも“早く帰らないと”を連呼する割には楽しそうだったよ?」

「……久しぶりのゲームだったからな。メダルの大量排出は予想外だったけど、楽しんだのは間違いない」


 今になって思うと、あのころの自分は結構張り詰めていたのだと思う。

 秀平に半ば強引に誘われたことに最初は戸惑ったが、息抜きとしては最高の時間だったと断言できる。


「正直、俺は心底意外だったわけよ。ただの堅物だと思っていたわっちに、そんな一面があったことがさ。すげえいい顔で笑うんだもん」

「……俺、そんなに堅かったか?」

「もうガチガチよ。もしかしたら、あんまり気が合わないかな? なんて思ったこともあったし」

「だろうな」

「でも、その日ゲームに関しては最高に気が合うって分かったじゃん?」

「それはどうかな」

「そこは素直にそうだって言って!?」


 そういえば、ゲームセンターに行った後くらいからだったか?

 秀平の俺に対するゲームトークがより熱を帯び始めたのは。

 そんな中でも「一緒にゲームをやろう!」と誘う頻度が少なかったのは、こいつなりのせめてもの気遣いだったのだろう。


「だから、わっちがTB始めたって知った時は、もう滅茶苦茶嬉しくて……と、話を戻すね?」

「ああ」


 朧気(おぼろげ)ながらも、秀平がプロ行きを断った理由が見えてきた。

 それでも先走らずに、結論をじっと待つ。


「で、わっちとゲーセン行った後に思ったんだ。勝ち負けにこだわるゲームは、それはそれで楽しいけど……俺は、ゲームのそれ以外の部分も込みで楽しみたい。結果を求めつつ、欲張りに過程も楽しみたい。上手く言えないんだけど……」

「早くクリアしたくてもゲームのテキストを読み飛ばさないとか、ムービーを飛ばさないとか、そういうことか?」


 秀平の考えを完全に理解することはできないが、気が合うというのは確かだ。

 探りながらの俺の言葉に、秀平は大きな頷きを見せる。


「そう! そういうこと! 俺はゲームの音楽もグラもテキストもボイスも、ちゃんと堪能したいわけ! ……でも、俺がプロになったら勝負にばっかり集中する感じになって……そういう余裕、なくしちゃいそうだなって思って。もしプロとしてTBをやるなら、忍者プレイせずに弓術士を選んでいたと思うし」

「好みより、性能だとか効率を優先することに耐えられないってことか?」

「それ! わっちはやっぱ分かってんなぁ! ……あ、もちろんプロはみんなそうだって言いたいわけじゃないよ? 好みのキャラとか昔から使っているキャラへの愛を貫いて、それでも勝てるプロは最高に格好いいし! あくまで俺がプロになったら、の話ね」

「分かっているよ」


 要は、勝負に拘ることで余裕を失くしたくなかったという結論らしい。

 だったら、次はこの質問を投げかけなければならないだろう。


「……メディウスは、勝負に対してそんなにストイックだったのか?」


 秀平の顔色が変わる。

 苦みがたっぷりと含まれた、憂鬱な表情へと。

 話の核心に至った……と、そんな感触があった。

 やがて、数秒の沈黙を経由してから秀平が口を開く。


「ストイックだったよ、過剰なくらいね。その頃の様子を、詳しく言うと――」

「いや、いい。ここまでのお前の話から、大体想像がつく」


 俺がそう(さえぎ)ると、秀平は露骨にホッとしたような顔をする。

 当然だ。

 友だちと段々すれ違っていく、なんて辛い記憶は具体的に思い出したくないだろう。


「……ありがと、わっち」

「何のことやら」


 笑みと共に向けられる視線から逃れるように、俺は水を飲んで顔を背ける。

 ――その時、突然部屋の中にけたたましい叫び声が上がった。


『ギョエェェェ!!』

「「ひいっ!?」」


 二人、突然の音に飛び上がって一歩後ずさる。

 その犯人は……


「わ、わっち! 時計、時計!」

「こいつか……」


 あの壊れていたはずのキャラクター時計だった。

 接触が悪くなっているスイッチを切ると、ギョッ! という断末魔のような声を上げてようやく停止する。

 元はもっと可愛い声だったはずなのだが、どういう管理をしたらこうなるんだ?

 ついでに時刻を確認すると、思った以上に遅い時間になっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今になって明かされるハインドとトビの過去 メダル預けれないの辛すぎワロタ [一言] 800話めでてぇ!ド初期からこんな長い話数ずっと追ってるなろう作品これしかないわ… コンスタントな更新と…
[気になる点] 「確か、中央で数字の付いたボールがくるくる回るタイプの大型筐体だったと記憶している。」 ビンゴゲームの方が分かり易いかも? [一言] 秀平も負けず劣らず鈍感なんですね、うん。
[良い点] クオリティが常に高い水準で一定。 文体が読みやすい。(好みかな?) 読み手やストーリーがブルーになり過ぎないように、 ネガティブな部分を調整?下げ止まりする心配り。 [気になる点] もう少…
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