挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/325

鍛冶場での出会い

 鍛冶場の受付NPCに300Gを払い、俺は早速、鍛冶を始めようと――する前に、周囲のプレイヤーの様子を観察することにした。
 材料が少ないからな……あまり失敗したくない。
 生産については出来立ての攻略サイトから、情報を少しだけ拾ってくることができた。
 曰く、VRの特徴を活かして鉄のどの部分を叩いたか、どれくらいの強さで叩いたか、叩いた際の温度はどうかまで判別できるので、完全に現実での器用・不器用の差が出るのだとか。
 ゲームらしく省略されている部分はあるが、つまりは……現実の鍛冶に近い体験と結果が待っているということに。
 この辺りは賛否両論だ。
 折角のゲームなのだからスキルでポンと出来た方が良いという意見と、VRなのだからこれでいい、そういうのはVR以外のゲームに求めれば良いという意見の二つがある。
 TBは後者で、スキルによる補助が無いタイプである。
 では、不器用な場合はどうなるかというと――

「ひぃっ、何ですのこれはっ!? あつっ、熱い! ほんのりだけど、やっぱり熱いわ!」
「お、お、落ち着いて下さいお嬢様!」

 ……何だあれは!?
 縦ロール! 金髪縦ロールじゃないか! あんなの初めて見た!
 しかもしっかりドレス着た上で、男装執事までセットとは恐れ入る……。
 何だろう? ロールプレイか何かか?
 まだ二日目だっていうのに二人共、服装がバッチリと決まってやがる。
 しかし、縦ロールの方が真っ赤になった鉄の塊を持ってアタフタしているので、周囲は非常にデンジャラスな状態だ。

「お嬢様! 一度、手をお放しに――」
「あ! か、髪に火が! ああああ、体力ライフが削れてるわライフが! 何とかしてぇ!」
「ひぃぃぃぃ! 水、誰か水をぉぉ!」

 ――あっと、縦ロールに引火した。
 火傷状態でHPがじわじわ減っていく……リアルだなー。
 髪が燃えているわりには、見た目の上では全く焦げて行かないが。
 仕方ないので、俺はバレないようにこっそりと、状態異常を回復する『リカバー』の魔法を縦ロールに向けて飛ばした。
 どうせMPは歩いているだけで回復するしな……無駄使いってほどでもない。
 さてと、こういうのは放っておくとして。
 まずは手本になってくれそうなプレイヤーを見つけないと。

「あ、あら? 火が消えたわ……」
「どうしてでしょう……あっ、お嬢様! 魔法のエフェクトが残っていますよ!」

 やべっ!
 慌てて移動を開始しようとするが、お嬢様と呼ばれている方が俺を碧い瞳でロックオンしてくる。
 どうすっかな……。
 こういう人種は見ている分には楽しいが、余り関わりたくはねえなぁ……。

「あなた!」
「はい……」

 案の定、キツイ口調で何かを言おうとしてくる。
 プライドが高い人間なら「余計な事をするな!」とかが定番の台詞だが……。

「れ、礼を言うわ……あのままだと、無駄に回復アイテムを使わなければなりませんでしたもの……」

 意外と素直な礼の言葉に、俺は目を丸くした。
 見た目で人を判断するもんじゃないな……ちょっと反省した。

「気にしないでくれ。偶々居合わせただけだし、見て見ぬふりをするのが気持ち悪かっただけだから」
「そ、そう……どんな理由であれ、恩人には礼を尽くすのが我が家のしきたりなの。あなた、フレンドコードを教えなさい! この礼は、百倍にしてそのうち返して差し上げるわ!」
「ええ……別にいいよ……」
「お・し・え・な・さい!!」

 前言撤回。
 見た目通りに、強引な性格をしている……。
 仕方なく、俺はコードを交換してフレンド登録することにした。
 プレイヤーネームは『ヘルシャフト』……なんとも、らしい名前をしてらっしゃる。
 確かヘルシャフトはドイツ語で支配者という意味だったと思う。
 ちょっと中二病が入っている気がするな、服装も含めて。

「名前が少し長いし、ヘルシャって略してもいいか?」
「構わなくってよ、ハインド」
「うぃ。そっちの執事さんも、ついでにフレンド登録どうだ? 無理にとは言わないけど」

 もう毒を食らわば皿まで、という奴だ。
 俺は気弱そうな執事服の方にも声を掛けた。
 彼女はショートの前髪を弄って、おどおどもじもじとしていたが……。

「早くなさいワルター! おどおどしない、背筋を伸ばす!」
「は、はぃぃ! すみませんお嬢様! ――お、お願いします!」

 ヘルシャにせっつかれて、結局は俺とフレンド登録を完了した。
 なんだかな……。

「では、わたくし達はこれで失礼するわ。次に呼び出すときは、受けた恩をお返しすることをお約束しますわ! 行くわよ、ワルター!」
「あ、あれ? お嬢様、鍛冶はもう宜しいのですか?」
「黙らっしゃい! 人には向き不向きがあるのよ!」
「は、はい! 申し訳ありません、お嬢様!」
「あー、ちょっと待った。見た所、二人とも回復魔法がある職業クラスじゃないんだよな?」
「? え、ええ。それが何か?」
「んじゃ、これはサービス」

 俺はヘルシャに向けて回復魔法である『ヒーリング』を飛ばした。
 やけどで減ったダメージが、魔法を受けて全快になる。
 MPと違って、HPは歩いているだけでは回復しない。
 満腹度の実装が予告されてはいたが、現段階では回復職以外は薬草・ポーションの類が手放せないだろう。
 序盤は誰でもカツカツだろうし、節約するに越したことはない。
 という考えで回復しておいたのだが――ヘルシャが固まってしまった。
 おーい! どうした? ……駄目だ、目の前で手を振っても反応が無い。
 今ので百倍返しの礼とやらの計算が狂って、思考がショートしちゃったのか……? サービスだって言ったのに。

「まあいいや。俺はこれで行くから。ワルターも、またな」
「は、はい! お、お疲れ様です、ハインドさん!」

 ……何だか変な二人だったなあ。
 そんな訳で、俺のフレンドリストに新たに名前が二つ追加されることとなった。



 さて、周囲の観察に戻ろう。
 鍛冶は当然ながらやったことがないので、最初は上手い人に直接教わるか、見てやり方を盗むかしかないんだよな。
 しかし、みんな自分の作業に集中しているな……話し掛けたとしても、無視される可能性の方が高いだろう。
 うーむ……あ、あそこの人。
 凄く淡々と鉄を打っているけど、他と比べて無駄な動きが一切ない。
 悪いけれど、あの人の後ろの方から少しやり方を見せて貰おう。
 作業場もまだ多数のプレイヤーで混み合っているし。

 俺が目を付けたのはボサボサ髪の眼鏡を掛けた女性で、既に沢山の武器を完成させて傍らに立て掛けている。
 生産専門の職人か? 余り見ない形の武器が多いな……。
 そのまま暫く鍛冶の流れを見ていたのだが、都合よくその人の隣の作業場が空いたので移動を開始。
 一通りの流れは確認できたので、取り敢えずはやってみることにしよう。
 インベントリから鉄を取り出し、既に温まっている炉に投げ込もうと――おっ!? あれは!

「ショーテル――じゃなくて、クノペシュだと!? 随分と珍しい武器を作るなあ……昔は色んなゲームをやったけど、これは初めて見た気がする」
「!?」

 ……ん? お隣さんと目が合って――しまった! 
 感動のあまり、声に出ていたか!?
 集中して作業している様子だったから、邪魔をする気はなかったのに。
 今日は何だか、注意力が落ちているかもしれない。
 気を付けなければ……。
 お隣さんは暫くの間、動揺したように作業の手を止めていたが……意を決した様に、俺に対して疑問の声を投げ掛けてきた。

「……そ、その……クノペシュを、知っているんですか……?」
「えー、あー……はい。エジプトの武器ですよね? ショーテルよりも刀身に幅があって、湾曲の仕方も違いますから。相手の武器や盾を奪う為の構造だったと記憶しています」
「じゃっ、じゃあ! ……こ、これは……?」

 眼鏡の奥の目が期待に輝いている……。
 次に彼女が俺に取り出して見せたのは、片刃の曲剣。
 俺がさわれないギリギリの距離で見せてくるのは、れると武器の情報をメニューに表示することが出来るからだろう。
 それは一見、カトラスにそっくりな形をしているが……。

「ええと、刀身が長いんでハンガリアンサーベルですかね?」
「! こ、こっちは!?」
「これは分かり易い。フンガ・ムンガでしょ? もしくはピンガ。日本だと、アフリカ投げナイフとか呼ばれている奴ですよね。こういうのは、TBでの武器の分類は何になるんですか?」

 いいよね、マイナー武器。
 ユーミルもこういうのを挙げてくれれば、話が広がったものを……。
 フンガ・ムンガは卍に近い変わった形をしたナイフで、そのまま斬る事も可能だが、投げるとブーメランのように回転しながら飛んで行き、相手を攻撃する。
 前の二つは剣の分類だとして、フンガ・ムンガはシステム的には何になるんだ?
 ナイフか? それとも投擲とうてき武器?

「……ど」
「ど?」
「同志!」

 眼鏡の女性が、興奮気味にがっしりと手を握ってくる。
 うわ、どうしよう。
 自分の迂闊うかつな行動のせいとはいえ、また変な人に捕まってしまったかもしれん……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ