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ゲーム漬けな日曜午後 中編

 階層が高いほど、得られるスコア全般に補正がかかる。

 故に、俺たちより上の階にいるであろうメディウスとは差がつく一方……かと思いきや、そう単純なものではない。

 増大するのは敵の強さもなので、バランスが大事だ。

 まず、回復に手を割かれないこと。


「へぶっ!?」

「あっ」


 なのだが、俺が支援魔法の準備をした傍から被弾する我らがギルドマスター。

 気持ちは分かるが、急いては事を仕損じる。

 天使に攻撃を仕掛けるのは、リコリスちゃんが『騎士の名乗り』を使った後だ。


「焦るな焦るな! まだリコリスちゃんがヘイト取ってねえ!」


 なるべく敵の攻撃は盾役のリコリスちゃんに集中させ、尚且つ受けるダメージは最小限に。

 今日は普段装備しているものより大きめの盾を手に、反撃は最小限に、防御を最優先してもらっている。

 こうすることで、ユーミルに途切れることのない攻撃・魔力バフと、もしものときのための『ホーリーウォール』を供給可能だ。


「ハインド先輩、ヘイト取りOKですっ!」

「デバフも防・魔両面、完了しました」

「よし……バフもOKだ。行ってこい、ユーミル!」

「おおう!」


 待ち切れなかった、という様子ですぐさま飛び出していくユーミル。

 後はバフ・デバフを切らさないようにしつつ、ユーミルが敵を倒すのを待つだけだ。

 危ない時にはセレーネさんが矢で敵を止めてくれる。

 倒すのが遅い時もセレーネさんが助力をし、増援を防いでユーミルが一体に集中できる状態をキープ。

 流れとしてはおおよそ、こんなところだ。


「リコリス、つんつんだ! 私のほうに来ないよう、適度にサーベルで敵をつんつんするのだ!」

「はい、つんつんします!」

「何だかなぁ……」


 ヘイトコントロールとして、言っていることは正しいのだが。

 ユーミルの豪快な攻撃の後に、リコリスちゃんが天使の横腹を突っつく姿は何とも言えない。


「緊張感の欠片もありませんね」

「あはは……」


 ……そしてこの間、俺たち後衛組は割と暇だ。

 リィズとセレーネさんの言葉からもそれが伝わってくる。

 ゲームにおいて、慣れやら効率化というのは劇的なもので――


「……今や、全員で攻撃しなくていいんだもんなぁ」


 詰まっては帰り、詰まっては帰りを繰り返していたことが嘘のようだ。

 敵のパターン理解や攻撃法の確立……同じステータスでも天と地ほど差は出てくる。


「倒し方が分かってくると、そんなものだよね……成長を実感する反面、過去の自分の苦労は何だったんだろう? って」


 セレーネさんが矢を一射放ちながら、俺の呟きにそう反応する。

 その返し、非常に分かる話だ……ゲームに限った話ではなく、最初は何でも難しいとは思うが。

 クリア前提で設計されているゲームでは、特に顕著な感覚であるといえるかもしれない。


「よく前提となる会話もなしに、意味の通った応答ができますね……私としては、そちらのほうが驚きです」


 リィズの指摘に、そういえばとやり取りを振り返る。

 セレーネさんがあまりに自然に返すものだから、自分の呟きが酷く端的だったことに今になって気が付いた。


「そりゃ……あれだよ。ゲーマー共通の感覚というか」

「そうですか。相性がいいだとか、気が合うからだとか言われたら、どうしようかと思っていたところです」


 ……どうするつもりだったのだろう?

 勉強に使う予定だった体力・気力を持ち越してきているためか、いつにも増してリィズの発言にはキレがある。

 セレーネさんの苦笑も、心なしか普段より引きつり気味だ。


「……でだ、リィズ」

「どりゃあーっ! ユーミル先輩、体勢を崩しましたよ!」

「でかした、リコリス! ――必殺! 上段唐竹割ぃぃぃ!!」

「ただの通常攻撃です!? 上からの真っ直ぐな振り下ろしです! ユーミル先輩、スキルは!?」

「ウェイトタイムナーウ!」

「オーノー!? です!」


 清々しいくらいカタカナ的なユーミルとリコリスちゃんの英語発音。

 同職でWT管理が超絶的に上手いメディウスを見た後だけに、ユーミルの粗が目立って見えるな……。

 もちろん、それだけで前衛プレイヤーとしてユーミルが劣っているとは全く思っていないが。

 ――と、リィズに話の続きをしないと。


「どうだ? スコア効率的に、まだ上を目指したほうがいいか?」


 念のためにとデバフをかけ直してから、リィズが魔導書を閉じて小脇に抱える。

 内容を予想できていたのか、俺の質問に対する返答はすぐだった。


「そうですね。ユーミルさんの調子にもよりますが……」


 リィズの頭の中では今、様々な要素から算出されるスコア効率が目まぐるしく計算されているのだろう。

 戦闘所要時間、一戦闘で得られるスコアの上限、移動にかかる時間に敵ステータスと階層補正の兼ね合い……。

 それこそ、ユーミルが見れば発狂確実な細かい細かい数字と計算の世界。

 その中から、リィズが答えを(すく)い上げる。


「ピークは220階層から240階層といったところでしょうか? そのエリアが、最もユーミルさんの攻撃スコア獲得効率が高い範囲かと」


 おおよそ、感覚で「この辺り」と俺が思っていた階層に近い。

 とはいえ、リィズにはきちんと数字という根拠があるわけで。


「そっか。なら、200階から220階までと240階以降では……」

「極端に、とまではいきませんが240階以降のほうがより数値が低いですね。その上ユーミルさんにスコアを集める都合から、普通に戦うよりも戦闘時間の猶予は厳しいですし」

「上に行けば増援のリスクも高まるよな、当然。今いる248階でも、結構ギリギリになるし」


 100階層付近まで下りることも検討したが、安全ではあってもやはり獲得スコアが低い。

 上がり過ぎるのも危険な上に、スコア効率が鈍化するということなら――採るべき手段は一つ。


「じゃあ休憩所に戻る時間とかを考えても、200から240階までのマラソンのほうがいいのかな?」

「料理バフも乗せ直せますしね。あまり周回の距離が長いと、途中で切れちゃいますし」

「あ、そうだね。大事だよね、お料理のバフも」


 セレーネさんがまとめてくれたように、200-240マラソンということになるか。

 ユーミルは途中で退屈だと言いそうだが……。


「ここからはシンプルな周回になるね……一日限りとはいえ、久しぶりだなあ。こういう感覚」

「そういうものですか。これまでも単純作業の繰り返しはありましたが……」

「TBは抑えめなほうだよ、リィズちゃん。レアドロップ周回、気が遠くなるようなレベリング、同じく気が遠くなるような素材収集なんかがほとんどないもの。うん、ほとんどないもの………………」


 セレーネさんの表情から笑みが抜けていき、最終的には遠くを見たまま動かなくなる。

 リィズが不思議そうにその顔を覗き込みつつ、手を振って呼びかける。


「セッちゃん? セッちゃん? ……ハインドさん。セッちゃん、どうしたのでしょうか?」

「不毛だと感じつつも、一段上の強さや世界があると信じて周回やレベリングを繰り返す……ゲーマーには、そんな瞬間があるんだよ。例えば、ラスボス攻略済みなのにレベル99のカンストを目指してみたり」

「はあ……夢追い人を評するようなお言葉の割に、セッちゃんの表情から“無”を感じるのですが?」

「言ったろ……ある意味、不毛だって」


 イベント周回はこういうものだと、セレーネさんを始めネットゲーム経験者はみんな言っているしな。

 過度な同じ行動の繰り返しには、人の心を(むしば)む作用がある。

 成果が得られれば回復するものの……(さい)の河原の石積みのように、リターンがなかった時の苦痛は筆舌に尽くし難い。

 まあ、ゲームの周回でそこまで言ってしまうのは明らかに過剰だと思うが。

 セレーネさんが固まったのは、そんな記憶が蘇っているためだろう。おそらく。


「……でしたら、ハインドさん。飽きっぽいユーミルさんには、周回というものは大変不向きなのでは?」

「その通りなんだが……上手いこと変化をつけていくしかないな、そこは」

「……」


 いい感じに、現実での夕飯を挟むことでユーミルの集中力が持続するといいのだが。

 今回のイベント終了時間は、確か23時……結構な長丁場なので、どうなることやら。

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