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もう一つの決戦

 詰まるところ、攻略手順そのものは固定パーティで戦った時と変わらない。

 闇型以外の魔導士という大砲がいれば話は別だが、他の職で一撃全滅、あるいは半壊以上を狙うのは非常に難しい。

 故に狙撃か、あるいは突破しての撃破となるのだが――フィリアちゃんはまるで、自身が弾丸と化したかのような動きだった。


「うっひっひい! やべえ、死ぬ! 俺、死んじゃう!」

「ロク、うるさい! 変な笑い方しない!」


 フィリアコピーに翻弄されるロクさんとは対照的に、フィリアちゃんはロクコピーに容易く接近。

 下からかち上げるような軌道で斧を振り抜き、綺麗にダウンを取る。


「怖っ!? 俺の未来の姿か!?」

「余所見している暇があるなら、もっとちゃんとやってよー!」


 デバフ使用の間を縫って、パンダさんが『ファイアーボール』をフィリアコピーに撃ち込む。

 パンダさん、ナイスアドリブ。

 そしてナイスコンビだ、二人とも。

 ロクさんも「耐えろ」という俺の指示を理解してくれているらしく、無理にフィリアコピーを倒そうとはしていない。


「ひっく! やっぱ低っ! 当たんねえええ!」


 ……相手の姿勢が低い上にロクさんが拳撃型(パンチタイプ)なので、そもそも悲しいほどに攻撃が当たっていないのだが。

 一方、フィリアちゃんはダウンを取ったロクコピーに対し無慈悲に『ヘビースラッシュ』を振り下ろす。

 地面に倒れていたロクコピーが派手にバウンド、HPゲージが大きく減少する。


「もう一人の俺ぇぇぇぇぇぇ!」

「うるさいってば! 右下、右下! 来てる!」


 ウチのアホどもも、ロクさんと似たような叫びを上げていたなぁ……一種のお約束なのだろうか?

 ロクコピーを踏み越え、そのままフィリアちゃんが走る。

 俺はフィリアちゃんに『アタックアップ』をかけ直し、声を張った。


「パンダさん、ガードダウンを! 急いで!」

「え? ……ああ、そういうこと! 了解!」


 パンダさんがデバフをハインドコピーに向けて構える。

 使っている武器は、宝石の代わりにデフォルメされたパンダの頭が付いた可愛らしい杖だ。

 よし……ハインドコピーの位置は戦闘フィールドの一番端なので、さほど長くない『ガードダウン』の詠唱時間を考えれば十分に間に合うはず。

 メディウスは――


「――!」


 フィリアちゃんの突破を素早く察知、スイッチが入ったように元から速い動きが更に上昇。

 相対する己のコピーの槍を、俺の目で捉えられない速度で弾くと片手を懐に。

 その手をどう動かしたのかはまたも見えなかったが……気付いた時には、パンダコピーの肩に投擲用のナイフが突き立っていた。

 パンダコピーの詠唱と動きが止まり、ハインドコピーが完全に孤立状態となる。

 命中を確信していたのか、メディウスはパンダコピーには目もくれない。

 既に己のコピーとの戦いを再開しており、俺たちとフィリアちゃんから遠ざけていく。


「うわ……」


 思わず声が出た。

 メディウスはそれほど複雑なことをしたわけではない。

 隙を見て――否、自ら敵の隙を作ってナイフを投げた、それだけのことなのだが……そもそもコピーと槍を振り合う速度が、一般プレイヤーのものとは大きくかけ離れている。

 そんな中で、シンプルかつ最善の手を淀みなく打てるメディウスというプレイヤー。

 その実力の底知れなさに、俺は数秒とはいえ完全に目を奪われた。

 しかし――今大事なのは、フィリアちゃんのアタックが成功するかどうかだ。


「うわぁ……」


 またも思わず声が出た。

 先程とは意味合いが違うが。

 視線をフィリアちゃんへと戻すと、その傍で俺が宙を飛んでいる。

 ……間違えた。

 正確には俺のコピーが、である。


「や、やった!? やったの!?」


 パンダさんが喜色と懐疑の念が混ざった声を上げる。

 フィリアちゃんの『トルネードスウィング』が炸裂し、デバフによって下がった防御を抜いてHPを消し飛ばす。

 リィズほどの正確さは望めないが、バフ・デバフ込みならざっくり計算で倒せているはずだ。

 俺のコピーは受け身も取らずに真っ逆さまに落下、そのまま動かなくなる。


「うおー! ――あべっ!?」


 と同時に、それに気を取られたロクさんが同じくフィリアコピーの『トルネードスウィング』によって戦闘不能に追い込まれた。

 持続性のあるそのスキルは、ロクさんだけに留まらず――


「……えっ? きゃあっ!」

「ロクさん、パンダさん!」


 魔導士で低耐久なパンダさんのHPまでも刈り取ってから、ようやく停止。

 どうやら、行き過ぎたフォローが原因でフィリアコピーのヘイトが二番目に高かったのはパンダさんだったらしい。

 しかも、そのままフィリアコピーは息が上がったフィリアちゃんに襲いかかる。


「……っ!」

「フィリアちゃん、今支援を――おわっ!?」


 更に悪いことに、まだHPが残っていたロクコピーが支援魔法によってヘイトが上がった俺のほうへと向かってきてしまう。

 体格が近い俺なら殴りやすいとばかりに、ボクシングに近い動きで左右の連打を浴びせかけてくる。

 杖のリーチを利用して反撃するも、しつこく食らいついて離してくれない。

 コピー体は思考こそ別物なものの、個人のステータスに出ない能力・癖・モーションまでは忠実に再現する模様。

 その点、ロクさんの動きは若干癖が強く対応が難しい。

 それをあっさりフィリアちゃんが制していたのは、純粋に前衛としての経験値が高いからだろう。


「ハインド!」


 珍しく切羽詰まったメディウスの声が遠くから届く。

 ――パーティ、半壊。

 幸い、こちらだけでなく敵も似た状態なのが救いか。

 コピーパーティの回復役は葬れたので、後はじっくり詰めるだけだったのだが……仕方ない。

 野良パーティはこういうものだと、さすがにイベントをこなす中で理解できている。


「すまん、少し待ってくれ! どうにか振り切って回復する!」


 大事なのはここからだ。

 フィリアちゃんは強行突破によりスタミナ・MP切れ、元から負担が大きかったメディウスはHP・MP両方が苦しい。

 二人ともアイテムを投げたり使用したりする余裕はなさそうだ。

 俺がもう一押しどちらか片方だけでも回復できれば、勝利が確定するはずなのだが……。


「くっ……!」


 しかし、こう張り付かれては防御以外の行動を取ることが難しい。

 ロクコピーにインファイトに持ち込まれ、隙を与えてもらえない。

 詠唱は無論のこと不可能。

 だったら『聖水』でロクさんかパンダさんのどちらか一人でも蘇生できれば――


「ぶっ!? いったぁ! 何それ、ビンタ!?」


 アイテムポーチに手を伸ばすも、物凄い勢いで頬を張られた。

 思わず痛いと言ってしまったが、どちらかというと痛みよりも驚きと衝撃で動きを止められてしまう。

 ちなみに平手打ちというのは、人間が繰り出せる攻撃の中でもかなりの速度を誇るのだとかどうとか。

 何だか、ちょっとプロレスみたいな平手打ちだったな……ボクサーっぽい動きといい、格闘技が好きなのだろうか? ロクさんは。


「このっ!」


 アイテムポーチは駄目だ、かといって腰のホルダーにあった非常用の『聖水』は使用済み。

 倒れた二人は近いが、生き残っている二人の位置は俺から遠く、結果的に分散して戦ったことが裏目に出ている。

 何か……ロクコピーにぶつける毒薬でも何でもいい、事態を打開する何か……。

 迫る拳を防ぎながら必死に考えていると、ふと頭の中をよぎるものが。

 毒薬……?


「あ……」


 使う予定のなかった、ホルダーの一番端にある薬。

 リィズからもしものときにと贈られていたそれを、俺は……。

 思い切り「その場」の床へと叩きつけた。

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[一言] リィズ…毒薬…あっ(察し)
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