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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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鏡の回廊 その2

 敵が強くなっているとはいえ、プレイヤーにとってありがたいことが一つ。

 それは敵の種類が少なく、行動パターンが変わらないという点である。

 ここまでに出てきた敵は、いずれも天使で三種のみ。

 つまり二体同時ということにさえ対応できれば、自ずと勝ちは見えてくる。


「拙者はこっち!」

「私はあっちだ!」

「……よし。じゃあ、散開してくれ!」

「分かった!」

「承知!」


 こういうときは、息の合わなさがかえって助かる。

 二人が指差し、敵の先制攻撃に対してそれぞれの武器を合わせたのは当然のように別々の個体。

 後衛の俺たちも動き出し、詠唱と狙撃位置への移動を開始する。

 しかし――


「ぬおっ!?」

「危なぁぁい! で、ござるぅ!」

「な、何だ!?」


 飛び立った二体の『上級天使・レプリカ』が、パーティの頭上を飛翔して交差。

 そのまま広間内で高速移動を繰り返した後、羽を動かしながら着地。

 飛翔による風圧で、広間内に乱気流が吹き荒れる。

 先制攻撃からの、ダメージなしの特殊演出か……同種体であることを強調したいのか、一糸乱れぬシンクロした動きだった。


「あれ、私のはどっちだっけ!? トビ!」


 降り立った天使を前に、困惑するユーミル。

 トビも同様だったようで、駆け出そうと踏み出した足を止める。


「ええと、でござるな。あそこで交差してそのあと戻って、前後が入れ替わったので――」

「いやいや、前後は変わっていないだろう? 真上に飛んだときのことなら、確か前後で重なって一回転しただけだぞ? 元の位置に戻ったのだから、入れ替わっていない」

「そうだったでござるか? じゃあ……」

「――どっちでもいいわ!? もういい、ユーミルは天使A! トビは天使B! それでいいだろう!?」


 ただでさえ厳しい敵なのだから、おかしなところで揉めないでほしい。

 複数の格下モンスターが相手の場合、ヘイトを集める前衛は一人に統一したほうがやりやすい。

 それは敵集団を誘導し、範囲攻撃スキルなどを用い、火力で一掃する――などの手段を採れるためである。

 ヘイトを分散させるケースとなると、理由は様々あるのだが……。

 相手がいずれも強力なボスクラスであり、一人で二体の攻撃を(さば)ききることが難しい今回のこの局面。

 二正面作戦を採用するのは、極自然な流れであるといえるだろう。

 何せ『聖水』の数がそろそろ苦しいからな……。

 当然、前衛二人の連携がほぼ不可能になるので、なるべくなら採りたくない作戦ではあるのだが。


「ハインド、どっちがAだ!? 見た目はまるで一緒……それこそ、鏡写しのようだぞ!」

「落ち着け、ネーム見ろネーム! 基本だろうが!」


 ボス二体が妙な動きをしたことで、ユーミルはやや浮足立っている。

 ちなみに、ボスでなければ同じモンスターが複数出るパターンは何度も経験済みだ。

 見た目が同じ敵が出現した場合、頭上のネームを見て判断するのが基本となる。

 ……まあ、生物系なら同種でも大抵はサイズや体色などが違うのだが。


「……ん? 鏡写し?」


 ユーミルの言葉に引っかかりを覚え、攻撃を再開した天使を改めて見返す。

 すると、すぐに引っかかりの正体に思い至った。


「……って、ああ!? よく見たら武器を左手に持っているほうがA! 右に持っているほうがBだ! 微妙に同一個体じゃねえ!」

「どっちみちややこしい!」


 叫びつつも、どこかユーミルは納得した様子だ。

 要は不思議な鏡の力で敵が分裂、ということなのだろう。

 故に二体の天使は、姿が反転した状態で現れたわけだ。


「と、とにかくさっき言った通りに! ネームで判別してくれ!」

「拙者が左手に槍のほうで……?」

「では、私が右か? 左手に盾のやつ? 本当に?」

「ネームで判別しろって言ってんだろ! 聞けよ! そしてスキルを早く!」


 二人が早くヘイトを稼いでくれないと、後衛は動き出すことができない。

 最低でも、挑発系スキルを一度ずつ使ってくれないと……。

 通常攻撃数発程度では、魔法一発でヘイト値を追い越してしまう。


「ハインド殿! 質問!」

「何だよ!」


 俺に問いかけつつも、きっちり『縮地』からの『挑発』で天使Bだけをスキル効果範囲に入れてトビが移動していく。

 引き離したところで、ユーミルが『騎士の名乗り』を天使Aにだけ当たるように使用。

 ようやく本格的に戦闘が始まる。


「この敵、まさか同時に倒さないと駄目とか……ないでござるよな?」

「同時に?」

「片方を倒しても全回復! 復活! ……とかされると、今のアイテム状況では苦しいでござるよ!」


 バフ系統の魔法を準備をしつつ、トビの質問の意味を考える。

 念のため、セレーネさんのほうにも視線をちらり……すると、何やらこくこくと頷きが返ってくる。

 言われてみれば、こういった敵ではありがちなパターンか?


「ハインドさん……?」


 動きを止めそうになる俺を、リィズが心配そうに見てくる。

 ヘイトが低い今、静止して魔法詠唱するのも問題ないといえばないが……。

 敵からの攻撃の巻き添えやセレーネさんとの位置関係など、状況は刻々と変化する。


「……」


 リィズに大丈夫だと表情で示しつつ、動きながら思考を巡らせる。

 ――これまでの塔の難易度上昇方式を考えると、特殊な倒し方などでプレイヤーにストレスを与えてくるとは考えづらい。

 あるとしても、多くのプレイヤーが自然と目標にしている300階……そこ「のみ」に絞ってくるはず。

 もっと踏み込んで考えるなら、TBの運営体質についてからだ。

 TBが人気を保てているのは、大多数のユーザーが納得する形でゲーム運営を積み重ねてきたところにあると思う。

 その運営指針を踏まえるなら、サバイバル形式のダンジョンで不意に理不尽な仕様を放り込んでくる……これは有り得ないだろう。

 しかも、恒常的に攻略が可能なダンジョンならいざしらず、今回の『天空の塔』はイベント限定ダンジョン。

 何かそういったものを仕込むなら、絶対に分かりやすい形で予兆のようなものを示すはず。

 ――そこまで考えたところで、俺は槍を()(くぐ)るトビに向けて声を張った。


「ない、はずだ! あってもHPの分配くらいなはず!」

「誠でござるか!? その心は!」

「……俺の勘!」


 そんな答えに、トビはなるほどと頷いて戦闘に集中し始める。

 ……え? いいのか?

 言っておいてなんだが、理由があんまりだと自分でも思うのだが。


「ハインド君、説明している暇がないっていう判断だね……分かるよ」


 次矢を装填しつつ、セレーネさんが理解の深すぎる一言を投げかけてくる。

 あ、いや、確かにそうなんですけれども。

 そうまで的確に図星を突かれると、何だか恥ずかしい気持ちになってくる。

 ――と、俺が言葉を返すよりも早く、セレーネさんは位置取りを変えに遠ざかっていってしまう。

 続けてリィズが、宙で妖しい光を放つ魔導書を操りつつ早足で接近。


「勘というものはいい加減なものではなく、過去の経験や知識などからくる一瞬の思考・判断などを示す言葉であるといえます」

「あ、ああ……口では説明できないあれやこれやを“勘”と称することは多々あるだろうが……」


 過去に同じようなことを、ユーミル相手に俺自身が言った記憶があるな……。

 やはり兄妹ということで、思考は似通うものらしい。


「その点、ハインドさんの勘は信用できますからね。では、集中していきましょう」

「あ、おい!」


 言いたいことだけ言うと、リィズもさっさと移動を開始してしまう。

 以前からそうだが、お前たちの俺の勘への厚い信頼はどこから来ているんだ……?

 ――と、再び思考の中に沈みかけたところで爆音が広間に響く。


「ハインド、バフくれ! MPくれ! 早くくれ! ついでに愛もくれ!」


 前線のユーミルから矢継ぎ早に、次々と要求が示される。

 お前、そのMPの減り……そしてあんまり減っていない敵のHP。

 さては『バーストエッジ』を外したな?


「ハインドさんの愛をついで扱いとは……捻り潰されたいのですか?」


 リィズの(とが)めるような声には無反応のユーミル。

 しかし、愛と言われてもな……。


「愛なら毎日、溢れんばかりに注いでいるだろうが……朝のおはようから料理に洗濯、掃除に――」

「それはいつもありがとう!! しかし、そういった距離感が行方不明な類のものではなく! もっと初々しいというか――って、そっちに今は食いつかなくてもいいのだ! その話は後で! 後! 今はMP! MPをっ!」


 やってもいいけど、また無駄遣いしそうだな、こいつ……。

 一応『エントラスト』の使用を念頭に入れつつも、しばらくは通常攻撃で対応するように指示。

 ユーミルには『アサルトステップ』の使用のみに限定してもらう。

 今のユーミルの調子なら、スキルによる大ノックバック・ヒットストップを利用しなくても天使の猛攻に耐えきれるはずだ。

 ……肝心の大技は、パーティの体制が整う前に撃った上に外したようだが。

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