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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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オーラエフェクトの進化

 天空の塔イベントも終盤に差しかかり、野良・固定ともに追い上げに入っている。

 今日は、いつものメンバーと固定パーティで攻略中。

 職別アクセ獲得のため、野良パーティとの兼ね合いもあるが……。

 こちらはこちらで、あと一つの『勇者のオーラ』がかかっている。


「わはははは! いーい気分だぁ!」


 オーラエフェクトがパワーアップしたことで、ユーミルが絶好調だ。

 弾ける稲妻と共に、剣を振り回している。

 しかし、よくよく見ると絶好調というよりも――


「やや有頂天……か?」


 動きにキレはある。

 深い踏み込みと、それでいて素早い切り返し。

 剣の振りも鋭く、速い。

 更には、ランクインに必要な与ダメージも十分に出ている。

 しかし、その背からは不思議と「ヤバイ」気配が……。


「何かやらかしそうな雰囲気、むんむんでござるなぁ……」

「えっ?」

「そうだよな……嫌な予感。ユーミル! おい、ユーミル! ……聞こえていないか」

「えっ? えっ?」


 セレーネさんはピンと来ていないようだが、俺とトビは意見を一致させた。

 ただ、こうなったときのユーミルは話を聞かない。

 何度か呼びかけてはみたが、反応なしだ。

 セレーネさんが手を止めたのも、ユーミルが射線を塞いでしまっているからだろう。


「……トビ、もしものときは頼む」

「大事なのは、やらかし後のフォローでござるな? ってか、現段階で拙者に敵のヘイト、向いていないでござるし。どんだけ前のめりでござるか……」


 驚くべきことに、通常攻撃の積み重ねのみでユーミルはトビのヘイト値を上回ってしまった。

 それを受け、セレーネさんの表情は益々不思議そうなものになる。


「え、援護できない位置取りなのは問題だけど、あんなにいい動きなのに……?」

「あんなにいい動きなのに、ですよ。あんなの、今だけです」

「……やはり、あのエフェクトがよろしくないようですね? ハインドさん」


 デバフで援護していたリィズまで戻ってきたことで、もはやユーミルと『塔の衛兵・小隊長』は一対一の状況に。

 それでも余裕がありそうなので、問題ないのだが……俺はリィズの言葉に頷きつつ、改めて戦うユーミルの姿を見る。

 強く踏み込むことで生じる衝撃破、剣に追随する稲妻状のオーラエフェクト、更には剣を振った軌跡が青く美しく宙に残留。

 元からあったエフェクトも諸々強化され、剣がヒットする度に生じる音が否が応でも戦意を高揚させる。

 音と視覚効果が、動きに合わせて心地良く追従していく……確かに、あれならさぞ――


「わはははははっ! どうした、どうしたぁ! その程度かぁ!」


 ……さぞ、気持ちいいことだろう。

 ユーミルは、俺たちの援護がなくなっていることに気付いていない。

 荒ぶるオーラと(たかぶ)る感情に任せて斬る、斬る、斬る。


「……駄目だこりゃ」

「駄目ですね」

「駄目でござるな」

「駄目……みたいだね?」


 とうとうセレーネさんにまで言葉を揃えられるユーミル。

 ユーミルはそんな俺たちの態度にまだ気付かず、戦いを続けている。

 周りがまるで見えていない上に素早く動き回るので、援護が非常に難しい。

 話しながらも立ち位置を変え、移動を繰り返す俺たちだが……下手に手を出すほうが危険な状態だ。


「……トビ、縮地で向こう側に跳べないか? 上手くいけば、ユーミルと挟み撃ちにできると思うんだが」

「……やってみてもいいでござるが、間にあれだけ動くものがあると事故りやすいでござるよ? ただでさえ、塔内は白っぽい内装で距離感が掴みにくいので」

「難しいか……仕方ない、このまま待機して様子を見よう」


 念のためリィズに目配せすると――まだ次の敵が寄ってくるまでは、余裕があるようだ。

 これは頭が冷えるまで、放っておくしかない。

 幸い、まだ203階層なので敵のステータス上昇もない。


「いよいよとなったら、ユーミルさん諸共攻撃しましょう。二体以上の敵は厄介です」

「おいおい……まぁ、ユーミルの気持ちも分かるけど。エフェクト関係……サウンドエフェクトとビジュアルエフェクトって、ゲームにおいて重要だし。パワーアップしたオーラ、特に音がいい」

「そういやTBは結構、クリティカル音とか気持ちいいでござるな。軽戦士は手数系でござるから、他より多く聞けてお得感があるでござるよ」

「……!」


 ゲーム談義の気配を察し、セレーネさんが表情を綻ばせる。

 戦闘中ということもあり、リィズが少し咎めるような目をするが……大丈夫だ。

 ちゃんとユーミルへの支援は続けるし、様子が変わればいつでもフォローに走れるようにしておく。

 何より、既にセレーネさんが話したくて仕方ないという顔になっている。


「大事だよね、ゲームのサウンドエフェクトって……ヒット音、クリティカル音、それからマイナス面だけど、自機とか自分へのダメージ音も」

「不快にならない程度でありつつ、しっかり伝わる音でござるな?」

「そうそう!」

「セレーネ殿は分かっておられる!」


 被ダメージ音やピンチ時の警告音なども、プレイヤーとしては気になるものだ。

 そういうものがないアクションゲームも結構あり……。

 気が付いたらピンチだった、戦闘不能だったというゲームは割とあったな。


「……ユーミルのアレを見ていると、昔やったアクションゲームを思い出すんだよな。剣でのカウンターが気持ちよくて、しかもタイミングよくボタンを押すと連鎖するんだ。群れで来る雑魚敵にそれが大量に決まると、耳には連続で快音、画面は斬撃エフェクトで埋め尽くされて――」


 同じゲームを想像したかは分からない。

 しかし、トビとセレーネさんの二人は記憶を思い返すようにしてから……。

 頷きと共に、笑顔になる。


「最高でござるな!!」

「斬り終わると、一斉に敵が倒れるんだよね!? その音の重なりも、また……」

「いいですよねぇ……」

「いいでござるなぁ……」

「いいよねぇ……」

「……」


 緩んだ笑みを互いに向け合う俺たちに、リィズがついていけないといった様子で真顔になる。

 最近はゲーム全般に興味を持ち始めてくれているので、いずれ分かるようになってくれると嬉しい。

 そして相変わらず、ユーミルは単独で天使と渡り合っている。

 だが、どんなに調子がよかろうと一人で倒せるほど甘い敵ではない。

 単独で削り切るには多いHPに、やがてユーミルの手が鈍り始めた。

 やっとか……スタミナが多いだけに、勢いが長く持続してしまった。


「わは、わはは……あれ?」


 ようやく異変に気付いたユーミルが、こちらを振り返る。

 目立ったミスなしに、冷静になってくれたか……?

 そんな期待を込めつつ、一旦下がるように手振りで示す。

 呼応するように、俺以外の面々が会話を止めて動き出す。

 このままトビと位置を上手く入れ替わってくれれば、全員で一気にとどめを――


「な、何だ何だ!? もしかして、倒してはいけない敵だったりしたか!?」


 焦った様子で、無防備にこちらを振り返るユーミル。

 直後、背後で天使が強い光を放ちながら槍を振り上げる。


「違う違う!? 敵に背を向けるな!」

「へ?」

「馬鹿、後ろぉぉぉ!!」


 それまでが嘘だったかのように、ユーミルは緩慢な動きを見せた。

 俺はユーミルにかけておいた『ホーリーウォール』がなくなっていることを確認すると、一目散に飛び出した。

 向かって左でリィズが魔導書を、右でセレーネさんが弓を構える間を割って走る。

 ユーミルが立っていた位置には、入れ替わるようにトビが。

 そして俺が呆然とするユーミルを抱えて後ろに全力で跳んだ直後、腕を掠めた槍が――


「……っ」


 衛兵の手から落ち、床で跳ねた。

 三人の一斉攻撃により、『塔の衛兵・小隊長』が光の粒子になって消えていく。

 落ちた槍も僅かに遅れて、本体と同じように光と化して散らばっていった。


「お前ね……」

「す、すまん! ちょっと調子に乗った!」


 自分を避けるようにして放たれた三人の攻撃を見て、ようやく事態が飲み込めたらしい。

 通路という角度が制限される場所なため、前衛の位置によっては上手く連携を取れなくなってしまう。

 ユーミルは少し赤い顔で、俺から一歩距離を取り……あれ?

 今、弱まるオーラの中で明らかに異質なハートマークが見えたような。

 それはこちらに向かって柔らかな動きで滞空してから、淡雪のごとく溶けていった。


「ちょっと? ……あれがちょっと、ですか?」

「ちょ、ちょっとだ! ちょっとと言ったら、ちょっとだ!」

「へえ、そうですか。ふーん」

「くっ……!」


 ……気のせいか。

 まさか、力強い稲妻を主とするオーラの中にそんなものは混ざるまい。

 きっと見間違いだろう。

 それよりも、リィズの嫌味に顔を歪めるユーミルが爆発寸前だ。

 止めようと一歩踏み出そうとすると……セレーネさんが、俺の肩を叩く。


「……あの、ハインド君。私の見間違いじゃなかったら、さっき……ユーミルさんのオーラの中に、ハートマークが……」

「――!?」

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