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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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作戦の基礎

「データが不足していますので、どうしても推測が混ざってしまいますが……」

「そこは実測して詰めていけばいいだろう。仮のものでも、指標があるのとないのとでは大違いだしさ。ひとまず、これでいこう」

「それもそうですね」


 俺たちがいるのは、自宅の一階にある和室だ。

 こたつの上にはノートパソコン、そして二台のVRギア。

 唯一電子機器以外のものとして、メモ帳とペンも用意してある。


「もっとも、理世の計測だ。誤差は少ないものだと俺は思っているが」

「ありがとうございます。では、こちらで計算しておきますね」


 理世が柔らかな笑みを浮かべつつ、メモ帳を手元に引き寄せた。

 計算は先程から、スマートフォンに入っている電卓を使用している。

 手書きで数字をまとめているのは、そちらのほうが落ち着くから……だそうだ。


「ああ。俺は追加で新しい情報がないか、念のため再確認しておくよ」

「はい、お願いします。特に例の――」

「ブログな。あの人、更新マメだからなぁ……」

「おい」


 ついさっきも閲覧したばかりだが、日によっては数回更新を行う人だ。

 イベント期間は特に頻度が上がるので、念のため見ておいたほうがいいだろう。

 ということで、理世は計算を。

 俺はノートパソコンを使って検索を――


「おいっ!!」


 鋭い声に画面から目を離し、顔を上げる。

 理世も同じように顔を上げるのを横目に、未祐を視界の中心に捉える。


「何だよ、未祐」

「いても構いませんが、静かにしてくださいと言いましたよ?」

「私にも!」


 制服姿のままの未祐が、畳を蹴って立ち上がる。

 ちょ、スカート! スカート!


「私にも! 何か! 役目!」


 ……何を言いだすかと思えば。

 それと、理世。

 そろそろ手をどけてくれないと、前が見えない。


「役目ったってな……どう思う? 理世」

「全て人任せにして、ふんぞり返られるよりは幾分マシですが……」


 あ、前が見えた。

 しかし、改めて理世の手って小さいな……。

 目元に薄く残る自分とは違う温度が、触れていた範囲を示している。


「何だ、お前たち!? その、子どもが“大人と同じことをやりたい!”などと、背伸びした発言をしたときみたいな反応は!」

「微妙に分かりにくい例えだな」


 だが、言いたいことは分かる。

 きっと、俺たちもその通りの顔で未祐を見ていたのだろう。

 理由は簡単。


「だって、お前……数字に対してべらぼうに弱いじゃん」

「不適材不適所ですね」

「す、数字以外にもできることはあるだろう!? 自分で見つけて自主的にやれればいいのだろうが、私には無理だ! ――ということで、亘ぅぅぅ!」

「あー……」


 一切取り繕うことのない素直な言葉の連続に、俺は頭を掻いた。

 基本的に偉そうで直情的だが、こういう労を惜しまない健気なところは未祐の大きな長所だ。

 邪険にしづらいんだよなぁ、そういう言い方をされると。


「……じゃ、今から出した数値の確認作業に付き合ってもらおうか。未祐、VRギアは?」

「持ってきた!」

「そうか。じゃ、用意しておいてくれ。制服も今のうちに着替えて来いよ、(しわ)になるぞ」

「分かった!」


 バタバタと和室を出ていく未祐。

 どうやら、着替えにいったようだ。

 ――自分がしょっちゅう泊まっている、この家の部屋に。

 別にいいのだが、半ば同居と変わらないよな……未祐の家、七瀬家の大掃除もそろそろしないとな。

 人の出入りが少なければ少ないで、痛む箇所や手入れが必要な箇所は変わってくるものだ。

 ……さて、今のうちにブログのチェックを――


「戻ったぞ!」

「早っ!!」


 ――するだけの時間は与えてもらえなかった。

 普段着のラフな格好に着替えたユーミルが、ふすまを開けて隣に座り込む。


「で、そのブログというのは何なのだ? というか、そもそもお前たちは何の計算をしていたのだ?」

「そっからか……撃破した天使のリスポーン周期とリスポーン位置、それと増援条件と感知範囲の――」

「???」

「……分かった、分かった。細かい説明は現地で再度やってやるから。ブログについては、この……個人でやっているプレイ日記なんだが。ほら、これ」


 ノートパソコンを操作してから、画面を未祐のほうに向ける。

 見せたのは“趣味人ブログ”と表示されたページの閲覧数。


「ぬおっ!? 何だこの数字は!? 本当に個人ブログか!?」

「個人ブログだ」


 個人ブログだが、まず密度が濃い。

 スクショが多い上に趣味と称した各種検証、試行回数、どれをとっても一級品だ。

 添えてある文章も面白く、イベントを始め公平な視点でゲーム内容・各アップデート内容の所感などが書き込まれており、検証関係に興味がない人でも読む価値がある。


「この人自身は中級者を自称しているけれど……真実がどうあれ、ゲームの腕はブログの面白さや内容と関係ないしな」

「ほほう……こんなものが。下手をすると、二番手三番手の攻略サイトよりも閲覧数が多いな?」

「かもな。っていうか、攻略サイトの編集者も見ているんじゃないか? このブログに関しては」


 それだけ出している数値が正確で、信用できるものばかりということだ。

 欠点として、正確だが未整理にしてある情報が多いので、探し出す労力が必要になる。

 日記ということで検証内容が題になっているとは限らず、日付だけという時も多い。

 今回、俺と理世が参考にした検証結果も探すのに少し苦労した。


「……念のために訊いておくけど、未祐。今回、前イベントでお世話になった情報屋を使わない理由くらいは……分かるよな?」

「む? そ、それは……」


 これはそれほど難しくない問いだ。

 未祐は少し悩んだ後、使わないだけで決して悪くはない地頭を用い……。

 どうにかといった様子で答えを(ひね)りだす。


「あ、扱っている情報の種類が、違う……? あっちはフィールドや素材の場所とか、各プレイヤーの動向……クエストの発生条件、とか……?」

「そ。ゲーム内の情報屋に、ダメージ計算式を聞いたりするのはおかしいってことだ。モンスターの弱点とかの話になれば、情報屋でもOKになると思うが。未祐、正解」

「当たった!」


 理世が「それくらい即答してください」と言わんばかりの目をしているが……ともかく。

 今回の件は特に、情報屋に頼んでも答えを得難い種類のものといえるだろう。


「ということで、この人のブログにある検証を下敷きにしているわけだ。さすがに、今から自分たちで全部調べ上げるのはな。下層・中層までのデータはあったから、どうにかそこから一定の法則は割り出せた。きっと、上層でも使えると思う」

「ふむ……実績があるのは充分に理解できた。しかし、もしこのブログが間違っていたら?」

「……」

「……」


 未祐の言葉に、俺と理世は視線を合わせた。

 そして未祐を見ると……にっこりと、同時に不自然な笑みを向ける。


「怖いぞ!? な、何だ!? そんなに恐ろしいこと起きるのか!?」


 それは考えたくもなかった……あえて目を背けてきた可能性だ。

 俺たちが他人の検証を当てにしなければならない理由でもある。


「まあ……間違っていたら、また昨日のように天使に囲まれるだろうな。そして――」

「私たちが自分で一から検証する必要が出てきますから……」

「小一時間で済むであろう、今からやる確認作業が……」

「丸一日……酷ければ、二日は必要な作業に化けますね」

「何と恐ろしい!?」


 検証自体はいつも独自にやっているし、それ自体に否やはないのだが。

 今回は序盤でやり損ねた上に、イベントがもう後半戦に突入しようとしている。

 さすがに、この段階で急がば回れなどとのたまう余裕はないということだ。

 何せ、時間も手間も膨大にかかる。


「だから、他人の検証結果に頼るというわけだ。このブログの過去の動向からして、信用できると思うし。無論、絶対はないが」

「そういうことですから、未祐さん。さっさとVRギアを装着して横になりなさい。ゲーム内であれば、未祐さんにもできることはあります」

「む……」


 命令調の理世に若干むっとする未祐だったが、素直に従う。

 理世は計算が終わったのか、メモ帳を俺に渡してからこたつの上を片付け始めた。

 ……うん、なるほど。

 これなら、どうにか作戦を立てられるかな……といったところで、俺もVRギアに手を伸ばす。

 三人それぞれ、こたつを挟んで畳の上に寝転がる。


「……」

「……」


 すると物凄い勢いで、未祐が俺の傍に転がってきた。

 俺は黙って立ち上がると、未祐が元いたところに移動して膝を下ろす。


「……!」


 するとまたしても、未祐が近くに転がっ――いたっ。

 俺の足にぶつかって止まり、こちらを見上げてくる。

 自分の隣に寝転べと言いたいのだろう、きっと。

 あーあ、せっかくの綺麗な髪がぐしゃぐしゃに……。

 それにしても、長い黒髪が巻き付いているこの状態……。


「夕食は手巻き寿司にでもするかな……? 確か商店街でいい刺身が――」

「待て、亘!? 今、私から何を連想した!?」

「何って……髪が巻き海苔、お前が具材で手巻き寿司を」

「せめて、例えるならもうちょっと可愛いものがいいぞ!? ほ、ほら、雪上を転がるアザラシとか……」

「うーん……炭火の上で焼く、やきとり? くるくる回すだろ?」

「だからぁ! 何故に食べ物!?」


 騒ぐ俺たちの姿に、理世がVRギアを外して体を起こす。

 ギアの下から出てきた目は、何故が不機嫌そうだ。


「……兄さん。それは、未祐さんが美味しそうという意味で言っているのでは……もちろん、ありませんよね? ねえ?」


 まずい、不機嫌を通り越して(すさ)んでいる!

 そして未祐が驚きに目を開きつつ、慌てたように起き上がる。

 俺も慌てて理世の言葉を否定する。


「も、もちろん変な含みはないぞ!? ここにいるのは、純粋に夕飯のメニューに悩む一人の男だけだ! それだけだ!」

「言い回しが変だぞ亘!? おおお、落ち着け!」

「あなたこそ落ち着きなさい。兄さんは否定したんですよ? 照れる理由は一切、何一つ、微塵もないでしょう?」


 結局、俺たちは川の字で畳の上に寝転んだ。

 夕飯の準備もあるので、ゲーム内での確認は手早く済むといいのだが……。

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