表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

757/1130

上階への進出 その3

 料理バフを得た俺たちは、更に上階を目指して進んでいく。

 トップ層の到達階層はおおよそ200階をわずかに越えた程度だったので、それを抜くことができればユーミルは満足するだろう。

 ただ、ランキングを思い出すに、気にかかる点が少しある。


「……やっぱ、200階からは強いのかな? 敵が」


 俺たちが戦っているこの付近の敵については……。

 野良では厳しいことが予想されるものの、固定パーティではそうでもない。

 故に、考え事をしながら戦闘をこなせる程度には余裕がある。

 今まで一気に攻略を進めなかったのは、単に時間の都合によるものだ。


「そうかもね。私たちと違って、固定パーティでの攻略に時間をかけている人たちもいるだろうし……」


 俺の呟きに反応し、セレーネさんが矢を射つつ言葉を返してくれた。

 のんびりとした口調とは裏腹に、放たれた矢は『塔の衛兵』の胴を鋭く穿っている。

 これで残りの敵は二体か……感覚的にこの階層も、そろそろ終わりが近いだろうな。


「ボスが強くてアイテムを使い切ってしまう――ってパターンも考えたんですけど。休憩所とチェックポイントがありますからね……」

「そうだね。ボスでどれだけ消耗したとしても、200階層に到達した時点で補給に戻れるからね」


 200階層には、最後のリスタート可能なチェックポイントがある。

 210階層以降には、それまでと同じように10階層ごとの休憩所こそあるものの、チェックポイントが存在しない。

 そのため、全滅・離脱後に再スタートする際はどれだけ進んでいたとしても、また200階からということになる。

 だから、普通は一度帰って万全の体勢で挑む……はずなのだ。

 魔法の詠唱をしながら、リィズが疑問の乗った顔でこちらを見る。


「つまり、イベント仕様を踏まえて考えますと……固定パーティの上級者であれば、200階まで行くのは当然。そこからどれだけ進めるかが本当の勝負、ということになるのでしょうか?」

「ああ、そう思う。だからこそ、上位陣の記録の伸びの鈍化が怖くもある」

「トップの弦月さんたちが224階止まりって、よっぽどだよね……」


 アルテミスの……というより、弦月さんの力は俺たち三人ともよく知っている。

 更には、彼女の名が野良パーティのランキングに存在せず、固定パーティに専念していることも。

 上階進出にチャレンジした回数もそれなりなはずだ。

 その彼女のパーティが、220階そこそこで足踏みをしている……。


「……ハインドさんの御懸念も、もっともですね。200階以降……嫌な予感がします」

「だろう? まあ、今から心配しても、仕方な――」

「よーし、倒したぞー! ……お? どうしたのだ、後衛三人衆。揃って難しい顔をして」


 最後の一体を倒したユーミルが、元気いっぱいに駆け戻ってくる。

 こいつは特に、俺が言いかけた台詞をノータイムで返してくるだろうな……。


「……いや。お前に言っても、一笑に付されるような心配事だよ」

「む?」

「気にしなくていい。っていうか、トビは? どこに行ったんだ?」


 ユーミルと一緒に前衛で戦っていたはずの姿が見えない。

 一人で先に――行く訳がないな。あの寂しがり屋が。


「さあ? 私は知らんぞ!」

「え?」


 そんなユーミルの言葉に、俺は困惑しつつも更に周囲を見回した。

 通路の前を見ても後ろを見ても、トビの影も形もない。

 やがて俺は……白目を剥いて逆さの状態で出てきたトビの顔面を、至近距離で目にすることになった。


「うわぁ!?」


 そのまま天井から、麻痺状態でにゅるりと落ちてくる。

 何だこれ、何だこれ!?

 事態が飲み込めずに、俺は飛び退きながら見たまま感じたままを叫ぶ。


「気持ち悪っ!?」

「近付くと落ちてくる、お化け屋敷の人形みたいだな!」

「……察するに、縮地に失敗でもしたのでしょうか……?」

「そうかもだけど、えと……それにしたって、どうして天井から?」


『縮地』に失敗したとしても、基本的には地面や壁に埋まることが多い。

 それに埋まったとしても普通は足や腕、せいぜい肩の先程度だ

 あれだけ豪快に天井に、それも全身埋まるほど失敗しているのは色々とおかしい。


「何してんだよ、トビ……大体お前、少し前に縮地はマスターしたんじゃ……?」


 麻痺が解けたトビを助け起こしながら問いかける。

 そういえば、さっき俺が体当たりをした時も『縮地』に失敗してペナルティを受けていた。

 純粋に塔の通路が狭く、それによるミスだと思っていたのだが。


「あ、いや、今夜はちょっと集中力がでござるな……」

「……」


 どうも、それだけが原因ではないらしい。

 だが、俺がその原因を考えるよりも先にトビが大きく声を上げた。


「で、でも、聞いてほしいのでござるよ! ちょうど縮地を使おうとしたところに、敵から足払いを受けたのでござるよ!? いくらなんでもタイミングが酷くない!?」

「それで引っくり返って、視線の先にあった天井に埋まったのかよ……」

「然り! まさか、ワープ系スキルで一番怖い状況をこの身で体感することになろうとは……!」

「もし壁とか天井に埋まったら……ってやつか。にしても、普通はすぐに弾かれるのになぁ……」


 通常であれば、人が視認できないほど早くオブジェクトに埋まった体は弾かれる。

 それが、あんな風に排出されたのだから――一体、どれだけ深く埋まったのやら。

 ゆっくり出てきたのは処理の問題か、それとも対象者が酔わないようにするためか。


「いやはや、恐ろしかったでござるよ」

「俺はお前の形相が恐ろしかったんだが」

「ちょ、とりあえず最後まで聞いて?」


 そう言われてもな……。

 女性陣なんて、もうこっちの会話に参加する気すらなさそうじゃないか。

 聞いてやるけど。


「天井の中では視界が真っ白で、変な圧迫感があったことだけは認識できたでござるが……」

「真っ白? 真っ暗じゃなかったのか?」

「へ? あ、ああ、本当に壁や天井の中なら光が届かないということで? でも、白かったのは確かで……言われてみれば不思議でござるな。表示されているグラフィックの関係でござろうか?」

「塔の材質は白だからな。それでも、圧迫されたってことは中身がスカスカだったりはしないのか……」

「もしもし、ハインド殿? いつの時代のグラの話でござるか……? 懐かしいでござるなー、ペラペラのテクスチャの後ろにある裏面世界」


 ちなみにだが、どれだけ上に向かって縮地しても上階に抜けない仕様なのは分かっていた。

 ゲームの塔だし、入るごとに構造が違うからな……正規の上り階段を通らない限り、どう移動したとしてもフロアは変わらないはずだ。

 体感としては繋がっているが、実際に空間上は繋がっていないというか。

 俺たちのゲームのグラフィック談義に、ユーミルとリィズは目立った反応を示さない。

 代わりに、セレーネさんが眼鏡の奥の目を輝かせ――


「壁と地面のグラフィックの隙間から落下とか、あったよね! ね!」


 会話に参加してきた。

 あ、やっぱりこういう話は好きなんですね……。

 もちろん、俺も大好きだ。

 大好きなので、全力で乗っかっていく。


「自キャラが延々と落ち続けるやつですか……ありましたねー。一応、一定時間落ちると戻されるものもそれなりにありましたが。一部のゲームではリセット案件でしたね」

「3Dゲーム黎明期(れいめいき)のものは、特に多かったでござるなー。それを利用した壁抜け移動が考案されたりと、また中々のカオスっぷりだったそうで。無論、オフラインゲームの話でござるが」

「うんうん。他にも物理演算が変で、オブジェクト同士を重ねると凄い勢いで反発したり……」

「「あったあった」」


 現代のVRゲームからすると、あの辺りのゲームもレトロゲームに分類されてしまうな。

 ちなみに俺たち三人とも、全くその頃の世代の人間ではない。

 俺たちが幼い頃には、もう3Dゲームは主流になっていた。

 しかし、世代ではないのにそれぞれ初期のゲームをプレイした経験があり、話を合わせることができる……いやー、実に楽しい。

 楽しくて話が止まらない。

 そうやって三人で盛り上がっていると、リーダーであるギルドマスターから苦言が。


「むぅ……ずるいぞ! 私がカバーし切れていない、微妙な時期のゲームの話を!」


 苦言……というか、単に会話に参加できなくて悔しかっただけらしい。

 古すぎてかえって新鮮に感じるらしい2Dドットのゲームなどとは違い、3D初期の……例えば、キャラクターの表面がボコボコしたポリゴン状の時代のゲームは、取っつきにくいと感じる人も多い。

 ユーミルなどは、もろにその口だ。


「まぁ、後で何かその頃のゲームを貸してやるよ。本体ごとな」

「約束だぞ! できればアクションゲーム! 意地悪を発動したりして、間違っても――」

「分かっているっての。パズルとか、難しめのシミュレーション系は嫌なんだろ?」

「うむ!」

「それよりも、もうすぐボス戦じゃないか? ……リィズ、今って何階だっけ?」


 俺の声かけに、やや暇そうにしていたリィズがこちらを向く。

 返答は即座で――


「199階ですね」

「うわ、だったら次がボスじゃないか……いつの間に」

「慣れてくると同じ行動の繰り返しになるから、感覚が分からなくなるでござるなぁ。拙者の集中力が切れたのも、それのせいということで一つ!」

「……お前がそうしてほしいんなら、そういうことにしておいてやるよ」


 トビの集中力が切れた原因については、ひとまず棚上げにしておく。

 現在の表情を見るに、普段のペースは取り戻したようだし。

 探られたくないのであれば、深く追求するのは止しておこう。


「よーし、ならば気合を入れ直すぞ! 上への階段はどこだ!?」


 早速、先頭に立って歩き出すユーミル。

 俺も追従しようと一歩踏み出すと……。


「ハインドさん」

「何だ? どうした、リィズ?」


 リィズに呼び止められた。

 するとリィズは上目遣いで視線を固定しつつ、再度口を開く。


「ハインドさん。私にも、後で3D初期のゲームとやらを何か貸していただきたいのですが」

「おっ……」


 この前のこたつでやったレトロゲームの時といい、嬉しい変化だ。

 純粋に興味を持ってくれたのか、それとも話を合わせようとしてくれているのか……。

 どちらにしても、こう言われて俺が断ろうはずもない。


「もちろんいいぞ。後でリィズに合いそうなゲームを、何か選んで持っていくよ」

「ありがとうございます。ハインドさんが選んでくださったものなら、必ず最後までやります。絶対に」

「い、いや、そこまで気合を入れられると……うーん。責任重大だな……」


 下手なものを勧められなくなってしまった。

 リィズだったら、やはり頭を使う戦略系が……でも、勉強も大事だしな。

 ここはあまり時間のかからない、簡単なアクションゲームというのもありかもしれない。

 クリアが簡単でも、シナリオやキャラクターがいいものを選べばそれなりに楽しんでくれるはずだ。

 あの辺のゲームになると、全編フルボイスのゲームというのも出てきたころだし。

 他には――


「おーい、お前たち! すぐそこに階段があったぞ! 早く来い!」


 っと、少し考え込んでしまったせいで足が止まっていた。

 ユーミルが呼んでいる。

 俺はリィズと小さく笑みを交わし合うと、三人の背を追って駆けだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ