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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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上階への進出 その1

 順位が明確になったことで、固定パーティでのやり込み不足が露呈した。

 ……というのが、ユーミルの意見である。

 塔の休憩室の中で、高らかに宣言する。


「上に見慣れた面々がいるだけに、今の順位は納得がいかん! 目指すぞ、1位を!」


 確かに、いつもの面々が俺たちよりも上に名を連ねてはいたが。

 特に意識しているのは弦月さんだろうなぁ、多分。

 並みいる他のランカーたちを抑え、アルテミスのパーティは堂々の1位だった。


「別のゲームではその他大勢だった癖に、偉そうに……」


 過熱気味のユーミルのやる気に、リィズから冷水が注がれる。

 他のゲームでの様子をリィズに聞かせたの、失敗だったんじゃないだろうか……。


「こ、このゲームではランカーだ! ……ハインド込みでだが!」

「では、ハインドさんの負担を考えたペースでどうぞ」

「むぐっ!」


 あんなに勢いのあったユーミルの闘志の炎が、見る見るうちに小さくなっていく。

 さすがに止めた方がいいな、これは。


「リィズ。それ以上へこませると、ユーミルが戦力にならなくなる」

「……そうですか。では、この辺りにしておきます」

「――私への気遣いは!? もうちょっと優しい言葉をかけてくれてもいいのではないか!? な、なぁ! ハインド!?」


 俺はユーミルの肩にぽんと手を置くと、包みに入った飴玉を差し出した。

 反射的に手を出し、それを受け取るユーミル。


「……じゃ、そういうことで」

「……え!? どういうことだ!?」


 ……? おかしいな。

 ユーミルなら、飴で元気が出ると思ったのだが。


「あ、お前!? 私を止まり木の子どもたちと同列に扱ったな!? こんなもので誤魔化されるか!」


 そう言いつつも、飴をしっかりと自分の(ふところ)に入れるユーミル。

 ちっ、今は甘いものの気分じゃなかったのか……。


「そんなことはない。話は変わるが、160階まで行けたらちょっと凝った肉料理を出す予定だぞ」

「……む?」

「モンスター肉を使った新メニューだから、楽しみにしているといい」

「本当か!? うおおおおお!!」


 肉と聞いて、ユーミルの下がった気分は急上昇した。

 前回到達した、160階層……そこから上に向かう際は、料理バフをフル活用しようと前から決めていた。


「話……変わったでござるか?」

「変わっていない、よね? 食べ物で釣っているのは、一緒っていうか……」

「どうせ気付きませんよ。ユーミルさんですから」

「それはまた……本人は否定していたでござるが、止まり木の子どもたちと同レベルでござるな……」


 やめろ、お前ら! ユーミルに聞こえる!

 俺は人差し指を口の前に立て、静かにするようにみんなに促した。

 せっかく、やる気が程よくなっているので……。


「よし、じゃあ150階から再開するぞ。敵がかなり強くなってきたから、最初から締めてかかれよー」

「うむ、締めてかかれよ! 行くぞー!」


 手を突き上げるユーミルの背中を押し、休憩室からダンジョンへとなだれ込む。

 今日は、ユーミルの希望により「詰まる地点まで」進む予定となっている。




 さて、中層……噂では300階まであるとされているこの塔の、100階から200階。

 この辺りに出現する敵になってくると、武装が豪華になる。


「ぬあっ!?」


 武器一つだったところに、まずは鎧が装着。

 この鎧は攻撃を重ねることで砕くことも可能だが、下層に比べ防御力は確実に増している。

 そして武器を持っていない手には、今ユーミルの攻撃が弾かれたように――


「盾ぇぇぇぇぇぇっ!!」


 汎用性の高い円盾が装備されている。

 これがまた攻撃を綺麗に流してくるため、通常攻撃する際はストレスが溜まることこの上ない。

 ユーミルもあの通り、盾に防がれる度に怒りの叫びをぶちまける始末だ。

 ただし、あれをシステム的に回避する手段はきちんと用意されている。


「ユーミル、スキルをしっかり回せ! 囲まれるぞ!」

「わ、分かっている!」


 それは、スキルで攻撃を行うこと。

 スキル攻撃に対しては、何故だか衛兵が盾で受ける動作が酷く緩慢になる。

 それでも、盾で受けられてしまうことはあるのだが……。


「だらっしゃい!」


 これまたスキル攻撃が絡むと、防具を破壊できる確率が大幅に上昇する。

 ユーミルの『ヘビースラッシュ』により、『塔の衛兵』の盾は粉々に砕け散った。


「見たか、ハインド!」

「馬鹿、前、前! もう一体が来てる!」

「ぬおっ!?」


 体を捻り、どうにか衛兵の剣をかわすユーミル。

 ――と、このように、中層では攻撃スキルが重要だ。

 MP管理、スキルのWT管理の能力が問われる。

 野良でキツイわけだよな……大型スキルの使用タイミングが被ると、重装備の敵兵がどんどん増えて圧迫してくる構図になるのだから。

 しかし、今の俺が立っているのは固定パーティの後方だ。


「よし……くらえ、線香花火!」

「線香花火?」


『シャイニング』で小よろけを取り、続けて杖でどつき回して一体の衛兵を拘束。

 当然ながら、これだけで敵を倒すことはできない。

 この足止めの方法は状況次第で野良でも有効だが、固定パーティにはその「先」がある。


「セレーネさん!」

「任せて!」


 野良で援護が入るかどうかは個人の嗅覚、反応速度頼りだが……。

 慣れた固定の連携であれば、こうやって狙撃手が確実に射抜いてくれる。


「ナイスショットです! ――ふんぬっ!」

「ぐほぁ!?」

「は、ハインド君も……ナイス、回避?」


 その流れで、『縮地』に失敗し立ったまま痺れていたトビに体当たりを入れた。

 倒れ込む俺とトビの頭上を、スキルの光を纏った斧が風切り音と共に通過していく。

 危なかった……危険域のトビのHPを回復しつつ、急いで立たせてその場から退避する。


「は、ハインド殿……乱暴な救出法に拙者、喜んでいいのやら、怒っていいのやら……できれば、もっとスマートに助けてほしいでござるっ!」

「仕方ないだろ……他のやり方じゃ、間に合わなかったんじゃないか? ホーリーウォールも空蝉もなしに無茶したお前が悪い」

「くっ……久々の固定だからといって、ちょっと甘えすぎたでござるか……」


 ネットゲーム経験豊富なトビでも、固定と野良の違いに多少の対応ミスが出るらしい。

 ――と、いかんいかん。

 ヘイト値が一番高いトビの傍にいると、邪魔になってしまう。

 リィズが『ダークネスボール』で足止めしてくれているが、捕まえ切れなかった敵がすぐに寄ってくる。

『ホーリーウォール』をトビに残し、ポジションを後ろに。

 そのままノールックでリィズにMPポーションを投げ――


「あっ……見るまでもなく位置が分かるなんて……それはそれで素敵ですが、私は戦闘中だろうとハインドさんのお顔を見たいです」

「えっ? いや、そんな余裕――」

「見たいです」

「……」


 余裕がないからノールックだったのだが……。

 仕方なくしっかりとリィズと視線を交わすと、あちらからは蕩けるような笑みが。

 そしてこちらからはぎこちない笑みを返す。何だこれ。

 ――直後、爆音。


「!」


 慌てて状況を確認すると、それは味方側の攻撃によるものだった。

 俺は再びアイテムポーチに手を伸ばすと、ユーミルが『バーストエッジ』でミリ残りにした二体の敵の間に焙烙玉を投げる。

 二度目の爆音、光の粒子に転じる二体の衛兵。


「おおっ!? うまい!」


 テンプレート……神官として基本的な動きのみを求められる野良と違い、自由が利くといえばいいだろうか?

 固定パーティでは仲間の了承さえあれば、今のように一般的なヒーラーとは違う働きをすることも可能となる。

 野良のやや窮屈な環境の中で力をいかに発揮するかを考えるのも楽しいが、やはり俺はこちらのほうが好きだ。

 MPが枯渇したユーミルに『エントラスト』を使用したところで、スキルを受けた本人が振り返って白い歯を見せてくる。


「今日は調子がいいな、ハインド! 動きにキレがあるように見える!」

「まあな。何となく、前よりも視野が広くなった気がする」


 その理由は、野良パーティを経験したからこそだと思うが……。

 ユーミルは俺が野良パーティを少しでも肯定するような発言をすると怒るだろうし、黙っておこう。

 そんな形で、ひとまず渡り鳥パーティは肩慣らしを兼ねつつ、前回の到達点である160階層に足を踏み入れたのだった。

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