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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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野良パーティのはぐれ神官 その4

 FF荒らし――略さなければ“フレンドリーファイア荒らし”、ということになるか。

 精神的ダメージが主な暴言との大きな違いは、やはりパーティに実害が出ることだろう。

 特にこのTBというゲームでは通常の敵への攻撃と比べ、FFであってもダメージ減衰がほとんどない。

 よって、命中したスキルや残りHP次第では一撃で戦闘不能ということも有り得る。

 ……そんなことを、俺は塔の白い壁に叩きつけられながら考えていた。

 意識が薄れ、周囲の景色がぼんやりとしていく。


「は!? え!?」

「なっ、あっ、てめえ!? 何してんだっ!」

「ハインド、しっかり!」


 パーティメンバーが即座に怒りを露にしているのは、FFであることが明確だったからだ。

 後衛だった俺の近くに敵はおらず、FFした張本人も後衛プレイヤー。

 そして何より、『ヘブンズ・レイ』特有の光の軌跡が今もその場に残っている。

 神官・均等型バランスタイプの青年プレイヤーの声が薄く耳に届く。


「――るせえ! こいつが俺の――」


 明確に聞き取ることはできなかったが、どうやら救援ポイントに関して怒っているようだ。

 こちらに向かって罵倒している……ような気がする。

 それだけが分かったところで、駆け寄ってきた弓術士の女性が『聖水』を振りかけてくれる。


「大丈夫?」

「……あ、はい。ありがとうございます……」


 頭がぼんやりして、五感が中々クリアになっていかない。

 目隠しをして回転した時のように平衡感覚が怪しく、すぐに立ち上がることすら難しい。

 そうこうしているうちに俺と俺を介抱してくれた一人と、FFの犯人を除く二人が奮戦。

 残っていたモンスターの撃退に成功した。

 回復が滞ったことでHPがギリギリだったが、どうにか踏ん張ってくれた。


「今、回復しますね」


 そこでようやくまともに動けるようになった俺は、努めて静かな声でそう告げてから回復を始めた。

 魔法で足りない分は、価値の低い回復薬限定ではあるものの、そちらもどんどん使っていく。


「おう、サンキュ」

「ありがと。危なかったねぇ」


 ……俺を撃った青年は散々喚き散らした後は黙っているものの、今も顔を真っ赤にしたまま息を荒げている。

 何らかの刺激を与えれば、またすぐにでも爆発しそうな様子だ。


「……ねえ、どうすんの?」

「どうって……追放でいいっしょ。もうシステム側の判定は下ってんだし。俺、押しちゃうよ?」

「待てよ! 俺は――」


 言い争いをする気はないのか、武闘家の青年がさっさとFF神官を追放する。

 何か言いかけていたようだが……その後は、トビが意味ありげに話していた通りだった。

 足元から禍々しい光が溢れ出すと、彼はその光に呑まれ――


「な、何だこれ!? ふざけんな! 何で俺が追い出されなくちゃいけないんだよ! てめえら、絶対に――」


 恨み言を残しながら消えていった。

 なるほど、こうなるのか。

 多少溜飲が下がる演出ではあったが、それですっきりというわけにもいかない。

 ……すぐに切り替えられるようにならないと、野良パーティできついのは分かっているのだが。


「気にしない。ハインドが何度かポイントを譲ろうとしていたの、私たちは分かっていたし。あいつはそうじゃなかったみたいだけど」


 俺を蘇生してくれた弓術士の女性が肩を叩きながら、声をかけてくれる。

 そうなんだよな……最初は互いに救援ポイントを欲していたのは分かっていたので、譲り合おうと思っていた。

 ただ、戦闘が始まるとそういう訳にはいかない事情があった。


「そうだぜ。あいつの回復タイミングじゃ、何回戦闘不能になっていたか分かんないしさぁ」


 ちょっとチャラい感じだが、人の良さそうな笑顔で武闘家の青年もそう言ってくれた。

 彼の言葉が示すように、FF神官の回復は全体的に遅かった。

 さすがにその状況で、ポイントどうこうを気にするのはパーティに迷惑がかかる。

 大体、パーティ結成時から妙に苛ついている感じがあの神官の彼にはあったのだ。

 一体、どうすれば正解だったのだろうか……?

 あれこれ考えてみても、答えは出ない。

 出ないどころか、俺がどんな態度を取ろうとああなっていたような気もする。


「えーと……運が悪かった、と思っても大丈夫……ですか?」


 自分で気が付いていない地雷行動がなかったか、確認の意味を込めて残ったメンバーに問いかける。

 すると今度は、同年代くらいの軽戦士の少女が肩をすくめて白い歯を見せた。


「それでいいよぅ。犬にでも噛まれたと思って、忘れよ? ハインドに非はないよ。むしろ調子を崩さず、さっきまでと同じように回復してくれると嬉しいぞよ? エリアヒールの置き方、マジで上手かったし!」

「そ、そうですか。どうも」


 おどけた口調で、そう太鼓判を押してくれた。

 頼もしくも、そのドライさがちょっと怖くもある。

 俺と違ってこの場の全員、対応に慣れている感じだ。

 ただ、そういう俺も……不思議と以前受けた暴言ほど、嫌な気分ではない。

 似たような目に遭うのが二度目であったり、この人たちの対応が良かったりと、色々と理由はあるのだろうけれど。

 これを重ねていくと、きっとトビとセレーネさんが言うような「慣れた」状態になるのだろう。


「むしろ、気を遣う必要がなくなってやりやすいべ? 何でランカー相手に、マウント取ろうとすっかねー? 理解できねーわー」

「ストップ。私、そういうの嫌い。それよりも、欠員補充をどうするかの話をしない?」


 武闘家の青年の同意を求めるような皮肉の言葉に、弓術士の女性が待ったをかける。

 彼はそれにムッとしたりせずに、「わりいわりい」と舌を出して話題を切り替えた。

 一悶着はあったが……残った三人は至極まともなようなので、俺も建設的に次のことを考えることにした。

 ちなみにパーティ募集の際に目標階層数も希望を出すので、このパーティの「なるべく上の階層に」という意識は一致している。


「神官2が野良パのテンプレだけど、このパーティなら崩してもいいんじゃない?」


 最初に欠員募集に関して意見を出したのは、言い出しっぺの弓術士の女性だ。

 クールな年上系のお姉さん。

 野良パーティで神官を二人にするのがいいとされるのは、そのほうが安定するからだそうだ。

 残りは魔導士か否前衛の弓術士を一人、前衛を二人とするのが野良パーティを組むプレイヤーの間では基本らしい。

 前衛二人といっても低HPの軽戦士が二人だと厳しかったり、自己回復ができる武闘家がいれば神官を減らせたりと、細かく言えば色々あるのだが。

 軽戦士の少女が、お姉さんの提案に頷きを返す。


「本体マン一人で回復、充分余裕だったしね。私も二人はいらないと思う」

「ぶふっ!? 本体マン……! ぶっひゃっひゃ! けひゃっ!」

「……」

「あ、ちょ、怒った? 本体マンはなかったね、ごめんってば」

「いえ、大丈夫です。変な呼ばれ方には、慣れているんで」


 どちらかというと、武闘家さんの笑い方のほうが微妙にくるものがある。

 そんなに笑うようなもんじゃなかったでしょうが、今の……。

 悪気はないのだろうが、無意識に敵を作るタイプに思える。

 だから慣れていたのだろうか? さっきの通報と追放は。

 ――ま、まあ、我慢できないほどではない。

 さっきの神官にされたことに比べれば、これくらいは全然平気だ。


「うん、とにかく私はおねーさんに賛成。次の休憩所で、魔導士募集しようよ?」

「そうね。できれば、闇がいいかしら?」

「言えてる、俺もデバフ欲しくなってきたわー。本体マ――げふん! ハインドは?」

「異論ありません」


 ちょっと格好悪いが、本当に何も言うことがない。

 一人一人、ちゃんと戦術やらバランスを考えているんだものな……野良パーティで成績を残すには、必要な技能なのだろう。

 その後、このパーティは運良く闇魔導士をパーティに加えることができたが……。

 加入してもらった魔導士の実力が程々で、加えて軽戦士の少女に疲れが出てきたこともあり、70階までの到達に留まった。

 マナーは悪くなく、勢いはあったように思えたのだが。

 そうそう上手くは行かないようだ。

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