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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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塔とヒナ鳥と

 塔を出て、俺は一度ギルドホームへ戻ることにした。

 塔の入り口傍に置かれたイベント用のアイテムボックスは、ギルドホームに期間限定で設置されるそれと繋がっている。

 しかし、その容量は無限ではない。

 だからアイテムが尽きた際には、こうして補給に戻る必要がある。

 さっきの無言パーティでの戦いで、かなりアイテムを消費してしまった。


「あ、先輩だ。おーい」

「……?」


 この綿菓子みたいなふわっとした声は……。

 呼びかけの主がいると思しき、居住区の通路脇に目を向ける。


「ああ、シエスタちゃんじゃないか。どうしたの? こんなところに一人で」


 ベンチに寝そべっていたらしいシエスタちゃんが、半身を起こすところだった。

 TBには、こういった小休憩できる場所がやや不自然なくらい多い。

 ホーム未所持のプレイヤーへの配慮だと思われる。

 簡単な生産なら可能だし、こういった場でログイン・ログアウトする駆け出しプレイヤーもいるのだとか。


「待ち合わせですよ、待ち合わせ」

「待ち合わせ?」


 いつもの二人との待ち合わせなら、シエスタちゃんがこの場にいるのは変だ。

 そういう気分だったと言われればそれまでだが……。

 シエスタちゃんだったら、ギルドホームから動こうとはしないだろう。

 解けない俺の疑問に、察したシエスタちゃんがひらひらと手を振る。


「まー、すぐに分かりますってー」

「……自分の口から、教えてくれる気は?」

「ありまてーん。隣、どうです?」


 振った手でそのまま、ペチペチと自分の隣にできたスペースを叩く。

 ……。

 俺は少し考えた後、そのお誘いに乗ることにした。

 ただし、こちらが座ってすぐに体を傾けてきたシエスタちゃんを抑えながら――だが。


「何、するんです、かー!」

「君の、魂胆は、分かっているんだよ! 真っ直ぐ座り……なさいよ!」


 こんな硬いベンチに寝転がっていれば、体が痛くなるのは当たり前だ。

 人をクッション代わりにせんとするシエスタちゃんを、押し戻して垂直にする。


「先輩、私のこと、を、理解し過ぎでは!? 愛ですかっ!?」

「動揺、させようとしても、無駄っ!」

「むしろ、私が……愛衣ですがっ! マイネームイズアーイ!」

「やかましいわ!?」

「アーイ!」


 何の意味もない自己紹介に、抑える手の力が抜けそうになる。

 というか、本名……言ってしまっていいのか?

 そう思って周囲を見回すも、人影――特に、一発でいると分かるプレイヤーのアイコンなどはなし。


「隙ありー!」

「しまっ……!?」


 俺が周りを見ると分かった上で……!?

 そんなくだらない攻防の末、俺はシエスタちゃんに押し倒された。

 二人して、ベンチの上で横倒しのような窮屈な体勢になってから止まる。


「……先輩」

「……何だい?」

「……何か、思っていたのと違います」

「そりゃ、そうだろうね……」


 シエスタちゃんが想定していたのはきっと、えーと……アレだ。

 電車などで思わずうたた寝してしまい、隣の人に寄りかかってしまうあの体勢。

 当たり前だが、支えになる人間を押せばこうなる。


「楽をするどころか、無駄に疲れましたし……あーあ」

「別に俺のせいではないよね?」


 ということで二人、普通に起き上がって座っていると――


「シーちゃん、お待たせ! ……あれ?」

「ハインドせんぱ――」

「ハインドさん!」


 リコリスちゃん、サイネリアちゃんに続き……まだ記憶に新しい、聞き覚えのある少女の声が耳に届く。

 言葉を遮られてややムッとした顔のサイネリアちゃんの後ろから、アラウダちゃんが。

 そしてリコリスちゃんの後ろからは……。


「こ、こんにちは」

「お? 君は……」


 サイドテールがぴょこっとお辞儀に合わせて上下する。

 確か……プレイヤーネームは、ホリィだったか。

 リコリスちゃんと決闘で好勝負を繰り広げた、軽戦士の少女が顔を出した。




 経緯を説明してくれたのは、やはりサイネリアちゃんだった。

 ヒナ鳥の三人は今回、俺たちが既に攻略に着手していることもあり、独自に塔を攻略してみようということになったらしい。

 ただし公式から高難易度が宣言されていることもあり、フルパーティ……五人で挑むのが望ましいという話の流れに。

 そこで、残りのパーティメンバー二名をどこから連れてくるかという話になったそうだ。


「ホリィちゃんとはあれからも、連絡を取り合っていたので!」


 こう話したのは、リコリスちゃんだ。

 フレンドになったのは知っていたが、いつの間にやら気軽に誘い合えるような仲になっていたらしい。

 サイネリアちゃんが話を続ける。


「リコに連絡を取ってもらったところ、PvEも問題ないとのことで。お願いして、パーティに加わってもらいました」

「ま、即戦力ですよねー。彼女クラスのプレイヤーがまだパーティ組んでいなかったなんて、超ラッキーですわー」

「あ、いや、そんな」

「しかも謙虚ときた。素晴らしいですねー。ね? 先輩」

「そうだね……」


 シエスタちゃんの言葉は若干、アラウダちゃんへの皮肉が混じっているように感じられる。

 だが、確かに前に見た彼女の強さからすると、この態度は非常に謙虚だ。

 掲示板で話題になっていたくらいのプレイヤースキルがあるからな……可憐な容姿も相まって、というのもあるだろうけれど。


「で、後もう一人のメンバーはフィリーに頼もうと思ったんですけどねー……お金は必要だけど、強いし。味方が強ければ、私も楽ですし」

「フィリアちゃん?」


 シエスタちゃんが口にしたのは、アルベルトの娘である傭兵少女の名だ。

 俺の見立て違いでなければ、ヒナ鳥三人が誘えば問題なくOKしてくれると思うが……。


「もしかして、先約があった?」


 俺の言葉に、サイネリアちゃんが頷きを返してくれる。

 まあ、イベント開始から数日経っている時点で厳しいよな……傭兵としての知名度を考えると。

 もう既に、どこかの固定パーティと契約していたのだろう。

 そこまで話したところで、シエスタちゃんがベンチからのっそりと立ち上がる。


「ということで、先輩。私たちは、この“アラウダ足引っ張んなよパーティ”で塔の攻略に行ってきますね?」

「ちょ!? あんたねえ!」


 アラウダちゃんがシエスタちゃんの言葉に憤慨する。

 しかし、シエスタちゃんがどこ吹く風なのはいつも通りだ。


「だって、アラウダ完全にあまりものじゃん……スーパーの値引き品じゃん……」

「誰が余りものよ!!」


 アラウダちゃんが所属するガーデンは、リヒトを中心としたギルドだ。

 収穫祭イベントは特殊仕様だったので活躍できたが、今のイベントで低レベルのアラウダちゃんに声がかからないのは自然と言える。

 ましてや、あそこはリヒト抜きのメンバーで別パーティはそんなに組まないだろうし……よって、彼女の手が空いていても何ら不思議はない話だ。

 ただ、俺としては彼女も悪くないパーティメンバーだと思うのだが。

 それと、スーパーの値引きは素晴らしい文化である。シール貼りのおばちゃんを称えよ。

 ――と、思考が逸れた。アラウダちゃんにフォローが必要だったな。


「まぁまぁ、シエスタちゃん。アラウダちゃんは、レベルさえ追いつけばちゃんと活躍できる下地があると見たよ。装備もきちんと整っているし」

「ハインドさん……!」


 あ、いや、そこまでキラキラとした表情をされると居心地が悪いが。

 収穫祭イベントでの動きを見ていた限り、アラウダちゃんはゲームの基礎知識をきちんと仕入れてきている。

 運動神経も悪くない……考えてみればよく勝てたよな、シエスタちゃん。


「塔は経験値補正が良くて促成栽培できるみたいだから、時間の問題じゃないかな? すぐにレベルが上がるから、少しの我慢で戦力になるはず」

「私もそう思いましたので、アラウダに声をかけました」


 お、サイネリアちゃんが同意の言葉を出してくれた。

 ついでに、誘ったのはサイネリアちゃんなんだな……彼女は彼女で、アラウダちゃんに思うところがあったはずだが。

 どうやら、その辺の感情は上手く消化できたらしい。

 そんなサイネリアちゃんと俺の意見、更にリコリスちゃん、ホリィちゃんのフラットな視線を受け、シエスタちゃんが一瞬黙る。


「……なるほどー、分かりました。では、言い直します。“アラウダ足引っ張んなよパーティ”改め、“アラウダもやしパーティ”ということで。いざしゅっぱーつ」

「はぁ!? 待ちなさいよ! 何よ、もやしって!?」

「先輩が促成栽培って言うから……にょきにょき伸びなよ?」

「それは例えでしょ!? ただの! それと、もやしパーティだと別の何かみたいじゃない!? ちょっとシエスタ、聞いているの!?」


 大量のもやし料理が食卓に並んだイメージが、勝手に頭の中で想起される。

 浮かんだ妙な光景を、頭を振って払いつつ……。

 俺は何のかんので元気に神殿に向かう五人を、その場で手を振って見送った。

 仲が良いようで何より。

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