表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

745/1131

野良パーティのはぐれ神官 その3

 無言パーティ……あるいは、チャット禁止パーティというものがある。

 かつて一部のネットゲームでは、システム側で用意されたプリセットチャットや定型文、スタンプなどを用い、それ以外で任意の発言を行わないパーティをそう呼んだのだそうだ。

 開始時と終了時の挨拶においては、それらの機能を使って最低限の礼儀だけは通す。

 そして、ゲーム中に余計なことは言わない。

 ただし終了前後の定型文による挨拶や試合・戦闘中のプリセットすらも使わない「完全無言」のものとは、区別されている場合もあったのだとか。

 そして現在、VRを用いたMMORPGであるTBにおいても――


「……」

「……」


 無言パーティ、というものは存在していた。

 俺がそのことに気が付いたのは、渡り鳥で50Fを突破した翌日。

 現在のパーティメンバー全員が集まって、すぐのことだ。

 四人とも、最初に挨拶をしたら笑顔の混ざったお辞儀なりで気持ちよく返してくれた。

 返してくれたのだが、いざダンジョン探索が始まると……。


「……」

「………………」


 誰も話さない、何も話さない。

 俺のほうも、その場の面々が発する会話をためらう空気が伝わってきて、つい口を閉ざしてしまった。

 会話が煩わしいだとか、あるいは怖いだとか、色々と理由はあるのだろう。

 だが、不思議とそんなパーティでも塔の探索は順調だった。

 誰ともなく歩き出し、道が分岐した際は多数決。

 それによって選んだほうへと、不満を持たずに全員で進んで行く。


「……」


 VRゲームであるTBで用意されていない、プリセットチャットなどの代わりに使用されるのは――主に手振り、身振りである。

 それも意図が直感的に理解できる、ボディランゲージよりもジェスチャーに近いものだ。


「――!?」


 あ、武闘家の女の子が転んだ……。

 どうやら、端が削れた石畳のギャップに足を取られたらしい。

 助け起こ――すのは、体に触れる危険があるのでやめておく。

 そちらは、同性の魔導士の少女がやってくれそうだ。

 代わりに、転倒した際に飛んだアクセサリーらしき首飾りを拾って渡す。


「……! ――!!」


 ついでに『ヒーリング』で転倒ダメージを癒すと、武闘家の少女が申し訳なさそうに何度も何度もお辞儀をしてきた。

 どうも、ちょっとドジっぽい雰囲気……。

 ――といったようなこともあったが、程なくして探索を再開。


「!」


 不意に先頭の騎士の男性が、さっと手を横に出して後ろのメンバーが制止するよう合図を出す。

 彼は全員が止まったのを確認してから、曲がり角の向こうを指差した。


「……」


 どうやら、敵モンスターを発見したらしい。

 俺たちの表情を窺い、戦うか、避けて進むか問いかけているようだ。

 そして、俺を含む四人のメンバーが手で丸のサインなどを思い思いに送る。

 おお、意図が一致した……。

 この場合は、倒して進もうというサインのはずだ。

 俺の考えが間違っていなければ、だが。


「……」


 いつの間にかリーダーのポジションに収まりつつある騎士の男性が、頷きを一つ。

 そして全員が一斉に武器を構え――何だろう、誰も一言も発していないのに。

 表層上の浅い部分ながらも意志が通い合い、心地の良い空気を感じる。




 無言パーティによる即席連携はそれなりで、俺たちはどんどん階を上っていった。

 今更だがパーティメンバーの構成は騎士、重戦士、武闘家、魔導士、そして神官の自分となっている。

 男女比は魔導士と武闘家が女性、残りが男性で希望通りの二対三。

 そして前衛三人の職業柄、パーティ全体の被ダメージは通常よりも増える傾向にある。

 だから俺にとってこの構成は、救援ポイントを稼ぎやすい好条件だ。

 救援ポイントは回復、蘇生、そして支援と、一部の特殊行動によって得ることができる。

 ――というわけで、ランキング上昇を目指し、俺は回復魔法を投げる、投げる。


「……! ――!」


 武闘家の少女がぺこぺこと、回復の礼を示してくれる。

 男性陣は回復や支援魔法を送る度に、握り拳を掲げたり親指を立てたり。

 余裕がない時はそれらがなくなるが、もちろん俺としても構わない。

 むしろ、背中越しでも動きが一瞬止まるのが分かって申し訳ないくらいだ。

 回復するのが当たり前、といった態度の人も中にはいるからな……。

 律儀に返ってくるお礼の動きが、無言の息苦しさを全く感じさせない。


「!」

「……!」


 また、今のように重戦士の青年が女性陣を庇うような動きをしていて面白い。

 位置取りがやや前に行ってしまった魔導士の少女への攻撃を、重戦士が盾で防ぐ。

 おそらくだが、女性陣の前でいい格好をしようとしているのだろうな……心意気は買うが、行き過ぎると陣形が崩れて大変なことになりかねない。

 動き自体は悪くないだけに少し勿体ないし、心配だ。

 騎士の男性がヘイトを引きつつ全体のバランスを見てくれているので、いざというときは……申し訳ないが、あちらのHP回復を優先することにしよう。

 酷なようだが、こういう計算も野良パーティの神官ヒーラーには必要に思える。

 もちろん優先順位など付けなくてもいいくらい余裕があるのが一番なので、最大限の努力はさせてもらう。

 重戦士の男性も、戦闘不能にならないに越したことはない。

 回復が行き渡っている時は、余裕があれば支援魔法をどんどん差し挟んでいく。

 だが――


「がはっ!」

「ひゃっ!?」


 やはり、と言ってしまうと失礼だろうか?

 重戦士が武闘家の少女の前で力尽き、さすがに苦悶の声と小さな悲鳴がそれぞれ上がる。

 とはいえ、現在の階層は50F……目の前にいるのは、昨夜渡り鳥で倒した四枚羽の『塔の衛兵・小隊長』だ。

 渡り鳥で楽勝だった相手も、残念ながら今のパーティではそう簡単には行かない。

 ……これを見越して、念のためWT管理・MP管理をしながら保険はかけておいた。

 ここからの立て直しが、ヒーラーの腕の見せ所だ。


「……っ!」


 まずは戦闘不能までに詠唱が間に合わなかった回復魔法をそのまま継続。

 幸いにも『ヒールオール』だったので、それでパーティ全体のHPを回復。

 続けて『聖水』『中級HPポーション』、そしてカテゴリ違いの貴重品『複合ポーション』の三種を腰のホルダーから引き抜き――倒れた重戦士に向けて、次々と投擲!


「「「……!?」」」


 ボス戦中という差し迫った状況にもかかわらず、重戦士を除く三人の驚いたような視線がこちらに集まった。

 いや……そんなに見られても。

 折角目があっているので、蘇生したての重戦士君は武闘家ちゃんに守ってもらうことに。

 指差し、からのガードポーズでどうにか……ど、どうだ?


「……?」


 めっちゃキョトンとされたのだが!?

 え、えーと、じゃあ手を横に広げるポーズで……彼、を、守ってくれ!


「!!」


 こんなジェスチャーで伝わっ……たみたいだな、よかった。

 顔が真っ赤になるくらい、必死に頷いてくれている。

 分かりやすいようにと、間抜けな動きをした甲斐があった。

 そうしたら、彼が起き上がるまでの間に『ガードアップ』と『レジストアップ』を使っておけば盤石だ。

『複合ポーション』を使用したので、蘇生直後の彼はMPもほぼ満タンである。


「……?」


 よし、重戦士君が起き上がった。

 後は、これまで通りパーティ内で最も期待値の高い騎士の男性を中心に戦えばいい。

 彼のプレイヤースキルと判断力を活かせば、問題なくボスを倒せるはずだ。

 それからは、誰も戦闘不能になることなく……。


「お疲れ!」

「ありがとうございました!」

「おつー」

「お疲れさん!」

「……お疲れさまでした!」


 無事50Fの休憩所に到着し、パーティ解散となった。

 次々と組んでくれた面々が魔法陣の上で去っていき、最後に武闘家ちゃんが照れ笑いのような表情をこちらに向けつつ、パーティを離脱。

 最後の表情の理由は、焦って離脱のはい・いいえの選択ボタンを彼女が上手く押せなかったせいだ。

 ……大丈夫か、あの子。


「ふーっ……」


 誰もいなくなった休憩所で、俺は長い息を一つ吐いた。

 最初はどうなることかと思ったが、無言パーティ……考えていたよりも、ずっと悪くなかったな。

 ある程度コミュニケーションを放棄する代わりに、ストレスはほとんど感じなかった。

 言葉なしに意思疎通ができた瞬間は、お喋りなパーティとは違った面白さもあったし。

 ……なるほど、野良パーティについてまた一つ理解が深まった――ような気がする。

 今後は野良パーティで50階から再開することもできるようになったし、成果は上々と言っていいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ