天空の塔・50F
野良パーティとは違い、慣れている渡り鳥メンバーでの攻略は順調だった。
イベント開始翌日、二日目の夜。
俺たちは『天空の塔』攻略を進め、現在49Fまで到達している。
「うーん……ストレスフリー……」
「全くでござるなー」
俺の呟きに、トビが同意の声を上げる。
各種連携――互いの能力把握、性格理解、そして呼吸。
何よりも、こうしてのんびり話しながら攻略できることのありがたさ。
「正直、ここまで違うとは思っていなかったぞ。野良専から報酬に文句が出るってのも、分かる気がする。ちょっとやっただけの俺でも、あれだけしんどいんだからな……」
「ま、超えられない壁はあるでござるなぁ……基本的には」
「……?」
変に引っかかる言い方をするな。
その言葉の裏を読もうと、俺が考えていると……。
ユーミルの通路に響く明瞭な声によって、それは遮られた。
「そうだな! 私なんて、他のゲームの野良では雑魚同然だったぞ! 固定でもだが!」
「「「……」」」
何とも言えないユーミルの発言に、パーティメンバーが一瞬黙る。
最初に反応したトビは、思わず苦笑いだ。
「それは……ハインド殿以外に、ユーミル殿をコントロールできる御仁はいないでござろうし……」
「……固定を組んでいた人は、お前を何て?」
興味があったので、ユーミルに他ゲームでのフレンドについて訊いてみた。
こいつがやっていたオンラインゲームというと、トビほど多くはないはずだが……。
そして答えを返すユーミルによると、やはり俺も知っているゲームだった。
確か人気のピークが三年ほど前のゲームだ。
「あのゲームで一番仲良しだったよっちゃんは、私をこう言っていたぞ。えーと……“物凄い原石なのは誰が見ても分かるのに、手持ちの道具じゃ刃が立たない。だからカットも研磨もできない、意味分かんない。もう勝手にして!”……だったか?」
「あー……それはユーミル殿らしい、残念な……」
「完璧な論評じゃないか」
「完璧な論評ですね」
磨けない、荒いのに無駄に大粒で澄んだ色の原石。
さぞもどかしかっただろうなぁ、よっちゃんとやら……。
俺だって、未祐と今のような関係を築くまでにどれだけ苦労したことか。
「む……よ、よっちゃんは確か、こうも言っていた。“戦略ゲームで言うと武力100、知力1のキャラ”と」
「完璧な寸評じゃないか」
「完璧な寸評ですね」
「少しは否定してくれてもいいではないか!? 兄妹二人して! 知力1はないだろう!?」
ちなみにこの場合の知力1は言葉通りの意味ではなく、計略や奸計に引っかかりやすいことを示しているのだと思う。
だから、純粋な知能のことを指しているのではない……と、一応庇ってはみる。
単純ではあるけれど、頭が悪いわけではないからな。ユーミルは。
他に統率力とかの数値があれば、そちらはきっと高いだろう。
「……高いだろう」
「も、もしもし、ハインド? そんな囁くように言わないで、みんなに聞こえるように言ってくれないか!? それではフォローの意味がない!」
「え? 駄目か?」
「駄目だろう!?」
ともあれ、ユーミルが他のゲームでどんなプレイヤーだったかは分かった。
それだと、固定メンバーやフレンド同士で組んだパーティ戦であっても、頭角を現せなかったのも頷ける。
「ハインド君、絶好調だね……元気が出たみたいで、よかったけど」
「そうですか? ……まあ、これも野良パーティに参加した反動ですかね」
「むっ? 弱音か、ハインド?」
弱音……確かに、弱音は吐いたな。
主にユーミル以外の、この場の面々にだが。
理世は、辛いなら野良パーティなんて行かなくてもいいと言った。
セレーネさんは、野良パーティに行っても必ず帰ってきてと言った。
トビは、豊富なゲーム経験から来る実用的な助言を。
そして、こいつは……。
「いかんぞ、そんなことでは! しっかりやり切って、慈愛の腕輪を持って戻って来い!」
ここまでかけられる言葉が違うと、いっそ清々しい。
ある意味、バランスがいいと言えるのだろうか……?
こう言われることが分かっていたから、ユーミルには相談しなかったのかもしれない。
……ただ、それは決して悪い意味でのことではない。
「ああ、分かってる。そっちはそっちで、しっかりやるって」
ユーミルの前では、ついつい強がってみせたくなるのだ。昔から。
人を奮い立たせる力というか、天然の魅力があるんだよな……こう考えると、やはり統率力を数値にすると高いに違いない。
「――そんな野良パーティで頑張るハインド殿に、朗報がありまーーーす!!」
突如、辿り着いた階段の下でトビが俺に呼びかける。
何だよ、その片手を上げて爪先立ちになったポーズは……。
「次の階層を越えれば、いよいよチェックポイントでござるよ!」
「チェックポイント?」
公式サイトには、確か……ああ、あったな。
『一定階層到達後』には、そこから再開することが可能になると。
「でも、固定パーティでクリアした分は野良パーティに適用されないだろう?」
「攻略法やら、手順やらはそのまま使えるでござろう? ……ある程度は!」
「ある程度は、な」
野良において、意思の統一はとても難しい。
俺の見立てでは、序盤であれば五人のうち二人以上が平均を超えるプレイヤーである必要がある。
前衛職ならば、序盤だけは一人でどうにかできる可能性ありといったところ。
ただ、これだったらソロでもあまり変わらないという場合も出てきそうだ。
今の階層よりも上の難易度では、五人のうち過半数を超えるプレイヤーが攻略法を分かっていないと全滅必至という感じがする。
しかし、この難易度の上がり具合は利用できるかもしれない。
「この階から再開できるようになれば、野良プレイヤーの自動選別になる……のか?」
「その通りでござるよ、ハインド殿! 今のカンストレベルが解放されてから、長いでござるからなー。レベルによるフィルターが機能していない以上、高階層からの途中リスタート! これ、大事!」
「――いつまでこんなところでダラダラと喋っている、お前たち! 早く上に登れ!」
「のあっ!? たっ、とぅ!」
ユーミルが俺の背を押し、よろけた俺がトビを軽く押してしまう。
しかし、トビは押された勢いを利用しつつバク転しながら階段を上っていった。
相変わらず、無駄に身軽で運動神経がいいやつ……。
区切りとなる50階層には、やはり予想通りにボスが存在していた。
例の天使に似た発光体の、いわば上位版。
羽の数が多く、ステータスも使用スキルも増えてくるため厄介だ。
先程、俺は過半数――三人以上の平均超えプレイヤーが必要と計算したが、仮にも渡り鳥は砂漠の上位ギルドである。
「出たな、四枚羽!」
「ハインドさん、ご指示を」
「よし……!」
野良パーティでの戦闘を経験したからこそ、みんなの力を再確認できた。
簡単な指示で俺が考える通りに綺麗に散開、的確な位置取りをしてくれる。
「どおおおおおうりゃあ!」
騒がしくも、きっちりダメージを取る前衛アタッカーに――
「どうして防御を下げるまで待てないのですか、あなたは! それから、この個体は魔法抵抗が高めのようです! よって効果の薄いバーストエッジは禁止!」
「何!? 私の必殺技がっ!」
「ユーミル! ヘビスラを中心に組み立てつつ、滅多切りにしてやれ! 今、アタックアップを回す!」
「ほう、滅多切りか! 任せろ、ハインド!」
デバフをきっちり決め、分析力にも長けた妨害役。
更には――
「そこっ!」
「――ナイスショットだ、セッちゃん! 私も続くぞ!」
長い攻撃間隔を、高い命中率と火力で補って余りある後衛アタッカー。
そして――
「ひいっ!? こわっ!! 至近弾やめて!」
情けない声を出しつつも、敵の攻撃を誘導・回避し続ける回避盾。
自分の中の評価軸が変わったことで、本当によく分かる。
いつものメンバーで組んだパーティが、いかに強かったのかということが。




