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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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先達×2の助言

「トビせんせーの、野良パーティ講座ーっ!!」

「わ、わぁー」

「……」


 セレーネさんのパチパチという、遠慮がちな拍手が談話室の中に響く。

 ノリノリなトビの様子に、頼んでおいてなんだが若干後悔の念が湧いてきた。

 しかし、この状況を生んだ原因は俺だしな……。


「わざわざ悪いな、トビ」


 理世とのあの会話の後、昼食の仕込みをしてから俺は秀平に連絡を取った。

 休みなので出かけている可能性もあったが、そこはやはり秀平。

 今日は一日中ゲームをするつもりだったとのことで、ログアウトしたタイミングで返信をくれた。


「それにしても、何で助言を受けるのにゲーム内で? 言われた通りログインしたけど」

「実地のほうがいいかと思ったのでござるよ! 分かりやすいので!」

「それと、何でセレーネさんまで呼んだ……?」

「講師、拙者! アドバイザー、セレーネ殿! で、ござるよ?」


 確かに、俺は野良パーティに参加する上での心構えを教えてほしいと頼んだ。

 トビと並んで、ネトゲ歴の長いセレーネさんが適任なのは分かるが……。

 セレーネさんに視線を向けると、いつものちょっと困ったような笑みが返ってくる。


「あ、えっと……偶然、大学もアルバイトも休みで時間が合ったっていうか……」

「ハインド殿のためと言ったら、二つ返事で引き受けてくれたでござる」

「と、トビ君!」


 どうやら、セレーネさんはトビに上手いこと乗せられてしまったようだ。

 ただ、そう至った経緯を聞いて悪い気はせず……。

 俺は、申し訳なさもあってセレーネさんに頭を下げた。


「何か、その……すみません」

「い、いいんだよ!? 私が勝手に――」

「はいはい、ということで始めるでござるよー」


 トビの強引な仕切りにより、二人体制でのレクチャーが開始された。




 トビが俺たちを連れて行ったのは、『天空の塔』の入り口だ。

 場所柄、やや人目を引いたものの……ゴールデンタイムにはまだまだ遠い。

 隅に寄れば、通行の邪魔になることもないだろう。

 そこで俺の野良パーティ募集のオプションをトビに見せると、早速駄目出しが始まった。


「ハインド殿、これは駄目でござるよー」

「え? どれだ?」


 オプション画面をトビが右、俺が左から掴み、拡大しつつ一緒に覗き込む。

 このサイズなら、やや控えめに後ろに立つセレーネさんにも見えるはずだ。


「これこれ、二人固定メンバー可ってところ」

「……」


 そう言って指で項目を示すトビは、何故だかやけに楽しそうだ。

 しかし今の俺の立場では、大人しく次の言葉を待つしかない。


「ここは、固定は完全にシャットアウトしないと」

「そうか? 五人いる中での二人程度なら、身内ルールを押し付けて来たりは――」

「ノンノン! ノンでござるよ、ハインド殿!」

「あ?」


 鬱陶しい仕草と口調に、疑問の声がついつい荒くなる。

 ……しかし、ここは我慢、我慢だ。落ち着け、俺。

 折角、教えてくれているのだし。


「ね、セレーネ殿!」

「う、うん……」


 勢いに押されながらも、セレーネさんがトビの言葉に頷く。

 セレーネさんにまで駄目だと言われると、やや堪えるものがあるな。


「え、えと……ハインド君。残念だけど、マナーが悪い人っていうのは、その……」

「たった一人でも、身内が横にいるだけで有り得んくらいに気が大きくなるのであーる! 暴言、FF、被害妄想からの掲示板でID晒し! 何でもアリ! マジでクソ! クソ! 湯切り麺を全部シンクにぶちまければいいのに!」

「お、おう……やけに実感こもってんな……」

「な、何で湯切り麺……?」


 トビの汚い言葉と謎の罵倒に、若干眉をひそめつつも……。

 そこまで感情が入ってくるということは、それだけ嫌な思いをした経験があるのだろう。


「よって自分が固定を組めない場合、完全野良を推奨するでござるよ! 拙者たちとしては!」

「そうだね。私もトビ君に賛成だよ」

「そういうものか……」


 どうやら、「パーティ定員の過半数を超えなければ固定でも問題ない」という俺の認識はかなり甘かったらしい。

 納得のいく理屈だったため、ここは大人しく従って設定を変えておくことに。

 単独での参加のみ承認……と。

 これで、トビの言うところの「完全野良」パーティ状態が成立するはずだ。


「他は?」


 この分だと、他にも変えるべきところがあるだろう。

 そう予想しての俺の短い問いに、トビはやはり、あっさりと人差し指を画面に突き付けた。


「後は……性別による振り分けに関してでござるなー」

「ああ、男女比って奴か? そこは弄っていなかったな。デフォルトのままだ」


 ――異性と組みたくない、または同性のみのパーティは嫌だ。

 そんな人たちのために用意された、若干デリケートな項目である。

 そうでなくとも男性恐怖症、または女性恐怖症というものもあるからな……ここを変更することで、そういった人たちも気軽にパーティに参加可能というわけだ。

 デフォルト設定では、特別な分け方をされないフリーの状態になっている。


「男が四、女が一のパターンは、ハインド殿が男であるからして、問題ないでござるが……」

「問題は逆の場合、だね……」


 セレーネさんに言われ、その状況を想像する。

 女性四人のパーティに、男が一人で放り込まれる……それも、相手は仲が良いわけでもない赤の他人だ。

 そこでわーい、嬉しいなーとなるような脳みそを俺はしていない。さすがに。


「それは……冷静に考えたら、きっついな。上手く馴染めればいいんだろうが、失敗したときのことを考えると……」


 解散までの時間は、地獄と化すだろう。

 パーティ離脱は、タイミングによってはペナルティが課される。

 結成時に危険を察して離脱できていればいいが、ダンジョン攻略中に不仲になると……おお、怖っ。

 集団になった時の怖さは俺の経験上、男性陣よりも女性陣のほうがずっと上だ。

 俺のそんな表情を見て、トビは大きく頷いてから話を続けた。


「三の二、までの比率を限界としておくといいでござるよ。ま、TBの人口比を考えると、大抵男が三になるはずでござるが」

「仮に男が少数側の二になったとしても、自分以外にもう一人いるってだけで大分違うか……さっきの、固定が二人でもって理論に少し通じるな?」

「そうでござろう?」


 いい意味では、心強く。

 悪い意味では、気が大きく……ということか。

 深い話をしているような、至極仕様もない話をしているような。


「と、設定に関してはこんな感じでござるなー。どうでござろう? セレーネ殿」

「うん。これなら、ある程度トラブルの予防になるはずだよ」


 男女比の項目は……これか。

 異性三人まで許可……と。

 これで、トビの助言通りになったはずだ。


「……よし、設定完了。やっぱり、二人に相談して正解だったな」


 ネットゲーム歴に関しては、どちらも俺よりずっと長い。

 しかし、設定を終えた俺の前で、トビはここからが本番とばかりに指を左右に振る。


「――にしても、ハインド殿は運が悪い! めっちゃ悪い! ……で、ござるよ!」

「え?」


 何だろうか、藪から棒に。

 トビが言葉の勢いのままに、カッと目を見開く。


「まだ数パーティしか組んでいないのに、よもや通報が必要になる輩と組むとは! 酷い!」

「いや、そんなの別に俺のせいじゃねーでしょうよ……」


 TBプレイヤー全体のマナーは、ネットゲームの中ではかなりいい部類なのだそうな。

 というのも、プレイヤーのモラルが優れているというわけではなく……。


「TBって、マナーの悪い客は客じゃない! っていうストロングスタイルでござるから。そうそうアレな連中には会わないはずでござる。だから、運が悪い!」

「それは知っていたけど、これって結構珍しいんじゃ……? セレーネさんはどう思います?」

「それが可能なだけのプレイ人口があるってことだよね……人が少ないゲームじゃ、そうはいかないもの。もちろん運営側のゲーム理念とか、プレイヤーに対するスタンスにもよると思うけど」

「ですよね?」


 そう、諸々理由はあると思うが……TB側の取り締まりが、かなり厳しいためだ。

 通報すれば即座にGMが駆け付け、調査が必要なプレイヤーにも半日と経たず裁定が下される。

 アカウントの凍結期間もやたら長いと聞くし、永久停止の件数も驚くほど膨大だ。


「今回の塔は、特に凄いでござるよー。ハインド殿がプレイヤーを通報したのは、パーティ解散後でござったな?」

「ああ。言い逃げみたいな、後味が悪いやつだな」

「これは公式には記載がない、実体験なのでござるが……ダンジョン探索中に、システム側で暴言検知済みのプレイヤーを通報すると! 何と、その場で――」


 と、そこで俺は手を前に出し、トビの話を遮った。


「待った。その続きは気になるんだけどよ、トビ」

「……何でござろうか? ハインド殿」


 当然、ゲーム狂なトビも、既に野良パーティで数戦したであろうことは俺も知っている。

 知ってはいたが、先程から語っている内容がおかしい。

 引っかかる。


「お前、人に散々運が悪いとか言っておいて……」

「だって、悪いでござろう? 拙者、何か間違っていた?」

「そうじゃねえよ! 通報時の様子を実体験で知っているってことは、お前もしっかり会ってんじゃねえか!? 悪質プレイヤーに!」

「……てへり」

「うざぁ!」

「あはは……」


 明らかに自分で通報したという体験談を語ったトビは、舌を出しつつ視線を横にずらした。

 ちなみに、そんな悪質プレイヤーが少ないTBで俺たちが運悪く当たった理由に関してだが……。

 トビの自論によると、こうだった。


「問題は、朝という時間帯でござるなー。夜中もそうなのでござるが……早起きして、ログインしたようなプレイヤーはいいのでござるよ? 多少ぼんやりしていても、まあ、健康的でござるし」

「ああ。ってことは――」

「そうでござる。ゲームにのめり込んで徹夜したような面々が、特に危ない! 危なぁぁぁい!」

「うるせーな……」

「キレやすかったり気が立っていたりで、あまりよろしくないパターンが多いでござるなー。経験則。以前はそっち側だった拙者が言うのだから、間違いなし!」

「威張るようなことじゃないと思うが……」


 そう主張するということは、自身はちゃんと早寝早起きしたようだな。

 念のため、トビの起床時間を訊くと今日は朝の八時だったそうだ。

 休日の起床時間としては、十分といったところ。

 俺はというと、五時に目が覚めた。

 早起きは得というが、むしろ早過ぎてちょっと損した気分だ。


「あ、ちなみに拙者は徹夜しても、迷惑行為はしていないでござるよ?」

「それは分かってる。大丈夫」

「ふふ……」


 セレーネさんが俺たちのやり取りに、小さく笑う。

 何だか、ちょっとくすぐったい気分だ……。

 ともあれ、時間帯によってプレイヤー層に変化があるのか。

 憶えておくことにしよう。


「うん、色々といい話が聞けた。ありがとうな、トビ」

「なんのなんの」

「セレーネさんも、ありがとうございました」

「ううん、ハインド君にはいつもお世話になっているから。こんなことでよかったら、いつでも連絡して」


 話が一段落という空気が流れたところで、不意にトビが小さく首を傾げる。

 どうした?


「……ところで、ハインド殿」

「何だ?」

「今朝と昨夜、姉上の拙者に対する監視の目が厳しかったような気がするのでござるが……ハインド殿、何か知ってる? 普段は放置なのに、夜更かししたら八つ裂き! みたいな感じで怖かったのでござるが……」

「……」


 今度は、俺が視線を逸らす番だった。

 そうか、ちゃんとやってくれたのか……今度、お礼に直接会いに行ったほうがいいな。

 俺がそのまま黙っていると、トビが諦めたような長い溜め息を一つこぼす。


「ま、まぁ、それはいいでござる……最後に、セレーネ殿!」

「は、はい!?」

「野良パを組む上での、一番の心構えを一つ! どうぞ!」

「え、ええ?」


 突然のトビの振りに、セレーネさんが戸惑い悩む。

 考えながら、俺のほうに何度か視線を寄越し……。

 やがて、口元に添えていた手を下ろして話し始めた。


「えと……その……月並みな言葉で申し訳ないんだけど……」

「はい」

「大事なのは慣れ、だと思うんだ」

「……慣れ、ですか?」

「う、うん。ハインド君が受けた嫌な感情も、言い方は悪いんだけど……」

「いずれ、慣れると?」


 驚いた。

 セレーネさんにしては、繊細さに欠けたざっくりとしたまとめだ。

 それをトビが肯定するように、何度か頷きながら補足する。


「拙者もセレーネ殿も、ハインド殿と同じような時期を経験しているのでござるよ。好きなゲームを人間相手に遊び尽くしたい! でもネット上にはいい人ばかりじゃない、嫌なやつもいる……でも遊びたい、NPCじゃ物足りない……この繰り返し!」

「その度に傷ついて、もうやめようかなってなったよね……」

「その通り! しかし、しかしでござるよ? それでもやめないのは、それだけそのゲームが好きということでござるし!」

「うん、うん。そうだよね」

「段々と、あーまたか……はいはい通報、NG登録。次、次! という感じになっていき、最終的には……」


 慣れる! と、二人が俺に向かって一致した意見を浴びせてくる。

 正直、嫌な慣れではあるが……そうか。

 結局、そういったプレイヤーに当たる機会をゼロにすることはできない。

 だから、事前に対応スタンスを決めて自衛することで心理的負担を減らす……ということが大事なのだろう。

 俺が眉間に皺を寄せつつ考えをまとめていると、トビが適当な手つきで肩を叩いてくる。


「されど、ハインド殿。野良パーティは、悪いことばかりではないでござるよ。ね? セレーネ殿」

「そう、だね……私は、もうそっちに戻る気力はあまりないけど……」


 そっと、話しながらセレーネさんが俺の手を握る。

 ……ほわっと!? な、何で!? 何故に!? どういう意図で!?


「ハインド君が、一緒にゲームをしてくれればそれでいいって思っちゃったから……私は、もう野良はいいかなって。だから、ハインド君。トビ君が言うような、野良パーティの魅力に気が付いたとしても……その、ちゃんと戻ってきてくれると嬉しいな……?」


 あ、ああ、そういうことか……。

 動揺しつつも、安心させるように強く手を握り返す。

 女性にしては固い手の平だが、じんわりと温かな熱を感じる。


「そ、そりゃもちろん戻ってきますよ!? 当たり前じゃないですか! っていうか、今日だって夜になればみんなでダンジョン、行きますし!」

「そ、そっか。よかった……」

「……」

「……トビ。にやけ面、禁止!」

「えー」


 ばっちり点数を稼いだでござるな、セレーネ殿! などと言いながら、トビは親指を立てつつ、にやけ面をやめない。

 ちなみに、トビが終始やけに楽し気だった理由を訊いたところ……。


「やー、普段ハインド殿には勉強を始め、教わってばかりだから、教える立場が楽しくて! 拙者がハインド殿に何か教えられるのって、ゲームのことぐらいでござろう!? いや、マジで! 自分で言ってて、悲しくなるけど!」


 だ、そうだ。

 助言はとてもありがたかったが、聞いている俺まで悲しくなる理由だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] PKはゲーム内で許可されているならゲームデザインの範疇なので、マナー云々とは別カテゴリ。FPSのPvPみたいな、嫌なら別ゲーやってくれと言われる「好み」の次元のお話かと。
[気になる点] >マナーの悪い客は客じゃない! っていうストロングスタイル あれ?マナーのいいPKなんて存在しましたっけ? > 通報すれば即座にGMが駆け付け、 PKを完全放置していて取締りが厳しいと…
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