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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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野良パーティと心構え

 あの後、他のパーティと組んでダンジョンに挑み続けたが……。


「……はぁ」


 残念ながら、運悪くはずれ――以下のパーティばかりを引いてしまった。

 折角の休みだからと、気合を入れたのだが……結果、やや空回りという状態に。

 VRギアを外し、ベッドに大の字になりつつ嘆息する。

 ……正直、俺はパーティメンバーの強い弱いはあまり気にしていない。

 パーティ全体の実力に合わない階層に入ってきたら、解散ないし一人で離脱するなりすればいい話である。

 あまり会話がなくても、開始時・終了時に最低限の挨拶さえあれば問題ないと思っている。

 ただ……。


「――さん? 兄さん?」

「……?」

「部屋にいらっしゃるのですか?」


 若干とはいえ朝から気落ちしていると、扉のノック音と共に声が。

 理世か……どうやら、起きたようだな。

 ベッドから下り、返事をしつつドアノブに手をかける。


「いるぞー」


 ドアを開けると、そこには……整った髪に、程々に血が通った頬。

 今日もお人形然とした妹の姿が、目の前にあった。

 そういや、理世も学習塾が休みだったな。


「朝食は……食べたみたいだな」

「はい、いただきました」


 俺のほうはというと、いつもの癖で早起きしてしまい、朝食は出かける母さんと一緒に摂ることになった。

 理世はまだ就寝中だったので、起きたら食べられるようリビングに準備しておいたという感じだ。


「……」

「? ……どうした?」


 理世は、俺の顔をじっと見たまま思案深げに何度かまばたきをした。

 それから、俺の腕を取って抱えるように軽く引っ張る。


「兄さん。折角のお休みなんですし、下でゆっくりお茶でもしませんか?」

「え?」

「さあさあ。お茶は私が準備しますから」


 十時のティータイム、とするにはまだ早いが……。

 有無を言わせぬ理世の態度に押され、そのまま一階へ。




 数分後。

 俺は、何故か理世を足の上に乗せてソファに座っていた。


「あ、あれ?」

「アニマルセラピー、というものがあるでしょう?」

「お、おう?」


 急に何か始まった。

 ちなみに、一応お茶はテーブルの上で湯気を立てている。

 リラックス効果のあるハーブティだ。


「……で、それと今の状況に何の関係が?」

「言ってみれば、これはアニマルセラピーと似たようなものです。リセラピー、ですね?」

「何だそれ!?」


 り、リセラピー!?

 確かに、スキンシップによる癒し効果のようなものは感じるが……。

 理世の意図が分からず、俺はただただ困惑する。

 ……まさかとは思うが、こいつ。


「理世……もしかして、俺がちょっと暗い気分だったことに――」

「先程、兄さんのお顔を見て気が付いたのが半分。単に私がくっつきたかったのが半分……でしょうか?」

「正直がいつも美徳とは限らないぞ!?」


 どうせなら、後半の理由は黙っていれば感動したのに……。

 こういう隠さない堂々としたところは、仲の悪い未祐と似ているんだよな。

 言えば怒るので、絶対に本人たちには言わないが。

 ……何にしても、理世の気遣いは嬉しく思う。

 嬉しく思うのだが……。


「いや、でも……俺が暗い気分になっていた理由、ゲームだぞ? そんなに気を回さなくても――」

「どんなに些細(ささい)でつまらないと思うようなことでも、私は兄さんと共有したいと思っていますよ? それが遊びのことだろうと、愚痴だろうと、嫌な記憶だろうと」

「……」


 敵わないな、理世には……。

 澄んだ色素の薄い瞳が、心を見透かすように視線を向けてくる。

 理世はその体勢のまま話を続けた。


「兄さんのことなら、どんなことでも知りたいです。朝、起きてどちらの足から踏み出したのか。あくびを何度したのか、寝癖があったのかなかったのか、歯磨きにどれくらい時間を――」

「お、おい?」

「あ、前日に見たオチのない夢の話などでもいいですよ? 大歓迎です」

「それはマジでどうでもいい話じゃないか!?」


 しかもオチなし!?

 悪夢だったり変な夢だったりは、確かに人に話してしまうこともあるけれども!

 基本的には、それだってどうでもいい……ま、まあ、心理学の夢分析のようなものを絡めれば、多少は面白くなる余地があるかもしれないが……。


「ですから、何があったか私に教えてください。兄さん」

「いや、もうお前と話しているだけで大分気分が変わったぞ? だから――」

「話してください」

「……」


 本当に、人に聞かせて楽しい話ではないんだけどなぁ……。

 ただ、理世は俺が話をするまで離さないといった面持ちだ。

 こうなると、梃子(てこ)でも動かない。

 仕方ない……お言葉に甘えるとするかな、ここは。


「……じゃあ、話すけど。ネトゲにはありがち――らしい、極々つまらない話だよ。単に今朝入ったTBの野良パーティに、偶々マナーが悪くて暴言を――」

「どこの誰ですか兄さんに暴言を吐いた輩は? 今すぐログインして再起不能に――」

「待て待て、本当に行こうとするな!? 戻ってこい!」


 幸い元が抱きかかえた体勢だったので、立ち上がろうとする理世をすぐに抑えることができた。

 もしプレイヤーネームを教えたら、大変なことになるな……。

 間違っても、うっかり口にしないように気を付けないと。


「もう通報済みだから、理世は気にしなくていいんだよ!」

「そうですか……?」

「そうなの!」


 放っておけば、即座に報復に向かいかねない。

 そして居場所を特定し、運営が定めた規約に抵触しないやり方で相手の心をバキバキに折る……。

 それができてしまう人間なのだ、理世という子は。


「……あー、しかし、何だな」

「……?」

「覚悟はしていたつもりなんだけど、予想以上に野良パーティに来るプレイヤーってピンキリでな……」

「それは……」


 そうでしょうね、という顔をしつつも。

 自分の言葉を途中で切って、理世は俺が続きを話すのを待ってくれる。


「……何て言ったらいいのか、俺のほうの準備が足りなかった気がする。即通報っていう対処は、間違いじゃなかったと思いたいが……」

「言葉を尽くしたところで、本人に直す気がなければ同じことですしね。兄さんは何も間違っていないと私も思いますよ」

「そうだといいんだが」


 件のプレイヤーが何らかの処分を受ければ、他のプレイヤーが嫌な思いをする機会がそれだけ減ることになる。

 その点は自分の中で納得できているのだが、嫌な感情はどうしたって残る。

 ……と、そこで理世が俺の脚の上から下りる。

 そして椅子の後ろに回り込むと、不意に背後から俺を強めに抱きしめた。


「――な、何だ? 急にどうした!?」

「可哀想な兄さん……急に変わった環境に、心が驚いてしまったんですね?」


 理世の、その慈しむような言葉を聞いた瞬間……。

 俺の体温は一気に上昇し、顔が半端じゃなく熱くなった。


「い、いや、違っ……!」


 理世はそんな俺の頭を、先程からなで続けている。

 何だこの羞恥と屈辱、そしてその二種類だけでは説明不能な感情は……!?

 それらが通り過ぎると、一周回って頭が変に冷静になる。


「違……わ、ないのか。そうか……俺の精神状態というか、心構えが不十分だったってことか……」

「辛かったら、いつでも野良パーティなんてやめていいんですよ?」

「ああ、そうだな――って、待ってくれ? 何かがおかしいよな? ゲームの話だぞ?」


 そして、話す内容まで一周回ってしまう。

 学校だとか仕事だとか、それらに悩んでいる人に言うなら理世の言葉もよく分かる。

 しかし、娯楽であるゲームにそれを適用するのはかなり変だ。


「ですが、楽しくないゲームに価値はないでしょう?」

「ストレスと、そこからの解放が肝っていう娯楽もあるのは、理世には言うまでもないだろうが……それを含めてもマイナスになるなら、そうかもな……」


 言われ、今朝の天空の塔の野良パーティについて振り返る。

 確かに嫌なこともあったが、あのおっちゃん重戦士や軽戦士の青年とのパーティは楽しかったな……。

 正直、今のところ差し引きゼロといった感じだ。

 まだ、答えを出せるほどプレイしていないというのが正解か。


「……とりあえず、この体勢はやめてくれないか? 俺が恥ずかしさで死ぬ前に」

「あ……もう。照れなくてもいいんですよ?」


 照れていない! ……多分。

 ようやく理世が向かいの椅子に向かったので、俺は温度が下がり気味になってしまったお茶を口に含んだ。

 あれ? 想像以上に冷め切っているな……口の中の熱気が、お茶によって拡散されていくのを感じる。


「まあ、何だ……その、ありがとうな。こんなつまらない話に、付き合ってくれて」

「いいえ。兄さんって、甘やかされたりするのに慣れていませんよね? ふふっ」


 あれだけ情けない姿を晒した後だというのに、理世の表情は楽し気だ。

 おかげで、野良パーティとの向き合い方に光明が見えてはきたが。


「どうせ俺は、根っからの世話焼き体質だよ……」


 ああいうことをされると、酷く落ち着かない気分になる。

 ……と、それはそれとして。

 今後の野良パーティ参加について、助言でもほしいところだな。

 そういうことに詳しい人物というと……。

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