野良パーティのはぐれ神官 その2
「――とまあ、要は慈愛の腕輪狙いです」
話せるところに絞ってではあるが、俺なりになるべく聞きやすいよう話したつもりだ。
面白おかしく話す話術は俺にはないが……それでも、二人は興味を持って楽しそうに最後まで聞いてくれた。
こちらとしては少し緊張したものの、おっちゃんと青年は満足してくれた様子。
それを見ると、俺としても話した甲斐があったと思える。
「なるほどなるほど。それでこんな時間にログイン、しかも野良パーティに参加しているって訳か」
重戦士のおっちゃんが、毛むくじゃらの腕を組んで頷いた。
……この人、重戦士の割に結構軽装だよな。
武器――槍の取り回しの邪魔だからか、それとも防御に自信があるのか。
そしてこちらは、俗にテンプレ装備と呼ばれるものを身に付けた青年が会話に割って入ってくる。
武器は軽量ながら、しっかり長さのある片手剣だ。
「今って、休日とはいえめっちゃ早朝だもんなぁ。でもさ、おっちゃん。何でハインドのログイン時間がいつもと違う、なんてことを知ってんだよ? ストーカーっすか?」
「ちがわい!?」
軽戦士の青年の言葉に、おっちゃんがショックを受ける。
ショックのあまりか、言葉も乱れている。
「……娘が渡り鳥のファンでな。聞いてもいないのに教えてくるから、詳しくなっちまったんだよ」
よかった、そういう話か……。
色んな意味で、俺はそれを聞いてほっとした。
「何だよー、だったら娘さん連れて来いよー。こう男ばっかじゃ、むさいよー」
「お前みたいなのがいるから、娘はなるべく固定メンバーで遊ばせてんだよ!」
そういえば、俺も二人以下の固定メンバーは『許可』にしてある。
野良報酬の条件はスタート時に自身が一人であることなので、募集して来てくれた人が固定メンバーであっても不都合は起きないのだ。
ただ、ユーミルと話していたように四人固定のパーティなどに混ぜられるのは勘弁――ということで、この設定にしてある。
おっちゃんが娘さんを連れて来ていれば、組んでいた可能性はあるのか。
「ま、いっか。おっちゃんの娘さんなら、そんなに可愛いわけがないし」
「いや、それはさすがに失礼じゃ……」
「え、そお? ……はー、何でもいいから彼女がほしい」
「お前なぁ! 大体、娘はまだ小学生だぞ!? 年齢が近かったとしても、お前みたいなのには絶対にやらんが!」
……確かに、このおっちゃんから美人の娘さんは想像し難いが。
不意に、アルベルトとフィリアちゃんの姿が脳裏をよぎる。
ああいう例もあるからなぁ……と、そろそろ仲裁しないと。
「……親子でネットゲームって、今時は多いんですか?」
思い付いた質問を投げることで、矛先を逸らす作戦で行くことにした。
父親と一緒にネットゲーム、だもんなぁ……。
今の俺のような年齢だと、恥ずかしいという人も多いかもしれないが。
しかしそんな感情も込みで、俺としては少し……それが羨ましくもある。
と、そんな俺の言葉に、おっちゃんが首を傾げる。
「どうしてそんなことが気になる?」
「知り合いにも、そんな人たちがいるもので。そっちも、お父さんと娘さんの組み合わせですが」
「えー? 俺は絶対に嫌だけどなぁ、そんなの」
彼のそんな意見は、予想通りのものだ。
おっちゃんと俺は顔を見合わせると、スルー気味で話を続ける。
「そうかそうか。別に、子どもの年齢によっちゃ珍しいもんではないと思うぜ。しかし、あー……そうだなぁ。俺たちの世代はもう、小さいころからゲームがあった訳だからよ?」
「あ、俺知ってる。ドット絵の縦シューとかでしょ? 喫茶店とかに置いてあったっていう」
「……」
またしても割って入る青年の言葉に、おっちゃんが渋い顔で一瞬黙る。
そこまで行くと、もはやビデオゲームの御先祖様レベルだ。
「そりゃ、もっと上の世代のゲームだろ……話を戻すぞ? なもんで、元からゲームをやっていたような親なら一緒に遊びもするし、こういうゲームだと――な? 分かるだろ? ハインド」
「変なのに捕まらないよう、見守りも兼ねて参加することもあると」
「そういうこった」
「なるほどなー……」
「……何で二人とも、そこで俺を見んの?」
青年が引きつった笑みで、俺とおっちゃんの視線に応じる。
この人、ちょっとトビに雰囲気が似ているな……ノリが軽い感じが。
職も一緒だしな。もっともプレイヤースキルには、大分差があるようだけれど。
――固定には固定の、野良には野良のルールが息づいている。
俺がそれに気付いたのは、数組のパーティでの戦闘を終えてからのことだ。
野良パーティには当然、指示出しをする者は存在せず……。
稀にそれに近いことをしてくれるプレイヤーもいるが、反感を持つ者もいる。
だから、基本的にはこうだ。
「突っ込むぜ、ハインド! 軽戦士の坊ちゃん!」
「よっしゃー! ……って、誰が坊ちゃんだよ!?」
「……」
空気を読んで、パーティの流れに合わせること。
そして勢いで押し切れる時には、全力で乗っかっていく。
「おっ、ナイス支援! ナイスタイミング!」
「俺にもアタックアップくれよー、ハインド!」
「少々お待ちを!」
といっても、支援型神官の場合は支援魔法で火力を上乗せするのが仕事だ。
普段通り、それを心がけつつ距離を一定に保つことが大事。
はぐれてしまうと、ヘイトが低かろうと敵の攻撃対象に選ばれてしまうことがある。
その後、俺たちは敵増援によって長めの戦いに突入し……。
「やっべえ、ダメージ受け過ぎた! おい、軽戦士! そっちは――」
「――」
「し、死んでる……!」
「蘇生します!」
三人パーティな上に階層が上がってきたこともあり、押され気味に。
杖をおっちゃんの背中に向けてから、俺はアイテムポーチに手を入れつつ走った。
「ホーリーウォール張ったんで、少しだけ踏ん張ってください!」
「お、おお! ……フォロー、滅茶苦茶はええな……」
ユーミルが対象なら、もっと早く蘇生させることが可能なのだが。
さすがに、会って間もないプレイヤーの戦闘不能タイミングを完全に読むことは難しい。
……このように、危ない時には退路をしっかり確保することも大事だ。
これは神官というより、後衛共通の役目であろう。
「聖水、ちょっと数が減ってきたな……よっと!」
神官であれば大きな回復魔法なり補助魔法を温存・WT管理することが。
それ以外の攻撃職の後衛であれば、やはり範囲の広い大技をしっかり撃つこと。
その上で、パーティの盾役が殿を務めることができれば最上だ。
「……んお?」
「――大丈夫ですか? しっかり!」
軽戦士の青年を助け起こすと、眠りから覚めた直後のような反応を見せた。
それから少しの間を置いて、目の焦点がしっかりと合い始める。
「お、おお! 悪い! いつの間にか死んでたのか……」
……それから、もう一つ。
蘇生後に即、跳ね起きて戦い始めるユーミルはやはり異常だということ。
大抵はこのように、戦闘不能時の脱力状態から覚醒するには時間を要する。
そのため、蘇生直後に再度戦闘不能にされてしまう――いわゆる「リスキル」に近い現象が発生しやすい。
蘇生後の無敵時間などもないので、蘇生から数秒の間は対象を守っておく必要がある。
「も一個、悪いんだけどさ。ハインド」
「はい?」
最後に一点。
これはVRならではというか、割と大事なことである。
急場での発言ということもあり、周囲を気にしつつも、俺は青年の言葉に耳を傾けた。
「何か俺、HPが半分切ると焦っちゃうみたいでさ……回復、早めに投げてくれると、もうちょい安定すると思う! 頼んでいいか?」
「……了解です。半分以上をキープ、ですね!」
コミュニケーションを「取る気がある」相手とは、積極的に会話を行うべきだ。
文字でのやり取りと、どちらが敷居が低いかというのは個人差があるとは思うが……。
伝達速度に関しては、直接会話するより早いものはない。
だから戦闘中だろうと、簡単な約束事や一言の要望があるだけで……。
「っし、後は即死に気を付けるだけだぜ! 神官トップのハインドが後ろにいれば、百人力じゃい!」
「いや、別にトップでは……」
「おっしゃー! おっちゃん、待たせたな!」
「……って、もう聞いていないか」
パーティ行動は円滑に回る。
軽戦士の青年の言葉通り、彼の動きはHPの多寡によって大きく質が違っていた。
重戦士のおっちゃんも、俺がお願いした通りに敵を防いでくれている。
礼を言いつつ、回復アイテムを投げて戦線の再構築完了。
それにしても、これは……このパーティ、久しぶりの当たりかもしれない。
次の休憩所までで、解散の約束になっているのが残念でならない。
その後も、俺はもう少しプレイするつもりがあるので……できれば、今回のようないい人たちに当たってくれるといいのだが。




