報酬確認
塔を出て、神殿からギルドホームへと向かう。
俺はフラフラになりながら、ユーミルはログイン時と変わらない動きで。
談話室のドアに手をかけ、開く。
「……」
「帰ったぞ!」
いかん、声が出なかった。
中にリィズとセレーネさんがいるのは、分かっている。
事前にログイン状態と所在地を確認しておいた。
……早く戻って来いという主旨のメールが、リィズから届いていたしな。
二人とも、用事が済んで待っていてくれたようだ。
「あ、ハインド君、ユーミルさん。こんばんは」
「こんばんはだ、セッちゃん!」
「こんばんは、セレーネさん……」
「だ、大丈夫? ユーミルさんはいいとして、ハインド君は何だか疲れていない……?」
それについては、秀平――トビがログインしてからで。
塔の中で色々あったからな……全員揃ってから、話を始めたい。
「おかえりなさい、ハインドさん」
「おぉい!? 私を無視するなぁ!」
リィズはどうやら、ご機嫌斜めの模様。
理由は……まあ、置いて行ってしまったことが原因だろうな。
時間が合わなかったとはいえ。
そしてこういう時、何故かいつも最後に到着することが多いトビがログインし……。
俺とユーミルは、天空の塔に初入場した先程までの様子をみんなに語り始めた。
「……と、大体こんな感じだ」
撮ったスクリーンショットや動画などを見せながら、二人で行った偵察について話した。
リィズとセレーネさんが適宜、質問してくれたので必要なことは全て伝えられたはず。
……しかし、トビは何か言いたそうな顔で手を挙げる。
「……どした?」
「はい! ハインド殿は何でそんなに疲れているんですか!?」
「小学生みたいな口調やめろ。えーっと、それは――」
「それと、ユーミル殿が妙に上機嫌なのはどうしてでござる? 普段から元気でござるが、今日は三割増しでござるよ?」
「む? 私の機嫌のことなら、三割ではなく三倍増しだぞ!」
「………………」
「り、リィズちゃん? 顔、顔」
このままでは、リィズの不機嫌度合いも三倍になりかねない。
こういうときは、話をどんどん進めてしまうに限る。
「……俺が疲れている理由に関しては、単純だ。対人疲れだ」
「対人疲れ?」
「塔の中での話だよ。PKだったり、やたら話しかけられたり……他にも色々、な……」
「あー、なーる」
話しかけられるほうはともかく、PKに関しては明らかに狙われていた。
二人パーティというのがまずかったのだろう。
あの様子からして、装備の奪取はフィールドと同じように可能と見るべきか。
とにかく、PKを二人で捌いたり、無理そうなら逃走、あるいは近場にいた善意のプレイヤーと共闘したり……十階以降は、進むたびに疲労が溜まる一方だった。
「ユーミルの機嫌については……本人に訊いてくれ」
トビにそう残して、俺は椅子に深く座り直した。
そのまま視線で問いかけるトビに、ユーミルが答える。
「今回の塔のような、サバイバル系の連続戦闘は楽しい! 上がる難易度に合わせて、段々と体が熱くなってくるのが分かるからな! ヒートアップ! ヒータァップゥ!」
「何だよ、ヒータップって。その中途半端な発音……」
「ほほう。聞いて納得でござるが……本当にそれだけ?」
ユーミルがちらりとこちらを見たのを感じて、目を合わせる。
すると、ユーミルはにへっと締まりのない笑みを……お、おう?
それを見たリィズが、益々不機嫌に――何だこれ、誰も喋っていないのに。
サイレント状態でどんどん空気が重くなっていく。怖い。
「つまり、こういうことでござるな! ユーミル殿、ハインド殿と久しぶりに二人きりで遊べて上機げ――」
「と、トビ君その辺で! えと……は、ハインド君! 今夜は五人で、もう一回ダンジョンに行くのかな?」
救いの神・セレーネ神が場に降臨したので、俺はありがたく救済されることにする。
リィズへのフォローについては、後で何か考えよう……。
「それもいいんですけど、先に報酬を確認しても構いませんかね?」
「あ、ああ、そうだよね。どうぞ」
「ハインド殿、まだ見ていなかったの? 遅くない?」
「そう言うお前は、もう見てきたって顔だな。何かいいものは――」
「ちゃーす! のうひんにきやしたー!」
「ちゃーす!」
元気な声と共に、談話室の扉が開かれる。
止まり木の子たちが回復アイテムの納品に来たことで、会話が中断された。
口調がちょっと変だが、八百屋さんか何かの影響だろうか?
――と、アイテムボックスに品物を入れ終わった後、こちらに期待の眼差しが。
確かそこの戸棚に……ああ、あったあった。切らしていなくてよかった。
「はい、ご苦労さん。飴どうぞ」
「わーい! まいどー!」
「まいどー!」
「ハインド……お前、大阪のおばちゃんか……?」
「開業医のところの看護師さんではござらんか? 患者の子どもに飴とか、あげてない? ……これも大別すると、おばちゃん看護師さんが多い気がするでござるが!」
「以前、バスで席を譲ったおばあさんから飴をいただいたことを思い出しました。昆布飴、という変わったものでしたが」
「あ、えっと、えっと……あ、飴、美味しいよね!」
「お前ら!?」
おかしなことを言わなかったセレーネさんにだけ、追加で飴を進呈。
こいつら……いや、確かに俺も自分でやっておきながら、ちょっと連想したけど。
おばちゃんの鞄や戸棚の中には、飴ちゃんが入っている……これ、どこから来ているイメージなんだろうな?
冷凍ミカン……は、おばちゃんというよりおばあちゃんか。
ともかく、小さなお客さんが帰ったところで、話の続きに戻るとしよう。
「で、トビ。追加で公開された報酬、お前の予想通りだったか?」
「……見れば分かるでござるよ!」
「いや、引っ張るなよ。まとめて教えてくれてもいいだろ……お前、そういうとこあるよな」
メニュー画面を開き、イベントページにアクセス。
ずらりと並んだ報酬欄を、まだ見ていないユーミル、リィズと共に確認していく。
結果……。
今回のイベントには、細かく成績が設定されているようだった。
まず、ユーミルお目当ての『勇者のオーラ』に関してはこうだ。
「攻撃ポイント……前にもあったな、こんなの」
「最初のイベントだな! 最大ダメージ!」
「クラーケンの時もそうでござったな。今回はイベント期間内の累積でござるし、どちらかといえば、あちらに近いでござろうか」
「基本、オーラについては攻撃力を要求してくるようですね」
「競争相手は攻撃職全般……早い内に、オーバーキル分のダメージが加算されるのかどうかを調べないといけないね」
期間内で敵に与えた合計ダメージ、それがトップの者に『勇者のオーラ』を一つ。
初動の方針については、セレーネさんが口にした通りだ。
それによって、ユーミルがどう戦うべきか大きく変わってくる。
次いで、もう一つの『勇者のオーラ』が……。
「二個目が難題か……まさか、アニマリアの発見報酬とは……」
イベントダンジョンそのもののメインテーマである、アニマリア発見が条件となっていた。
明記されているわけではないが、これまでの『勇者のオーラ』の入手量からして、複数のパーティが同じ報酬を得られるとは考えにくい。
必然、アニマリアを発見・保護できるパーティは一組限定、先着順ということになる。
「こっちについては、何一つ分からないな……イベント攻略が進んで情報が出揃わないと、推測すら立てられん」
普通に考えれば高階層だが……。
裏をかいて低階層ということも有り得るし、イベントの盛り上がりを考えて時限式で解放というパターンもあるだろう。
何にせよ、今の段階では全て不明だ。
「あー、確かに。序盤の間は、偶然に頼らないといけないのでござろうか?」
「何だと!? それは困る! 勇者のオーラは全部私のだ!」
「相も変わらず、強欲ですね……浅ましい」
「コンプリート系のアイテムだから、気持ちは分かるけどね……」
複数集めることで性能上昇が可能な『勇者のオーラ』は、実のところ、すでに規格外のアクセサリーに化けつつある。
ユーミルにその意識があるのかどうかは分からないが……。
今回、二つとも得ることができれば、ステータス上は他のトップレベルのプレイヤーに「半歩」ほど先んじることができる……はずだ。
これまで通りの上昇量があるなら。
だから俺としても、取らせてやりたいという思いは強い。
「ま、いつも通りやれるだけやってみよう。ただ、今回は……」
「強力な職別アクセをどうするか、でござるなー……」
「む?」
『勇者のオーラ』とは別に、目玉報酬として記載されている各種アクセサリー。
こいつらの性能は、決して無視できるものではない。




