表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

734/1115

天空の塔

 イベントダンジョンの場所は、プレイヤーには分からないようになっていた。

 ただし、移動経路は神獣同士を戦わせる『神獣バトル』と同じ。

 各地の神殿に存在するポータルから異空間へ――という流れだ。

 このことから察するに……


「天界絡みなんだろうな、このイベントダンジョン。他の勢力が神殿の施設を利用できるとは考え難いし」

「そうだな! では行こう!」

「……」


 まだ二人しかいないのに、どこへ行こうというのか。

 結局、未祐――ユーミルに『勇者のオーラ』が報酬にあると告げたのは、ゲーム内。

 ゲームの中なら、どれだけ騒がしくしようが怒られることはない。

 特にプライベートエリアであるここ、『ギルドホーム』であれば尚更だ。

 二人でいるには広い談話室だが、ユーミルがいるとそれを感じないな。

 秀平が自己申告していた通り、常に騒がしい。


「ハインド、早く! 私はもう準備万端だ!」

「……その前に、イベントの仕様は頭に入れたか? 闇雲に突っ込んでも、勇者のオーラに手は届かないぞ?」

「分かってはいるのだが、気持ちが落ち着かん! まずは一回! 二人でもいいではないか! 行こう! 二人で! 二人で!」


 やけに二人で、を強調してくるが……。

 イベント報酬が報酬だけに、素直に受け取っていいものか判断に苦しむな。

 ここはいつも通り、日和った無難な返答を選択。


「そう言われてもな。お前の準備がよくても、まだイベントそのものが始まっていないわけなんだが……」

「何だと!?」


 イベント開始は今からおよそ三十分後。

 それまでの間に、公式が発表済みのイベント仕様をユーミルに説明しておこうと思ったのだが……。

 この様子だときっと、話をしても碌に頭に入らないだろう。

 と、なれば――




「実地演習ぅーっ!!」

「というよりも、ぶっつけ本番というか……どっちでもいいけど」


 時間になるのを待って、俺とユーミルはイベントが行われる現地に来ていた。

 ポータルに乗ると、神獣バトルかイベントダンジョンか、行き先を選べる仕組みだった。

 後はいつもと同じ、酔い難く改善された転移魔法でこの場へ――という流れだ。

 あれだけイベントを楽しみにしていたトビ……秀平は、どうも帰省中のお姉さんのパシリに使われているらしい。

 悲しみのメールが、ログイン前の俺のスマートフォンに着信していた。

 リィズは勉強の復習、セレーネさんは大学の用事と、後からログイン予定はあるものの、イベント開始には間に合わず。

 ヒナ鳥たちは文化祭で疲れてお休み中、といった感じだ。


「で、来たはいいものの……」


 開始十分前から入場可能ということで、勇んで来てはみたのだが。

 地平線まで続く不自然に起伏のない平原があるだけで、他には何もない。

 周囲に集まった他のプレイヤーたちも、首を傾げて何人かが出て行く。

 まぁ、待っていても時間の無駄だと思うよな……普通ならば。

 しかし、サービス当初からTBをやっている身としては――


「この状態……何かあるよな?」

「うむ! きっと、オープニング演出的なものがあるに違いない!」


 ユーミルと二人、頷き合う。

 イベント開始から入場可能ではないという、この妙な空白時間。

 俺たちの読みは的中し、開始五分前になると字幕によるアナウンスが流れ始める。

 曰く、開始時間丁度に、ダンジョンが出現する演出をここで見られると。

 未祐が上機嫌に、腕を組んで俺に笑顔を向けてくる。


「時間になると、ダンジョンが出現か……地中からにょきにょきと生えてくるのか!?」

「そんな雨後のタケノコみたいな……」

「何故、私の発想元が!?」


 ショックを受けたような表情で腕組みを解く。

 俺としては、適当に返しただけなのが……。


「本当にタケノコなのかよ……ほら、あれだ。不思議な光とか、靄みたいなものと一緒に出るんじゃないのか? 神界の不思議パワーで」

「む……思考がファンタジーだな、ハインド! 子どもか!」

「大きなお世話だが、タケノコよりはマシじゃねえかな……」


 大体、ゲームにファンタジー的な思考を持ち込んで何が悪いのか。

 剣と魔法の世界だぞ、ここは。


『――来訪者のみなさまにお知らせします』

「むおっ!?」

「出た、天から響く声……けど、やっぱり魔王ちゃんの声じゃないな」


 聞き覚えのある声に、俺はしばし頭の中で照合を繰り返す。

 ……おそらくだが、役割に比して穏やかな物腰の『戦闘神ベルルム』のものだろう。

 確かこの声で、神獣バトルの解説役をしていたはず。

 何故か迷子のアナウンスのような口調なのは気にかかるが――


『神界では現在、動物神・アニマリアを捜しております』

「本当に迷子のアナウンスだった!?」

「ど、どうしたハインド!?」


 ついつい動揺が声に出てしまった。

 それにしても今日の俺の勘、無駄なところで冴え渡っているな。

 ユーミルのタケノコといい、どちらも当てても何の意味もないが。

 ……と、そうだ。

 秀平のために、イベント開始演出を動画に残しておくか。

 後で公式サイトに上がるかもしれないが、念のため。


『アニマリアが迷い込んでいる可能性の高い、天空の塔を“現世と天界の間”に現出させます。ですので、どうかみなさまに捜索のご助力をいただきたく……』


 ああ、そういう形式なのね……。

 プレイヤーたちは塔のどこかにいる、アニマリアを捜しながら登っていくと。

 何で神様が行方不明になっているのか、さっぱりだが。

 ベルルムの穏やかな声は、まだ続いている。


『天空の塔の本来の用途は、地上と天界とを繋ぐ懸け橋ですが……同時に、その者が天に至るに足るかどうか、見極めるための試練を与える存在でもあります』

「……む? どういう意味だ?」

「塔の中には罠とか、モンスター的な敵性存在がいるぞって意味じゃないか?」

「なるほど! 分かりにくい!」


 資質を測るという意味では戦闘力に限らないと思うが、公式ページの事前情報やらTBのゲーム傾向を考えると合っているはずだ。

 それ以外の要素は――入ってからのお楽しみだろうか?

 個人的には、謎解き系の何かがあるダンジョンも嫌いではない。


『その途上で試練を乗り越えるための品々も手に入りますし、それらはご自由にお持ち帰りいただいて構いません』

「太っ腹だな! アイテム取り放題か!」

「許可がなくても、みんな持ち帰っていたような気はするけどな……」


 ダンジョンで得たものは、何となくそのままもらってもいいように思えてしまうのは……色々なゲームで培われた、プレイヤーとしての条件反射のようなものかもしれない。

 フィールドに落ちている素材然り、果ては民家の棚、樽、壺などなど。

 現に、持ち帰っていいと言われた周囲のプレイヤーたちの反応は薄い。


「……言われてみれば。普通は許可がなければ、盗掘とか窃盗になるな?」

「だよな。ま、そういう、お約束の類に突っ込むのは野暮だが」

「そうだな! ハインドの野暮天ー!」


 ユーミルが気持ちのいい笑顔で罵倒してくる。

 俺はそれに負けないくらいの笑みを作ると、手にした杖を目の前の銀髪女に向かって突き出した。


「……自分で言うのはいいけど、人に言われると腹立つ」

「や、やめろ!? 杖でぐりぐりするな! 笑顔が怖いぞ!?」


 とにかく、塔で得たものは持ち帰り可能と……しかし、全滅した場合はどうなるのだろう?

 高難易度と明言されているし、全滅で失われるとなったら――。

 貴重なアイテムを手に入れた場合、先へ進むかどうかの判断が難しくなる。


『塔の性質を利用して、鍛錬のついでとしていただいても、いかようにも。ですので来訪者の皆様、どうかご協力を』


 ……この感じだと、アニマリアがいるのは塔の最上階付近。

 アニマリアを最初に見つけた先着者に特別報酬があるのか、それとも複数人に与えられるのかは不明だが。

 先着者の場合は、早解きが必要になるか……? 大変そうだ。


『それから、塔の試練を優秀な成績で突破した方々には、アニマリアのものとは別に報酬を差し上げます。具体的には高層到達者や、一定区間までへの踏破者……更には、踏破に要した時間なども考慮にいれるとしましょうか』

「!?」

『わたくし、戦闘神ですので。強い方は大好きですとも! ええ!』


 プレイヤーたちの疑問に先回りするかのような言葉だ。

 心なしか、アニマリアのことを頼んでいる時よりも言葉が弾んでいるように聞こえたが……。

 気のせいだよな、うん。

 何にしても、魔界関係サマエルが絡まない演出は平和でいいなぁ……投石も罵声もないし、心が荒まなくて済む。

 やがてベルルムが言葉を切ると、平原に静寂が訪れる。

 ……?


「な、何だ?」

「変な音が……上か?」


 周囲のプレイヤーたちの声に、俺たちは視線を上げた。

 確かに、何か天空に豆粒のようなものが見える。

 それは徐々に、加速しながら接近しており……。


「塔だ! 塔が降ってきてるっ!!」

「はぁ!?」

「――!?」


 一早くその物体の正体に気が付いたプレイヤーが、大きな声で叫んだ。

 逃げろと誰かが叫び、そこかしこでぶつかり合いが発生する。


「は、ハインド!? どうする!?」

「だ、大丈夫だ! 多分、プレイヤーの上には落ちてこないはず! じっとしてろ!」


 あたふたとするユーミルの手を取り、はぐれないよう、その場で人の波に逆らう。

 怒号と悲鳴が飛び交う混乱の中、塔が――


『では、よろしくお願いいたします』


 ――落下した。

 制動がかかっていたのか、衝撃も音も思ったより少なかった。

 誰も塔の下敷きになった者はおらず、どちらかというと驚いたプレイヤーたち同士によるぶつかり合いや、自爆による被害が大きい。

 とはいえ、あんな質量を持つものが天から落下してきたのだ。無理もない。

 そんなプレイヤーたちが戦闘神に向けて叫ぶ恨み言の声に、俺は目を丸くするユーミルの横で、小さく首を左右に振った。

 あーあ……結局こうなるのか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ