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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
天空の塔

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イベント限定ダンジョン

「でさ、今回開催されるのはイベント限定ダンジョンらしいよ?」

「イベント限定? しかもダンジョン?」


 TBのイベントでダンジョンものというと、初めてじゃないだろうか。

 秀平の言葉に手が止まりそうになるが、書類の作成を続行。

 次は……昼休みのグラウンド使用に関する陳情(ちんじょう)

 何でこんなのが生徒会に回ってくるんだ?


「ってことは、期間が過ぎたら――」

「入場不可、ってことになるね。ただ、期間が長めだし、かなりの大型イベントだよ!」

「ほう」


 サッカー部と野球部が……あー、そうか。

 生徒会が調停しなきゃいけないのか、風紀委員とかないし。

 ウチの学校のグラウンド、あんまり広くないからなぁ。

 未祐と緒方さんはチェック済み……緒方さんは几帳面な文字で、部活の部長が集まる部長会議で議題に――との提案だ。

 未祐は――双方、納得がいくよう力尽きるまで戦え! と、気合の入った文字で書き殴ってある。

 おいおい……。


「ダンジョンイベントって、他のオンゲーでもメジャーなのか?」

「なくはないねぇ。一回限りだと費やした開発リソースが勿体ないから、復刻したりすることも多いけど」

「なるほど」


 ……そうだな、俺も緒方さんと同意見だ。

 これは次の部長会議で議題に挙げればいい。

 ただ、一足飛びに会議で出すことはせずに、両部活の部長に事前に話をしておこう。

 会議で悪目立ちしたくないとなれば、その時点で解決する可能性もある。

 野球部とサッカー部の部長は……うん、どちらとも話したことがあったな。

 時間は明日の昼休みでいいか。

 メモを取って、陳情書はこっちのトレイに……よしと。

 後で未祐や緒方さん、後輩たちにも話を通しておくのも忘れないようにしなければ。


「わっち、ちゃんと聞いてる? ついて来られてる?」

「聞いているよ。で、そのイベントダンジョンとやらの特徴は?」

「ダンジョンの名前は天空の塔!」

「天空?」


 ありがちだが興味を惹かれるワードだ。

 書類の残り……三枚か、さっさと終わらせてしまおう。

 秀平はどうも、話しながらスマートフォンを操作している気配。


「詳しいことは分からないけど、画像からして天に届くくらい高い塔っぽいから――つまり、登るタイプのダンジョン!」

「……。ダンジョンって、元から色々な意味のある単語だけどさ」

「え?」

「日本のゲームだと迷宮全般とか、閉鎖されたモンスターの巣窟のことを全部ダンジョンって呼ぶよな?」

「お、おお?」


 語源を辿ると城の天守が、更に時代が進むと城の地下牢や地下室のことをそう呼んだらしいが。

 城の地下……ううむ、そこから「金銀財宝」や「お宝」を連想するのは難しくないものな。

 それ故に、ダンジョンがメインのゲームでは、地下にどんどん潜っていくタイプのほうが主流のような気がする。

 もちろん、今回のTBのように塔などの建造物を登っていくタイプも存在しているのだが。


「……いや、そんなの気にしてるの、わっちだけだと思うけど。でも、確かに洞窟でも何でも、ダンジョンって呼んじゃっているような気は……」

「気は?」

「する!」

「だろ? まあ、別にそれを否定しているわけじゃない。そういう言葉の変遷とか定着も、一ジャンル……いや、一文化としてゲームが発展してきた証なんだし」

「異議なーし! ゲーム、最高!」


 いい話だなー、みたいな顔で同意してくれているが……そ、そうか?

 そうでもないと思うが。

 何にしても、俺のせいで話が横道に逸れたな。

 秀平に向けていた視線を下ろして、筆記用具を握り直す。


「悪い、おかしなことを言った。続けてくれ」

「オッケー! でさ、前回のイベが初心者も絡める仕様だったじゃん?」

「ああ、乱入NPC以外はな」


 あれはTBの知識に戦闘力、生産能力まで求められる難しいものだったが……。

 それ以外は秀平の言う通りで、林檎を拾うだけなら戦闘力は必要なし。

 その気になれば、低レベルでレア報酬の争奪戦に参加可能な仕様だった。

 実際にランキングには見慣れない名前、そして低いレベルのプレイヤーが何人か入っていた。


「今回は、がっつり戦闘系! レベルカンスト前提の高難易度って、公式ページに明記されているぜ!」

「おお……」

「高難易度って言葉だけで、心が躍るよね!? ね!? ハードモード万歳!」

「まあ……そうだな。クリアしてみろ! っていう作り手側の挑戦的な難易度は、それだけプレイヤー側も力が入るよな。でも、俺はイージーモードもノーマルモードも、あれはあれで好きだぞ?」

「あれ、そう?」


 俺はシナリオ・ストーリーの重厚感がメインとなっているゲームの場合は、イージーを選んでスムーズに進める場合がある。

 ハードモード限定のアイテムやサブシナリオがある時は、そっちに釣られたりも……といったように、ゲームによって難易度を変えてもいいと個人的には思うのだ。

 もちろん、やり応えを重視する秀平のようなスタンスを否定する気もないのだが。

 ……ないのだが、思った以上に俺の言葉を聞いた秀平が何か考え込んでいるな。

 どうした?


「……秀平?」

「……でも、確かに人生はイージーモードのほうが何かと――」

「お前、そんなことを考えていたのか? ゲームの難易度と人生を横並びに語るってどうなんだ……?」


 そしてそれは、きっと誰だってそうなんじゃないか?

 降りかかる試練や苦難に喜びを感じてしまうような、一部の特殊な人たちを除いて。

 それでも、ハードモードの人生でこそ得られるものも――って、俺まで秀平の謎思考に引っ張られてどうする。やめやめ。

 しかし、戦闘系の高難度イベントか……。

 そういえば、TB本来の仕様を活かした戦闘イベントというと――決闘ランク実装記念以来か?

 ここのところレイドもご無沙汰なので、一部のやり込み系プレイヤーの不満は溜まっていそうだ。


「――あー、ごほん。じゃ、気を取り直しまして。いい? わっち」

「ああ。どうぞ」

「しかも高難易度だけあって、今回は報酬が超豪華! 定番の強アイテム・アクセもあるよ!」

「定番? ってことは、いつもの――」

「勇者のオーラは………………」


 無駄にためる秀平に、つい俺は顔を上げてしまう。

 そこまでやられると、俺の仕事を妨害しているだけのように思えてくるのだが……。

 軽く睨むと、秀平は引き結んでいた口をようやく開く。


「……ありまーす! 何なら、二つあるよ!」

「あぁ、あるのか――って、二つぅ!? 二個!?」

「二つ! 二個! 二倍! ダブルッ!」

「マジか……未祐にどのタイミングで伝えようかな……」


 言えば、瞬間湯沸かし器のごとくやる気を発揮してしまうだろうしなぁ……。

 やる気に比例して騒がしくなるので、できれば夜になるまで知らせないでおきたいところ。

 ……夜は夜で、近所迷惑だろうか? 悩むな。


「わっち、どしたん? 難しい顔して」

「いや、こっちの話。他の報酬は?」

「他の目玉はね、えーっと……見慣れないアクセが多いんだけど、多分……」

「多分?」


 よし、この書類でラストだな。

 ――って、未祐のやつ、家でこの書類を書いたな?

 昨日、おみやげに持たせたチョコケーキのかけらっぽい染みが……。

 鼻を近づけてみると――あ、匂いが完全にチョコだ。

 はー、全く……とにもかくにも、これで終了。

 俺が最後の書類を置いて視線を上げると、秀平が悩み顔のまま話を再開する。


「……多分だけど、職業別の専用アクセじゃないかなーって……」

「何であやふやなんだよ?」

「イベント開始と同時に発表って書いてあるんだよ!」

「あ、そうなのか。わざわざ伏せるってことは……」

「強いんじゃないかな? ちなみに一個だけ先行公開で、例に上がっているアクセが……これ」


 作業終了を察して、秀平がスマートフォンの画面を見せてくる。

 その中にあったのは、黒い宝石を嵌め込んだ指輪。

 闇を閉じ込めたような黒い黒い宝石で、リング部分にも不思議な紋様が装飾されている。

 効果は――


「魔導士専用……詠唱時間・中短縮と……MP最大値増加に……え!? 魔力まで上がるのか!? はぁ!? 強っ!」

「ね? 大型イベだって言った根拠が分かるでしょ? 仮に、これと同等のアクセが複数報酬になるとすると……」

「……トップクラスの戦闘ギルド、プレイヤーが血眼になるな……」

「なるよね、絶対……」


 俺の引きつった笑みに対し、秀平は目を細めて頷いた。

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