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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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極彩色の大森林 その6

 サマエルの足元に、複雑な模様の魔法陣が出現する。

 色は漆黒、合わせて放たれるエフェクトもどこか禍々しい。


「フハハハハハ! 刮目せよ、我が深遠なる魔力の奔流!」


 本人の言を裏付けるように、その魔法陣は徐々に巨大になっていった。

 現在のプレイヤーが出せるものとは、比較にならない大きさだ。

 手を前に掲げたポーズで、溜めに入った。

 無駄に長い髪と衣装の裾が、立ち昇る魔力の流れによって翻る。


「レベルの低い来訪者の魔導士どもでは、詠唱不可能であろうこの魔法!」

「……」


 あ、遠くでリィズの背中が苛立っているのが見える。

 サマエルの言葉にカチンと来たのだろう。

 低いと言われても、運営のレベル制限なので仕方ないといえば仕方ないのだが……。

 以前までのリィズなら、それを踏まえて全く気にしなかったであろう言葉だ。

 ……それだけゲームに入れ込んでくれているのが分かって、一緒に遊んでいる兄としてはとても嬉しい。

 リィズは何かにつけて、冷め気味なところがあるだけに。


「魔界でも指折りの大魔導士である私の秘法に触れる機会を得たことを、幸運に思うがいい!」


 どれだけ溜めが必要なのか、サマエルの言葉はまだ続いている。

 魔犬の足止め組は……『ダークネスボール』の効果時間が終了し、乱戦に突入。

 俺たちも早く戻って加勢したいが、サマエルの機嫌を損ねそうで離れるに離れられない。


「む、指折り? 魔王軍のナンバー2なのだし、魔導士としてはトップだったりしないのか?」

「――」

「あ、固まった……」


 ユーミルの指摘に、魔界の大魔導士様が動きを止める。

 そんなに触れてほしくないところだったのだろうか?


「――力が高まってきたぞ! フハハハハ!」

「スルーかよ。ユーミル、詠唱を止められても困るし……それ以上は、な?」

「う、うむ」


 しかし……長いな、詠唱。

 それと、サマエルの無駄に長い口上も。

 そんなに自慢したいのか? 格好つけたいのか?

 本当は、もっと早く詠唱を完了できるのではないのか?

 ゆっくりしているようだが、俺たちは仲間が耐え切れなくならないかと気が気ではないのだが。

 ……もう、いっそサマエルを放って駆け付けるべきだろうか?


「地獄の門が今、開くとき! 魔犬どもよ! 魔王様のご機嫌を損ねた罪、たっぷりと贖うがいい!」

「……」

「……」


 長い、長すぎる。

 まだ続くのか? ……あっ、またリヒトが無茶してる!?

 あいつ、完全にペースを崩しているな!? まずい、前線のバランスが!


「直々に手を下せぬのは惜しいが――」

「いい加減にしろ!? 早くっ!! みんなを戦闘不能にさせる気か!?」

「そうだ、ふざけるな! お前たちはよくとも、私たちにとっては一刻を争うのだぞ!」

「ぬうっ!?」


 ぬうっ、じゃねえよ!

 拡大化した魔法陣は固定され、周囲の光も安定済み。

 どう見てもあえてディレイをかけているサマエルの姿に、俺たちの我慢は遂に限界を迎えた。

 ……プレイヤーは魔法にディレイをかけられないので、これはこれで高等技術なのだろうけれども!


「サマエル……早くしないと、我の林檎……」


 悲し気な瞳で、魔王ちゃんがサマエルの服をクイクイと引っ張る。

 それに対して、サマエルは俺たちの言葉を受けた時の何倍も狼狽した。


「ま、魔王様……これは失礼いたしました。今すぐに! ――受けるがいい、カース・オブ・アビス!」


 やはりというか、思った通り魔法の詠唱は完了していたらしい。

 魔王ちゃんが訴えかけた瞬間にこれか、この野郎……。

 石を投げたくなるみんなの気持ちが、ほんの少しだけ分かった気がする。


「ハインド、行こう!」

「ああ!」


 ユーミルと共に走りながら魔法の詠唱もしつつ、サマエルが使用したデバフ魔法の効果を確認する。

 ――何だあれ、一つの魔法で全能力が一律ダウン?

 しかも、闇魔導士が使うものより倍率が……。


「あれ、急に動きが遅くなったでござるよ!? 見たことないエフェクトも!」


 対峙するトビの向こう、魔犬の体から紫色の霧が出ている。

 混戦になりかけていた面々は、それによって魔犬から簡単に距離を取ることに成功。

 崩れかけていた陣形を急いで整えている。


「動きの鈍化まで付いているのか!? デバフの王様みたいな魔法だな……」

「ローゼ、私と交代だ! 休んでいろ!」

「ユーミル!? ハインドも!?」


 大きめのバックステップを入れたローゼの横を通り、ユーミルが剣を振る。

 俺はエルデさんだけでは回復が間に合っていない、リヒトへと回復魔法を飛ばした。

 それに応じてか、何も言わずとも後衛メンバーが近くに集まってくる。


「……話はついたようですね、ハインドさん」


 MPが枯渇した状態で、リィズが表情に険しさを残したまま合流。

 腰のストッパーを探り『濃縮MPポーション』をリィズに投げて回復させる。


「サマエルの力というのが気に入りませんが、状況は一気に好転しま――ありがとうございます」

「ナイス判断だったぞ、リィズ。足止め・妨害といえば闇魔導士だけど、リィズほどそれを活かしているやつもいないはずだ。さすが、俺の自慢の妹だよ」

「……!」


 サマエルの言葉を打ち消すためという意味もあるが、本心でもある。

 リィズは目を見開いた後、ススッと傍に寄り添ってきた。

 何かの魔法を詠唱しながらなので、タイミング的にちょっと怖い。

 近くで見ると、魔導書の脈動はとても迫力がある。


「……でしたら、ご褒美をください。さっき、ユーミルさんがどさくさ紛れにしていたアレと同じものでいいですから」

「アレ? ……あ、ああ、アレか。いや、ちょっと恥ずか――」

「………………」

「――あ、後でな? 今は戦闘中だから!」


 さすがに腕を掴まれながらの戦闘は難しいし恥ずかしい……というか、追加でアレをもう一回は恥ずか死ぬ。心が。

 リィズは言質を取ったとばかりに笑むと、後腐れなく体を離して戦闘を再開した。

 小声による一瞬のやり取りだったので、誰も気にしていないのは幸い――


「――わんだふるっ!?」

「うわあっ!?」


 魔犬と一緒に、もつれこむようにユーミルが飛んできた。

 驚いて魔犬だけを全力で蹴り飛ばすと、思った以上に派手に距離が開く。


「ユーミル、気を付けろ! イベント仕様を忘れたか!?」

「わ、私のせいではない!」


 即座に立ち上がり、俺が蹴った魔犬を斬撃で更に遠ざけるユーミル。

 そして指し示したのは……。


「す、すまない! 僕が斬った魔犬だ!」

「リヒト……」


 あいつ、本当にご乱調だな。

 まさかとは思うが、気負って全て自分でやろうとしていないか?

 これでは下手に手を出さず、防衛に努めている初心者のアラウダちゃんよりも酷いような……。

 動けば動くほど、周囲との連携が合わなくなってきている。

 即席で組んでいる俺たちはまだしも、ガーデンのメンバーとさえ――だ。


「……」

「待って、ハインド」


 呼吸を整えていたローゼが、俺の肩を掴んで引き止める。

 もう平気なのか?


「あんたがリヒトに言っていたことは、全面的に正しいと思うわよ。だから、何も責任を感じなくていい。きちんと内容を汲み取れなかったリヒトが悪い」

「ローゼ……」

「ここからは……パートナーである私が、あいつを何とかする番よ!」


 納めていた剣を抜き放ち、赤毛を揺らしてリヒトのもとへ駆けていくローゼ。

 か、格好いい……。

 というか、どんどん格好よくなるな、あいつ。

 ……っと、こちらも眺めてぼんやりしている場合じゃないか。


「エルデさん」

「はいー?」


 このまま混成で戦うのは非効率と判断し、ヘイトを上手く分散させて戦うことを提案。

 ガーデンが担当する数は少なめに、俺たちが大多数を受け持ちつつ、あるべき姿に。

 提案は受け入れられ、ローゼがヘイトをコントロールして少数を引き離す。

 互いが危ないときだけは助けに入るものの……やはり、こちらのほうがしっくりくる。


「ダメージが全然入らないですっ、ハインド先輩!」

「イベント仕様が足を引っ張っていますねー……怠いなぁ」

「こちらもダメージは低いですが……うっ!?」

「サイネリアちゃん!?」


 鋭い爪による攻撃で、サイネリアちゃんが大きく後退させられる。

 飛ばされた先の近くにいた、セレーネさんが心配してサイネリアちゃんに駆け寄っていく。


「だ、大丈夫?」

「す、すみません、セレーネ先輩」


 確かにこれでは、いつになったら『ヘルハウンド』を倒せるか分からない。

 低ダメージ、大ノックバックという仕様は、いざ敵を倒そうとすると非常に邪魔だ。

 時間も……ううむ、無駄に浪費している感が否めない。

 しかし、乱入NPCというには特殊に過ぎるが、事は既に始まっているのだ。

 必ずものにして、フィーバータイムを迎えたいところ。


「とにかく、数を減らそう。弱っているやつに集中攻撃! 対象の背が低い上にそれほどバウンドはしないみたいだから、余裕があれば上から下に向けて攻撃を!」

「うむ! 地面に埋める勢いでやってやるぞ!」

「それが難しいメンバーは、ひたすら他を吹っ飛ばせ! あとは……トビ!」

「!」


 宣言通り、ユーミルが上から下に『バーストエッジ』を叩きつける。

 サイネリアちゃんの『アローレイン』が追撃で入り、長い長い戦闘を経て、まずは一匹。


「行くでござるよっ、各々方!」


 続けて、俺とトビが同時に『焙烙玉』を投擲。

 邪魔な群れを吹き飛ばした上で、残った一体をトビが『影縫い』で拘束。

 こうすれば……。


「よし、トビが拘束した! そいつに向かって一斉攻撃!」


 地面と平行に直射しかできない攻撃だろうと何だろうと、標的は動かない。

 特にセレーネさんの『ブラストアロー』、シエスタちゃんの『ヘブンズレイ』には最適な状態だ。

 ただし、『影縫い』の効果時間は一瞬。

 それに合わせ、積み重ねてきた連携をもって『ヘルハウンド』に火力を集中させる。


「ほう……」

「おおっ!?」


 サマエル、魔王ちゃんの感嘆の声が聞こえる。

 あの二人に比べれば、児戯に等しい次元の戦いなのだろうが……。

 これはレべルなどは関係ない、純然たる俺たちのプレイヤースキルの賜物だ。

 見たか! これで二匹目!


『……グルルルル』


 ……おっ? これまで、一直線に攻撃してきた『ヘルハウンド』たちの様子が変だ。

 距離を詰めずに威嚇してくるなんて、登場してから初めてではないか?

 しかも、そのままじりじりと下がっていく――折良く、一匹を倒したガーデン側のものも含めて。

 ……。


「魔王ちゃん!」

「……?」


 俺はある可能性を感じて、魔王ちゃんに呼びかけた。

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