表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

722/1115

極彩色の大森林 その4

「ぬおおおおっ! でかい、速い、捉まらないっ!」

「そんな三拍子揃った、みたいに……って、もう捉まえそうではござらんか!」

「でいやーっ!」

「あだだだだ!? 林檎が、林檎の雪崩が!」


 生まれたてでエネルギーたっぷりの樹木精霊は、それはそれは素早かったが――。

 ユーミルが叫びながら追いかけ、精霊の幹に蹴りを入れる。

 すると、その衝撃でトビを飲み込むように、大量の林檎が周囲に散らばった。

 やや離れた位置にいる俺たち遠距離組も、ユーミルに及ばないまでも林檎を落下させている。


「精霊の進路の判断、上手くなったな……あいつ」

「ですが、ハインドさん。精霊の動きは、酷くランダム性が高いように思えますが……」

「でも切り返した後は少しの間だけ、同じ方向に進むだろう? それに反応して、当てにいっているんだと思う」

「……私のような弾速もある遠距離攻撃ならともかく、肉弾戦なのにね」


 クロスボウとの比較を述べつつも、しっかりとユーミルに次ぐ量を精霊からもぎ取っているセレーネさん。

 ……あれ? これ、二人のおかげでもう十分なのでは?


「よーし! 拾え、拾えーっ!」

「わっかりましたーっ!」

「うーい」

「はい」


 自分から率先して林檎を拾い始めるユーミルに、リコリスちゃんを始めヒナ鳥トリオが続く。

 本命はNPCの撃退、そこからのフィーバータイムだが……。

 出ない場合を見越して、通常林檎を回収。

 レア林檎の出現率を上げておく方針だ。

 ……俺たちも、武器をしまって林檎を集めるとするか。


「ほい、ほい、と」

「……」

「……?」


 不意に妙な空気を感じ、発生源を探すと……。

 林檎を長いトングで回収、背負い(かご)にポンポンと放っていくシエスタちゃんをアラウダちゃんが見ていた。

 視線に気が付いたシエスタちゃんが、顔を上げてアラウダちゃんと目を合わせる。


「アラウダも使う? トングと籠」

「――は? ……い、いいの?」

「いいよ、予備あるし。……いいですよね? 先輩」

「ああ、もちろん」


 あのトングと籠は、過去に止まり木のメンバーに作ったものをシエスタちゃん用に調整したものだ。

 林檎が集まったら、まとめてアイテムポーチに流し込む――という寸法だ。


「どうでもいいけど、何かあんたの動き……ババくさいというか」

「そりゃ、止まり木のおばあちゃんを参考にしてるし」

「え……意味あるの、それ?」

「甘いなー。一部のご老人は無駄のない動きを知っているんだよ?」


 スローな動きながらも、シエスタちゃんの籠にはどんどん林檎が溜まっていく。

 激しい動きで林檎を搔き集めるユーミル、リコリスちゃんにも引けを取っていない。

 その二つの様子を、俺と同じように見比べるアラウダちゃん。

 微妙に得心がいかないようではあるものの、やがてシエスタちゃんの言葉に頷いた。


「そ、そうみたいね……不思議なことに……」

「腰を痛めにくい、力いらない、疲れにくい……その上、効率あんまり落ちない。私にピッタリじゃん? あー、よっこいしょ……」

「その掛け声は今すぐやめなさい!? 心まで老け込むわよ!」

「?」

「腰をトントンしない! 痛めにくいって自分で言ったばかりじゃない!」


 所作までおばあちゃんに近付いているシエスタちゃんに、アラウダちゃんがショックを受ける。

 何だかなぁ、という感じではあるのだが……仲は良くなったよな、確実に。

 アラウダちゃんの態度からは、以前あった刺々しさがすっかり抜けている。


「いいですね……あの調子でシーがアラウダと仲良くなったら、私のツッコミ負担が減りそうです」

「さ、サイネリアちゃん?」


 ツッコミ負担……い、いや、まあ、言いたいことは分かるが。

 ただ、サイネリアちゃんの言葉には続きがあった。


「……ちょっとだけ、私のポジションを取られる気がして寂しいですが」

「サイネリアちゃん……」


 顔が見えなくなるように林檎を拾いつつ、サイネリアちゃんがぽつりと呟く。

 それを俺にだけ聞こえるように言ってきたということは……うぅむ。

 こういうときは、正直に思ったままの言葉のほうがきっといいよな。


「……もう、今夜の俺はそれっぽいことを言おうとすると滑るみたいだからさ」

「は、はい?」


 あれ? ちょっとこれは違うな。

 いつまでさっきの件を引きずっているんだ。

 ……気を取り直して。


「えーと……シエスタちゃんって、面倒くさがりじゃない? 今更、再確認するまでもなく」

「……そうですね」


 それで? と、サイネリアちゃんの目が続きを促してくる。

 拾った林檎を胸に強く抱えて、一歩こちらに近付く。

 不安そうな顔をしちゃって……そんなに心配することないのに。


「――そんなシエスタちゃんが、気心の知れたサイネリアちゃんとそう簡単に距離を置くとは思えないなぁ。寝起き、宿題、身だしなみ……俺が知っているだけでも、かなり頼られているよ? 今回のイベントだって、おんぶに抱っこだ」

「あ……」


 サイネリアちゃんがホッとしたような表情を浮かべる。

 次いで、まだまだ楽はできそうにない、という苦笑が混じったものに変わる。


「アラウダちゃんが仲良くなれば、そりゃ……少しは重なる面があるかもね? アラウダちゃん、ライバルとしてシエスタちゃんには綺麗でいてもらいたいみたいだし。でも、それはサイネリアちゃんとシエスタちゃんが積み上げてきたものを否定したり、崩すようなものでは絶対にないさ」

「断言……するんですね?」

「そりゃあ、するよ。それに、ほら」


 林檎を一つお手玉のように跳ねさせてから、シエスタちゃんとアラウダちゃんを指差す。

 サイネリアちゃんが、不思議そうな顔で俺の指の先を追い――。


「あー、もう! 何で私の目の前のやつを取るのよ!? 真っ直ぐ進みなさいよ!」

「えー。人間の体は、そんなに規則的に動けるようにできていないよー」

「ぐにゃぐにゃすんな! 予想しづらいのよ、あんたの動きは! はぁ、はぁ……」

「……? どったのー? まさか、超低体力の私よりも早く疲れた?」

「あんたのせいでね!!」


 二人のやり取りと見たサイネリアちゃんの肩から、ふっと力が抜ける。

 やはり、アラウダちゃんだけではシエスタちゃんの相手は不可能だ。


「……ね?」

「はい。ハインド先輩、その……すみません。つまらない心配事に付き合っていただいて」

「いいんだよ。いつでもどうぞ」


 サイネリアちゃんが自分から弱みを見せてくるのは珍しい。

 ポニーテールが跳ね、駆けていく後ろ姿を見送っていると……隣に誰かが立つ気配。


「仲良きことは美しきかな、だね? ハインド」

「リヒト……って、お前らいつまで一緒にいるんだ? もう散っていいんだぞ」


 フィールド内には俺たちしかいないので、去られるのは困るが。

 他のプレイヤーがいないのは想定内なものの、イベントの性質を考えると人数は多いほど良い。

 ただ、あの道中のことを考えると、止まり木のみんなを連れてくるわけにもいかなかったという難しさ。

 前に触れたとおり、時間も合わなかったことだし。

 せめて神獣を使えればな……今イベントは神獣使役不可なので、ノクスはフィールド外で待機中だ。

 マーネはシチュエーション的にちょっと微妙だが、ノクスなら林檎をどんどん落としてくれそうなのに。


「いいじゃないの、乱入NPCが来たら協力必須なんだから。別に、一緒にいても」


 ちゃきちゃきと、キレのいい動きで林檎を拾いながらローゼがリヒトに代わって返事を寄越す。

 後ろにはエルデさんが、控えめながらも熱心に林檎を拾いつつ追従している。


「普通のレア林檎争奪ですと、八人対四人で勝ち目は薄いですしねぇ……もう、こちらとしては対決姿勢を維持するのも難しいといいますか」

「え、エルデ!」


 エルデさんは、ある程度ガーデンメンバーの人数を残しつつ到着する腹積もりだったようだしな。

 それが四人まで減ってしまったのは、正直誤算なのだろう。

 ……にしても、ローゼの見栄っ張りめ。


「……まあ、いいけどな。あの二人、もう戦う必要あるのか? って状態になっているし。けじめとして、決着をつける必要はあるにせよ」

「そうね……二人が今後どんな関係になるにせよ、区切りは大事よね」


 俺も、最後までシエスタちゃんを勝たせるつもりで動く。

 そこは変わらないことを強調すると、三人は了承するように頷いた。

 それにフィーバータイムに持ち込めれば、人数よりも本人たちの頑張り次第となる。

 一個の林檎に対しての争いではなく、複数のレア林檎をいかに多く集めるかとなり……結果、充分フェアな勝負を行うことが可能だろう。

 ……そんなところで、後はノーマル林檎を拾いつつ、乱入NPCかレア林檎の出現を待つばかりに。

 イベントの残り時間は、おおよそ二時間。

 いつも通り、日付が変わるまでとなっているのだが――


「……何だ、これ?」


 地の四方八方に、謎の光が走り始める。

 その光に、ユーミルが慌てて俺のもとに駆け戻ってくる。


「わ、私は封石の時のように、また爆発するのは嫌だぞ!? 嫌だからな! ハインド!」

「多分、ちが――って、そう思ったのなら何故腕を掴む!? 巻き添えにする気か!?」

「やっぱり爆発なのか!?」

「今、違うって言いかけただろ!? 落ち着け! もし爆発だった時は、一緒に吹っ飛んでやるけど!」

「ハインド……」


 ユーミルが益々、俺の腕を強く抱きかかえる。

 地面の光とは違う焦りで、俺は体を一気に緊張させた。

 心拍数が急激に跳ね上がる。

 だ、誰か……トビ、ローゼ、リィズの順でこちらに近付いてくるのが見える。

 頼む、何でもいいから俺の心臓を救ってくれ! 不意打ちには弱いんだ!


「って、おかしいおかしい! 会話の流れがおかしいでござるよ!? 途中から聞こえたでござるが、何でユーミル殿は今ので感激してるの!?」

「……にぎやかねえ、あんたたち」

「ええ。お恥ずかしながら、いつものことです――よっ! このっ!」

「ぬおっ!? 何をする!」


 リィズの二度にわたる手刀により、ユーミルが手を離す。

 そんなふうに騒いでいる間にも、周囲に走った光はその強さを増していく。

 樹木精霊たちが放つ光とは、明らかに違う。

 訪れた明らかな異変に、俺たちは集まって警戒の色を強めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ