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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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情報の代価

 かなり熱の入ったやり取りになった。

 俺が高レベルフィールドに関する質問をし、ベールさんが嬉々として答える。

 時にはベールさん側から、不足している情報についての指摘が入ることも。

 とてもありがたいのだが、料金についてはここまで触れずに話をしてしまっているので、後が怖いな……。

 更にはヒナ鳥の三人が、横から疑問点や細かな点について訊いてくれる。

 二人だけでのやり取りでは、こうはならなかったであろう充実した情報を得ることができた。

 ただ、重ね重ね料金が――


「あ、報酬は例のアップルパイでいいよん?」

「安っ!?」


 今度からは先に報酬の話をと反省したところで、ベールさんからこの言葉。

 しかし、その言葉には続きがあり……。


「もちろんレア林檎のやつね! どれが美味しいの?」


 アップルパイパーティの最後にみんなでレア林檎の味見をしたのは記憶に新しい。

 味に問題がないことを確認し、銅・銀、そして金林檎のアップルパイを俺は少しだけ作った。

 当然ながら希少品のそれを、どうやらベールさんはご所望らしい。

 というか、今はそれらのアップルパイしか持っていないのだが。


「味ですか……」


 ここは、念のためリコリスちゃんに言ってもらうことにするか。

 この中で最も嘘を吐かなそうな子だし、ベールさんも素直に受け取るだろう。

 そんなわけで、リコリスちゃんへと視線を向ける。


「……リコリスちゃん」

「……リコ、リコ!」

「……。あ、私ですか!? えと、普通にレアリティが高いものほど美味しいですよ! ハインド先輩のパイ生地と合わさって、ほっぺた落ちそうなくらい!」


 ちょっとタイムラグがあったが……。

 ともあれ、ベールさんがうんうんと頷きを返す。


「じゃあ……パティシエさん、銀林檎のアップルパイをくーださーいな!」

「あれ、銀でいいんですか? あと、パティシエなんて大層なものじゃないです。ただの趣味人なんで」


 てっきり金林檎のものを要求されると思ったのだが。

 俺の疑問に対し、ベールさんがちっちっちっと舌を鳴らしながら指を左右に振る。


「金林檎って、希少じゃない? 当然、それで作るアップルパイも希少じゃない?」

「……そうですね。俺たちも、金林檎のものは数個しか作っていません」

「そうなると、乱入NPC用に取っておきたいじゃない?」

「ですね。食べ物が撃退条件になっている現地人もいるとか。金林檎のアップルパイは切り札になる可能性があります」

「だ・か・ら、銀林檎でいいよっ!」


 サイネリアちゃん、それからシエスタちゃんと視線を交わし合う。

 ここまでの彼女の言動からして、あまりに慎ましいというか……絶対に何か裏があるな?


「――そ」

「もちろん、高レベルフィールドがどんなだったのか後で聞かせてね!」


 それだけですか、と聞こうと思ったら遮られた。

 無論、『銀林檎のアップルパイ』だけでは釣り合わないので否やはない。

 しかし、ベールさんの言葉はまだ続く。


「あとは、高レベルモンスターのスクショをなるべく多く! 教えた情報と実際の動きが食い違っていなかったかと……あ、フィールドのスクショも欲しいかも! 全景と、特徴のある部分、それから――」

「うわ……めんどくさ……」

「なーにを言うんだいシエシエ! 高レベルフィールドの詳細は、今後絶対に多数のプレイヤーに必要とされる重要情報! 深部のスクショ一枚でお宝、モンスターの弱点発覚で感涙! 逃走経路の確保でホッと一息、罠やダメージ地形回避でにっこり、でしょうがぁぁぁぁ!」

「は、はあ……」

「はあ、じゃなぁぁぁぁいっ!!」

「わ、分かった、分かりましたよぉ……」


 シエスタちゃんが、これまでにない深い、ふかーい溜め息を吐いた。

 そして、八の字の眉毛でこちらを向く。


「先輩ー……ここのところの私、誰かに振り回されていることが多くありません……?」

「あ、ああ……ま、まあ、そういうこともあるよ。偶々、今の時期がそうってだけだと思うよ。きっと」

「マイペースが私の信条なのに……」

「いつもはシエスタちゃん、人を振り回す側だものね……」


 基本、細かいことに動じない大物なシエスタちゃんだが、やはりそこは中学生。

 まだまだ思い通りにいかないことも――あれ、待てよ?

 その論法でいくと、シエスタちゃんがもう少し歳を重ねた場合って――……


「ハイハイ!」

「あ、はい」


 ちょっと怖い想像になりかけたところで、ベールさんからお声がかかる。

 ハイハイなら、何が言いたいのか分かっているよね? という声音だ。


「スクショと、できる限りのフィールド・魔物情報ですね? 了解しました、やっておきますよ」

「イベントの成果報告もよろしくっ!」

「中でも、乱入NPCがどうだったか……ですね?」

「そう! 今後のイベントの傾向とか、運営の癖とかが読めるかもしれないしね!」


 TBの運営は前々から「隠し要素」のようなものを入れたがるところがあり、今回もそうなら次のイベントでも怪しい部分を疑ってみる価値があるということになる。

 無論、毎回何かしらあるとは限らないのだが、情報屋であるベールさんにとっては特に大事なことなのだろう。

 あらゆる可能性を考えながら情報を収集しないと、他の情報屋に負けてしまう。


「結果はご報告しますよ。ただ……」

「ただ?」

「もし、仮にベールさんの想定を上回るような情報を得た場合は――」

「当然! 今回分の報酬と釣り合わなくなったときは、ばっちり買い取らせてもらうよっ!」


 リコリスちゃんとサイネリアちゃんが揃って俺に苦笑を向けているが、節約できるところはしておかないと。後は皮算用にならないことを祈るばかり。

 ……と、一人、首を傾げていたシエスタちゃんが口を開く。


「あの……素朴な疑問なんですけどー」

「何だい、シエシエ!」

「あー……やっぱりいいです」

「そう言わずに、言ってごらんよー。ね? ほらほら、こうしてちょっと静かに話すからさー」


 馴れ馴れしく肩に手を回してくるベールさんに、シエスタちゃんが渋い顔をする。

 できるのなら最初からそうしてほしい……といった表情だ。

 ベールさんのそれは可変式で、相手に合わせて落ち着いた話し方もできるようだ。

 近いタイプでも、和風ギルドのキツネさんとはまた違うんだな……あちらはトップギアに入ったまま、絶対に帰ってこないし。


「……じゃー、改めて。どうやって情報の価値を決めたり、決めた価格を相手に納得させるのかなって思いまして。ふっかけるのも、安くするのも自分の裁量ですか?」

「それこそ、相手によるね。基本的には……ま、シエシエの言う通り感覚頼りだよね」

「無形のものですし、鮮度もありますし、やっぱそうなりますよねー……」


 シエスタちゃんにしては珍しいな、他人のプレイスタイルに興味を持つなんて。

 ……当事者よりも傍観者の立場が好みだから、だろうか?

 そんな彼女は今イベント、思いっ切り当事者なわけだが。


「ハイハイみたいなのは特殊でねー。大抵はどんな情報を出しても“高い”って言われるから、事前に提示することにしているよ。後から請求なんて、ブチ切れるに決まっているし!」

「それは、先輩だと情報の価値に対する感覚が近いから?」

「うん、近いから」

「……いや、俺はそんなに自分の感覚を信用していないんで。必ずどこかに偏りはありますし、今日は結果的に一人でベールさんに会いに来なくて良かったと思っています。次も誰かと一緒に来ようかな……」


 初回はトビがいてくれたし、ベールさんの独特なペースに呑まれないためにも必要だろう。

 ユーミルやリィズが同行者だとややこしくなりそうだし、セレーネさんはあの通りの人見知りなので、次に会うときは面識のあるトビにお願いするかな……。

 しかし、ベールさんは俺の言葉ににやりと笑った後で顔を覆った。

 そしてシエスタちゃんに縋りつきつつ、ワザとらしく声を上げる。


「シエシエ、ハイハイが私と二人きりは嫌だって! 慰めてぇぇぇ!」

「あー、やっちゃいましたね先輩ー。これはアウトだー」

「……」

「アウトなんですか?」

「リコ、何でもかんでも正直に受け取るのはどうかと思うわよ? 特にシーの言葉は」

「よよよー!」

「よよよとか言いながら実際に泣く人、初めて見ましたよ……」


 嘘泣きだけど。

 古語的には「よよよ」ではなく「よよと泣く」、と使うそうだ。

 ……流行っているのだろうか? 古語を使うの。

 ベールさんはシエスタちゃんの胸に何度か顔を埋めた後、急に眉を吊り上げて突き飛ばす。


「ぬああ!? 何だい何だい、このふかふかで生意気な膨らみは!? し、シエシエ!?」

「脂肪の塊ですが」

「おかしいおかしい、私より年下だよね!?」

「多分そうですねー」

「しかも夢と希望の結晶を、脂肪の塊なんて呼ぶなぁぁぁ!!」

「あー、はいはい」


 そして遂に、シエスタちゃんがベールさんに慣れた。

 予想よりもかなり軽い反応に、ベールさんが鼻白む。

 そして俺を指差すと、こう叫んだ。


「――って、ハイハイが言ってた!」

「言ってません」




 ちなみに、銀林檎を食べたベールさんだが……。


「んおっ!」


 という感嘆の声を上げた後、夢中でアップルパイに齧りつき……。

 やがて完食すると、満足そうな顔をしつつも上目遣いで質問してくる。


「あの、やっぱり金林檎のアップルパイ……」

「別にいいですけど、イベント終了後にお渡しする情報は減りますよ?」

「くぅ……!」


 散々悩んだ結果、断腸の想いといった様子でベールさんは情報のほうを選んだ。

 さすが、情報屋を名乗るだけはあるとリコリスちゃんが嬉しそうに褒めていた。

 そして、ベールさんと会った日の少し後。

 その間もアラウダちゃんとシエスタちゃんの取得数の差は縮まらず、予定通り俺たちは「例のフィールド」へと向かうことになった。

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