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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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情報の売買とフィールド選び

 ベールさんが提供してくれたのは、今までのフィールドで出現した乱入NPCたちの情報だ。

 まずはどこのフィールドに、誰が出現したか。

 そして、そのNPCたちが普段いる場所ごとに分け、各国の町や都市のところにも名前を記入してくれる。

 おお、分かりやすい……これなら最終日に出現するであろうフィールドも大体予想がつくな。

 さすが情報屋。


「……グラドの現地人のみのパターン。グラドと、グラドに隣接する他国の現地人、両方が出るパターン。隣接国のみでグラドの現地人が出ないパターンに、隣接する三国の現地人全てが入り乱れる……なんてことも、有り得ますよね?」


 情報は出すから、後は自分たちで考えてね! というスタンスではあるが、ベールさんはこの問いには答えてくれた。

 特別サービスだよ、という前置きをした上でだが。


「前例がある以上、可能性はあるんじゃないかなっ!」


 前例というのは、これまでの日程で国境付近のフィールドが指定された際のことを指している。

 俺たちは遭遇しなかったものの、二国のNPCが同時に出現したと掲示板に複数の書き込みがあったのだ。

 スクリーンショット有りで書き込みをしていた人も数人いたので、信憑性はかなり高い。


「っていうか、わざわざグラド周辺なんて運営の指定ですしー。そうだよって言っているようなもんですよねー……」

「あはははは! シエシエ、すっごく嫌そうな顔!」


 ベールさんがはやし立て、シエスタちゃんは益々苦み走った顔に――なった後に、溜め息交じりに脱力。

 まともに取り合ったほうが疲れる、といった感じなのだろうが……それを見たベールさんは、一層面白そうに声を上げて笑った。

 情報屋というプレイスタイルからして、きっと変わった人を見たり知ったりするのが好きなのだろう。

 あー……しかしだ、シエスタちゃん。

 そういう面倒な場所にこそ積極的に向かわないと、もう逆転の目はないんだよ……?


「三国の国境が接しているフィールドは、四勢力で競争ってことも有り得そうだな……」

「現地人たちも各国、特殊な協定を結んでいる気配があるよねっ! 戦争に発展しないように、死者さえ出さなければ競争は自由に可能――みたいな!」

「確かに、そうなんですよね……うぅむ……」


 樹木精霊が走り回る収穫祭の時期は、便乗して移動する犯罪者などを取り締まるために国境の警備が固くなるらしい。

 中でも緩衝地帯は特殊で、各国の軍やら傭兵が集まり代理戦争のような様相になるとの噂がある。

 闘技大会、軍事演習と並び、今回の収穫祭も軍部のガス抜きに使われている節がある。

 農作物の収穫量にも影響するしな……平和主義を掲げて、のんびりできる国が存在し得ない構造になっているというわけだ。


「では、そういった場所が狙い目でしょうか? こことか……あとは、そことそこなど」


 唸りながら卓上に広げられたマップを指で叩いていると、サイネリアちゃんが該当箇所をいくつか示してくれる。

 それに対しての俺の反応は、やや浅めではあるが肯定寄りのものだ。


「うん、候補に入ると思う。もちろん、それらの場所に行ったなら、そんな難しい状況の中で撃退条件を達成しなきゃいけないんだけど」

「……候補、ということは他になにかあるのですか? ハインド先輩」

「あるんですか!? 全然分かりません!」


 難しい顔をするサイネリアちゃんに続き、リコリスちゃんが元気に手を上げて発言。

 慣れていても、その無意味な宣言に少し笑ってしまう。誰かさんにそっくりだ。

 ベールさんもツボに入ったのか、椅子の上で体勢を崩し、お腹を抱えて声も出さずに笑っている。


「俺が言いたいのは、行くだけでも危険が伴うような……正攻法だと道中で力尽きるような、一部の高レベルフィールドのことだよ」


 誰もが気にはしつつも、最終日の行き先の候補からは真っ先に外しているであろう四つのフィールド。

 俺がマップ上のその四地点を指で示すと、ベールさんが笑いを引っ込めてこちらを見据える。


「……正気かい? ハイハイ」

「……そこまで言います?」


 まさか正気を疑われるとは思わなかった。

 行くかどうかは別として、誰でも一度は考える内容だと思うのだが……。


「あ、間違えた。本気かい? ハイハイ」

「最初からそう言ってください……でも――」


 本気かと問われれば、可能であれば行ってみたいと思っている。

 そして可能かどうかを知るために、俺はべールさんに会いに来たのだ。

 それを伝えると、ベールさんは正面から手を伸ばして俺の肩をペシペシと叩く。


「あははは! もう、ハイハイったらぁ!」

「は、はあ……」

「もう、もう! このこのぉ!」


 叩いた手を肩の上で止めて、下を向いてベールさんが震え出す。


「……あれ?」

「と、止まりましたね……?」

「……?」


 ヒナ鳥の三人が、その様子に不審な目を向けるが……俺はというと、嫌な予感に引きつった笑みが出るのを抑え切れない。


「もう、ハイハイは本当……」

「……」

「本当に……情報屋冥利に尽きる使い方をしてくれるなぁぁぁ! もぉぉぉ!」


 ぎちぎちと勢い任せの強い力で掴まれつつ、前後に揺さぶられる。

 ……こうなるだろうと思っていたので、為されるがまま、それが終わるのを待つ。

 発作みたいなものだ、この人特有の。


「待っていて、速攻で基本情報からディープなやつまで完璧に揃えてくるからっ!」


 やがてベールさんは、不足情報を補ってくると言ってログアウトしていった。

 大体の情報は頭に入っているけど、念のため! だそうだ。

 ……主がいなくなり、静かになったアジトの中でサイネリアちゃんが呟く。


「な、中々に強烈な人……ですね?」


 特に誰も、その言葉を否定する者はいなかった。

 理知的でありながら活発、そしてあえて自分の感情を隠さない。

 彼女のことを苦手な人はとことん苦手であろう、取り扱いが難しい人だ。


「でもさー、サイ。あれ、興味のない人には冷たいタイプだよ……? きっと」

「そうだとすると、シーちゃんと一緒だね?」

「そうね。シーと一緒ね」

「えー……」


 シエスタちゃんが二人の言葉を受けて俺のほうを見る。

 否定してほしいのかもしれないけど、どうだろう……?


「表面上はフラットだけどね、シエスタちゃんは。でも口数とか、相手によって結構違うような気がするよ? 俺の勘違いじゃなければ」

「あ、じゃあ表面はちゃんと取り繕えているんですね? リコとかサイとか先輩とか、親しい人限定で分かる変化ですかー。ならいいや」

「そんなあっさり……」


 最低限、波風が立たないならそれでいいという感じだな……自分が「親しい人」の中に入れられていることに、少しときめかなくもないが。

 言われてみれば確かに、シエスタちゃんのそれは相手を苛立たせる類のものではない。

 鈍ければ全く気が付かないだろうし、興味がない相手が目の前にいても、必要な受け答えはきちんとする。


「ふあぁぁぁ……あ、このソファー割と座り心地いい……」


 しかしなぁ……アラウダちゃんのような娘が突っかかってくる理由も、その辺りにあるような気がしてならない。

 ……これがシエスタちゃんの性格というか生き方だと言われればそれまでなので、難しい話ではあるのだが。


「えーと……ま、まあ、ベールさんの場合、あれで自分と合わない相手を選別している節があるしね」

「ベールさんなりの処世術、ということでしょうか?」

「そうだと思うよ」


 サイネリアちゃんの言葉に頷きを返す。

 主な対象は前に聞いた、情報屋の使い方が分かっていない相手ということなのだろう。

 ……素の性格が一切含まれていないかというと、そんなことも決してないだろうけれど。


「結構激しい振り落としですよねぇ? そこのところ、やっぱり私とは違いますってー。私は面倒なんで、相手よりも先に自分がフェードアウトしますし……」

「それだけ客を選びたいんでしょ、多分。半端な仕事をして、情報屋としての評判が落ちるのは本意じゃないだろうし」


 だからこそ、相手のほうが嫌がって離れていくような形を狙っているわけだ。

 情報屋という看板を掲げている以上、自由人のシエスタちゃんのような手段を採るのは難しい。


「いいじゃないですか! 情報屋さんは偏屈なほうがそれっぽいです!」

「何気にリコが一番酷いことを言っていないかしら……?」

「うん、だよね。酷いなー、リコ」

「……あ、あれ?」


 しかし、偏屈と一言で切り捨てるリコリスちゃんが、もしかしたら一番ベールさんの本質を突いているのかもしれない。

 明るくて、ちょっと偏屈な情報屋の女の子……ううむ、結構しっくりくるな。

 本人にそのまま伝えてみても、きっと怒らずに笑って肯定するような気がする。

 やがて、ログアウトしていたベールさんが戻り……。

 とあるフィールドを最有力候補に絞り込んだところで、情報の売買は終了となった。

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