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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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特製アップルパイ

「突然だが、みんな。アップルパイといえば、何をトッピングしたい?」


 調理の下準備が全て完了したところで、集合したみんなに問いかける。

 場所は屋外、止まり木のホーム前の庭だ。


「拙者、カスタード入りが好きでござる!」

「ああ、美味しいよな。林檎の酸味がまろやかになって、味に一体感が出る」

「私はシナモンたっぷりがいいぞ! わた――ハインドのコーヒーがあれば尚、良しだ! 最高!」

「ほしいよな、コーヒー……誰か魔界への行き方を教えてくれ」


 確か、魔王ちゃんがコーヒーらしき飲み物が魔界にあると前に言っていた。

 是非、機会が巡ってくれば取得して栽培してみたいと思っている……心の底から。


「はいはい! バニラアイス乗せとかやってみたいです!」

「うんうん、高カロリーだけど……ゲームなら関係ないよね。アリだと思う」


 リコリスちゃんの意見は、現実で実際に目にしてのものだろう。

 アイスなら、もうTB内でも普通にあるし、俺たちも作ったことがある。

 砂漠という気候なので、現地人にもプレイヤーにも非常によく売れる。


「ほほう、でしたら……レモン、ナツメグ、ブラックベリーにチーズなどもよいですなぁ」

「い、イギリス式ですか? バウアーさん、ワールドワイドっすね……一応言っておきますと、今日のアップルパイは日本式です」

「私は、さらりとその返しをできるハインドさんのほうが凄いと思います……」


 パストラルさんの言葉に何人かが頷くのが見え、俺は照れくさくなって頭を掻いた。

 そこまでで、さすがに意見が出尽くしたかと思ったのだが……。

 その後は、子どもたちが元気よく手を挙げつつ変わった食べ方の案を出し始める。


「はい、お菓子のお兄ちゃん! なし!」

「なし? ……梨? 果物の?」


 一瞬、お前それはないわーと何か駄目出しされたのかと思ってドキッとしてしまった。

 おそらくだが、林檎の代わりに梨のパイはどうか? と言っているのだろう。


「アップルパイだから、梨は入らないかなぁ……別の食べ物になっちゃうよ。ちなみに、林檎が嫌いな訳では――」

「ううん! 林檎も好き!」

「あ、じゃあよかった。今日は林檎ね、林檎。うん。他には?」

「バナナ!」

「マンゴー!」

「うーん、南国。林檎はどちらかというと寒い地域の食べ物だし……もう一度言うけど、アップルパイに何を足すか、だからね?」

「牛乳!!」

「それは普通に飲み合わせていいよ。ゲームだけじゃなく現実でも一杯飲んで、すくすく育ちたまえ」

「はーい!」


 子どもたちは無邪気でかわいいなぁ……。

 意見はちょっと的外れだけど。


「む、そうだハインド! コーヒーがないなら、ここは紅茶で妥協しよう! ドリル印の!」

「いや、そんな当たり前の代案を力強く宣言されても……しかもドリル印て」

「甘いのに飽きた時用に、ミートパイもほしくないでござるか? 作って?」

「一理あるが、今からか? 時間がかかるぞ?」

「先輩、パイ生地でクロワッサンって作れませんかね?」

「うーん、ぺちゃんこのクロワッサンになっちゃうと思うよ。パイとクロワッサンでは生地が違うから。料理は面倒くさがったり、手間を惜しんでいると――って、さっきから脱線も甚だしいわ!? もういいだろ!」


 最後はユーミルやトビ、シエスタちゃんが加わって混沌としてきた。

 こいつらは分かっていておかしなことを言っているので、子どもたち以上に論外である。

 力技で場を締め、後ろに控えてくれていたリィズ、サイネリアちゃんと一緒に用意しておいたものを持ってくる。

 屋外の木製テーブルに次々と並べていったのは――


「そういう訳でな? みんな色々、好みが違うだろうと思ってさ。プレーンなアップルパイに、それぞれアレンジを加えてもらう形にしてみようかと」

「おおー!」


 香辛料を中心とした、種々の調味料たちだ。

 飲み物もある程度自由に選べるよう、止まり木のおばあちゃんたちと協力して一通り取り揃えた。

 まあ、なんだ……イベント終盤を前にして、気合を入れるための食事会というかお茶会というか。

 といった感じで、後はアップルパイの焼き上がりを待つばかりである。


「……ところでハインド殿。その肝心のアップルパイは? どこでござるか?」

「え?」


 トビが額の辺りに手を当てて、周囲をきょろきょろと見回す。

 そういえば、こいつが来た時にはもうパイを運び出して石窯の火入れを始めていたっけ?


「ああ、それならあそこ」


 俺が指差した方向からは、今まさに煙が上がるところだった。

 アップルパイはその近くの台に、布を被せて待機中。


「……」


 窯の温度管理は「鍛冶も料理もお任せ」なセレーネさんが、石窯を真剣な表情で見つめている。

 実際、石窯ピザの温度管理もすぐにマスターしてくれたので、とても頼りになる。


「何て言うか、セレーネ殿は……実に技術オタクでござるなぁ……」

「褒めているのか? それは」

「拙者としては、最上級の褒め言葉のつもりでござるよ?」


 以前も触れたと思うが、あのモードに入ったセレーネさんは周囲の変化に無頓着になる。

 何もしていない時ならビクッとしているところだろうが、近くを子どもたちが走り抜けていっても微動だにしない。

 火の傍に寄らないように、大人たちが回収しても同様だ。


「うーん、温度はそろそろいいような気がするんだが……セレーネさんがもういいって言うまで待つべきか? はたして邪魔をしていいものか……」

「ですが、そろそろ集めた子どもたちが飽き始めるころですね。この後の段取りを考えますと、そろそろ次の工程に移ったほうが……私がセッちゃんに声をかけてきましょうか? ハインドさん」

「いや、リィズはこのままサイネリアちゃんと飲み物を用意してくれ。焼いている最中のアップルパイの様子は俺も見守りたいから、あっちは俺が」


 それ以外の面々には、子どもたちをテーブルに座らせるようにお願いしておき……。

 アップルパイを運ぶ男手としてトビだけを連れて、石窯のほうへ。

 肩でも叩けばさすがのセレーネさんでも反応してくれるだろうが、確実にびっくりされるだろうなぁ。

 ――と、止まり木の神獣・ウッドゴーレムのルートが収穫した農作物を手に移動していくのが目に入る。


「……ハインド殿?」

「少し待っていてくれ、トビ。パストラルさん! ちょっといいですか!?」


 そして数十秒後。

 石窯にアップルパイの乗った大皿を、頭の上に両手でかかげるように持ったルートが近付いていく。

 俺とトビ、パストラルさんはそれをやや離れた位置から見守った。


「見慣れていたつもりでしたが……ああしていると何か可愛いですね、ルート」

「ルートの小ささ、それからアップルパイのデカさの対比が面白いですよね。その割に歩行が安定しているから、落とす心配はなさそうですし」

「ハインド殿、あの大皿一杯にアップルパイなのでござるか? あれでもかなりでっかいでござるが、もっと大きくは――」

「あれが石窯に入る限界サイズなんだよ。他の調理法も考えたけど、味が落ちると思ったから断念した」


 ちなみにユーミルにも味を取るか、味が落ちてでもドリームなサイズを取るのとどちらがいいのか訊いたところ、前者を選択。

 石窯で焼くアップルパイ、という魅力には勝てなかったようだ。

 ルートはセレーネさんの視界に入るように、横合いからてこてこと歩いていく。

 樹木精霊にも見習ってほしい可愛らしさだ。同じ植物系なのだし。

 やがてセレーネさんから絶妙な距離を置いて、皿を掲げた体勢のまま静止した。


「……あれ? ルート?」


 よし、気が付いた。

 三人で視線を交わして示し合わせ、頷き合った後にやや大きめの足音を出しながら近付く。


「セレーネさん」

「あっ……ハインド君。トビ君とパストラルちゃんも。もしかして、そっちの準備は……?」

「終わりました。石窯の様子はどうですか?」


 と、手間をかけた甲斐があり、セレーネさんが微笑をもって迎えてくれる。

 そして、それからおよそ十分後。

 石窯の煙突から、ただの煙だけではなく、焼きの入った香ばしい生地、主役の林檎、それにバターの香りが周囲に飛び始める。

 いつの間にか、テーブルで待っていたはずの面々も石窯の前に集まっていた。


「……よし、取り出すぞ」


 ピザにも使用した「パーラー」が熱気の中を突き進み、石窯の奥からアップルパイを連れて戻ってくる。

 煙突からも出ていた甘い香りが強くなり、子どもたちを中心に歓声が上がった。


「おー!? ハインド、早く切ってくれ! 食べよう!」

「待て待て、まだ仕上げが残っているだろう?」

「……仕上げ? 何のことだ?」

「アップルパイにはつきものの、あれだよ。表面の艶出し」

「なるほど!」


 アップルパイの表面には、卵黄、水飴、蜂蜜などで艶を出すのが定番である。

 そんな訳で、今回は止まり木のみんなが養蜂して得た蜂蜜を表面に。

 子どもたちに刷毛はけを渡し、量だけはこちらで調整して塗りたくってもらった。


「たぁー!」

「ぺたぺた……あっ、服についちゃった!」

「あまーい!」

「真ん中はお前たちには遠いから、私に任せろ!」

「まかせるー」


 蜂蜜を舐めちゃっている子がいるのはお約束。

 そしてユーミルが子どもたちに混ざっているのも、もはやお約束だ。

 完成したメートル級の巨大アップルパイを、切る前に一旦テーブルの上に置いてみる。


「おお、圧巻……」

「妥協したとはいえ、充分でかいな!」

「これ、絶対味も絶品でござろう!? にほひで分かる!」

「にほひ……? それは単に香りという意味ですか? それとも古語における色つやなどの美しさ、という用法を踏まえた上で言っているのですか?」

「え? えーと、でござるな……どっちも?」

「そうですか。深読みし過ぎた私が馬鹿でした。前者ですね」

「ぬがっ!?」


 トビがリィズから非情なツッコミを受けている……。

 そういや、一部の戦国史とかはいけても古文は駄目だっけ?

 ……古文の勉強、今度一緒にしような。


「あ、あはは……でも、本当にいい香りだよ。リィズちゃん」

「デカ盛りとかって、あんまり美味しそうに見えないのが多いですけど……先輩作はでっかくても美味しそうですねぇ。この網目が実に綺麗じゃー」

「うんうん、綺麗じゃー! シーちゃんとサイちゃんも、一緒にアイス載せる?」

「アイスも良いけど、まずはこのまま味わったほうがいいんじゃない? リコ」


 口々に感想を言い合っていると、早く切ってと急かす子どもたちの横からパストラルさんが困った顔で近付いてきた。

 どうしたのだろう?


「あの、ハインドさん……あちらを見てください」

「はい? ……あっ」


 農業区の境目、見えない壁にプレイヤーが何人か張り付いていた。

 個人の農業区やホームは、設定次第で外に漏れる音を消したり中を見えなくしたりできるのだが、どうやら香りは別だったらしい。

 ……って、あれスピーナさんじゃないか?

 よく見るとカクタケアを始め、張り付いて中を見ているのは顔見知りばかりだ。

 ってことは、香りだけじゃなく、こっちの様子も見えているな……フレンドばっかりだし……。

 俺はパストラルさん、それからユーミルと顔を見合わせる。

 最初に口を開いたのはユーミルだ。


「……入れてやるか? ハインド、パスティ」

「そうだな。このアップルパイの大きさだし、やろうと思えば追加で用意できるから……パストラルさん?」

「はい、そうしましょう。こういったものは――」

「うむ、大人数のほうが楽しいしな! あの面子なら、セッちゃんの人見知りも問題なし!」


 最終的に、百を超える人数で賑やかにアップルパイを食べることになった。

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