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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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シエスタと言葉のキャッチボール

 ……空が青い。

 抜けるような青い空だ。

 やや強めの浜風が、厚い雲をどんどん押し出していく。

 そういえば、ここは岬なだけあって終始風が強めだよな……。

『マール共和国』らしい南国の暖かな気候もあって、ずっとこのままの体勢でも苦にならない感じだ。


「……先輩。もしかして現実逃避しています?」

「……少し」


 天を仰いでいると、近場からのんびりした声が呼びかける。

 その言葉を発した主は、もちろんシエスタちゃんである。

 疲れたのか、スタンが解けても復帰した位置から全く動いていない。

 横で俺と同じように、空を見上げてぐったりと寝そべっている。

 俺が寝転がったままなのは……うん……。


「さすがに、ラストの一連の動きがちょっとね……自分が嫌になる……」

「まー、私も人のことは全く言えませんが。先輩、ダサダサでしたよねぇ……」

「!? あ、あんた、助けようとしてくれた相手に対してそれ!? 結構酷いわね!」


 不意に、片腕にあった重みが消失する。

 アラウダちゃんが跳ね起きて、シエスタちゃんを指差す。

 顔に少し赤みがあって血色が良さそうな辺り、落下による影響は少ないようだ。

 ありがたくも俺を擁護するようなことを言ってくれているが、それについてはシエスタちゃんの返しで正解だと思う。


「いやいや、変なおためごかしよりは正直なほうが……ねえ?」


 シエスタちゃんに視線を向ける。

 すると、あっさり頷きが返ってきて……。


「ですよねぇ。私もダサかったですよね?」

「ユーミルに散々振り回された挙句、へっぴり腰で林檎を採りに行った訳だからねぇ……格好良くはないっすなぁ」

「あははははは」

「何で貶されて笑ってんの!? 分からない、分からないわよ……」


 少し毒のなくなった表情で、アラウダちゃんが素直な困惑の感情を口に出す。

 いい傾向……だとは思うんだけどな。あと一歩、という感じがする。

 シエスタちゃんは相変わらずそんなアラウダちゃんを見ても、何か言う気はなさそうだ。

 小さくあくびを一つ。

 やがてアラウダちゃんは、俺に向かって深めに頭を下げた。


「その……助けようとしてくれて、ありがとう――じゃない、ありがとう、ございました」


 あー、結局一緒に落ちただけの愚行に礼を言ってくれるのか。

 そう律儀にされると、かえってこちらが申し訳ない気持ちになるな。


「気にしないで。全然、純粋な想いからの行動とかじゃなくて……これ以上、二人の仲が拗れないようになんて、打算に満ち満ちた思考の結果だから」

「しかも失敗していますしね」

「そうなんだよね……意味ねえわ、全くもって……」

「咄嗟に体が動いたぜ! とかー、困っている人を見ると助けずにはいられないんだ……とか、いかにもそれっぽい理由じゃない辺り、実に先輩だなぁ……」

「そういうのは、ほら……あそこに転がっている、ガーデンのギルマスとかの領分だから」


 何がそんなに嬉しいのか、にこにことシエスタちゃんが俺を突っついてくる。

 フィールド内は小康状態だ。

 件のリヒトの周囲にはローゼを始めギルメンの女の子たちが集まっているし、他のプレイヤーたちも全体的に散らばってしまったからか、再集合して体勢を整え直している。


「……あの」

「?」


 そこでようやく俺は体を起こし、未だにそこに立っているアラウダちゃんに顔を向けた。

 シエスタちゃんも体を起こし、手に持ったままだった『黄金の林檎』を眠そうな顔で俺の頭の上に乗せた。

 ……何で?

 と、それはともかく。


「ええと、どうしたの? アラウダちゃんも、ガーデンが集合しているところに戻ったほうがいいんじゃ?」

「いえ、その……今の二人みたいに、気安い会話っていうか……」


 アラウダちゃんの言葉に、俺とシエスタちゃんは顔を見合わせた。

 何というか、意外というか……どういう心境の変化だろうか。

 こちらのそんな表情を見て、アラウダちゃんが自分の発言を顧みたのか頭を振る。


「私、何言ってんだろ……すみません、忘れてください」


 去っていこうとする背中に、シエスタちゃんがもぞりと動く気配。

 ……ここは黙って成り行きを見守ったほうがよさそうだ。


「うーん……あくまでさ」

「……?」

「あくまで、私の場合だけど」


 アラウダちゃんが振り返って戻ってくる。

 それを待ってから、シエスタちゃんは言葉を続けた。


「大きく言うと、言葉が通じるかどうかだよね」

「言葉……? 同じ国に住んでいるんだから、言葉はちゃんと通じるじゃない?」

「捉え方が表面的だなぁ。単純」

「何ですって!?」

「あー、はいはい。とにかく、そういう意味で言ったんじゃないよ。えーと……色々面倒な説明をすっ飛ばして簡単にしちゃうと、極論、話していて楽しいかどうか――ってことになるのかなぁ?」


 シエスタちゃんが言いたいことは、何となくだが分かる。

 一方通行だったり話が噛み合わない相手とのやり取りというのは、結構な苦痛を感じるものだからな……。

 アラウダちゃんも先程よりはシエスタちゃんの言い分を理解できたのか、微妙な角度の頷きを見せる。


「……最初からそう言いなさいよ。それって、性格が合うとかそういうこと?」

「必ずしも性格が合っている必要はないと思うよ。なんか、同級生には相手に共感や同調ばっか求める子も多いけどさ。私とリコ、サイの波長が合っているように見える?」

「見えない」

「いや、自分から振っといてなんだけど……即答?」

「だってそうじゃない。でこぼこトリオよ」

「……あー、まあいいや。んで、性格は合っていなくていいんだけどー。波長っていうのかな? そこが少し――ほんの一部でも合えば、仲良く話せる可能性のある相手って言えるんじゃないかなぁ? それを私は、言葉の通じる相手って表現したんだけど」


 最近の私、喋り過ぎじゃないですか? と、シエスタちゃんがこちらを向いてぼやく。

 ……お疲れさまだけど、もうちょっと頑張ろうか?

 アラウダちゃんも、まだ説明が足りないっていう顔をしているし。

 俺が手振りでそう示すと、シエスタちゃんは少し嫌そうな顔をしつつも咳払いを一つ。


「こういうのって、あえて言葉にしないほうがいいと思うんだけどなぁ……どうしたって、クサイ感じになっちゃうし……」

「いいから、続き。話しなさいよ。最後まで聞きたい」


 話を終わらせようとするシエスタちゃんに対して、アラウダちゃんは一貫して言葉にしないと分からないという態度だ。

 最終的に、今の状態が続くよりはマシだという判断からか、シエスタちゃんが頬を掻きながら話を再開。


「アラウダにも分かりやすく話すなら……会話って、よくキャッチボールに例えられるじゃん? ……ですよね? 先輩」

「え、そこで俺に訊く? ……そ、そうだねぇ。偶に意図せずに強いボールを投げちゃったり、ドッジボールになってしまったり、石が投げ込まれる時もあるけど。そうだね。ボールを投げて、相手が投げ返してきたボールをちゃんと取って、またボールを投げる……基本だよね」


 ちなみにユーミルとリィズはかなり頻繁に、会話のドッジボール大会を開催中だ。

 毎日毎日、よく疲れないよな……。


「うんうん、先輩と私の感性はやっぱ似ていますねー。多少強いボールとか石を混ぜても、先輩は怪我せずちゃんとキャッチした上で、大抵優しく投げ返してくれますよねぇ。だからこそ、私にとって楽しい会話が成立するって寸法ですよー」

「……なるべく、石は混ぜないでほしいんだけどね?」


 さっきシエスタちゃんがダサかっただのと言った皮肉が、この場合は「石」にあたる。

 アラウダちゃんはどうにかついて来られているのか、理解半分といった顔で曖昧に頷く。


「……でさ、例の彼の場合は……今の例えで言うと、全然関係ない人の後ろから尖った石だとか洒落にならないでかい岩、ナイフだとかを投げつけておいて、それでゲラゲラ笑っているように見えちゃうわけよー」

「で、でも!」

「まあまあ、私から見ての話だよ。その上で、横にいる私に面白いだろう? だったら笑えよ――って、強要してくる感じがしてさぁ。全っ然笑えないっての、もー本当に」

「……」

「だから私にとって例の彼は……結論、“話が通じない相手”に該当するってことになるかな。どう? アラウダ。もういい加減に話し疲れたんだけど、理解してくれた?」

「――!」


 雷に打たれたような――あるいは、目から鱗が落ちたようにアラウダちゃんが驚きに目を開く。

 思い当たる節が色々あったのか、例のA君の記憶を探るようにしながら付近をうろうろと歩く。

 やがて、アラウダちゃんは憑き物が落ちたような呆然とした顔のまま口を開く。


「シエスタ……あんたってさ」

「……なに?」

「やっぱ、その……そういう方面に関しては、内面重視なの?」

「うーん……それこそ、いくらアラウダでも見て分かんない? 私、別にそういうの、隠していないつもりなんだけど?」


 ちらりと、シエスタちゃんが俺を見る。

 それに釣られてアラウダちゃんもこちらを――少し見た後に、慌てた様子ですぐに視線を逸らされた。

 別に構わないのだが、何だかちょっと悲しい。


「そ、そうよね……結構露骨だもんね……そっか、そういうことだったんだ……」

「あ、もしかしてアラウダ、今ので色々と満足した? だったら、勝負なんかやめて――」

「いいえ、勝負は続けるわよ」


 当たり前じゃない? と、アラウダちゃんが今までよりも晴れやかな笑みでシエスタちゃんを見返す。

 元気さを増した彼女の姿とは対照的に、シエスタちゃんは気怠さが数倍に増した顔で応じた。


「えー……もういいじゃん……。まだ勝負に負けてもいないのに、充分色々と話してあげたよ……?」

「駄目よ、まだ訊きたいことがあるんだから! これで勝負はようやく、互角に近付いたんだから――」


 ビシリ、と俺の頭の上に乗ったままの金林檎を指差すアラウダちゃん。

 そして俺と目が合うとまた慌てたように、その指をシエスタちゃんに向かって移動させた。

 ……もう下ろしていいかな? これ……。


「いい!? この後も、ちゃんと全力でやるのよ!」

「分かった、分かったよもー……何度目か分かんないよ、こう返事するの……」

「それだけ全力とか精一杯とかに対して、信用ないのよ! あんたは!」

「そりゃー、私とは縁遠い……遠い遠い星の言葉ですからー……」

「地球の言葉よ!? あんた地球人でしょ!」


 その後も、何度も何度も念押ししながら、アラウダちゃんはローゼたちのところに戻っていった。

 しかし、アラウダちゃんは気が付いているだろうか?

 面倒くさがりなシエスタちゃんがあそこまで説明してくれたということは、アラウダちゃんは「話が通じる相手」として少し認められつつあるということなのだが……。


「……何ですか? 先輩」

「いや、別に? 何でもないよ」


 ただ、喧嘩友だちくらいにはなれそうかな……と、少し希望が出てきたような気がしているだけだ。

 シエスタちゃんは俺の表情から色々と察するものがあったようだが、疲れているためか、何も言わずに俺の背中をペシペシと叩いた。

 どうやらおんぶを要求しているようだが、それよりもそろそろ金林檎をポーチにしまわない……?

 折角の戦利品なのに扱いが雑で、しつこく念押ししてきたアラウダちゃんの気持ちが少しだけ分かるような気がした。

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