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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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争奪戦・アリンガ岬 その9 掴んだもの

 ユーミルは先程『ネット玉』を使った以外、馬を操るのに精一杯なアラウダちゃんに攻撃をかけない。

 ここまで来たら、二人で競らせてやろうという考えなのだろう。

 ただし、シエスタちゃんの運動神経では不利ということも承知なようで……。


「シエスタ、決着の時だ! 今から最高速度で樹木精霊に突っ込む! 準備はいいな!?」

「へ……? ま、待ってくださいよ。いくらユーミル先輩は凹凸があって、掴まりやすいとはいえ――」

「無駄口ばかり叩いていると、舌を噛むぞ! ……グラドタークっ、風になれぇぇぇ!」

「鎧は、滑りやす……ひぅっ!?」


 グラドタークが力強く地を蹴り、並走していたアラウダちゃんとその馬を一瞬で引き離す。

 そして速度が落ちたとはいえ未だに素早い樹木精霊と並走を始め、ユーミルが剣を振りかざす。


「鈍臭くてノロマでスローリーなシエスタでも、掴まれる速度まで落とす!」

「うぇぇ、振動で酔ってきた……気持ち悪い……」


 ユーミル、その三つは表現が違うだけで言っていることは一緒じゃ……?

 シエスタちゃんはシエスタちゃんで、顔色が悪いな。最後まで持つのか?

 とはいえ、俺にできることはもうない。

 というよりも、まだ吹っ飛んだ衝撃が残っていて立てない。立とうとしたら普通に転倒した。


「てぃっ、てぃっ! ――ぬおっ!? 普通の林檎が大量に!」

「いだいっ、いだいっ!? ゆ、ユーミル先輩ぃ!」

「が、我慢しろ! え、えーと……そ、そうだ、ハインドならきっとこう言う! 遠距離で短時間に何度も攻撃できる味方がこの場にいない以上、これしか手はない! ……的な?」

「――次は絶対サイをレア林檎の前に連れてきます、絶対……あたっ!?」


 ユーミルは並走しつつ斬撃を与えて速度を削いでいる訳だが、当然至近距離なので、落ちてきた林檎が頭上から降ってくることになる。

 シエスタちゃんが攻撃魔法で金林檎を落とせないかと、杖で狙いを定めるが……それが可能ならば、とっくにセレーネさんが実行しているだろう。

 総じて、林檎はレアリティが上がるほど採取が難しい位置に配置される傾向にあるようだ。

 ボコボコと落ちる通常林檎の雨を受けつつも、やがてユーミルの攻撃は功を奏し始めた。

 不安定な走行中の馬の上で、足をプルプルと震えわせながらシエスタちゃんが枝に手を伸ばす。

 片手でユーミルの肩をしっかり掴みつつ、持っていた杖を収納してもう片方の手で樹木精霊の枝を……


「待て待て、そんな位置の枝を掴んでもアラウダに追いつかれる! 跳ぶぞ、シエスタ!」

「え、私が跳ぶんですか? そんなのできっこ――」

「ジャンプだ、グラドタァァァク!」

「!?」


 ユーミルが手綱を力強く引き、足でグラドタークの腹を素早く三度叩く。

 次の瞬間――二人を乗せたグラドタークが躍動した。


「ぎょええええっ!? ぎゃふっ!」

「よぉぉぉし、その位置なら勝っただろう! 後は一人で大丈夫だな!」


 グラドタークがジャンプした拍子に、跳ね飛んだシエスタちゃんが天辺に近い枝を掴む――という表現は正しくないか。

 枝に偶然体が引っかかった、というほうが正しいだろう。

 シエスタちゃんは腹でも打ったのか、少しの間、その場から動かなかったが……。

 やがてのそのそと四肢を使って抱えるようにしながら枝を伝って、慎重に移動を始めた。


「よし、いいぞシエスタちゃん……!」


 それを見届けたところで、ようやく自分の体に力が戻る。

 移動が可能になったので、どうにか樹木精霊に踏み潰されずに済みそうだ。

 崖から落ちたわけでもないのに、まるで小スタンか何かを受けたような拘束時間だった。

 もっとも落ちた場合は「特大スタン」といった感じで、今の比ではないレベルで動けないのだが。

 立ち上がって土を払いつつ、周囲の状況を再確認する。

 ユーミルは……。


「お邪魔しまぁぁぁぁす!!」


 お宅訪問のような掛け声と共に、やっとの思いで樹木精霊の近くまで辿り着いたプレイヤーたちを蹴散らしていた。

 本当に邪魔ぁぁぁ!? という叫びと共に、斬られた男性プレイヤーが崖下へと落ちていく。

 台詞の割に、それほど怒りがこもっていない声だったな……その辺りは、ユーミルの人柄が為せる業か。


「シエスタちゃんは――あっ!?」


 亀のような速度で金林檎に近付くシエスタちゃん。

 その背後から――いつの間にか精霊に取り付いていたアラウダちゃんが、猛烈なスピードで樹をよじ登っていく。

 ……正直に言ってしまうと、今回の勝負で重要なのは勝敗そのものよりも互いに全力で戦うことだ。

 それで二人の関係が多少なりともスッキリすれば儲けもの……といったように。

 だからこそ、ユーミルがやったように全力でサポートしつつも、最後の最後は邪魔をしないという今の展開は理想的だ。

 しかしながら、鬼気迫るアラウダちゃんの表情が見え、嫌な予感が芽生える。


「……」


 周囲をそっと確認……ボロボロの俺に、現在注目している人は誰もいない。

 派手に吹っ飛んだことで満足したのか、あれだけ執拗に狙ってきていた遠距離攻撃も今は鳴りを潜めている。

 特定して仕返ししてやりた――あ、いやいや。今はどうでもいいか。

 とにかく、俺はこちらに向かって走ってくる樹木精霊にそっと近付くことにした。


「しーえーすーたぁぁぁぁ……」

「ゾンビかな? 私、ホラーゲームはあんまり得意じゃないんだけど……」

「何の話!? ……と、とにかく、黄金の林檎はあんたに渡さないわよ!」

「この辺の枝は細くて、折れそうで怖いから……あんまり近付かないでほしいなぁ」

「はぁ!? 私よりあんたのほうが、どう考えたって重いに決まってるでしょ!? 体形からして――って、誰がまっ平よ!?」

「言ってない言ってない。何その自爆……私は単に、二人分の体重はまずいって意味で言ったんだけど……」


 身長はアラウダちゃんのほうが高いから、体重に関してはどっこいではないだろうか。

 ……って、女性の体重を推測するのは失礼か。

 何にしても、聞こえてきた会話の内容は、えーと……。

 ……うん、聞かなかったことにしよう。

 それよりも、そろそろシエスタちゃんの手が林檎に届きそうだ。

 俺は何かあってもフォローできるよう、樹木精霊の動きに合わせて自分の足で並走を始めた。

 もうかなり速度が低下しているので、馬がなくてもついていけそうだ。


「あーっ!? 待って! 待ってよ!」

「待たないよ……将棋や囲碁じゃないんだから。これだけ苦労して採れなかったじゃあ、さすがにみんなに申し訳ないし。ついでに私の気怠さも限界突破しそうだし……」


 苦労をかければかけた分だけ、成果が上がらなかった際の疲労はひとしおである。

 しかし……よし、シエスタちゃんが『黄金の林檎』をようやく、ようやく初ゲットできそうだ。

 真後ろに迫るアラウダちゃんの目の前で、シエスタちゃんがその手に林檎を――


「――待ちなさいって言っているでしょっ! このっ!」

「あっ!?」

「……えっ!?」


 声を上げつつ、アラウダちゃんがシエスタちゃんに飛びついた。

 その拍子に大きく枝がしなり、結果……。

 シエスタちゃんとアラウダちゃんは、揉み合うような状態のまま空中へと投げ出される。

 それも、非常に悪いことに崖のほうに向かって。


「まずいっ!」


 瞬間、俺は二人のもとに必死に走った。

 ――レア林檎の取得状態って、崖に落ちてもちゃんと保持されるのか?

 万全を期すなら落ちないほうがいいに決まっている。

 だが、そもそも俺の運動能力でシエスタちゃんを掴めるのか?

 掴めたとして、岸側に向けて投げることなんてできるのか?

 それに……できたとしても、アラウダちゃんはどうする?

 見殺し――と言ってしまうとかなり語弊があるな。

 かといって、見捨ててしまっていいのか? どうすれば禍根かこんを残さずに済む?

 ぐるぐると迷走気味に思考が巡る。

 考えながらも、金林檎を失って更に遅くなった樹木精霊とすれ違う。

 そんなぐちゃぐちゃな頭のまま落ちてくる二人の傍に駆け寄った俺は、どういう訳か……。


「だあああっ!」

「――!」

「――!?」


 できもしないのに二人ともキャッチし、当然のように堪え切れずに……崖から三人で、その体勢のまま落下した。


「――ッ!!」


 最悪だ。

 最悪の結果だ。

 何がしたかったのかさっぱり分からないし、この場に来た意味も全然ない行動だ。

 せめてと思い、二人に恐怖心を与えないよう頭を抱えてから崖の下を睨みつけた。

 風圧で急速に目が渇き、出てきた涙も風で直ぐに流れてしまう。

 眼下にあるのは波飛沫と、それによって濡れた黒っぽい岩肌……。

 このまま激突か、それとも――といったところで、ぐるりと。

 不意に、景色が反転した。


「――あばばばば!? じぇ、じぇんぱいぃぃ! りょうほーはむりりり!」

「うぎぎぎぎ!? ご、ごべんっでばばばば」

「あ、ぐぅ……!」


 ……。

 なるほど、実際に落ちた場合はこうなるのか……。

 俺たちはそのまま三人仲良く、電気を流されたような状態でしばらく悶えることになった。

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