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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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争奪戦・アリンガ岬 その6 岸壁上の林檎

 事情を説明している間に銅林檎が二つほど出てしまったが……。

 それよりも、今は話をまとめてスッキリと対決させてやることのほうが大事だ。


「ふーん……わざわざゲームの中で寝るための布団を、ねぇ……」


 小馬鹿にしたような顔で、アラウダちゃんがシエスタちゃんを見る。

 しかし、シエスタちゃんに動じる気配はない。


「そこで過敏に反応しちゃうのがアラウダ、別にどう思われてもいいやってなっちゃうのが私じゃない? だから、そんな顔されてもなぁ……」

「なっ……!」

「期待していたリアクションができなくて、ごめんね?」


 心底申し訳ない……というほどでもなく、いつも通りのフラットかつ間延びした声でシエスタちゃんがそう告げる。

 気が強くて素直なアラウダちゃんには、当然のように効果覿面だ。


「ムカつく!」

「さっきから怒鳴ってばかりで、疲れない?」

「このくらいで疲れるかっ! あんたと一緒にすんな!」


 際限なく続くかのような応酬に、隣から苛々したような空気と息を吸い込む音が伝わってくる。

 あ、これは……。


「――いい加減にしろ、お前たち! 話が一向に進まんだろうがっ!!」

「は、はいっ!」


 放たれたユーミルの鋭い声に、アラウダちゃんが思わずといった様子で背筋をピンと伸ばす。

 幸い他のプレイヤーたちに動揺はなかったが……あ、騒がしいと思ったら銀林檎が出ていたのか。

 どうやら、魔法やスキルの効果音に助けられたようだ。

マナーの話をしたばかりで、即座にそれを破るというのも考えものだからな。


「おー、リアル大喝……リコのとは大違い」

「シエスタも、返事っ!」

「はーい……」

「ハインド、もうさっさと話をまとめてしまえ! このままでは、いつまで経ってもイベントに集中できん!」

「ああ、分かってる」


 こちらはユーミル、俺、シエスタちゃん。

 あちらはアラウダちゃんとローゼ以外は既にフィールド内に散っているが、似たような規模の集団が多い以上、人数が足りなければそれだけ他よりも不利だ。

 今しているのも大事な話ではあるが、そろそろ金林檎が出るであろうことも考えると手短に済ませたい


「よし、それじゃあ確認するよ。シエスタちゃんが勝ったら一緒に布団素材の探索を」

「……はい、私はそれでいいです。シエスタ、本気でやんなさいよ!」

「分かった、分かったってばー。しつこいなぁ」


 既に本気なんだけど、というシエスタちゃんの改めての呟き。

 それから、二人にもう一点言っておかなければならないことがある。


「シエスタちゃんからは、何かない? 出してもいいかなっていう交換条件」

「あ、やっぱり要ります? 先輩は真面目だなぁ……」

「持ちかけられた勝負とはいえね、そこは平等じゃないと。後腐れがないほうが面倒くさくない――でしょ?」

「まー、そうですよね」


 ……と、またアラウダちゃんがこちらを見て何度もまばたきをしている。

 じっと観察していたりもそうだけど、彼女はちょいちょいこういう仕草をするよな。

 何がそんなに不思議なのだろう。


「うーん……」


 シエスタちゃんが小さく唸り、何か閃いた!

 ……というふうでもなく、頭を適当に掻いてから気怠そうにアラウダちゃんに視線を向ける。


「じゃー、例の彼を振った理由をアラウダにちゃんと答える……とかは?」

「――いいわね、それ! 私が納得いくまで、しっかりよ!?」

「えー……あんまり長いのは、ちょっと……」

「駄目よ! 言っておくけど、逃げるんじゃないわよ!? 絶対だからね!」

「……先輩。今からでもこの勝負、やめられませんかね?」

「かえってこじれて、面倒なことになってもいいのなら」

「……先輩のいじわる」


 シエスタちゃんがむくれたところで、ローゼが手を二度叩く。

 こいつはこいつで、少々待ちくたびれたといった様子が見て取れる。


「話はまとまったわね? じゃ、行くわよアラウダ」

「あ、はい! ローゼさん!」

「ハインド、シエスタ。私たちも行こう!」


 そうして俺たちがそれぞれ仲間のところに戻って、しばらくあとのことだった。

 まず聞こえてきたのは――


「きゃあああああ! リヒト様、出ました! 出ましたっ!」

「黄金の林檎ですよ!」

「採ってください、私たちが邪魔者を蹴散らします!」

「い、いや、今回はアラウダにって話……だった、よね……?」

「ゴージャスな金林檎は、リヒト様にこそ相応しいです!」


 耳障りな甲高い声が多数、ガーデンの女性たちから上がる。

 自分で耳を軽く塞ぎつつ、シエスタちゃんが首を傾げた。


「……先輩。このイベントは、全体的にみんなそうですけど」

「……? あ、ああ、前に奇声が酷いって言っていたあれね……でも、それは今回のイベント仕様のせいもあるから」


 妨害が有効、更には装備品やレベルなどが半端でも問題なしというイベント仕様が相まって、今回のイベントは非常に賑やかだ。

 熟練プレイヤーが行う的確な妨害に対しての怨嗟の声、熟練プレイヤーたちも運だけでレア林檎を持っていくエンジョイ勢への嫉妬……などなど。

 そして訪れる、フィールド全体が協力しての乱入NPC撃退。

 乱入NPCが来ると、熟練プレイヤーたちがエンジョイ勢から非常に頼りにされる――という構図に一変する。

 うーん、改めて考えてみると中々にカオスなイベント。

 最終的には正負の感情がトントン、後は互いに得た報酬でややプラス方面に……という感じか。


「他のプレイヤーさんたちは先輩の言う通りなんでしょうけど。でも、あそこはもしかしたら普段からあんな感じじゃありません? 特に酷いですよ」

「そ、そう……かな?」


 改めてガーデンのほうを見ると、ローゼが何かを大声で叫び、エルデさんがニッコリ笑いかけながら何か言うと騒ぎが収まった。

 立派にギルドを掌握しているようだけど、二人とも苦労しているな。


「……そうかも」

「でしょ?」

「やっぱ、リヒトがもうちょっと――いや、やめておこう。言いたいことはもう言ったし、イベントに集中だ」


 さて、金林檎の位置は――って、崖っぷちじゃないか。

 瞬殺されなかったのは幸いだが、位置がまずい。

 しかも崖に沿って加速している……あれを採るのは至難の業だ。

 指笛を吹いてグラドタークを呼んでいると、先に馬に乗ったトビが傍に来て同じ方向を見る。


「おおう、さながらチキンレースのような様相になっているでござるな……」

「ああ。崖に向かってプレイヤーたちが突っ込んでいくな……」


 俺たちも馬に乗り込みながら樹木精霊を追いかけ始めるが、やや後発だ。

 今回はユーミルの勘が大きく外れた形である。

 そして外した当人は、シエスタちゃんを馬に引き上げると焦りを帯びた声で呼びかける。


「ハインド、早く早く!」

「待った、ユーミル。こうなると、樹木精霊の減速を見てから行ったほうがいい」


 最高速度に達した金林檎付きの樹木精霊は、そう簡単に捉えられない。

 範囲魔法を置き撃ちして速度を落とす手もあるが、魔法に触れれば当然味方も吹っ飛ぶ。

 樹木精霊自体も『黄金の林檎』持ちだとノックバックやヒットストップを大きく軽減するので、実質的に「手が付けられない」速度領域が存在する。

 それが分かっていないと、無駄に疲れる上に勝負所を前に馬の足を使い切ってしまうことになる。


「急いで行ったところで、今は手出しできねえよ。さっきお前がやったみたいに、加速前なら話は別だが」

「お、おお……言われてみれば、ものすっごい加速しているな!」

「あんなの私、採れませんよ……っていうか、触ることもできないんじゃ?」


 腕を伸ばせば、腕ごと持っていかれそうな勢いだ。

 ユーミルもシエスタちゃんも、それを見て馬の速度を緩めることに賛同する。

 パストラルさんに合図を送って移動速度を緩めると、リコリスちゃんが馬首を並べてくる。


「そういえば、ハインド先輩。あの崖から落ちちゃうと、どうなるんですか?」

「ああ、それは……」


 真っ先に辿り着いた集団が案の定、樹木精霊に触れることなく崖から馬ごと落ちていく。

 少しの間を置いて、馬と一緒に適当な位置にスタン・ダメージ付きで復帰。


「……ああなる」

「海に落ちたときよりも厳しいペナルティです!」

「縮地を失敗したときの拙者に近い状態でござるな……」


 実際には縮地よりもずっと長いスタンがあるようだが。

 落ちた際の体勢なのか、みんな変なポーズな上に、恐怖が張り付いた表情でスタンしているのが怖い。


「うわ……リアルに崖から落ちる恐怖体験ができるってことですよねー? やだなぁ……」


 シエスタちゃんがぼやき、


「しっかり下に激突してから戻されているのか、それとも落下の途中で戻されているのか気になりますが……」


 リィズがそう呟く。

 俺たちの中でも、それを聞いて数人が顔を青くする。


「やってみたくはないな。高所恐怖症の人とかそれに近い人は、決して無理をしないように。崖から遠目の位置でいいから、そこで妨害に回ってくれ」

「う、うむ。止まり木のみんなも、苦手な人は無理するな!」


 俺、ユーミルの順でみんなに呼びかけたところで、会話が減って馬での移動に集中し始める。

 こんなことを言ってはいるが、熱くなるとこいつのブレーキは簡単に壊れるからなぁ……大丈夫かな。


「はっは、そうですな。我々年寄りは、落ちた拍子に心臓が止まりかねません」

「わ、笑えないぞバウじい!」

「そうでなくとも、力んで腰をやっちまったり……」

「血圧が上がってしまうかもしれないですねぇ」

「だ、だから笑えないぞ!? ハインド、ご老人たちの自虐ネタに対してはどう返せばいいのだ!?」

「さ、さあ? 俺に訊かれても……」


 ウチ、じいちゃんとばあちゃんは遠方に住んでいるからなぁ……。

 だからこそ、止まり木のお年寄りたちとの交流は新鮮で楽しくもあるのだが。


「適当に聞き流しつつ、張り付けたような笑みを投げかければいいんじゃないです?」

「シーちゃん、それ駄目なタイプの大人の対応だよ!? めっ!」

「シー、止まり木のみなさんにもだけど、私たちにも絶対にやらないでよね? それ」

「うん、人の話はちゃんと聞かないとね……」

「わー、ふるぼっこー」


 そんなことを言いつつ、何だかんだでシエスタちゃんは人の話をきちんと聞いているのだが。

 それを知らずに表面上の言葉ばかりを掬い上げてしまうと、アラウダちゃんのように誤解を――


「ハインド君、そろそろ減速しそうだよ。ガーデンさんたちも来ているし、このフィールド内のプレイヤーのレベルを考えると……」


 セレーネさんが抜け目なく樹木精霊を観察して報告してくれる。

 まだまだ樹木精霊の動きは速いが……。


「もう行かないと、他に採られてしまいますか……よし、俺たちも加速するぞ」

「あっ、あっ、もうですか? えー……まだあんなに速いのに……」

「覚悟を決めろ、シエスタ! 私がついているぞ!」

「それが一番不安なんですけどねー……ユーミル先輩って、ニトロの加速装置っていうか、ドッカンターボのエンジンっていうか……」

「よーし、進めグラドターク!」

「あ、やっぱり話は聞いてくれないんですね。これが聞き流される苦しみ……」


 期しくも同じタイミングで移動速度を上げたガーデンの姿を気にしつつ、樹木精霊を追いかける。

 発見時はあんな調子だったのに、動きは冷静だ。

 参謀役であるエルデさんが、こちらに向けて小さく手を振っている。

 油断ならない相手だ……俺は手綱を握り直し、周囲の状況把握に力を入れ始めた。

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