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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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争奪戦・アリンガ岬 その5 遭遇

「なーんで会っちゃうかなあ……イベントが終わるまで、会うことなんてないと思っていたのに……」

「それはこっちの台詞よ!」


 普段から活動時間が近いということがあるにせよ、ランダム振り分けという性質上、ばったり出くわすというのはかなり稀なことだろう。

 嫌そうな顔をしたシエスタちゃんに、早速アラウダちゃんが噛みついていく。

 ガーデンのメンバーは……ローゼに、エルデさん、それからリヒト。

 顔を知っているのは三人で、リヒトがいるので一軍――かと思いきや、低レベルのプレイヤーも混ざっている不思議な構成だ。

 その中から、ローゼがリヒトの背を押して近付いてくる。


「ほら、ちゃんとして!」

「わ、分かっているよ……」


 半ば突き飛ばされるような恰好で、リヒトが俺たちの前に出る。

 相変わらず尻に敷かれているんだな……しかし、何の用だ?


「あー、その……ハインド、くん。今、いいかな……?」

「金林檎は今しがた出たばかりだし、問題ないよ。クラーケンイベント以来かな? えーと……呼び捨てでいいよ、リヒト」


 闘技大会やレイドイベントで少し話した時も、互いにこんな口調だったはずだし。

 リヒトの堅い態度に察するものがあったのか、リィズが俺の隣に来て並ぶ。

 それを見たリヒトは一瞬唇を強く噛むと、その勢いのままその場で頭を下げた。


「すまなかった! ギルドのメンバーが、君たちに迷惑を……」

「あ、ああ……」

「……」


 リィズと視線を交わし合う。

 そういえば、リヒトからの謝罪はメールで受け取ったきりだったかな……。

 ローゼに頭を下げてもらったことで、俺たちの中では消化済みなのだが。

 俺たちの態度に怒りが含まれていないことに、リヒトがほっとした様子を見せて一歩下がる。

 ……だが、それで終わるのは、何かちょっと違うんじゃないか?

 ちらりとローゼの顔を横目で窺うリヒトの姿に、リィズの表情にも険が出てきている。

 今、一人で俺たちと話をしているんだよな? そこで人に頼るような動きを見せたら、駄目だろうよ……。

 穏便に済ませたかったが、これは物言わずにはいられないな。


「……リヒト。誰にでも優しくするのも、仲良くなった同士でワイワイやるのも結構だけどさ」

「あ、えっ?」

「そうですね、ハインドさんの仰る通りです。最低限、他人に迷惑をかけないようにしていただけますと助かります。あの時……アリスさんたちに絡まれた時は、正直言って大変不快でしたから」


 リィズの厳しい物言いに、顔を上げたリヒトの表情が凍り付く。

 後ろで見ていたガーデンの女性たちが怒りの声を上げるが、リヒトは手を上げて静まるように促す。

 良かった、苦言を聞き入れる程度の度量はあるようだ。


「あー、なんだ……ゲームなんだから、楽しくやるのが一番だけどさ。そこは、ほら……TBはオンラインゲームなんだし」

「……ああ」

「……遊んでいる場所が共有空間なんだから、マナーは大事だと思う。マナーに関しては個々に責任があるし、当然一番追及されるべきは、リヒトじゃなくて事を起こしたアリスたちだ」

「し、しかし……」

「まあ、ひとまず最後まで聞いてくれ。ゲームのギルマスなんてものに全ギルド員の責任を求めたら、誰もやりたがらないっていうのも分かる。管理が緩々で“誰でも歓迎”っていうギルドも、それはそれで大事な存在だしな。軽く遊ぶのも、しっかり遊ぶのも自由なんだし」

「……」

「でも、ガーデンっていうギルドはそうじゃない。かなり特殊だ」


 何せエルデさんのような特殊な人を除き、大多数がリヒトを好きな女子プレイヤーによる集まりだから。

 ……トビ、分かったから歯ぎしりするな。

 その下品なジェスチャーを止めろ、ガーデンの女子に見咎められたら酷い目に遭うぞ。

 それと、何かアラウダちゃんが驚いたような表情でこっちをじっと見ているな……視線が固定され過ぎていて、ちょっと話し難く感じるレベルだ。

 ええと、気を取り直して。ガーデンの特殊性の話だったな。


「ガーデンはリヒトの発言による影響が非常に大きなギルドだ。リヒトを中心に回っていると言っても過言じゃない。リヒトにその自覚があるのかは知らないが……その気があれば、アリスたちが問題を起こす前にどうとでもできたはずだ」


 外部の人間である弦月さんが「目に余る」と言うくらいだったのだから、気が付かないはずがない。

 分かっていて何もしなかったのだ、リヒトは。

 アリスたちはリヒトに好意を寄せているのだし、何か一言さえあれば、ああはならなかったはずだ。


「もちろん俺は副ギルマスだし、当時のガーデンの様子を全て知っている訳じゃない。大きなギルドと小さなギルドでは苦労も違うんだろうから、偉そうに言えた立場じゃないんだが……」

「いや……君の言う通りだ、ハインド。アリスたちが暴走したことに関しては、全て僕に責任がある」


 リヒトは目を閉じて胸に手を当ててから、顔を上げてこちらを真っ直ぐに見返してきた。

 ……どの角度から見ても、本当に端整な顔立ちをしてやがる。

 あちらで露骨にリヒトに敵意を剥き出しにしているトビほどではないが、見ていて何か腹立つな。


「今後は、ギルドマスターとしての自覚を持ってギルドを運営していくよ。ハインド、リィズ……本当に、迷惑をかけてすまなかった」

「……そうかい」


 言葉を胸に刻んだ、という態度に見えるが……どうだろうなぁ。

 こういうタイプは、ポーズだけということも往々にしてあるからな……。

 しかし、残念ながら俺もリィズもこれ以上、リヒトに何かしてやろうという情を持ち合わせていない。

 どちらかというと、リヒトなどよりはローゼに期待するところである。

 ちなみにローゼはリィズが最初に、その後に俺が苦言を呈している間「もっと言ってやってくれ」という顔をずっとしていた。

 ということで、リヒトからローゼへと視線を移す。


「そういや、ローゼ。例のリストリオは?」

「り、リストリオ……ぷふっ!?」

「いや、どこでツボってんだよ。ローゼ、さっきも途中で何か笑っていなかったか?」

「だってあんたの話、偶然町で会った弦月がリヒトにしたお説教と大体一緒だったから……くふふっ」

「え……マジで?」

「マジよマジ。話し方とか言葉選びはもちろん違うけどね。中身は、ほとんど一緒よ」


 堅い話が終わったという気配を察して、互いのメンバーが自由にフィールドを動き始める。

 ローゼがみんなに指示出しでもしていろ、とリヒトを手で追っ払っている辺り、余裕があるというか余裕ができたというか……。

 あそこの集団、本気度の差はあれど恋敵ばっかりなんだよな? 凄いな、こいつ。


「……で、どうなんだよ? 訊いたからには、答えてもらえないと何か気持ち悪いんだが」

「あいつらは今回くじ引きに負けたから、別動隊でイベントに参加しているわよ」


 ああ、別にギルドを脱退したとかそういうことではないんだな。

 ちょっと安心した。


「本当は、あいつらにも直接謝りに来させるのが筋だと思うんだけど……ごめんね?」

「ああ、いい、いい。な? リィズ」

「そうですね。もう充分です」


 もう充分、ギルドとしての誠意は見せてもらったから。

 と、そこで特に用もなく寄ってきたユーミルを見て、ローゼがアイテムポーチに手を入れる。


「……食べる? ユーミル。林檎ばっかりじゃ飽きるでしょ?」


 出てきたのはビーフジャーキー。

 そういや、好きだったっけ……自分が先に一つ取って、既に齧り付いている。


「おお、食べる食べる! シエスタも来い! 肉でパワーを付けろ、パワーを!」

「おー、ジャーキーですか。私はそういうダラダラ齧れるやつ好きですよー。するめとか」


 教室でよく見る、女子生徒によるお菓子交換に見えなくも……見えないな。

 ちょっと学校にビーフジャーキーを持ってくる女子高生は見たことがない。

 もしかしたら、全国を探せばいるのかもしれないけれど。

 俺も差し出されたビーフジャーキーを齧り……あれ、前よりも味が良くなっていないか?


「あ、あの、ローゼさん」

「何よ、アラウダ」

「あんまり仲良くしていると、競争しづらくなりませんかね……?」


 ローゼが配るジャーキーを数人で齧っていると、アラウダちゃんが寄ってきてそんなことを言う。

 それにローゼは少し考えるようにすると、こう返す。


「んー……別にいいんじゃない?」

「ええっ!?」

「だって、対決中っていっても憎しみをぶつけ合う訳じゃないんだし……」

「私は憎たらしいんですよ! シエスタのことが!」

「細かいことを言うんじゃないわよ。ほら、肉食べなさい、肉」

「ええー……」


 理不尽な言葉と共に押し付けられたジャーキーを、困惑しつつもしっかりと受け取るアラウダちゃん。

 すっかり毒気を抜かれたところで、シエスタちゃんがそちらに半眼を向ける。


「そうそう、細かいことを言わなーい。眉間に皺が寄っちゃうよ?」

「あんたが言うな! 元凶の癖に!」

「肉、塩加減が絶妙でうまー。どうやって作っているんです、これ? 先輩なら同じもの、作れたりします?」

「無視するなっ! くぅ……大体あんた、イベントの成績を見たわよ! ここまで金林檎の取得数ゼロって、どういうことよ!? やる気あんの!?」


 アラウダちゃんの拳を握っての言葉に、シエスタちゃんがかつてないキリッとした顔を作る。

 ……モグモグと、ビーフジャーキーを齧ったままで。


「失礼な。ちゃんと真面目にやっているってばー」

「はあ!?」

「全力全開でやって、あのザマだよ。ねえ? 先輩」

「……うん。残念ながら」

「……し、信じないわよ! じゃ、じゃあ、あんたが本気を出せるように、負けたら私が何でも一つ――」

「えー、別にいいよ……」

「何でよ!?」

「アラウダにして欲しいこと、別にないし……」

「あんたってやつは……! あんたってやつは! 本当に、どこまでもどこまでもムカつくやつね!?」


 アラウダちゃんの燃え上がるような激しい剣幕に、油を際限なく注ぎ続けるシエスタちゃん。

 なんだかなぁ……止めたほうがいいのだろうけれど。

 ローゼからも、どうにかしてよという視線が飛んでくる。

 二人を止めるのに適役だろうリコリスちゃんは……駄目か、止まり木のおじいちゃん・おばあちゃんたちと、のほほんと林檎を拾っている。サイネリアちゃんとセレーネさんも一緒だ。


「うーむ……」


 アラウダちゃんがしてくれることで、シエスタちゃんの利益になることか……。

 金輪際アラウダちゃんがシエスタちゃんに近付かない――みたいな、一切今後のためにならないものは論外として。

 もっと建設的というか、協力してできるような……あ、そうだ。


「……シエスタちゃん。シエスタちゃん」

「もー、アラウダはうるさいなぁ……何ですか、先輩?」

「折角だから、アラウダちゃんに新作布団の素材を一緒に探してもらったら? イベントが終わった後にでもさ」

「……あー、なるほど。ガーデンは資源が豊富なルストのギルドだし、それならいいかぁ……完成をイベント後にすれば、うん」

「……布団? 何よ、それ?」


 俺からの提案に、二人がそれぞれ違った反応を示した。

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