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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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争奪戦・アリンガ岬 その3 レア林檎の探知役

「ということで、ユーミル」

「む?」


 ちらり、とシエスタちゃんが不安そうな顔でデータの書かれた紙を見る。

 言いたいことは分かるけど、こいつにそれは見せないよ?


「お前をレア林檎の発見係に任命します。いいな?」

「うむ! 任せろ!」

「えー? 状況を全く理解していないのにその返事……?」


 シエスタちゃん、残念ながらユーミルに常識は通用しない。

 リィズもそれが分かっているのか、シエスタちゃんの隣に並んで口を開く。


「ユーミルさんですから。むしろ、詳しく説明すればするほど混乱しますし」

「……妹さん。微妙に馬鹿にしていますよね?」

「完全に馬鹿にしていますが、何か?」

「――と、とにかくだ!」


 ユーミルに二人の声が届くのを遮るように、間に入りつつ声を上げる。

 とはいえ、さすがにこれだけでは無理がある。

 相手が混乱しないようにするには、情報を絞って簡単に伝えることが肝要だ。


「レア林檎はみんなが沢山普通の林檎を採ると出易くなる。そろそろかな? と思ったら……」

「思ったら?」

「シエスタちゃんを連れて、出そうなところにダッシュだ。状況に応じて、馬も使っていい」

「分かった! シエスタを連れていけばいいのだな!」

「わーい、どんな風に連れていかれるのか楽しみだなぁ……はぁ……」


 自分の未来の姿を想像して、シエスタちゃんが遠い目をする。

 その後、主にリィズがみんなにレア林檎について判明した仕様を説明。

 止まり木の子どもたちが騒がしかったので、他のプレイヤーに聞かれたということもないはず。

 どの道、速度に差はあれ知っているプレイヤーは知っているだろう情報ではある。

 そんなこんなで、対レア林檎の布陣が整い……。


「そこだぁ! 行くぞシエスタぁぁぁ!」

「は、速い! 速いですってぇぇぇ! あ、足があああぁぁぁ……」


 ユーミルがシエスタちゃんを引っ張って移動するも、レア林檎は現れず。

 早くも苦し気なシエスタちゃんの声が、移動に合わせて遠ざかっていく。

 初動は出現位置以前に、タイミングすらさっぱり合っていないという状態に。


「ま、まあ、最初からそう上手くはいかないよな……」

「大体の位置でも、他のプレイヤーたちより近ければ御の字といったところでござろ?」


 トビが林檎を齧りながらこちらを向く。

 金林檎を付けた精霊は爆速だが、加速する前に捉まえれば瞬殺も有り得る。

 攻撃を当てれば減速するし、近ければ近いだけ有利だ。

 確かにトビの言う通り、言う通りなのだが……。


「……言っちゃなんだけど、ユーミルの場合は大外れか大当たりの二択しか選べない気がする」

「あ、ああー、それは……確かに」


 少し考えた後、物凄く分かるといった様子で苦笑を交えつつトビが頷く。

 程々に近い、という微妙なパターンを持ってくるようなやつではないのだ。

 リィズがシエスタちゃんに説明したように、レア林檎出現の予兆は俺たちが知る限り皆無である。

 だから前に使った作戦のように、フィールドの一角を占領するという作戦は理に適っていたのだが……レア林檎なしのときは攻撃しないという空気ができ上がった今となっては、袋叩きに遭う可能性もあって採用が難しい。

 頼まれた訳ではないが、止まり木のためにフィールドを走り回ってノーマル林檎も集めたいので、それらの都合も考えると自然とこのやり方に落ち着く。


「むっ……そこ! な気がする!」

「せ、せめて馬! 馬を使いましょう、ユーミル先輩!」


 ユーミルにシエスタちゃんが引きずり回される。

 少し気の毒だが、これもアラウダちゃんに勝ってすっぱりとわだかまりを解決するためだ……耐えろ、シエスタちゃん。

 しばらくして、走り込んだ地点に光が舞い……精霊が何もなかったユーミルたちの目の前に出現する。


「来た! ……って、ノーマル林檎オンリーではないか! ハズレかっ!」

「だ、だから、馬……ぜぇ、ぜぇ……の、乗り物を……」

「むぅぅ……そろそろ来る、という予感はバリバリにあるのだが!」

「あ、あのー……私の声、聞こえています……?」


 ちなみにユーミルの移動に合わせ、俺たちも林檎を拾いつつだが追従している。

 そして俺たちの他にもその周囲を、いつの間にか追従する謎の集団が。


「……あ、あの、ハインド君。あの人たちは、えっと……」


 圧迫感に少し怯えながらも、こちらにはあまり視線が向いていないことに胸を撫で下ろすセレーネさん。

 だが、油断したところでこちらにも集団の視線が。


「――っ!」


 野生の小動物のような警戒心で、さっと俺の背に隠れるセレーネさん。

 決して自意識過剰などではなく、明らかに見られているな……。

 しかし、このフィールドは攻略に熱心なプレイヤーも多いらしく、みんながみんな周囲を気にしている訳ではない。

 視線が散ったところで、セレーネさんが怖々とだが背中から出てくる。


「……単にユーミルが目立ち過ぎた結果のようですね。にしても、変な距離感」

「あの、は、ハインド君。狙いに気付かれている訳では……」

「ない……と、思いますが」


 当たるかどうかも分からない勘に任せた行動なので、狙いがバレたところでどうということはないが。

 どちらかというと、近くに金林檎が出た際のユーミルの反応速度に期待している部分の方が大きい。

 しかし念のため、トビにも視線で問いかけてみる。


「ないでござろう。勇者のオーラを出しっぱなしにしているから、ああなるのは当然というか……」

「どうしますか? ハインドさん。焙烙玉で吹き飛ばしますか?」

「過激!? いやいや、レア林檎が出れば散るだろ……放っておこう」


 リィズの言葉から分かる通り鬱陶しいことは確かだが、見られているだけなので害はない。

 そして、いかに渋いこのフィールドといえどそろそろ――


「ハインド先輩、ハインド先輩! あっちで銀林檎が出たみたいですよ!」

「えっ」


 リコリスちゃんの報告に、俺は背後を振り返る。

 そちらを向くとサイネリアちゃんが困り顔で視線を誘導してくれたので、彼女が発見してくれたのだろう。

 出現したのは、岬の先端……今の俺たちはかなり陸側に寄っているので、不利な位置と言わざるを得ない。

 どうやら、大外れのほうだったか。


「そっちかぁぁぁ!」

「真逆じゃないですかー……幸い銀林檎ですし、遠いし、ここは休憩を――」

「よし、行くぞシエスタぁ!」

「しましょ……先輩助けてぇぇぇ!」


 さすがに可哀想なので、走って通り過ぎようとするユーミルを必死に止めた。

 その後、グラドタークで急行させるもさすがに遠く……。

 前日までのフィールドよりも全体のレベルが高かったこともあり、銀林檎はあっという間に他のプレイヤーの手に渡った。


「駄目だったか……」

「何の、切り替え切り替え! 次だ、次!」

「お前のそういうところは見習いたいよ、ほんと」


 レア林檎はこれっきりということもないので、次を採れれば問題ない。

 アラウダちゃんとの勝負に関わってくるのは金林檎だが――同数だったときに備えて、採っておくに越したことはない。

 何よりも、金林檎に備えての練習になる。

 全く落ち込んだ様子もなくユーミルが息巻く一方、その腰にしがみついたシエスタちゃんは息も絶え絶えだ。


「ぜぇ、ぜぇ……」

「し、シーちゃん、大丈夫?」

「大丈夫じゃない……リコ、代わって……」

「え、いいの!?」

「いいの、じゃないわよ。ほら、しっかりして」


 サイネリアちゃんがスムーズに、二人が乗るグラドタークに馬を寄せてシエスタちゃんの背をさする。

 うーん、こう見るとサイネリアちゃんの乗馬もかなり上達したよな……それを活かせるような、何か特別な役割を与えられないものかな。

 それと、銀林檎こそ空振りだったが、嬉しい誤算が一つある。

 俺は若干バラバラながらも、しっかりと馬に乗って追従してきてくれた止まり木の面々の姿を見回した。

 トビが俺の視線を追って近寄ってくる様子を横目に、先頭にいるパストラルさんに声をかける。


「レア林檎の取得を手伝ってくれるとは聞いていましたけど……凄いですね。年齢的にも、個々の体力差が大きいのに」

「イベントに参加しようかという話が出た時から、おじいちゃんとかギッタラさんに教わりながらみんなで乗馬の練習をしていましたから」


 ギッタラさんというのは、前に馬の飼料――餌を改良するときに協力してくれた元飼育員のおばあちゃんである。

 TBでも主に動物の世話をしてくれている、動物大好きなおばあちゃんだ。

 ……と、それはそれとして。

 奥さんのエルンテさんと二人乗りのバウアーさんに目を向ける。


「えっと……バウアーさん、馬に乗れたんですか?」

「ええ、人並み程度には――といったところですな。最近は乗っていなかった上に、ゲームと現実の馬の違いに慣れませんでしたが。世話をして何度か乗っている内に、色々と昔の感覚を思い出しましてな」

「馬に乗った若いころのこの人、とっても格好良かったのよぉ。パストラルちゃんにも見せたかったわ」

「そ、それはもう何度も聞いたよ、おばあちゃん」

「初耳でござるな……フェンシングができて馬にも乗れるとか、バウアー殿はマジもんの騎士でござるか……?」


 スーパーおじいちゃんだな、バウアーさん……。

 過去の競馬イベントでサイネリアちゃんにアドバイスしなかったのは、そういった昔の経験が当てになるか分からなかったから――とのこと。

 止まり木的にはギルド立ち上げ直後という時期だったしな、これは仕方ない。

 他にもバウアーさんは、陶芸が得意だったりと実に多芸だ。

 俺たちが感心していると、パストラルさんが心配そうにこちらの顔色を窺う。


「ど、どうでしょうか? みなさんの足を引っ張らずに済みそうですか?」

「引っ張るどころか……なあ? トビ」

「然り然り、大変心強いでござるな! 馬を使った全体の機動力と、パストラル殿の統率は申し分なし!」


 老人たちが微笑み、子どもたちが思い思いに元気な声を上げる。

 勝手気ままな子どもたちがどう動くか、計算できないところもあるが……。

 ユーミルの勘頼みの移動も含めて、とにかく回数をこなすしかない。

 後は戦闘能力……というよりも妨害能力だが、パストラルさんの表情を見るにそちらも期待していいのだろうか?

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