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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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争奪戦・アリンガ岬 その2 レア林檎の出現条件

 この収穫祭イベントも始まって数日が経過し、プレイヤー間で暗黙の了解ができ上がっている。

 すなわち――


「おじいちゃん、りんごー!」

「おお、ありがとうよ」


 レア林檎がない時間はゆっくりと。

 互いに妨害したり、攻撃したりといった行動は極力控えるというものである。

 子どもたちと老人たちが林檎を拾って、もいで、時にそのまま齧る姿は林檎狩りそのままだ。

 通常林檎は争って採る必要がないほど潤沢で、多く拾うのに必要なのは根気くらいのものだ。

 俺も止まり木のみんなにならい、落ちている林檎を一つ手に取り、土を払って拭いてから齧ってみる。


「うーん……ハズレ、か?」


 精霊の林檎なので、何となく無条件で美味しいものかと思ったが……。

 実がしまっておらず、蜜が少ない。

 加工向きだな、これは。

 齧ってしまったので、後で個人的に食べるとしよう。

 TBのインベントリは、こういった食べかけの状態もしっかり保存される。


「ハインドさん」

「おっ……何だ? リィズ」


 リィズが俺の背を柔らかく叩きつつ声をかける。

 その視線は、俺がポーチにしまいかけている林檎に向いていて……。


「それ、どうするのですか?」

「どうって……美味しくなかったんで、一旦しまうんだけど。食べかけだし、後で自分用に焼くか、煮るか、ジャムにするかになると思うが」


 返答内容が大体予想できていたのか、リィズが反応よく何度か頷く。

 そんな風に俺たちが話している間にも、みんなは畑の収穫量アップのために林檎を集めている。

 ……あまり立ち止まって長く話していると、サボっているようで気が引けるのだが。


「どうした? 何か気になることでも?」

「いえ。ハインドさんにとってその林檎の価値が低いのでしたら、私にいただけると嬉しいのですが」

「……何で? こんな食べかけ、一体どうするんだ?」

「私が食べます。勿体ないですから」


 ……。

 その答えを聞いて少しだけ固まった後、俺はそっと食べかけの林檎をアイテムポーチの中にしまいこんだ。

 直後、リィズが目を丸くして俺の腕を掴む。


「ああっ!? どうしてしまうのですか!」

「あ、いや、つい……」


 額面通りに受け取るならば、食べ物を粗末にしないという意志のこもった立派な言葉だが。

 そうではない意味合いを感じるのは、俺の心が汚れているからか、それともリィズから漏れ出た邪心によるものか。

 何にしても、この話題はここで終了である。

 気まずさから周囲を見回していると、シエスタちゃんがのそのそと近付いてきているのが視界に入る。


「先輩、そろそろじゃありません? レア林檎」

「ああ、そうかもね。確かに、感覚的には近い気がする」

「妹さんなら、正確な周期とか段々分かってきて――どうかしました? 大好物のご馳走を目の前で取り上げられたような顔して」

「……シエスタさん。あなた、本当は分かっていて言っているのではないでしょうね……?」

「へ?」


 シエスタちゃんの疑問顔に半眼を向けた後、リィズは短い吐息を一つ。

 小さく頭を振ってから人差し指を立てる。


「そうですね……正確に割り出すことは難しいですが、データなら集めてあります」

「ほーほー、さすが妹さん。具体的にはどんな?」


 ほーほーとか言っているとノクスっぽいですね、とシエスタちゃんがリィズに質問しつつもこちらを向く。

 そのまま手でノクスっぽい形を作り、俺の肩に寄せて笑う。

 可愛いけど、今はちょっと……。

 案の定それにリィズが眉をひそめたので、怒りゲージが高まる前に俺はシエスタちゃんの体の向きを戻した。


「……はぁ。では、こちらをどうぞ」

「――うわ、何ですかこの数字の羅列?」


 説明する気が削がれたのか、データが書き込まれた紙をシエスタちゃんに押し付ける。

 今の内に、近くの林檎を拾っておこう……。


「私たちが参加したフィールドにおけるレア林檎の出現時刻と、種類・数。それに掲示板で集計されていたデータの中で、虚偽申告と思われる数値を省いて一覧にしたものがこれです」

「えー……ざっと見ただけで、即うんざりしそうになるんですが……」


 意味の分からない数字の羅列を見せられるのは、結構な苦痛だよな。

 ……っと、この速度の樹木精霊からなら俺でも林檎を採れるな。

 量も十分なので、『焙烙玉』で一気に落としてしまおう。

 直当てではなく、爆風で揺らす感じで。

 ――よし、バラバラと大量の林檎を落とすことに成功。

 こんな乱暴なやり方でも、実を傷つける心配が要らないのはゲームならではだ。

 あるいは、精霊の不思議パワーや加護だったりの理由付けが存在するのかもしれないが。


「おー、大漁大漁ー。じゃあ妹さん、私も先輩と――」

「解説を求めたのはあなたでしょう? 逃げないでください。……認めたくありませんが、あなたの頭ならすぐに理解できるはずです」


 ただし、その数字の意味が分かるなら、プレイヤーにとってこれほど有用なものもない。

 観念したのか、シエスタちゃんが頬を小さく掻きつつ数字で埋め尽くされた紙を受け取る。


「えーと………………」


 数字を追って視線が左右に動き始めるのを見届けてから、俺は林檎拾いに戻った。

 何だかんだで、この二人は似ているところがあるので会話がスムーズだ。

 シエスタちゃんに怠け癖があるので知識量こそ大きな開きがあるものの、頭の回転の速さについては同じくらいに思える。


「これが出現時刻ですよね? こっちは――」

「フィールドが満員になってからの経過時間です。それらは攻略サイトを運営している検証に熱心な方が、わざわざ無人のフィールドを探して一から計測したそうですから。誤差は少ないかと」

「うひゃー、信じられない根気……じゃ、上の記号はレア林檎の種類ですかー。となると……」


 このデータに関しては、俺だけが今日になって理世から事前に説明を受けている。

 後でみんなとも共有するべきデータだと思っていたが、この分なら二人に説明を任せても大丈夫そうだな。

 止まり木のみんなとの時間合わせが初めてだったので、今日はそちらを優先した形だ。


「あー、つまり、フィールド内にいるみんなのノーマル林檎の取得数と、レア林檎の出現率が連動しています?」

「そのようです」

「一定個数の取得で確定とかでは……ないんですね?」

「これだけブレがありますと、出現確率の上昇という線が濃厚でしょう。ただ……」

「課金アイテムの当たりを単引きしちゃうみたいに、稀に序盤でレアが出るフィールドがあるにせよ、傾向としては人数の上昇・取得数の増加に伴って多く出ているので確率の変動で間違いない――で、合っています?」


 馴染みのない「課金アイテム」という言葉にリィズが一瞬考えるように間を開けたが、インプット済みの知識だったようで即座に頷く。

 そういや、TBには課金アイテムないものなぁ。


「はい、おそらく間違いないかと。フィーバータイムは例外的に、その確率を大幅に上昇させた上で固定しているようで――やっぱり、やればできるじゃないですか」

「頭と舌が疲れました……うぇぇ……」


 シエスタちゃんが舌を出して脱力しつつ肩を落とす。

 そういや、このフィールドはレア林檎の出が悪いな……。

 お、この林檎は状態が良さそうだ。

 一般にはツルがしっかりしていて、林檎のお尻に当たる部分が黄色っぽいものは甘いとされる。

 こいつは重さもばっちりなので、味にかなり期待が持てるだろう。


「で、レア林檎の出現システムは分かりましたけどー。肝心のそれを察知する方法は?」

「ある訳がないじゃないですか」

「えー……」


 出現タイミングが完璧に分かってしまうと、出現が近いフィールドばかりを巡回するプレイヤーが生まれてしまうからな。

 だからフィールド内の総取得数も内部データなのだろうし、いかに数字に強いリィズであっても出現率が何と連動しているかまでしか分からなかったということだ。

 無論、それが分かっただけでもかなり凄いのだが。


「……先輩」

「――おわっ!? ど、どうしたシエスタちゃん!? いつにも増してグニャグニャだけど!?」


 林檎を拾って近付いたところで、シエスタちゃんが俺の背に倒れかかってくる。

 散々頭を使った上での総括がああだったので、徒労感に押し潰されている……のか?


「楽を、楽をしたいです……」

「う、うん……ま、まぁ、最終的に勘に任せるしかないっていう結論だったけれども」

「みんなに合わせてよーいドンじゃあ、私の足では勝てないんですよぉぉぉ……だからって、あいつの――アラウダの相手を、二度もしたくないですしぃ……はあぁ、しんどい……ダレるぅ……」

「……」


 リィズから無言の圧を感じるので、林檎をしまってシエスタちゃんと一緒に体勢を立て直す。

 しかし、そうだな……折角なので、今夜の内に対レア林檎の戦法を確立してしまうのもいいか。

 となると、シエスタちゃんへの返答としてはこうなる。


「ウチには勘が良くてそういうのを引き寄せるの、得意なやつがいるじゃない。確定条件がない以上、察知はそいつに任せるしかないよ」

「……あー、言われてみれば。でも何か、まーた、ちょっと嫌な予感がするんですが……」

「観念なさい。レア林檎の取得役があなたな以上、セットで行動することは必須でしょうから」

「ですよねー……あ、いや、嫌いだったりそういうことはないんですけどね? でもなぁ……」

「はは……とりあえず、そういう話になったのならいいタイミングだ。戦術説明が要るから、みんなを呼ぶとして。肝心のあいつは――おっ、いたいた。おーい」

「……む? ハインド、私を呼んだかぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺たち三人の視線と呼び声に気づいたユーミルが、こちらに向かって叫びながら全力で走ってくる。

 それを見たシエスタちゃんは、分かりやすく表情を引きつらせた。

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