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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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挑戦の成果

「閣下、こちらを」


 俺が状況把握を終える前に、ベリ連邦の兵がラルフに恭しく何かを差し出す。

 目を瞬かせつつそれが何なのか注視してみると、それは金・銀に輝く球体に近いもので……。


「……ああ。ご苦労だった」


 いつの間に取得していたのか、レア林檎がラルフの手に渡った。

 ラルフは一つずつ金銀の林檎を確認してから頷き、部下にそれを返す。

 丁寧に部下が、それを箱のようなものにしまって周囲を武装した兵が守るように囲む。


「作戦終了だ! 全部隊員に通達、本部に帰還する!」

「はっ!」


 部隊長らしき男の下知により、ベリ連邦の兵が撤収作業に移る。

 どうやらもう、彼らには攻撃の意志がないようだ。


「ユーミル、おい! しっかりしろ!」


 ラルフの脇を若干の警戒心を残しつつ通り、慌てて目を回しているユーミルの下へと走り寄る。

 打ち所が悪かったのか、『気絶』状態で定番の星エフェクトが頭の周りに出ていた。

 ぺちぺちと弱めに頬を刺激すると、回復が早まってユーミルが目を開ける。


「……む?」

「――よかった、何ともないな?」


 手を伸ばせば届く位置に転がっていた長剣を拾い、周囲を見回すユーミルの近くに置いてやる。

 HPは……転倒のダメージ以外は、さして減っていないか。

 ただ、ラルフのほうにもHPが減った様子が見られないんだよな。

 さっきの交錯、俺の目ではきちんと捉えられなかったのだが……ユーミル?


「ど、どうした? 今の状況、分かっているよな?」

「……」


 ユーミルは俺に抱えられた状態のまま、じっとこちらを見上げている。

 TBの『気絶』状態は視界がブラックアウトしたり聴覚が遮断されたりで周囲の状況を確認し難くはなるが、治った直後でも意識がボーっとしたりはしないはずだが。


「目が覚めたのなら、そろそろ立ち上がろうぜ……? 何してんだ?」

「……」


 聞こえていないはずはないのだが、ユーミルは何も答えない。

 そのまま何をするのかと見ていると、不意にメニュー画面を起動し――こちらに撮影範囲を向けて、パシャリ。


「――は? お前、今何をした!?」

「スクショだ!」

「そうじゃなくて!? どうして俺のスクショを撮ったのか、分かるように言えってんだよ!」


 ユーミルはそのままの状態で腕を組んだ。

 いや、いい加減に立てよ……? 何で不動なの?


「まず、お前との見事な連携により、ラルフを驚かせることに成功しただろう? あの高速反転、色々な意味でドキドキしたぞ!」

「本当に、ただ驚かせただけだが。当たっていなかったんだろう? 最後の攻撃は……」


 ユーミル自身も手応えがなかったらしく、微妙な笑みで視線を逸らす。

 ラルフはダメージからではなく、きっと自分の意志で魔法を解いたのだろう。

 って、俺が起こそうと力を込めてもこいつ、体重を無理やり乗せて姿勢をキープしてくるな。

 どういうことだよ……何がお前をそうさせるんだ。


「ま、まあ、それはそれとして! そして、気絶してしまった私だが……目を覚ますと、ハインドの腕の中! ちょっと心配そうな顔が、こっちを覗き込んでくる……それを見た瞬間、私の手は勝手にスクショ機能を起動していてだな? な?」

「そこで同意を求められてもな……」


 両手の指で四角の枠を作り、俺の顔をその中に収めて笑うユーミル。

 こいつがそうやって、ちゃんとゲームの機能をスムーズに使うのは珍しい。

 だが、用途がおかしくないか? そんなものを撮ってどうする……。


「俺、そんなに心配そうな顔をしていたか?」


 言われてみれば一瞬、ユーミルの頭にたんこぶなどができていないか確認しそうになったが、ゲームだしな……。

 しかし、俺の戸惑いを無視してユーミルの力説は続く。


「していたのだ! これはもう、撮るしかないだろう! 即保存!」

「え、ええ? 最後まで聞いても、それに何の価値があるのか全然分からん……」

「心配にさせること自体は問題だが、いざそういう顔をしてもらえると、こう……嬉しくなるだろう!?」

「分かるような分からんような……。あー、なんか、もういいや……」

「む? セッちゃんと――遺憾ながら、お前の妹なら分かってくれると思うぞ?」


 にしてもまだ立たないのかよ、お前は。腕が疲れてきたぞ。

 この一枚はシェアせずに、独り占めで――とか何とか、ブツブツと呟いているし。

 ……しかしまあ、周囲の状況を見る限り、別に急いで戦線に復帰しなくてもいいか。

 林檎争奪戦はラルフの妨害がなくなって激化しているものの、距離的にここからでは主戦場になっている場所に間に合わない。

 乱入NPCのラルフとその部下たちは必要分の林檎を得たからか、撤収のためにフィールド端――この近くに集まっているし……お?


「どうした? ハインド」

「あ、ああ。ラルフの袖口が……」


 血が滲まず、傷などになっている様子はなかったが……気のせいでなければ、さっくりと切れているように見えた。

 更には、ラルフがこちらを向いて――


「閣下……?」


 戸惑う兵士を置いて静かに歩み寄ると、こちらに何かを投げて寄越した。

 それは短剣のようで、刃が立っていない儀礼用のものに見える。

 意図が分からない俺たちは、氷上を滑ってくるそれを呆気に取られた顔で受け取った。


「閣下!」

「……ベリ連邦において敵に短剣を渡すということは、勝負を預ける――という意思表示となる。今ではさして使われることのない、古いしきたりだが」

「「……!」」


 ラルフらしからぬ長い口上以上に、その内容に俺たちは驚いて互いの顔を見合う。

 これは敵として認められた、と思っていいのだろうか……?


「また会おう」


 俺たちが動揺を収める間もなく、ラルフはあっという間に背を向けて去って行った。

 残された側近らしき兵士も、こちらに「何でこんなやつらに……?」という疑念がありありと見て取れる顔をしてから、それを追いかけていった。


「……むふ」


 ラルフの姿がフィールドから消えたところで、ユーミルが妙な笑いを見せる。

 悪戯を成功させた子どものような、あるいは本番で会心の出来を見せたスポーツ選手のような、それらがブレンドされた何とも言えない表情。

 要は、「してやったり」という顔だ。


「……嬉しそうにしちゃって、まあ」

「ふふふ……無論、次は対等な勝負をしたいがな? レベル差もあるし、今はこれで満足ということにしておく! これはある意味、私たちの勝ちだろう!」


 どうやら、グラドの皇帝陛下と戦った時よりは満足いく内容だったようだ。

 自分の中での目標――ラルフの澄ました顔を少しでも変化させる、という目標を達成できたからだろう。

 俺たちがそんな話をしつつ、ラルフの短剣をしまった……その直後だった。

 乱入NPCが全員フィールドを出た辺りで、視界一杯に派手な文字が躍る。


「うっわ、何だ何だ!? 次から次へと!」

「忙しいな!? ふぃー……ばー、と読めるが? ……ハインド?」

「フィーバータイム……? 特殊乱入NPCの撃退に成功、レア林檎出現率……三分間大幅上昇!? イベント告知に記載のない内容じゃねえか!」

「ふおおおっ!? は、ハインド!?」


 ユーミルを抱えたまま、思わずその場で俺は立ち上がった。

 そのままの勢いで、ユーミルを降ろして自分の足で立たせる。

 ――何だよ、その残念そうな顔と声は……。

 更に続けて、周囲の状況を確認すると……。


「うおおおお、すげえええ!! 宝の山ぁぁぁ!」

「乱獲、乱獲じゃああああ!」

「勇者ちゃん最高―っ! ごちでえええす!」

「うわー……」


 見たことがないほどの金と銀の林檎を付けた樹木精霊が、いつの間にかフィールド内に複数出現していた。

 それを追いかけ、一つの金林檎に集中していたプレイヤーたちが散っていく。


「金と銀が沢山!? ハインド、金林檎と銀林檎が!」

「分かってるよ……」


 ユーミルが焦ったように俺の手を引くが、焦らずまずは観察に努める。

 見た感じレア林檎の数自体は凄いが、ただでさえレア林檎持ちだと速い樹木精霊の足が更に速く、最終的なフィールド全体での取得数はそれほどにはならない気がする。

 樹木精霊は時間経過でいなくなってしまうし。

 しかしながら、それでも普通の状態よりチャンスが多いのは確かだ。

 みんなとの合流――は、位置的に難しいか。


「よし、ユーミル。とりあえず……」

「とりあえず?」

「……走るか。何も考えずに」

「また無策!?」


 またとは失礼な……作戦というものは、いかに事前に正確な情報を集めておくかで成功率が上下するのだ。

 こんな突飛な状況に対応できる作戦が、そうポンポンと出たら誰も苦労はしない。

 だが、ユーミルも歓喜と混乱が渦巻くフィールド内の様子を見て思い直したらしい。

 小さく唸ってから、大きな頷きを一つ。


「ううむ……この状況では、それも仕方ないか! 行くぞ、ハインド!」

「おう――って、引っ張るな引っ張るな! 下が氷なのを忘れるんじゃねえよ!」

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