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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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氷刃の貴公子

 ラルフが左手を掲げた直後から、周囲の冷気が収束していく。

 ……正確には、そんな感じのエフェクトが見えているという感じだが。

 やがてそれが終わると、右手に持ったサーベルに青いオーラが発生。


「……さあ、これならどうだ?」


 静かな声だというのに、ラルフのそれははっきりと耳に届いた。

 隙のない動きで、ユーミルに向かってサーベルを振り抜く。

 それは思わず見惚れるほどの、美しい斬撃だったが……。


「……む?」

「何だ……?」


 しかし、その攻撃はユーミルの遥か手前の空間を斬るに留まっている。

 それでも何か感じるものがあったのか、ユーミルは斬撃に合わせてサイドステップを一つ入れた。

 すると――


「え?」


 という口の形のまま、近くにいた軽戦士のプレイヤーが氷の中に閉じ込められた。

 声を発する間もない、一瞬の出来事。

 その軽戦士の頭上には状態異常『凍結』と表示されている。


「ま、魔法剣だと!? どういうことだ、ハインド!」

「……強い現地人はプレイヤーの職業区分、割と無視してくるよな……」

「つまり、何でもありか!?」


 強くてもサーラの女王様は純粋な魔導士だったが……。

 帝国の皇帝陛下は重戦士のようなちでありながら魔法も可、目の前のラルフは騎士寄りで魔法も使えるといった感じに見える。

 魔法のみの戦闘スタイルを止め、ようやく剣を使い始めたラルフだが、肝心の金林檎のほうの魔法は――


「野郎、魔法を激化させやがった!」

「止めろ止めろ! 当たればカスダメでも何でもいい! とにかく止めろ!」


 あ、止まっていないんだな……。

 それどころか、激化しただって?

 サーベルを抜いて、その気になったことで状況が悪化している? これはよくないな。

 このままでは、中途半端に刺激しただけという最悪の結果に終わってしまう。


「ユーミル、どうやら狙いは一致しているようだ! 周りに合わせろ!」

「わ、分かった! やってみる!」


 時折こちらに攻撃してくる状況を読めていないプレイヤーもいるが、このままではフィールド全体の林檎の回収効率は落ちるばかり。

 集まってきた「分かっている」プレイヤーおよそ五人に合わせ、一斉にラルフに攻撃をかける。


「ぬるい」

「「「――!?」」」


 湖面にラルフが突き立てた剣を中心に、氷の塊が周囲に飛散する。

 サイズこそ拳大のものがほとんどだったが、その勢いはプレイヤーたちを簡単に吹き飛ばすほど強いものだった。

 それに素早く反応できたのは、ユーミルを含めて三人。


「むおおっ!? そ、そう易々とぉ!」

「抜けたっ!? 勇者ちゃんに続けぇぇぇ!」

「っしゃあああ! やったるぜぇぇぇ!」


 残った二人のプレイヤーと一緒に、ユーミルがラルフに斬りかかる。

 しかし、一振り――


「ごっ、は!」


 二振り――


「イケメンくたばれぇ! ――あぎゃぁぁぁぁ!?」


 三、四振りとユーミルの剣を二度受ける合間に残った二人も大きく弾き飛ばされる。

 更には、鍔迫り合いになったユーミルの長剣が段々と……


「こ、氷が!?」


 ラルフの氷に浸食され、重くなっていく。

 さっと下がって剣を振ると、固着前だったのかバラバラと氷が落ちる。

 ユーミルは装備をスケート靴に変え、ラルフの周囲を回るように俺と合流した。


「……どうした? 来ないのか?」

「ううう、うるさい! 作戦タイムだ!」


 そんなユーミルの動きに、ラルフは追撃をかけない。

 サーベルを鞘に納め、静かに腕を組んで目を閉じる。

 そしてその間も、どういう訳かシエスタちゃんたちがいる遠方の魔法は止む気配がない。

 近接職が付近にいなくなったタイミングで、大量の遠距離攻撃がラルフに浴びせられるものの――氷の壁、氷の盾で物理・魔法問わず全てシャットアウトされてしまう。


「ぐぬぬ……! どこまでも余裕を見せおってからに!」

「悔しいが、力の差が歴然だな。こりゃ、普通にやってもどうにもならん。あの氷の魔法剣も厄介だ」

「むっ……!? ハインド、お前――!」

「諦めてねえよ。もちろん、魔法は止めるつもりだ」


 もう一人くらい、ユーミルと同格……は、難しいにしても。

 多少ラルフに食い下がれるプレイヤーがいれば違ってくるのだが、先程までの攻防を見た感じだと厳しいか。

 イベント仕様のせいで他のプレイヤーたちと即席の連携をしようとしても、ちょっとのフレンドリーファイアで互いを吹き飛ばしてしまうのもマイナス点だ。

 どうしても、協力して密度の濃い攻撃を仕掛けるのが難しい。


「……ともかく、バフをかけ直しながら作戦を言うから。よく聞いてくれよ?」

「おお!? 分かった、ちゃんと聞く!」

「いいか、まず――」


 伝えることはそれほど多くない。

 バフをかけ終え、それと同時に俺とユーミルはスケート靴を装備して走り出す。


「――よし! 待たせたな、ラルフ!」

「……」


 ユーミルの声に、ラルフは無言で再度サーベルを抜きはらう。

 寡黙なんだな……それと、どうもユーミルだけは現時点で他よりも評価しているようだ。

 俺たちが体勢を立て直している間にも、何人かのプレイヤーはサーベルを使うことなくラルフによって処理されている。

 このタイミングで即座に剣を構えたということは、そういうことだろう。

 そして、そんなラルフに対する俺たちの作戦は至ってシンプル。


「止まるなよ、ユーミル! 駆け抜けろ!」

「止まらないのは得意だ! 任せろ!」


 そこで得意気なのはどうかと思うが……。

俺たちの作戦は、装備しているスケート靴を活かすものだ。

 この場におけるスケート靴の利点は通常よりも最高速度、ただひたすらにそれだけである。

逆に、デメリットを挙げ始めればきりがない。

 不安定な足元、初速の遅さ、急激な方向転換の難しさにどうしても軽くなる近接攻撃などなど、しっかり相手と向き合っての戦いには向かないだろう。

 しかしながら先程他のプレイヤーが言っていたように、魔法を止めたいならどんな攻撃でも当たりさえすればそれでいいのだ。

 例えそれが、


「がへっ!? 不条理、不条理だぁぁぁー!」

「――せいやっ!」


 スケート靴な上に、元から頼りない神官の物理攻撃であっても。

 先に仕掛けて吹っ飛ばされた重戦士の陰から飛び出し、『支援者の杖』で突きを放つ。

 残念ながらこれだけでは不意を突けず、ラルフにあっさりといなされてしまう。

 ――って、あれえ!?

 いつの間にか使用しておいた『ホーリーウォール』がなくなっている!?

 いつ斬られたんだ!? こわっ! こわぁっ! ほとんどすれ違っただけだぞ!?

 内心慌てふためく俺の後ろから、更にユーミルが続き――


「そりゃああああ!」


 速度を活かしてすれ違いざまに、切っ先を引っかけるように斬撃を放つ。

 が、やはり届かず。

 ラルフに掴まらない限りはこれを続け、片方が掴まったり吹き飛ばされた時はそれをフォロー。

 とにかく、これを繰り返す。

 どうしても直線的な攻撃になるので、遥か格上であるラルフ相手にこの戦法は悪手に思えるが……。


「いい加減にしろやぁぁぁ!」

「レア林檎が増えても、それが一個も採れないんじゃ意味ないのよぉっ!」

「ふんがああああ!」

「ラルフ様が汚される!? やめてえええ!」

「ラルフ様に近寄るなぁぁぁ!」


 俺たちは別に、二対一で戦っている訳ではない。

 ラルフの相手が増えることもあれば、逆にこちらの妨害に来るベリ所属プレイヤーなり、ラルフファンなりのプレイヤーもいたりする。

 故に、待っていれば必ずその時は来る。

 ……別に、気付かないうちに高速で斬られたから、腰が引けているなんてことはない。

 これは、えーと……そう、単に慎重になっているだけだ!

 俺はただ慎重に事を運ぼうとしているだけで――おっ?


「――来た!」


 完全にラルフの目から俺たちの姿が見えなくなるその一瞬。

 自分の周りの敵を処理しつつ、遠方に魔法を送り続ける異常者に意味があるのかは分からないが――ともかく!

 ユーミルに突撃のサインを送り、自分もラルフを挟むように反対側から走り出す。

 到達は距離が近いユーミルが先、俺は僅かに遅れて二撃目という形になりそうだ。

 チャンスを逃さないよう、必死に氷を蹴って加速しつつ距離を詰める!


「――!」

「――ッ!」


 事前にしつこくしつこく言い聞かせておいた効果が出たか、ユーミルには珍しく無言の攻撃がラルフに向けて放たれる。

 ――今、分かりにくいけど少しだけ動きが違ったよな!? ラルフのやつ!

 俺はそれを見て滑走をやめ、『スパイクブーツ』に装備を変更しつつその場で緊急ブレーキをかけた。

 うおおっ、滑る! こええ! ――が、どうにかその場で止まることに成功!

『スパイクブーツ』の刃はしっかりと氷を捉えている!


「――ユーミル! 手を出せ!」

「ハインドぉぉぉ!!」


 ユーミルに向かって手を伸ばすと、剣を持っていないほうの手を迷わず俺に向かって伸ばしてくる。

 って、速いなおい!? 止まる気、皆無! いいけど!

 どうにか俺はユーミルの手を両手でがっしりと掴むと、


「ぬおおおおあぁぁぁっ!!」

「よぉぉし、回せぇぇぇ!」


 その場で回転しつつ方向転換、掴んでいたユーミルをラルフに向かって送り返した。

 いったぁ! 腕がいてえ!

 アイスダンスのペアで見た動きを思い出しながらだったが、色々と違っている上に素人なので、当然無理はある。

 だが、俺はともかくユーミルの運動神経は常人とは違っていた。


「くらえええええっ!!」


 あっさりと体勢を立て直して更に加速すると、今度はいつも通り叫びながら突進していく。

 現実だったら怖くて出せない――いや、ゲームであってもVRであれば大抵の人間が恐怖を感じる速度で、ユーミルがラルフに突きを放つ。

 体ごとぶつかるようなその攻撃を、ラルフは――


「……!」


 サーベルを捨て、虚空から取り出した青く美しい「槍」を両手で持って防いだ。

 激しい火花と共にラルフがユーミルを後方に受け流す。

 えええ!? 嘘だろう、今のを防ぐのか!?


「……フッ」


 ラルフはまず、攻撃を加えた勢いで滑って何度も転がってから止まり、目を回しているユーミルを見る。

 それから茫然と立ち尽くす俺のほうを向いて、小さく笑った……ような気がした。

 その直後、ラルフの魔法によってフィールド内のあちこちにでき上がっていた氷山や氷塊が、一斉に砕け散った。

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