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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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乱入者

「……」


 軍勢を従えてそこに無言で立っていたのは、凜とした存在感を放つ美丈夫。

 青みがかった長く美しい銀髪は、雪景色と調和しながらも自ら光を放っているかのごとき艶がある。

 簡単に一言で纏めるなら、こうだ。


「相変わらずの絵に描いたような美男子……いや、美青年か」


 その人物には見覚えがあった。

 目にしたのは一度きりだったが――


「誰だ!? あいつは!」

「えっ!? 何であんなに濃いキャラの現地人を忘れてんだ!?」


 一緒に見たはずのユーミルの発言に面食らう。

 満員のフィールドに突如現れた闖入者ちんにゅうしゃ――いや、闖入者はおかしいか。

 ここは彼の土地で、俺たちのほうがいわば余所者だ。

 そんな彼と彼の部下たちの姿に、トビを始めみんなが警戒してこちらに集まってくる中……。

 ユーミルは俺の反応を受けて、記憶を掘り返すように頭に手を当てつつ顔をしかめる。


「……ハインド」

「何だ?」

「ちょっとスパイクブーツに履き替えてくれるか?」

「へ? ……別にいいけど」


 何をする気なのかは知らないが、装備なんてワンタッチで変えられる。

 要望通りに『スパイクブーツ』に履き変えると、今度は屈むようにと続けての要請。

 意図が分からず、言われた通りに姿勢を低くすると――


「とりゃっ!」

「おわっ!?」


 強引に肩車の体勢にさせられた。

 ぐらついたものの、靴裏の刃がしっかりと氷を噛んで立て直すことに成功。


「お前……氷上だぞ? 思い出せないからって、無茶苦茶やりやがって」

「すまない! ……だが、これで思い出したぞ! あれはグレース兄妹(兄)だな!」

「かっこあに……?」


 当然、分からないという顔のシエスタちゃんのために簡単に説明する。

 ラルフ・グレースは『ベリ連邦』における最高階級の軍人だ。

 妹が議会のトップで、兄のラルフが軍事部門のトップの座に就いている。

 以前、ユーミルと二人で彼のスクリーンショットをこの体勢で撮ったことがある。


「へー。っていうか、状況再現しないと思い出せないってどういうこってす? ユーミル先輩」

「愚問だな、シエスタ! 私にとっては、ハインドに肩車してもらったという記憶が先にあって――」

「あのイケメン(真)の記憶はその下なんですね? なーるほどー。らしいお答え、どうもです」

「かっこしんってどういうこと!? し、シエスタ殿!? 拙者への当てつけ!? ラルフが(真)なら、拙者は(偽)なの!?」


 俺はどちらかというと、アラウダちゃんをあしらいながらこちらの話を聞いていたシエスタちゃんに驚きだが。

 トビに続いてぞろぞろと合流し、周囲と同じようにラルフに注目するのかと思いきや……。


「……」


 まずリィズが、肩車をした俺とユーミルの姿に不愉快そうな顔をした後、黙って背中側に回る。

 ……何だ? 珍しいな、この状態に何も言わないなんて。


「不気味な……!」


 同意だが、人の肩にいつまで乗っているんだ? こいつは。

 そしてリィズは何をしたいんだ?

 この足元だ、方向転換するにも結構な注意が必要なのだが。


「……っ」


 続いて、セレーネさんがそわそわした様子でリィズの後ろに。


「――!」


 最後に、リコリスちゃんがワクワクした顔で元気にセレーネさんの後ろに並ぶ。

 俺はその直後、ユーミルを肩車したまま勢いよく振り返る。


「いや、そういうアトラクションじゃねえから!」

「違うんですか!?」

「違うよ!?」


 待機列か何かだと思っていたのか、リコリスちゃんがショックを受けている。

 リィズが舌打ちし、セレーネさんが照れ笑いを残して下がり、ユーミルが勝ち誇ったように人の上でふんぞり返る。


「ふはは! この位置は誰にも渡さん!」

「何がふははだ! いい加減に降りろ!」

「そうです、早く降りなさい! 一刻も早く! 今すぐに!」


 降りやすいようスパイクブーツを氷に刺し直し、姿勢を少し低くする。

 しかし、俺がそんなちょっと苦しい体勢になってもユーミルは不動だった。


「そう言われると、降りたくなくなるな! 視界が高くて気持ちがいい!」

「……落とすぞ?」

「……引きずり降ろしますよ?」

「……降ります」


 さすがに冷たく硬い氷に何度もぶつかるのは嫌なのか、すごすごと肩から降りる。

 そしてようやく周囲と同じように、みんなでフィールド内を静かに進むラルフに注目。


「あの……あれって、イベント説明にあった乱入NPCというやつですよね……?」


 サイネリアちゃんの疑問の声に、トビが興奮気味に何度も頷く。


「そうそう、そうでござるよぉ! TBのシステム上、同一NPCが分身したりということはないでござる故――」

「は、はあ……でしたら、とても貴重な――」

「そう、激レアでござるよ! このシチュエーション!」


 気付けトビ、サイネリアちゃんがちょっと引いているぞ。

 今回のイベントにはNPCが乱入してくることがあり、それぞれの土地に対応したNPCが複数登場する。


「女王様や皇帝陛下を見たって話もあったしなぁ……何でも、林檎を多く神殿に捧げるほど、その年は国が豊作になるとかで」

「一般兵士が複数登場、なんていうパターンもあるらしいけどね……」


 セレーネさんが俺の言葉に補足説明を加えてくれる。

 イベント説明には『現地人の乱入者も……!?』としか書かれていなかったから知らなかった。


「あー、そうなんですか。どっちにしても金・銀の林檎が出易くなるそうですし、悪いことではないですよね」

「妨害も増えるけど、チャンスも増えるからね」


 成果が増えるか減るかは、プレイヤーの腕次第ということになるか。

 とにもかくにも、そういう理由でNPCは林檎を取りに来ている。

 ちなみにこの乱入NPC、自分が所属している国のNPCには――今回の場合なら、ベリ所属のプレイヤーは攻撃されない。

 それが分かっているプレイヤーは、ラルフの近くに自然と寄っていき……。


「……」


 寡黙な美青年、ラルフは部下を置いて何も言わずに一歩前に出た。

 その動きは後ろにいるなら守ってやる、という意思表示のようにも思える。

 シエスタちゃんがそれに感心したように頷き、トビに視線をやってから俺を見る。


「……ああいうのが真のイケメンですよねぇ?」

「まぁ……そうだね。真のイケメンは、やっぱり行動までイケメンなんだな……」

「もうやめて!? 拙者の精神力が枯渇しちゃう!」


 乱入NPCは基本的に各国軍属の者が現れ、その強さや林檎の奪取力に関してはマチマチだ。

 トビが言ったように、同時に他のフィールドに同一人物は表れないので、『ベリ連邦』トップ軍人のラルフを目にした俺たちの感想はこうなる。


「いきなりラルフとは、豪運だよなぁ……やっぱりこいつのせいか?」

「む?」

「そうでしょうね。全く、林檎の出現率アップは乱入者の強さと関係ないというのに……出るなら一般兵でいいんですよ、一般兵で」

「よく分からんが、あいつは強いのだな!? 戦ってみたら、楽しそうではないか!」

「はっ」


 ユーミルの認識の甘さを、リィズが鼻で笑う。

 イラッとした顔になるユーミルに、慌ててセレーネさんが割って入ってくれる。


「え、えっとね、ユーミルさん。ハインド君とユーミルさんが闘技大会で戦った、グラド帝国の皇帝陛下がいるでしょう?」

「む、あれは手加減した上であれくらいのべらぼうな強さだろう? それがどうかしたのか?」

「そうなんだけどね? えっと、ラルフ・グレースはその皇帝陛下と――」


 セレーネさんの話の途中で、魔力が急速に集まる巨大なエフェクトが目に届く。

 直後、ただでさえ寒い凍った湖の中に……


「!?」

「うわっ、氷山出た!? 何なのだ、一体!」

「出たっていうか……出したっていうか。ラルフの魔法だよな……これ」


 突如として氷の壁と、その間を通る氷の道が出現した。

 ラルフがサーベルを抜いて掲げると、背後から複数の兵士がその道を通って樹木精霊の下に駆け寄る。

 ベリ所属のプレイヤーも同様だ。

 セレーネさんはその様子に引きつった笑みを見せながら、こう締めくくった。


「……その皇帝陛下と、彼は伍して戦ったっていう噂があってね?」

「それでは“強敵”ではなくただの“規格外”ではないか!」

「う、うん……」


 ユーミルの認識がようやくみんなと同じものになったところで、金林檎が現れたという声がどこかから聞こえた。

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