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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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ローゼの恋愛理論

 どうやらアラウダちゃんはギルドでの移動中にはぐれたらしく、捜しに来た二人に何度も謝っていた。

 それが済むと、シエスタちゃんに向き直る。


「どう!? 驚いたかしら、シエスタ!」

「いや……別に?」

「何でよ!? 驚きなさいよ!」

「あ、アラっぴー、落ち着いて!」

「リコリスも、何なのそれ!? 現実での呼び名と混ぜないで!」

「シー、あんまり刺激しないの」

「へーい……」


 口喧嘩主体とはいえ、徐々に硬さが取れつつあるアラウダちゃん。

 サイネリアちゃんとリコリスちゃんもフォローに回っているので、そちらは大丈夫そうだ。

 ということで、こちらはこちらで話を済ませておくことに。


「ローゼ、エルデさん……久しぶり」

「お久しぶりです」


 俺に続いて、リィズが挨拶をする。

 体が冷えているであろう二人のために、まだ火が残っていた焚き火には燃料を追加してある。

 それを囲んでの会話だ。


「ハインドもリィズも、元気そうね。こんなところで偶然――でもないけれど、久しぶり」

「それらしい人影が見えた途端、アラウダちゃんが追いかけていったもんねぇ」


 シエスタちゃんとはまた違う、のんびりしたエルデさんの話し方が懐かしい。

 と、俺がそう思っていたところで……。


「あ、私とキャラが被って……ないかー」

「ちょっと!? 私の話を聞きなさいよ!」


 シエスタちゃんがそんなことを言いだす。

 語尾が伸び気味なのは一緒だけど、君のは途中で脱力していく形だからね……。

 話している途中で疲れていく、というか。

 無視されたアラウダちゃんがまた怒っているし。


「被っていないわよ。エルデは熱中し出すと、いつまでもゲームをやめようとしないもの……私のほうが眠い、もう終わろうって訴える側よ?」

「あ、そっちですかー。セッちゃん先輩寄りですねー」

「――えっ?」


 飛び火……というか、火の粉を飛ばされた感のあるセレーネさんが困惑の表情を見せる。

 初見の二人に戸惑い気味なんだから、やめてあげなさいよ。

 ローゼは察してくれたのか、セレーネさんには触れずに話を続ける。


「おかげで、あっという間にギルドはランカー復帰よ。立て直しが終わってまだ、それほど経っていないってのに……忙しいったらないわ」

「ああ、確かにランキングに戻ってきたよな。凄いじゃないか、ガーデン」

「おめでとうございます。大きなギルドは運営が大変そうですね」

「ま、褒められて悪い気はしないわね。運営は……エルデもいるしね」

「ありがとうございますー、本体さーん、リィズちゃーん」


 そこでリヒトの名が出てこないのは何とも、であるが。

 ガーデンは例のアリス、イリス、エリスのリストリオ事変以降、ギルドとしての力を落としていたのだが……。

 今は女性プレイヤーたちの大きな受け皿として、確固たる地位を築くに至っている。

 だからアラウダちゃんがガーデンを頼ったとしても、何ら不思議はない話だ。


「それはそうと、ローゼ。シエスタちゃんの性格を知っているふうだけど……どうしてだ?」

「あんたら、いつも噂になっているし。たまたま――」

「お世話になってからというもの、ローゼちゃんはマメに渡り鳥さんの動向をチェックしていますよぉ? あいつら、今どうしてるかなーって。今回のイベント、危ないんじゃないの!? とかー」

「へー……そっかー……」

「そうですか……」


 相変わらずの残念なツンツン具合に、微笑ましさとからかいの意を半々に混ぜた視線を兄妹で送る。

 ローゼは赤くなった顔をさっと俺たちから背けた。


「べ、別にいいじゃない……」

「ああ、普通に嬉しいよ。なぁ? リィズ」

「はい」


 俺たちの様子ににっこりと微笑むエルデさん。

 ――と、旧交を温める俺たちの後ろで、仲間外れに我慢ならない人間が一人。


「ハインド! 私も話に混ぜろ!」

「分かった分かった。ってか、お前たちは初対面じゃないだろう?」

「……」

「……」


 あまりよい印象の残る対面ではなかったが。

 何せ、闘技大会での勝者と敗者だ。


「……PvP大会で散々煽られた恨み、忘れていないわよ? ユーミル」

「しかし私は謝らない!」

「何でよ!? そこはあんたが軽く謝って、私が“だったらもう気にしないわ”って、綺麗に水に流すところでしょうが!」


 激しく既視感を覚えるやり取りに、俺たち全員が半笑いになる。

 ユーミルの言い分としては、挑発も戦術のうちだそうだ。

 いつもは挑発を受けて突っ込む側の癖に……。


「キャラ被りというなら、こっちでござろうなぁ……」

「近い性格ではあるよな……アラウダちゃんとローゼ」


 トビが近付いてきたところで、初対面の者同士が軽く挨拶を交わし合う。

 かつてガーデンの二人と色々あったことはみんなに話してあるので、スムーズに済んだ。

 しかし、こう見ていると……。


「ローゼって……面食いなのか?」

「な、何よ突然……」

「いや、リヒトも美形だし……トビの前だけ露骨に緊張していたし……」

「訊きにくいことを平然と訊くわね……否定はしないわ」


 リヒトのいいところなんて、そこと優しいところくらいだし……と、ローゼがぶつぶつと呟く。

 そして、それを見てアラウダちゃんが――


「……!」


 そういえば! といった様子でトビの顔を改めて見る。

 一旦ログアウトしていたり、洞窟内でよく見えなかったりといった都合もあるのだろう。

 しばらくボーっと見た後に、頬を少し赤らめる。


「確かに、被っていますね……」


 呆れた表情でリィズが呟く。

 理解できないといった感じで、左右に首を振る。

 ローゼとアラウダちゃんの様子に、俄然嬉しそうな顔になったのはトビだ。


「いやー、そういう評価をもらえたのは久しぶりでござるなぁ! 最近はちょっと自信をなくし気味でござったが……拙者、イケメンだよね!? イケメンでしょ!?」

「自分で言うな」

「黙れ忍者! 貴様は中身がポンコツだろうが!」

「その発言自体が、既に美しくないものと知りなさい」

「と、トビ君……えっと……その……あの……」


 トビは自分がイケメンであると主張した際のポーズのまま、焚き火の前だというのに凍り付いたように固まった。

 セレーネさんがどうにかフォローしようと頭を捻るものの……何も出ず。

 無駄な努力だからやめましょう、セレーネさん。ね?


「あ、あんたら、噂通り楽しそうに話すわねぇ……こりゃ、変なのが入り込めない訳だわ……」

「ふふっ……」


 ローゼとエルデさんが焚き火に手をかざしながら、各々違った種類の笑みを浮かべる。

 そしてローゼは、トビの微妙な発言を聞いた後もその顔を見ているアラウダちゃんをそっと窺う。


「……アラウダ。アラウダ!」


 立ち上がって呼びかけつつ、アラウダちゃんの傍まで移動する。

 ボーっとしていたアラウダちゃんは、強い呼びかけの後にようやく顔を上げた。


「――! は、はい、ローゼさん!」

「この話は前からしなきゃと思っていたし、あんた、私に似ているらしいから言っておくけど……」

「な、何ですか?」


 そのちょっと異様な空気に、他のメンバーも話をやめて注目する。

 ローゼは集まった視線に、少し気まずそうな顔をしたが……。


「ちゃんと好きになったやつの中身を見なさい。見た目にばっかり捉われちゃ駄目よ? もし、それで相手が駄目なやつだと分かったなら……私たちのような性格だと、取れる道は二つしかないわ」

「ふ、二つ? ですか?」


 話は継続するようだ。

 興味深い話に、更に洞窟内の注目が集まる。


「……ん、ん゛んっ! えーと……いい? アラウダ。まだその相手にあんたが完全に惚れていないなら、すっぱり切り替えること。これが一つ目よ」

「は、はあ……でもそれって、相手がよっぽど駄目な人の場合ですよね?」

「……はぁ」

「な、何よ? シエスタ! 何か文句あるの!?」

「……別にー」


 シエスタちゃんの表情には「こいつ、見る目がねーな」という内心がありありと出ているが、残念ながらアラウダちゃんにそれは伝わっていないようだ。

 ちなみにということで、A君とやらのツラについてサイネリアちゃんにコソコソと訊いてみると――


「……好みは置くとして、十人に訊けばほとんど全員が悪くないと答えるかと思います」


 とのこと。

 どうやら顔はいいらしい。なるほどなぁ……。

 ローゼも一瞬複雑な表情を作ってから、気を取り直したように二本目の指を立てる。


「もう一つは、気が付いた時点でもう完全に……どうしようもなく、自分がそいつに惚れちゃっていた場合ね? 相手がどれだけ駄目なやつだと気づいても、よ?」

「は、はい!」

「その場合は……」


 自分自身に該当する話だからか、ローゼは言い難そうだ。

 しかし、やがて赤みが増した顔で、息を少し大きめに吸う。


「――そ、その場合は……徹底的にその相手を変えてやるか、だ……駄目なところも全部包み込んで、フォローしてやる気概と覚悟を持つこと! いいわね!? 徹底的によ!」


 キーンと、洞窟内にローゼの声が反響する。

 息を呑んでその言葉を聞いていたアラウダちゃんは、小さく震えながら口元を両手で覆う。


「ローゼさん……! 素敵……!」

「ローゼちゃん、格好いいー」

「「「おおー」」」


 パチパチとエルデさんが拍手を送り、俺たちもそれに続く。

 アラウダちゃんも感動したように、一際大きな拍手を鳴らした。

 それにローゼは顔を真っ赤にしてプルプルと震え……。


「も、もうこの話は終わりっ! みんなと合流するわよ、エルデ! アラウダ!」

「えっ、こんな急にぃー? 仕方ないなぁー……」

「ま、待ってください!」


 置いていた装備など、必要なものを引っ掴んでローゼが立ち去っていく。

 出て行く間際、ローゼは洞窟の出入り口で声を張る。


「鳥同盟! ハインドとリィズから受けた恩は忘れていないけど、勝負は勝負だからね!? ガーデンの一部メンバーは、アラウダのサポートに回るわ!」


 きちんと筋は通すローゼの性格だ、そう来ると思った。

 ユーミルに目を向けると、笑顔で大きな頷きを見せる。


「望むところだ! 私たち全員で、相手になってやるぞ!」

「ああ。イベントフィールドで会ったら、敵同士だ」


 こちらに負けない不敵な笑みを残して、ローゼはその場から去って行った。

 アラウダちゃんが慌てて追いかけ、エルデさんが緩々とこちらに向かって手を振りながら、洞窟を後にする。

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