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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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注目と妨害

「先輩、先輩」

「何だい? シエスタちゃん」


 セレーネさんの矢が林檎から外れて行くのを見てから、俺は後ろを振り返る。

 さすがのセレーネさんでも、込み合った状況、不規則な樹木精霊の動き、俺たちが受け取れる状態か否かまで気にしつつの射撃は簡単ではない。

 フィールド内の馬を走らせるスペースが減って来たので、下馬している分だけマシになってはいるのだが。


「さっきからあんまり、樹木精霊がこっちに来ませんね?」


 俺たちは相変わらず待ちの体勢だ。

 スペースの確保には成功し、今のところはそこそこの成果。

 今も――


「だらっしゃあああああ!」


 お、ユーミルが寄って来たプレイヤー二人を蹴散らして『銅の林檎』を取得。

 サイネリアちゃんの矢は外れてしまったが、セレーネさんの二射目の矢が命中して林檎が落下、ユーミルがスライディングしながら受け止めた形だ。


「よーし、銅五個目! ナイスだ、セッちゃん!」

「う、うん! ユーミルさんもナイスキャッチ、だよ!」

「さすがですね……私も見習わないと……」


 段々とみんな、イベントの流れに慣れてきたようだ。

 しかし……シエスタちゃんの言うように、段々と付近に樹木精霊が回ってこなくなった。

 その原因については、実に簡単だ。


「そりゃ、人が多くなったせいだね。あからさまにさっきよりも、フィールド内に人が増えたから」


 精霊が活性化するフィールドが一つである以上、定員というものは設けられている。

 例えばこの『フェア平原』であれば、中規模のフィールドということで定員はおよそ200人。

 定員になったフィールドは空きが出ない限り入れず、システム上は『フェア平原A』、『フェア平原B』と、同じ空間が並列に存在している扱いになるそうだ。

 このフィールドも……『フェア平原』のどれなのかは分からないが、おそらく満員なのだろう。

 背中合わせでシエスタちゃんと視野を補い合いながら、会話を続ける。

 常に周囲の警戒は必要だが、だからといってずっと緊張し続ける必要はないからな。


「満員だと純粋に近くに出たの、それから誰かがミスで逃がしたのしか来ない感じです?」

「見ての通り、そうだね。リポップから大体……小型精霊でノーマル林檎のみなら十秒かそこら、銅付きなら三十秒持てばいい方か」


 こう聞くと人が増えたフィールドにメリットはないように思えるが、人数に応じて樹木精霊のリポップ速度が上がるという設定になっている。

 当然、数が増えれば金林檎との遭遇機会も増えるので……あえて出て行くプレイヤーの姿は少ない。

 仮に腕が良くレア林檎を独占しているようなプレイヤーがいても、発覚した段階で集中攻撃を受けるので、それでバランスが取れるといった様相。

 樹木精霊は全ての林檎を失った後、その場で普通の樹のような状態になってから光に。

 しばらくすると減った分だけランダムに、そのフィールド内で新たな精霊が出現するというシステムだ。


「それでもこうやって場を確保できれば――ユーミル、MP残量に気を付けろ! ……確保できれば、近場のものはかなり採り易くなる。これで満足できないなら、他のプレイヤーみたいに走り回るしかないな」

「……走り回った結果、レア林檎が0の人もいるようですけどね?」

「……実力が伴っていなけりゃ、そりゃあね? でも、ノーマル林檎なら拾えるから……」


 レア林檎争奪の過程で、プレイヤーがぶつかったりスキルが当たったノーマル林檎はボロボロ落ちる。

 俺は性格上、なるべくノーマル林檎も拾うようにしているのだが……あれ、アイテムポーチに入らない。

 ということは、またか。


「シエスタちゃん」

「はいはい、受け取りますよー」


 一杯になる度に、全く拾っていないシエスタちゃんにまとめて渡す。

 同種類のアイテムのストック数は決まっているので、どれだけアイテムポーチの容量が空いていようが上限に達した時点でこうする必要がある。

 ……周囲に樹木精霊がいなくなったのを確認してから、改めてフィールド内を見回す。


「ここは野良プレイヤーや俺たちみたいな少人数のギルドばっかりで、大きなギルドがいないのが救いかな」

「後から向かうと言っていた、シリウスの人たちは同じフィールドに入れなかったみたいですね?」

「だろうね。同じタイミングで入場すれば、よっぽどのことがない限り一緒らしいけど」


 今回のイベント、シリウスはきっかり参加するとのことだ。

 特に俺たちと協力の約束はしていないが、もしフィールドで会う機会があれば、といったところ。


「一応、協力関係にある人が同時に入れるのは大体五十人までだそうだよ。あ、ちなみに協力関係にあるかどうかの判定は、TBお得意の脳波感知ね」

「ふむふむー。五十人ってことは、ギルド一個分ですね?」

「そうなるね。だからシリウスも、五十人から溢れた人たちは別フィールドになっているはず」


 フィールドを全て知り合いで埋め、林檎を独占するという行為に関しては事前におしおきがあるとのこと。

 中規模フィールドの定員である二百人の有志を募り、勇んでフィールドに向かったところ……誰も入ってこない一人きりのフィールドに飛ばされた、などという体験談が掲示板の書き込みにあった。


「ぷふっ!? 卑怯な手を使おうと大勢でフィールドに入ったら、一人になっていたんですか? 想像すると……くふっ」

「シエスタちゃんが笑う時って、そういう少し意地の悪い顔をしていることが多いよね」

「あれ? 嫌でした?」


 決して嫌ではない……どころか、悔しいことにシエスタちゃんはそれがやけに魅力的に見えることすらある。

 俺をまんまその表情で弄ってくることも多いし、それで実際に被害を受けている以上、口に出して言う気は更々ないのだが。


「いいや? 俺もその気持ちは分かるよ。大っぴらにそういうことをされると、一気にゲームがつまらなくなるし」

「でしょでしょー」


 他人事なので、俺たちにとっては単なる笑い話である。

 ただし、先程触れたようにギルドの定員50人での入場は可能。

 それを行った場合は友好関係にない同じ規模のギルドがいるフィールドに、優先して放り込まれるらしい。

 だから、俺たちはシリウスと別タイミングで入った時点で合流の芽は極々小さい。


「ってことで、今ごろシリウスはどっかのギルドとドンパチやっているんじゃない? 武器の受け渡しをした時、結構な人数がホームにいたし」

「場合によってはプチギルド戦みたいになるんですねー……疲れそう。人数が多いっていうのも考え物だなぁ」

「で、話は戻るけど。取り分が減った原因は人数が増えたのと、後もう一個」


 俺たちとは直接勝負しない微妙な位置に陣取りつつ、こちらを意識する視線が複数。

 迂闊に寄って来たプレイヤーは吹っ飛ばしているが、それでも状況はあまり変わっていない。


「……ふふふ」

「ふへへへ……」

「……俺たち、露骨に標的にされているな?」

「されていますねぇ……」

「――! ――!」


 俺とシエスタちゃんの言葉に、いつの間にか近くに来ていたセレーネさんが涙目で何度も頷く。

 序盤はそうでもなかったというのに、ユーミルがオーラをスパークさせながら走った途端にこれだ。

 というか、そもそもこういう時は『勇者のオーラ』を外して欲しいのだが。


「腕試しなのか、純粋に妨害目的の人もいますけど。単に興味本位で近付いてくる人もいますねー。ちょっと私たちの姿を見て、何もせず満足気に帰って――」

「お前たち、いつまで二人で喋っている!」


 主な原因を作った本人が、苛立ったような声を上げる。

 何事かと視線を向けると、やや覚束ない足取りで出たり消えたりしている軽戦士の男が一人。

 ユーミルが剣を振るも、次の瞬間には離れた位置に立っている。


「うぇーい! 勇者ちゃんうぇーい!」

「喋っている暇があるなら、このトビモドキを何とかしてくれ! うざあああああい!!」


 あー、確かにうざ――あ、いやいや。

 トビに比べて練度は低いが、『縮地』を実用レベルで使いこなしている軽戦士は珍しい。

 トビによると、地面に足が埋まらないようにするだけで一苦労らしいからな……。

 男が『縮地』後、接地できずにやや浮いたりしているところを見るとそれがよく分かる。

 サイネリアちゃん……駄目だ、他の妨害者に向けて射撃中。

 セレーネさん……うん、怯えている彼女が冷静に男を撃つのは難しそうだ。

 シエスタちゃん……は、今は動く気がなさそうなので置いておいて。


「先輩? 今、私を戦力外扱いしませんでした? やればできる子ですよ、私は?」

「……」


 それは知っているが、動き出すまでの時間と動かすための手間がな。

 察した時点で素早く『ヘブンズ・レイ』でも男に撃ち込んで欲しいのだが。

 俺はシエスタちゃんの言葉には答えず、しばらく黙って男の動きを観察し……。


「えーと……ここか?」

「――!!??」


 男の視界に入らないよう回り込んで近付き、『縮地』の座標が重なるであろう位置へと手を伸ばした。

 どうだ……? おっ!


「あばばばばばば!!」


 当然のように、感触は何もなかった。

 しかし俺が伸ばした手の先――現れた男の体が不自然に横にズレ、麻痺のエフェクトを発しながらその場に崩れ落ちる。

 トビと何度か戯れに練習した経緯があるとはいえ、成功するかどうかは未知数だったが……どうやら上手く行ったみたいだな。


「おおっ! 縮地の失敗ペナルティ!」

「今だ、ユーミル。ヘビスラで吹っ飛ばせ」

「よーし! 私のストレス諸共、どっかに行けぇ!」

「へぶぅ!?」


 身内が持っているスキルだと、対処が楽で助かるなぁ。

 男の移動パターンは単純だったので、ユーミル以外のこの場にいるメンバーであれば、俺がやらなくてもスキルを撃ち込むなりで何とかできたと思う。

 だがまあ『ヘビースラッシュ』のみで他はMP消費0で済んだので、これでOKということで。

 ひとまず、今の一幕で一瞬だけ周囲の腰が引ける空気があったが……。


「――うぇーい! 渡り鳥、うぇーい! ヒナ鳥もうぇーい!」

「復活!? って、別のやつかよ!」

「何なのだ、一体……」

「面倒ですねぇ……」

「私たちは見世物ではないのですが……」

「ど、どこかに隠れるところ……隠れるところは!?」


 興味本位で近付くプレイヤーたちが、再び増え始める。

 どうにも、動きづらい状況だな……。

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