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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
至高のお布団

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装備更新は細やかに

「……あの」

「動かないで、ハインド君! 今、もうちょっとでイメージが湧いてきそうなの……!」

「はぁ……そ、そうですか」


 俺が今、ホームの鍛冶場で何をしているかというと……。

 杖を持ち、何かをメモするセレーネさんの前でポーズを取っている。

 何でも新しい杖を作るのに、絶対に必要なことらしい。

 前にやったような、握りのチェックなどとはまた違う傾向の要求だ。


「ぷふっ……ハインド殿、格好いいでござるよ……っ」


 ちなみに、今は『シャイニング』を撃つ際の動きで固まっている。

 狙いを付けて杖を前に出すので、見ようによっては決め決めのポーズとも言える。

 ……ただ、普段から無駄にオーバーアクションなこいつにだけは言われたくない。

 そこまで変じゃないだろうが!


「あー、俺、急に中学でお前が美術のモデルになった時の話をしたくなったなぁ」

「――!? やめてよ!?」

「どうしようかなぁ……」


 ふと、サイネリアちゃんと目が合う。

 サイネリアちゃんは手が空いていたということで、セレーネさんの手伝い――というか、そもそも最近のサイネリアちゃんは鍛冶場にいることが多い。

 どうも彼女はセレーネさんを尊敬している節があり、個人的に色々と教わっているようだ。その気持ち、とてもよく分かる。


「えっと……それって、どういう話なのですか?」

「サイネリア殿!? 訊かないで!?」


 ちなみにその話というのは、秀平がノリノリでポーズを取っていたところ、結構無理のあるポーズで固定されてしまい……。

 結果、耐え切れなくなったこいつはみんなの前で豪快にすっころんだ。

 ――よりにもよって、当時、こいつが好きだった女子のほうに向かって。

 驚いた彼女に、悲鳴を上げながら思い切り蹴とばされたというオチである。


「ま、まあ甘酸っぱい過去の記憶というやつでござるよ……」

「甘酸っぱい、ねえ……」


 ほろ苦いの間違いではないだろうか。

 とはいえ、大人しくなったのでそれ以上の追撃は止しておく。


「――セレーネさん」

「待って、もう少し……」

「……」


 セレーネさんって、集中し出すとユーミル以上に周囲が見えなくなるよな……。

 もっとも、俺の新しい杖のためと聞いては、断ることなどできはしないのだが。

 我慢して、セレーネさんの指示通りのポーズを――


「……あの。色々な角度から撮った、スクリーンショットに残しておけばいいのでは……?」

「え? いやいや、生で見ないと意味がないってことじゃないの? ねえ、セレーネさん」

「……」


 あ、本当だ、という顔でセレーネさんが手を止めて固まる。

 ……えっ?


「……セレーネさん?」

「……ご、ごめんね? ハインド君……」

「い、いえ……はぁぁぁ……」


 もう腕が限界だった俺は、持っていた杖を支えにして地面に座り込んだ。

 まさかの見落としである。

 本当、セレーネさんは一点集中型な人だ……。


「あ、でもこれはチャンスでは? セレーネ殿」

「え? ど、どういうこと? トビ君」


 二人が何かを話しているな。

 あー、体のあちこちがパキパキ鳴って……相変わらず無駄に高い再限度だ。


「セレーネ殿好みのポーズで、ハインド殿を写真に収めるチャンスでござるよ! 拙者、ユーミル殿にもリィズ殿にも黙っている故! 今の内、今の内!」

「え、ええー? でも……」


 なんだなんだ、話の流れが怪しいぞ。

 セレーネさんの口元は緩み、言葉と表情が合っていない感じだ。


「トビ先輩、そうやって人をそそのかすのはどうかと……」

「いやいや、サイネリア殿。セレーネ殿のような奥手なタイプは、周囲が後押ししてあげないと」

「………………。そうかもしれませんね」

「サイネリアちゃん!?」


 こちら側だとばかり思っていたサイネリアちゃんの、予想の埒外の発言により……。

 すっかり逆らえない空気の中、俺はセレーネさんに大量のスクショを撮られるのだった。

 段々、リィズに毒されて来ていないか?




「ありがとう、ハインド君。絶対に、前の杖を超えるものを作るからね」


 その意気込みは本物だと疑っていないが、笑顔にそれ以外の成分が多い。

 凄く満足そうな顔をしているな……。


「お、お願いします……ところで、ヘルシャたちの装備はどうですか?」


 こういう時はさっさと話題を変えるに限る。

 鍛冶といえば、シリウスから依頼されていた大口注文があったのだが。

 先日までに俺が手伝った範囲では、残りは二割を切るかといったところだったはず。


「完成したよ。漏れがないかのチェックも終わったから、いつでも納品可能だよ」

「さすが、早いですね」

「傍で見ていましたが、惚れ惚れするような手際でした」


 サイネリアちゃんの賛辞に、セレーネさんは少し照れたように視線を逸らす。

 鍛冶場に来た時には、もう炉に火が入っていなかったので、昨夜の内には終わっていたのだろう。


「今回のイベントで、グラドを通る機会があったら届けようね」

「そうでござるな。しかし、往路で上手いこと拾ってもらえないと、インベントリが大変なことになるでござるなぁ」

「大丈夫だろう。シリウスの規模なら、誰かしらホームにいるだろうから」


 最悪、ホームへの入場許可だけもらって装備を置いてくるという手もある。

 折角なら新装備に喜ぶ顔が見たいので、できる限り避けたい手段だが。

 特に、セレーネさんの気持ちを考えると……うん、なしだな。

 ヘルシャと早めに連絡を取って、どうにか都合をつけることにしよう。

 自分の中で挙げた案をそのまま却下し、他に話しておくことについて考える。


「ああ、それとイベント対策なんですが……」

「うん。装備の軽量化は考えてあるよ」

「もうやっているのでござるか?」

「イベントが始まってからでは、間に合わない可能性があるから……ですか?」

「そうそう。最近ここの運営、情報を伏せ気味だからさ」


 収集系ということではあるが、自立歩行する樹からりんごを採取となると……。

 どれくらいの速度で樹が動くのか、また、収集物はプレイヤーごとに固定なのか。

それとも争奪戦なのか、それによって様相が変わることだろう。

 いずれにしても、今回のイベントで必要になりそうなものは一つ――もとい、二つ。


「公式で既に必要と明言されている、移動力については馬も船もあるし。どっちも高レベルだからな、俺たちは」


 主に船はセレーネさんの、馬はサイネリアちゃんの功績によって他に引けを取ることはない。

 となると、詰めを考えておく項目は自ずと絞られる。


「だから、自分たちの軽量化による機動力アップでござるか」

「そういうこった。俺も一応、服系統の装備の改良は考えているが……金属系装備に比べると、誤差の範囲だからなぁ」

「布地が突っ張ったりしないよう、走りやすくするくらいでしょうか?」

「うん、そんなもん。他には、ブーツを新調したりとかね。ということで、影響が大きいのは裁縫系よりも鍛冶系ってことになる」


 そこからは、セレーネさんを中心に装備のマイナーチェンジについて話し合い……。

 他のメンバーが作業を終えて集まり、しばらく談笑した後で解散となった。

 イベント開始は、もうすぐ目の前だ。

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