キノコと調合の関係
「次はキノコ小屋なんだが……」
「シエスタ殿のところでござるな。ちゃんとやってんの?」
「……」
トビの率直過ぎる言葉に、俺は即答できなかった。
ちゃんと……やっている、かなぁ?
「とにかく、小屋に行ってみよう。元々、キノコ栽培はかなり簡略化されているからってシエスタちゃんに割り振ったんだし」
「プリセットの中から苗床を選んで、栽培するキノコを選んで、後は湿度調整をセットする……だけでござったか?」
「そうそう。他人と差がつく要素も、TBでは苗床との相性と湿度調整だけ」
だけとは言ったが、反面その二つに難しさも集約されている。
しかしながら、他の生産に比べて――あくまでもTBでは、だが。
TBでは、作業量が少なめの設定だ。
普通の人であれば、もうとっくに終わっていてもおかしくない時間が経過しているのだが……。
「すぴー……」
「これは、何とも期待を裏切らない……」
小屋の中に入ると、見事にシエスタちゃんが寝ていた。
中はひんやりとしており、キノコに適しているというよりも、自分の居心地の良さを重視しているのではと疑いたくなるほど快適だ。
「……ハインド殿。起こしてあげては?」
「……何で俺に振るんだよ」
周囲の棚を見たところ、どうやら資源島産のキノコの増産は始めたみたいだな。
やることやったんだし、いいですよね? というシエスタちゃんの声が聞こえるようだ。
実に気持ちの良さそうな寝顔である。
「えー、だって拙者が起こすより喜ぶでござろ? ござろ?」
こいつ……。
「そのにやけ面をやめろ。あんまり度が過ぎると佐藤さんに言いつけるぞ」
「え!? 何でそこでいいんちょ!?」
「何でって……そういうことだよ」
「どういうこと!?」
さて、相変わらずインベントリから出した枕でしっかり寝ているが……。
どう起こすかな。
「……先輩がおんぶしてくれたら、スムーズに起きます。時短にもなります」
「起きてるじゃねーか!」
「――いったっ!? って、危ない危ない! キノコが!」
俺が傍で屈みこむなり、目を開けてシエスタちゃんが呟いた。
シエスタちゃんが急に目を開けたことに対してか、俺の大声に対してかは分からないが、トビが驚いて棚に足をぶつける。
「甘いですね、先輩。私にかかれば数秒で寝直すことも可能!」
「可能、じゃないよ。え、っていうか何でおんぶ?」
「この後、妹さんのところに調合用のキノコを持って行かなきゃならないので」
「……だから? それとおんぶと何の関係が――」
「……」
「……シエスタちゃん?」
「くぅ……」
本当に寝た!?
揺すっても反応が鈍いし、体を起こそうとしてもぐったりと重い。
狸寝入りという訳でもなさそうな……。
「要は、自分で歩きたくないってことか……」
「で、ござろうな」
「しかし、事あるごとにおんぶを要求してくるな。シエスタちゃんは」
何かおんぶに思い入れでもあるのだろうか?
眠るのに、あの揺れが丁度いいとか……? 分からん。
「おぶってあげなよ、ハインド殿」
「お前、それはリィズのところにシエスタちゃんをおぶっていったらどうなるか……ちゃんと想像してから言っているんだろうな? 前に背負った時も――」
「さぁ? 拙者、知―らない」
「よーし、分かった。リィズには、お前がおぶるように強制したと報告を――」
「他の手を考えようか!! 全力で!!」
しかし、そう上手く行かないのが世の常で。
タイミング悪く、リィズからメールが届く。
送信者:リィズ
件名:調薬が滞っています
本文:近くにシエスタさんがいるようでしたら、
申し訳ありませんが調合室まで連れて来ていただけますか?
寝ているようでしたら、叩き起こして
「自分の足で」歩かせてください。
お待ちしています。
おおう、内容がいつにも増して素っ気ない。
更には、シエスタちゃんならどう言うか分かっているとばかりのおんぶ封じ
位置情報で、一緒にいるのは丸分かりだからな。
……でもさ、リィズ。
一応、トビも俺と一緒にいるのだけど……目に入っているか?
「……普通に起こすとするか」
「リィズ殿、こわっ!」
横から勝手にメールを覗き込んできたトビが、一歩下がって自分の体を抱える。
さっきからこいつ、俺を煽るか何かを怖がるか、その二つばっかりだな。
「お前は色んなものにビビってんな……」
「拙者がビビりなのは否定しないでござるが、リィズ殿は指折りでござろう? 誰でも怖くない?」
「俺に訊くなよ。どう答えろっていうんだ」
結局、ぐずるシエスタちゃんを普通に起こし……。
必要な素材を採取して、ホームの調合室に向かう。
「テンクウダケを三つ」
「どーぞ」
「マダラシイタケは?」
「できてますよ。ちゃんと増やすのに成功したんで、遠慮なく使ってくだせー」
「……どうも」
二人の会話に無駄はない。
というか、必要以上に話す必要がないというか。
「……何か、息が詰まりそうでござる」
シエスタちゃんが素材を渡し、リィズが調合する。
俺はその手伝いで、すり鉢で粉末にしたり、その前段階の乾燥作業を行ったりだ。
確かに、室内はトビがそう表現するのも分かる静けさ。
「俺と調理している時も、リィズはこんな感じだが」
「それは違います、ハインドさん」
俺がトビにそう話すと、当のリィズから否定の言葉が。
一時みんなの作業の手が止まり、リィズに視線が集まった。
抽出中のポーションが一滴、ガラス容器の中に落ちる。
「ハインドさんの隣にいる時は常に、色々したいことを我慢していますから。シエスタさんごときが隣にいる時とは、訳が違います。具体的には――」
「先輩、キノコから染料ってできませんかね?」
「え? 急にどうしたの? できないことはないと思うけど」
「キノコから染料? へー、そんなことができるのでござるか」
やばめの話の流れを察し、シエスタちゃんがさっさと話題を切り替えた。
男二人が追従したところで、リィズは不満そうな顔で抽出作業へと戻りつつ会話に混ざる。
「できますよ、キノコの染料。実際にありますし。ロクショウグサレキン、というキノコの仲間で染めるものが有名でしょうか。綺麗な緑色が出ますよ」
「おー、さすがリィズ。シエスタちゃん、何に使いたいの?」
「これから作るお布団をお洒落にしようかなぁ、と。折角なので」
「なるほどね」
そのための染料か。
で、それなら自分が育てたキノコを活用したいと。
……だから調薬に関係のない、色の濃いキノコを持って来たのか。
「へー。シエスタ殿、布団の柄にこだわりなんてあったのでござるか」
「当たり前じゃないですか、トビ先輩! 寝心地反発力弾力保温性保湿性触り心地だけでなく、布団の柄によって寝入る時の気分が変わるんですよ! 分かってないなぁ!」
「え、マジで!? 目を瞑ったら柄なんて見えなくない!? 関係なくない!?」
「このお馬鹿さん! 睡眠を舐めないでください!」
「舐めてないけど!?」
トビの失礼な言葉に、シエスタちゃんが布団の柄の重要性を力説する。
単に女の子らしく可愛いほうがいいとか、綺麗なほうがいい、とならない辺り変な子であることに変わりないが。
「そういや、着ている服の色によっても人の気分は大きく変わるって話だからな」
「そうですね。布団の柄にも同じことが言えるかもしれません」
「……見えなくても、でござる?」
「着る時とか、着た後も服の一部は見えるだろう? 布団も同じだ」
「着る時や、着た後も服の一部は見えるでしょう? 布団も同じです」
「ほぼハモった!? 凄いでござるな!」
更に言うなら見えなくなっても記憶には残るし、影響も残る。
部屋を暗くしても、目を閉じても。
だから、布団の柄が夢見に関わるというのもあながちなくはない話だ。
「……それで、どうするのですか? 染料づくりも調合の一部ですし、協力しないことはありませんが。他の防具や、アイテムなどにも使えますし」
「妹さん、やっさしー! そんじゃ、おなしゃーす!」
「……」
「あ、すみません。是非お願いします」
「……分かりました」
何だかんだで、リィズは頼めばちゃんとやってくれるのだ。
しかし、飼料改善に取り組んでいる羊の毛といい、シエスタちゃん布団作り……遠くに出かけなくてもバージョンアップ自体はできるのでは? と思わなくもないが。
出不精なシエスタちゃんがイベントに参加する気になっているので、黙っておくことにしよう。
遠征先で、もっとすごい素材を得られる可能性も捨てきれないしな。




