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素材整理と羊毛布団のその後

「また寝てる……」


 久しぶりのギルドホーム、その談話室を俺が訪れると――。

 シエスタちゃんが布団のフルセットと共に、盛大に床で寝ていた。

 もう見慣れた光景で、待ち時間が長いと大概こうなっているのだが……。


「ハインド先輩」

「サイネリアちゃん。こんばんは」


 今夜はサイネリアちゃんも一緒だった。

 どうやら、テーブルを使って素材の整理をしているようだ。


「こんばんは。すみません、自分たちのホームでやるべきことなのに……」

「いや、いいんだよ。シエスタちゃんが行こうって言い出したんでしょう?」

「よくお分かりで。私と黙って向かい合っていてもつまらない、だそうです」


 そりゃまた、随分なお言葉で。

 サイネリアちゃんに気にした様子が全然ないので、この二人の間では問題ない言葉だということが分かるが。

 俺はテーブルセットから少し離れた位置で寝息を立てる、シエスタちゃんを見ながら言葉を返す。


「……それで寝ているの?」

「ええ。呆れますよね」


 サイネリアちゃんのシエスタちゃんに対する物言いにも、一切の遠慮がない。

 そんなシエスタちゃんの素材は……未整理なのだろうなぁ、当然のように。


「資源島で採れた食材は、ハインド先輩に預ければいいのですよね?」

「ああ、そうして。栽培できないかパストラルさんたちと相談して……あ、待った、今洋紙を出すから。一覧を作っておかないと、誰が手に入れてくれたものか分からなくなる」

「共有財産ですし、別に構わないのですが……」

「そういう訳にもいかないよ。後でちゃんとお金に換算して返さないと」


 普段からやっていることだが、前回のイベント――資源島での成果については特に個人差が大きい

 ユーミルなどはレア素材多めでウハウハだろうが、俺たち兄妹の場合は正直微妙。

 ちなみにだが、鉱物系素材はセレーネさんが大部分を、一部を俺が買い取るという形でみんなに報酬として還元する流れだ。

 俺が洋紙を取り出してメモを取る体勢になると、サイネリアちゃんは小さく笑顔を作る。


「ハインド先輩のおかげで、私たちはとても楽をさせていただいています。いつもありがとうございます」

「たちっていうか、俺がやらなかった場合にヒナ鳥でそういう役になるのは……」

「……私でしょうね」

「だよね」


 真顔で顔を見合わせた後、静かに二人で笑い合う。

 その流れで、リコとシーの分だけでも私がまとめますと申し出てくれる。

 そんな時、折よくシエスタちゃんが身じろぎし……。


「あ、シー。起きたのなら、イベントで溜まった素材を出してよ」

「……んむ? えー……めんど……」

「今すぐ起きるなら、私が仕分けをしてあげるわよ? 後にするならやってあげない」

「じゃあ起きる」


 あ、のっそりだけど本当に起き上がった。

 ……見事にコントロールされているなぁ。

 シエスタちゃんはシエスタちゃんで、そういう言葉をかけてくれるのを待っている節があるが。


「あ、先輩だぁ」

「うん、こんばんは」


 寝起きのリラックス状態の顔から、更に緩々とした表情でこちらを見る。

 ふにゃふにゃだな……。


「……そうだ、先輩。先輩が作ってくれたこのお布団、全体的にちょっとへたって来たんですけど」

「そうなの?」


 言われ、アイテムポーチに手を突っ込みつつ座るシエスタちゃんと入れ替わるように布団の傍へ。

 許可を取り、布団や枕に触れて――何か甘い香りがするような。

 あと、温もりが残って……いやいや、止めよう。

 努めて中の羊毛の状態に、手の感覚と思考を集中させる。


「……本当だ。できたての頃のフカフカした感じとは違うね」

「ちなみにですが、干してみたらちょっと復活したんですけれど……」

「まあ、そうだろうね」


 TBには経年劣化・汚れをそのままにする機能があるのは、前に装備の時に確認した通り。

 装備は設定次第で新品同様に戻すことが可能だが、アイテムによってはそういかない。


「……新しい羊毛を詰めたりするしかないかなぁ」

「そもそも、まだそんなに経っていないわよね? シーがハインド先輩にお布団を作ってもらってから」

「うん、使用に耐えないほどへたってはいないよ? ただ、あの新品フカフカの感触を忘れられなくて……もう戻れない、あの頃には……」

「そんなノスタルジックな表情をされてもなぁ……」

「贅沢な話ね……」


 要は、あの上質な布団の状態を気に入ってしまったというだけの話だ。

 サイネリアちゃんの言う通り、ただの贅沢と言えばそれまでだが……。


「確かに贅沢だけど、その贅沢を叶えるためのゲームという空間でもあるしね。その気があるなら、もっと上質な布団を目指してみたら?」

「お、先輩いいこと言いますね。例えば?」

「分かっていて訊いているね? そりゃあ、ゲームならではの……羊よりモコモコした毛のモンスターから、ドロップを狙うとか」

「ほうほう」

「綿毛みたいな植物があれば、そっちでもいいんじゃないかな」

「なるほどー」


 シエスタちゃんがテーブルに素材を並べながら、適当な頷きを見せる。

 ……さっきから、植物系の素材を物色しているようだが。


「その、この中にそれっぽいものはないかな? 的な視線は何さ……」

「そう都合よくいかないでしょう……?」

「あー、私が寝ている間に二人がちょっぴり仲良しになってる……って、やっぱ駄目かぁー」


 シエスタちゃんもドロップ運は良いほうだが、さすがに適合する植物はなかったようだ。

 資源島の植物は、どちらかというと薬草系や食材系が多かった。


「でも、そうなると私の布団作りはー……先輩?」

「素材を探しにあちこちを回ることになるかな」

「えー……」


 心底嫌そうな表情のシエスタちゃんに、俺とサイネリアちゃんは揃って苦笑した。

 そしてシエスタちゃんは素材を並べ終えると、溜め息交じりにこう話を締めくくる。


「だったら、次のイベントがそういう系になりませんかねー……」

「そういう系って?」

「何かを集めるために、あちこち回るような感じの。そのついでにみんなにお布団素材を探してもらえるなら、私としてはとても楽なんですけどねぇ」

「そう都合よくいかないでしょう……?」


 サイネリアちゃんが二度、同じ言葉をシエスタちゃんに返す。

 次のイベントか……発表はまだだが、果たしてシエスタちゃんの望み通りのものになるのだろうか?

 ……まさか、そう都合よくいかないでしょう?

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