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攪乱戦法と海戦の決着

 後衛の人数が多い俺たちの場合、呼吸を合わせて動き出すことが何より大事だ。

 一対一に弱い職が揃ってしまっているので、孤立すれば一瞬で戦闘不能になる。

 だから、敵を倒し切る以外の目的達成の手段――ブリッジの占拠は事実上不可能だ。

 しかし、あえてトビが艦内に向かって駆ける。


「ブリッジ狙いか……!? やらせん!」

「待ちなさい、追っては――」


 ソンブラが制止の声を上げるも、既に遅い。

 反転したトビが『急所突き』で武闘家にクリティカルダメージを与える。

 ダメージそのものよりも、これは敵の動揺を誘えるかどうかの行動だ。

 それを見逃さず、サイネリアちゃんとセレーネさん矢が後方を気にした敵を射る。


「――行くぞっ!」

「はいっ!」


 前衛の不足を補う鍵は、俺とリィズが握っている。

 力こそ弱いが、リィズは護身術を習った俺たち三人の中で最も筋が良い。

 講師のお墨付きがあるので、後衛同士ならば――。


「えっ!?」

「――失礼しますよ」

「いたっ!? な、何!? 私、何されてるの!? 動けな……っ!」 

「護身において一番大事なことは、危険なものに近寄らないことなのですが……」


 リィズはすんなり足払いを成功させると、ソールの女性魔導士の背を踏みつける。

 前に俺もユーミルにやられたことがあるが、支点となる背中の一部分を押さえられると立ち上がることすら困難になる。

 リィズの体重は軽いので、力の強い男性であれば無理矢理振りほどくことも可能だろうが……。

 同様に体格が小さめの敵を狙っているので、これで実質一人を無力化することに成功している。


「時と場合によります」

「……っ! 誰か、お願い! この足を!」


 ダメージなし、あれなら攻撃判定も取られないのでそのまま詠唱が可能となる。

 そしてそれを守るのは……。


「後衛のみんなを守るのは私の役目です!」


 リコリスちゃんである。

 セレーネさんとサイネリアちゃんもリィズの傍に寄り、守ってもらいやすい位置をキープ。

 数的有利を確保したところで、俺は自分にWTが終わったばかりの『ホーリーウォール』を使用して前衛に。

 遅れて来たシエスタちゃんも加え、射撃で圧を加えることでようやく互角の体勢を作ることができる。


「神官なんぞに!」

「さっさと倒せ倒せ!」


 軽戦士と重戦士、二人の剣が押し寄せてくる。

 は、速っ……! 目が追い付かない!


「もう壁が割れた!? このぉ!」


 必死、ただただ必死である。

 杖を必死に振り回し、少しでも時間を稼ぐ。

 倒すことは一切考えない、生き残ることに注力する。

 ただしラインを崩す訳にもいかないので、避ける方向は横だけだ。


「これでも食らえ!」

「うおっ!? 何だこりゃ!?」


 よし、ネットが重戦士のほうに効いた!

 そっちが出てくるまでは一対一だ、何とかなる!

 自分の小ダメージが積み重ねっていく毎に嫌な汗が出るが、少しだけ目が慣れて来た!

 ――よし、WTが明けた!


「焙烙!」

「そいつは和風ギルド戦で見慣れてる!」


 くそっ、もう一人が復帰する!

 玉系統のWTは効果によってまちまちだが、『焙烙玉』の不発は中々痛い。

 早く……早く! ……よしっ!

 杖で軽戦士の剣を弾き、腰から素早くそいつを抜き取って振りかぶる。


「ならばこいつだっ! 見切れるもんなら見切ってみろぉ!」


 手に収まるサイズの鉄球を全力投球。

 ――急に重いものを投げたせいで、肘がいてえ!


「ぶへっ!? 顔面はやめろぉ!」


 ヒット、軽戦士が『中級HPポーション』を自分にかけるのに乗じて前へ。

 回復なんてさせてたまるか!

 トビの攪乱はもとより、俺自身もとにかく相手の予測を裏切り続けることだ。

 支援型神官が前にいる時点で、まともに戦っては勝ち目がない。

 格上の相手だと認めたからには、徹底して普通に戦ってやらない。

 そうやってリズムを崩し、逆にこちらは――。


「セッちゃん、お願いします」

「同時に行きましょう、セレーネ先輩!」

「合わせますよ、セッちゃん先輩」

「――ハインド君、リコリスちゃん! 避けて!」


 慣れないセレーネさんの大声は震えている。

 そしてその言葉は、おそらくブラフだ。

 目の前の重戦士と軽戦士が慌てて大きな動作で射線から逃れようとするが……。

 見事に引っかかってくれた。

 狙いは――


「……!」


 副官であるソンブラの驚愕の表情が目に入る。

 狙いは、やや離れた位置でユーミルと戦う……ソラールだ。

 そこにありったけの射撃攻撃を集中攻撃、一点突破。

 ソールのPT全員は無理でも、彼さえ倒せばその時点で俺たちの勝利が決まる。

 一斉に攻撃が発射される――その直前。

 俺はある予感に突き動かされてソラールたちの下へと走った。


「やらせません!」


 やはり気が付いていたか……一人だけ反応したソンブラが、射線を遮るようにな位置で両手を広げる。

 セレーネさんの矢以外は貫通しないスキルが大半、しかも大スキルばかりを撃つだろうからここを逃すと完全に勝機を失う。

 俺は腰だめに杖を構え、無心でソンブラに渾身の突きを放った。


「――ごはっ!?」


 打撃特有の鈍い感触に顔をしかめながら、全体重をかけてそのまま押し倒す。

 神官の物理攻撃力では、相手が同じ神官だろうと通常攻撃一撃で倒すのは困難。

 射線さえ通れば……!


「発射ぁ!!」


 セレーネさんが発射を宣言し、四人の後衛メンバーによる一斉射撃が放たれる。

 俺は呻くソンブラから体を離し、その行方に目を凝らした。

『シャドウブレイド』、『ブラストアロー』、『ヘブンズレイ』、『ラピッドショット』がソラールに殺到し……。


「何っ!?」


 サイネリアちゃんの『ラピッドショット』による複数の矢が、使用されていた『ホーリーウォール』を最初に破る理想的な着弾順。

 エフェクトで何も見えなくなるが、ムラのあるダメージの減りからして、ソラールが必死に躱し続けているのが分かる。

 普通なら、どのスキルも直撃すれば危険なものばかりだ。

 しかし……。


「ぐっ……! ウチのメンバーが、そっちの後衛を一切抑えられないとは……やるな!」


 煙の中からソラールが槍を支えに立ち上がる。

 生きている……!? あれだけの攻撃を受けて!?

 魔法剣の輝きが槍を覆い――


「だがまだまだ! さあ、ユーミル! 続きを――」

「いや、もう終わりだ」


 後ろに回り込んだユーミルが、ピタリと剣をソラールの首筋に添える。

 自分で決定打を与えることができなかったユーミルだが、その表情は物足りないというものではなく……。

 俺たちを自慢するように、誇らしげな笑顔だった。


「どうする? 降参するか? それとも潔く戦闘不能になるか? バーストエッジはいつでも撃てるぞ!」


 周囲のメンバーは全員、敵味方問わず動きを止めている。

 ソラールは自分のギルドメンバーの顔を見回した後、最後に俺の近くで倒れているソンブラの姿を見てから嘆息。

 槍を手放して両手を上げた。

 魔法剣のエフェクトが消失する。


「……止めておくさ。一対一ならともかく、これはチーム戦だしな。負けた負けた!」

「賢明な判断だ。では――」

「は、早く降参ボタンを押してくださらんか!?」


 トビが二人の会話に割り込んでくる。

 一瞬、場に白けた空気が蔓延するが……。


「何だ、トビ! いいところなのだから邪魔をするな!」

「いやいや、ユーミル殿! みんなも! あれ! あれ見て!」


 トビが指差したのは、『プリンケプス・サーラ』の方向。

 護衛の艦が数隻、こちらに向かって寄ってくるのが見える。

 や、やばい!


「本当だ!? ソラール、早く降参ボタンを押すのだ! さあ!」

「分かっているぞ。俺たちが負けたのはお前たちだからな。どの道、後方も危ないみたいだからこの船の撃破ポイントは鳥同盟にこそ……鳥同盟に相応し……」

「……?」

「――ソンブラ? 降参ボタンはどれだ?」

「「「早くしてくれ!!」」」


 砲撃の音が聞こえ始めた。

 俺たちは慌てて甲板の端に寄って『プリンケプス・サーラ』の無事を確かめる。

 まだ無事だが……後方からはルーナを始めとする味方艦隊、そしてもう一方には護衛の艦が『プリンケプス・サーラ』に接近。

 ソンブラが立ち上がり、ソラールに近寄って手を伸ばす。


「しっかりしなさい。船舶メニューの艦長権限から――」


 ……しかし、結局ソラールが降参ボタンを押すことはなかった。

 どこからか飛来した砲弾が、甲板の装甲をへこませながらソラールへと――


「――ぶっっっ!?」


 直撃。

 衝撃で俺たちも大きく体勢を崩し、ソラールが飛ぶ瞬間を見ていなかったメンバーは何が起きたのかと周囲を見回す。

 俺は偶然、ぶつかる様も飛んで行くソラールの姿も自分の目で捉えることができた。

 先程の近接戦闘のおかげかもしれない……特に意味はないが。

 ソラールは物凄い勢いで海に飛ばされた後、かなり遠い位置でぼちゃんと落水。

 直後、視界の中に『WIN!』の文字が躍る。


「「「ええー……」」」


 もうソールのメンバーも俺たちも、それしか言葉が出なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海戦イベラストは熱い展開でしたね。 中型艦の犠牲突撃辺りから、脳内で、起死回生→バベルの光→νノーチラスが流れていました。 思わぬ救援には胸が熱くなります。 中盤あたりまで来ましたが、と…
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