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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
資源島と海への誘い

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巨大戦艦の上で

 向こうの数は幹部クラスばかりがきっかり八人……。

 誰も彼も名の通ったプレイヤーばかりだ。

 しかし……まさかとは思うが、こちらに合わせてきたのか?

 それとも偶然? 大部分は後方の味方艦隊の対処に追われている?

 ソラールの顔を観察してみるが……よ、読めない。

 歯を剥きだすようにして笑っているその表情は、どちらとも取れる。


「それにしても、どうやって魔砲を防いだ? 驚いたぞ!」

「教えてやらん!」


 長剣を構え、警戒しながらユーミルが会話に応じないという姿勢を見せる。

 珍しいな……もしかして、ソラールの強さを肌で感じ取ったのか?

 そんなユーミルに対し、ソラールは少しだけ冷めたような顔になるが――。


「お前が勝ったらプリンちゃんの秘密を教えてやろう!」


 続けて放たれた挑戦的な言葉に、今まで以上に獰猛な笑みを浮かべる。


「それは楽しみだ……! 是非教えてくれ!」

「もう勝った気でいるのか? 勝つのは私たちだ!」


 またこいつは、相手をその気にさせて……。

 二人とも、今にも飛び出しそうな体勢で得物を構える。


「どいつもこいつも……近接職のランカーは好戦的なやつばっかりだ」

「全くもって同感ですよ」

「……あ、どうも。ソンブラさん」

「しかしハインド、君は相棒が女の子だからずっとマシでしょう? 俺なんかあれですよ?」

「何を言う、ソンブラ! 俺の何が不満だ!」


 親指でソラールを示した後に肩を竦める。

 副ギルマスであるソンブラというプレイヤーとは、砂漠レイドの際に少し話した。

 ソラールとは幼馴染だそうだ。

 立場が似ているということで、話が合ったのだが……。


「どうも空気がなあなあになってしまったので、コインを投げますかね。それがスタートの合図ということで、よろしいですね?」

「は、はあ……では、よろしく……」


 このように、掴みどころがない。

 飄々(ひょうひょう)としているのだが、ややせっかちで――。


「おいおい、勝手に決めるなよな。ソンブ――」

「投げます」


 コインが鉄製の甲板に、涼やかな音を立てて落ちる。

 それに即座に反応できたのは、ユーミルとソラールで……。




 戦いはそれほど長引きそうもなかった。

 何故なら……。


「ハインド先輩、危ない!」

「うおわっ!?」


 リコリスちゃんの盾が、すんでのところで『ランペイジ』を受け止める。

 何故なら、一つ一つの攻撃に無駄がない上に高火力。

 少数精鋭などという評価を受けている渡り鳥・ヒナ鳥だが、実態は偶然揃ったメンバーに過ぎない。

 当然、多数のメンバーの中から選りすぐりの実力者が幹部に上がる大ギルドとは違う。

 戦況は、劣勢だった。


「ありがとう、リコリスちゃん!」

「いえ! このまま押し込みます!」

「サイネリアちゃん、シエスタちゃん、フォローを!」

「はいっ!」

「うぃー」


 更に言うと、海戦の独自ルールによって蘇生は不可となっている。

 制限時間があるからこその設定だろうが、俺とユーミルの最大の強みを活かせない。

 だから、ユーミルが突撃する際の頼りはセレーネさん作の防具と……。


「ユーミル!」

「うむ! 待っていたぞ!」


『ホーリーウォール』による防御である。

 それを受けた直後から、ユーミルがソラールに凄まじい猛攻をかける。


「ちっ、バリア剥がしが面倒だ! ソンブラ、俺にも壁を!」

「駄目です」

「何故だ!?」

「WTですから」

「何だって!? 俺は貰ってないぞ!?」

「ジョッシュに使いましたので」

「おい!? ――がっ! この速さと剣の重み……!」

「でえええええいっ!!」


 話しながらも対応している……! まだ余裕があるってことか、憎らしいな!

 男女の体力差、そしてソンブラの的確な支援もあってそれが崩れる兆候は今のところ存在しない。

 ユーミルの動きが徐々に鋭くなっているので、それが失われるのも時間の問題だろうが。

 しかし、ユーミルに支援を集中させることで割を食うのは――


「ハインド殿! 死ぬ! 拙者、死んじゃう!」


 低HP故に、三人に狙われているトビである。

『空蝉の術』は既に割られているようで、敵のスキルによっては一撃で戦闘不能もあり得る。

 トビの頑張りのおかげで、後衛メンバーがやられずに済んでいるが。


「何とかならないか!?」

「無理無理! もう何十秒この状態だと思ってんの!?」


 ……ソール相手にそれだけもたせているだけでも、結構――いや、かなり凄いと思うが。

 死ぬと宣言してから強いのがトビだからな……ユーミルと違って見極めが難しい。

 って、もうMPがないから『縮地』も発動できないじゃないか。

 本当に危ないようなので、俺は杖を手に静かに前へ。

 スタートからずっと誰かしらにマークされていたが、ようやく隙ができた。

 これなら……!


「せいっ!」

「いたっ!? な、何だ!?」

「そいっ!」

「は、ハインドだと!? マジで前に出るのか!?」

「最後に閃光玉」

「目がぁ!」

「そして離脱」


 二連撃と『閃光玉』による目潰しを一息で行い、トビを引っ張って離脱。

 いかん、偶然上手くは行ったが心臓が破裂しそうなくらいバクバクしている……何でこう緊張に弱いのか、俺って奴は。

 ユーミルの毛の生えた心臓と交換したい。


「ハインド殿ぉぉぉ!」

「やってる場合か! 回復したら、早く前線に復帰――」

「ハインドさん!」


 リィズが『ダークネスボール』を精製し、追いかけて来た三人を足止めする。

 更に遠距離攻撃の矢が二発、魔法が一発。

 必死に避けながら体勢を立て直す。

 その後、散開しようとしたところでリィズが慌てて俺の服を引っ張る。


「ハインドさん、このままでは負けます! 純粋な戦闘力で負けています!」

「くっ……だが、もう目の前を敵を倒すしか……!」

「落ち着いてください。普段のハインドさんなら、まだ何か打つ手を思い付くはずです!」


 リィズが俺を励ますように背中側につく。

 ……リィズのおかげで、少し頭が冷えた。

『ペルグランデ』の周囲は――まだルーナたちの船と護衛艦が衝突中か。

 まだ『プリンケプス・サーラ』の無敵時間は僅かに残っているが……どの道、耐えたところで外の状況が良くなるとも限らない。


「……!」

「しまっ――!」


 俺が足を一歩止めてしまったところに、バフによって攻撃力を増した軽戦士が迫る。

 まずい、反応が遅れた!


「ハインドさん!?」

「いただきっ――!?」


 飛びかかって来た軽戦士が吹っ飛ぶ。

 振り返らなくても分かる。

 こういう時に俺を助けてくれるのは、いつだってセレーネさんだ。


「……」


 ちらりと視線を送ると、力強い頷きが返ってくる。

 本当に頼りになる人だ。

 回復魔法を詠唱しながら、俺は今どうするべきかを考える。

 リィズの助言、セレーネさんの無言の信頼……。

 二人に助けられた俺が、バトンを渡すべき相手は――。


「ユーミル!」

「むっ!? 何だハインド!? こちらはソラールだけで手一杯だぞ!」

「分かっている! ――いいか、みんなもよく聞け! 勝利条件は敵の殲滅だけじゃない!」

「「「――!!」」」


 純粋な戦闘能力で負けているなら……。


「俺の指示がなくても、みんななら自分のするべきことが分かるはずだ! さあ――」


 正攻法を避け、頭を使ってこの状況を利用するだけだ!

 今の「勝利条件」という言葉だけで、みんなにはきっと伝わるはず。

 相手の反応を少しでも遅らせるためにも、作戦の直接的な提示は必要ない、しないほうがいい。

 ただ……みんなの判断を信じ、自分の神官としての能力をフルに発揮する。

 今から必要なものは、それだけだ!


「ここからは各自の判断で動け! 行動開始!」


 返事はなかったが、渡り鳥・ヒナ鳥メンバーの動きが俺の言葉を境に大きく変わる。

 船上での戦いは、そこから急転した。

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