不沈艦プリンケプス・サーラ
迫る魔砲に込められたエネルギーを全て……。
全て、船体を覆うフィールドによって弾き飛ばした。
目がチカチカするが、『プリンケプス・サーラ』にダメージはない。
「ふはははは! 見たか、これがプリンちゃんの秘密兵器! 魔法――」
「魔法障壁の力だ! 不沈艦の名は飾りじゃないぞ!」
「私の台詞が!?」
魔法障壁は、例の秘密のブロックに残されていた機能だ。
切断されていた動力経路を繋ぐことで、不良動作を起こすことなく復活。
機関のエネルギーの一部を貯蔵し、解き放つことで一定時間バリアを張ることができる。
ただし対物には効果がなく、砲弾はすり抜けてしまう。
「しかし、ナイスタイミングだっただろう?」
「ああ、完璧だ! よく反応できたな!」
そのスイッチを入れたのはユーミルである。
メニュー画面を開き、艦長権限でオン・オフが可能。
魔法障壁が渇いた音を立てて消失していく。
「ハインド、例のものも使っていいな!?」
「もちろんだ! この時のための武器だろう!?」
ユーミルの問いに答えつつ素早く二度、頷く。
もう『ペルグランデ』は目の前だ。
「スイッチオン!」
先程と同じようにユーミルがメニューを操作すると、艦首の一部に変化が起きる。
そこに現れたのは、鈍い色を放つ金属の塊。
「そしてこれがもう一つの隠し玉! 艦首――」
「艦首大型ブレード、ゴーゴー! でござるよ!」
「またか!? 貴様ら、ワザとじゃないのか!?」
シエスタちゃんが「ネタ武器」と称した『艦首ブレード』である。
『プリンケプス・サーラ』は速度を落とさない。
ブリッジの二人はこちらのバリアのタイミングを信じて、直進を続けてくれている。
大型船からでも見上げるほどの大きさの『ペルグランデ』の横っ腹が、間近に迫る。
「――全員、耐ショック体勢をっ!」
「みんな、何かに掴まれぇぇぇ!」
ユーミルが叫びながら目を瞑り、宣言通り両腕でしっかりと手近なものを抱え込む。
……具体的には、俺の腰を。
「間に合わ――ハインドぉぉぉ! ヘェェルプ!!」
「またかお前は!? 俺に掴まるんじゃねえええええ!!」
ギャリギャリッ、という金属が擦れる嫌な音と火花が散る。
速度の乗ったブレードにより一撃は、見事に『ペルグランデ』の船体に穴を開けた。
そのままめり込んで行き、『プリンケプス・サーラ』本体の艦首がぶつかったところでようやく止まる。
俺は手すりにしがみつきながらも、その瞬間をしっかりと目にすることができた。
揺れが収まり、ユーミルが俺の腰を掴んだまま顔を上げる。
「せ、成功したのか……?」
「……接触は成功だ。でも、まだ呆けるには早いぞ! ほら、立て!」
「その通りです、立ちなさい愚か者。仕上げが残っているでしょう?」
リィズがユーミルを雑な手つきですげなく引き剥がし、魔導書を取り出す。
それを見て、ようやくユーミルは今すべきことを思いだしたようだ。
「はっ!? みんな、準備は良いな!?」
「いつでもいいぞ、ギルマス!」
「承知!」
「うん! 砲は撃ち切ったし、後は進むだけだよ!」
「サイちゃん、シーちゃん、行ける!?」
「ええ!」
「痛い、お尻ぶつけた……あ、私も大丈夫」
向こうの甲板上のプレイヤーはまだ混乱している。
更に、がっちりと噛み合ったこちらの船首とあちらの右舷。
こうなった後にすることは一つだ。
「――総員、白兵戦用意! 私に続けぇ!」
「「「おおー!!」」」
ユーミルが銀髪を潮風に靡かせながら、剣を抜いて駆け出した。
用意しておいた金属製の梯子を敵船に叩きつけ、それを道として侵入していく。
白兵戦を仕かけた際の攻撃側の勝利条件はこうだ。
一つ目、ブリッジを制圧すること。
この条件があるため、防衛側はブリッジを空にするのは非常に危険だ。
二つ目、船長を倒すこと。
これはギルドの所有船であればギルドマスター、それ以外なら購入者ということになる。
三つ目、敵船員を全滅させること。
シンプルだが、動かせるものが存在しなくなれば船は無力だ。
以上で、付け加えるなら攻め込んだ側の船――この場合は俺たち側の話だ。
そちらの船には大きな防御補正がかかる。
更に相手船に乗り込んでから少しの間は船が無敵になるので、白兵戦による制圧は時間との勝負となっている。
「時間が経てば船の無敵は解除される。そうなれば護衛艦隊が戻ってきて、無人のプリンケプス・サーラが総攻撃に遭うぞ!」
「そうでなくとも無人であることがバレて、直接乗り込んでブリッジに侵入されればアウトでござるし!」
「ええい、分かっている! さっさとソラールを見つけ出して倒すぞ!」
俺たちは一塊になって巨大戦艦の甲板を走った。
散開してソラールを探したいところだが、混乱しているとはいえ人数差が凄まじい。
慌てた様子の砲撃手を数人倒しながら、目指すは……。
「ブリッジだ! ブリッジに向かっておけば、最悪ソラールに会えなくても船を制圧することができる! ……かもしれない! 白兵戦の定石だ!」
「分かった! ブリッジだな!?」
「――その必要はない!」
「「「!?」」」
大音声が響き、船の扉がゆっくりと開く。
中から現れたのは……闘志に満ちた目の騎士と数人の仲間たち。
先頭の騎士は円錐形のランスを持ち、真っ直ぐに背筋を伸ばして悠然と歩み寄ってくる。
「ソラール……さん!?」
「ソラール!? 自分から来たのか!?」
「久しぶりだ、鳥同盟! 直接関わった回数は少ないが……お前たちの気持ちの良い活躍、いつも見ていたぞ! こうして戦う機会が巡ってきたこと、俺は心の底から嬉しい! 見ろ、俺の魂が喜びに震えているぞ!」
「ギルマス、ギルマス。魂は目に見えないんで。見ろって言われても困ります」
「お、おお……」
……そしてこの暑苦しい話し方、間違いない。
グラド帝国は現地人である皇帝も、プレイヤーのトップであるこの人もどっこいの性格である。
トップギルド・ソールのギルドマスター、ソラールが自ら迎撃のために甲板に現れた。




