突破口
ランカーが束になって互角、という状態は明らかにゲームとして異常である。
バランス崩壊だという声も上がっているが、トビの話が本当であればソールが船の購入金額を開示するだけで結構な人数の不満は収まるだろう。
というより、それ以上に……。
「いろは号が沈んだ! ユーミル!」
「どこの船だ!?」
「明日から頑張る、のとこのだ!」
「沈みながら周りに手を振っていないか!? のんきな連中め!」
彼らはその後、肩を組んで何故か歌を歌いながら船と共に沈んで行った。
何なんだ、一体……っていうか、あそこって半分は常に臨時メンバーじゃなかったのか?
「魔導士協会のグラット・シエールも撃沈でござる!」
「当たって! ――あっ、やりましたよセレーネ先輩!?」
「うん、段々命中率が上がって来たよ! その調子!」
協調した船が次々と沈められながらも、緊張感のある戦いを楽しんでいた。
ソールは護衛艦の練度も非常に高く、近付くのは非常に困難だ。
ダメージを負って落ちかけの船が白兵戦を狙い、次々と特攻を仕かけているが……。
巨大戦艦に辿り着けた船は、残念ながらまだ存在していない。
俺たちは極力ダメージを抑えながら、未だ周囲で砲戦中。
味方が増えたことで、一時は優勢に傾くかと思われたのだが――うおっ!? 船に掠ったか!?
「ハインド、狙い撃ちにされる! まだか!?」
「我慢だ! 今の状態で行っても、護衛艦を突破できない!」
まだだ、まだ動く訳にはいかない。
最終的に相手の懐に潜り込む必要はあるが、機を誤れば簡単に返り討ちだ。
それは周囲の味方船――だったものの残骸が証明している。
「――ハインドさん! アルテミスが艦尾の砲を潰したようです! ペルグランデの後方から味方が突入して行きます!」
リィズの声に俺は四人に砲を任せ、慌てて双眼鏡を構えた。
巨大戦艦の船尾から上がる煙……飛ぶ砲弾の少なさ、そして殺到する味方船。
先頭を走るのはルーナの『シルバームーン』だ。
これは――
「ブリッジ、聞こえているか!?」
俺は迷わず、ブリッジに向かって大砲の音に負けじと呼びかけた。
後ろでユーミル気合を漲らせる気配を感じる。
「――聞こえていますよ。せんぱ……」
砲の音と派手な着水音、そして船の傾きがシエスタちゃんの言葉を遮った。
それにやや顔をしかめると、ブリッジから顔を出したシエスタちゃんがやや声を張る。
「――先輩、聞こえていますー! 作戦発動ですか!?」
「ああ! 目標、ペルグランデ左舷前方! 機関最大出力!」
「――了解! 機関最大出力! 突撃を開始します!」
サイネリアちゃんの声が響き、船が最大船速に向けて加速を開始。
ユーミルが砲を撃ちながらの前進にしようと構えるが――
「待った、ユーミル! あっちが撃ち返すのを待ってからでいい!」
「む、何故だ!?」
「ヘイト管理と一緒でござるな?」
「ああ、そうだ!」
人間の感覚なんていい加減なもので、注意が向いていなければ必ず反応は遅れる。
それは、『プリンケプス・サーラ』のような大きなものであっても一緒だ。
「……? 二人で納得されても困るのだが!?」
「船尾に気を取られている内に、こっちの間合いに入り込む! わざわざ砲を撃ち込んで目立つことはない!」
「な、なるほど!」
「近付いて、セレーネさんの指示で撃ち始めるぞ」
ただし、気付かれてしまえば一瞬で蜂の巣だろう。
集団から離れて単独行動するということは、それだけリスクを伴う。
「砲火が薄い……護衛艦もほとんど船尾に……行ける!」
左舷前方はセレーネさんが事前にいくつか砲を潰したこともあり、『ペルグランデ』は途中から右舷側がなるべく敵に向くように動いていた。
しかし、今の状況と巨体の旋回速度を考慮すれば……げっ!?
「まずい、気付かれた! さすがに早い……!」
その巨体が徐々に近付いてきたところで、砲がこちらを向く。
続けて一斉砲撃――ダメージが増加し、速度が落ちる。
「せ、セッちゃん!」
「待って、まだだよ! もう少し踏み込めば、バリスタも撃ち込める!」
「しかし、このままでは!」
「……あ、あれっ? 後ろから味方の船が来ます! 二隻! ――きゃあっ!」
リコリスちゃんの悲鳴混じりの報告に確認すると、中型船が二隻。
それらが盾になるように、左右から砲を撃ち込みながら突進していく。
「無茶だ!? 死にたいのか!」
「ハインド、二隻とも前に私たちが救援した船だ! 間違いない!」
「なっ……!」
そしてその二隻は、一方がほぼ全ての砲火を引き受けて大破。
もう一方が一つの砲を潰した後、あっという間に沈んで行った。
機関が爆発し、周囲に残留魔力による衝撃波を走らせる。
「なんと……こんなこと、拙者のネトゲ経験で初めてでござるよ……」
「くっ……だが、隙ができた! 一気に飛び込むぞ!」
「絶対に無駄にはせん! セッちゃん!」
「うん! 撃ち方、始め!」
砲を撃ちながら一気に肉薄する。
最早一直線に進むだけとなった状況で、リィズも戻ってきて砲撃に参加。
今までの鬱憤を晴らすように、『ペルグランデ』の船体に砲弾が、矢が、次々と直撃。
長大なHPバーがガリガリと減っていく。
しかし、やはりというかそのまま終わりという訳にはいかなかった。
前部甲板と後部甲板にそれぞれ、砲口から煌々と光を放つこれまた巨大な砲が二門、ゆっくりとせり上がってくる。
「出たな、魔砲!」
「内部でチャージ済みでござるか!? 全く、この化け物船は!」
「火力お化けですね!? トビ先輩!」
「本当でござるよ! この火力お化け!」
『ペルグランデ』には二つの魔砲が搭載されている。
後方に搭載されたものは当然船尾方面から押し寄せる主力に。
そして前方にある一門は……。
「光栄だな、ハインド! やつら、たった一隻の船に魔砲を向けているぞ!」
「ああ! ブリッジ、船首を魔砲に!」
「了解です!」
「へーい」
今にも発射しそうな状態で、こちらを向いた。
周囲に味方はなし、明らかに魔砲を使って俺たち「だけ」を狙っている。
「ユーミル、分かっているな!? タイミングを誤るなよ!」
「――無論だ!」
「このまま前進する! 各員――」
俺の言葉の途中で、視界の前方にある空間は光で真っ白に染まった。
凄まじい光量の塊に包まれる中、『プリンケプス・サーラ』は……。




