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資源島とイベント最後の収集

「さて……ここに上がりに上がったポイント、1653があります」

「あります!」

「何か、このくだりに既視感があるのだが? 私だけか?」

「奇遇ですね。私もです」


 ユーミルとリィズの二人が何か言っているが、俺はスルーして話を続けることにした。

 こんな状況でも元気に返事をしてくれるリコリスちゃんは偉大である。


「こいつを持って資源島に行くとどうなるか」

「どうなるんですか!?」

「――ハインド君、早く早く! 今日こそウンダ鉱石を必要数入手してみせるよ!」


 セレーネさんが鼻息も荒く『不壊のツルハシ』を握りしめる。

 それを示しながら、俺は『プリンケプス・サーラ』の甲板上でリコリスちゃんに応えた。


「……こうなる!」

「なるほどです!」

「いや、違うでしょ。レア素材がじゃんじゃん出る、でしょ?」


 シエスタちゃんが端的にまとめてくれる。

 そう、ポイント1500超えともなればドロップレベルは5。

 その状態での資源島は、実に凄まじい。


「さすがに下位プレイヤーとの格差が酷くなるほどじゃないが……かなりの期間、素材収集をサボっても大丈夫なくらいだ! ビバ資源島!」

「わー!」

「……どうしたのでござるか? ハインド殿。変に上機嫌でござるが」

「新しく買った調理器具が大当たりだったそうです。蒸し器なんですが」

「へえ……どういうのができるの?」

「今度、中華まんを作ってくれるそうだぞ? 今から楽しみだ!」

「昨夜の茶碗蒸しは美味しかったです」

「何それ。拙者も食べたい」


 何かコソコソ話しているが、それはともかく。

 俺の言葉を聞いたシエスタちゃんがふにゃっと締まりのない顔になっている。

 ……一体、何を考えているのだろうか? この顔は。


「ど、どうした? シエスタちゃん」

「いいですよねぇ、サボり……サボタージュ……学校を休んで見る、普段は見られないワイドナショー、ドラマ、そしてお昼寝……はふぅ」


 それは実体験だろうか?

 妙にリアリティがあるというか……それにしても楽しそうに語る語る。

 言っている内容は仕様もないが。


「こんなこと言っていますけど、シーちゃんは一学期無欠席でした!」

「何だ、ちょっと心配したよ。しょっちゅうそんなことをしているのかと」

「したいんですけどね? だって、毎朝サイとリコが必ず家まで来るんですもん」


 ああ、二人で連れ出しているのか。

 それは、何と言うか……大変だな、リコ――小春ちゃんと椿ちゃん。


「……良かったでござるな、ユーミル殿。仲間がいるでござるよ?」


 自分が担当する砲の角度を調整しながら、トビがユーミルにそんなことを言う。

 要は寝坊仲間だ、と言いたいのだろう。


「は? 私はシエスタと違って学校に行く気はあるぞ? 自力で起きられないだけだ!」

「威張らないでください、ハインドさんの手を煩わせないでください自力で起きなさい! 全くあなたはどうして――」


 朝、俺が未祐を起こしに行くと理世は決まって不機嫌になる。

 その際の感情を思い出して火が点いたのか、リィズがユーミルに説教を始めた。

 それから逃れるように、ユーミルが視線を動かしてトビを睨みつける。


「あ、ほら見ろこの馬鹿忍者! お前のせいで藪蛇ではないか!」

「えー? 自分の日頃の行いのせいでござろう?」

「いや、お前も全然起きられないっておばさんが言っていたぞ? 偉そうにすんな」


 秀平は週の内、時間ぎりぎりに登校してくることがほとんどだ。

 生徒会などがあれば、日によっては自力で起きる未祐よりもよっぽど酷い。


「……おい」

「てへっ」

「うざっ! ハインド、こいつ海に捨てていいか!?」

「いいぞ」

「止めてよ!?」

「――すれば、ハインドさんだって……聞きなさい!」


 俺たちがどうしてこんな無駄話をしているかというと、要は……。

 暇なのである、資源島に到着するまでは。

 もうこのポイントになると、誰も手を出してきやしない。

 ブリッジにはサイネリアちゃんとシエスタちゃんが交替で入ってく入れているが、船はそのまま何事もなく資源島へ。

 そして……。




 セレーネさんが一心不乱に鉱石を掘り起こす。

 そして首尾よく狙いのものが手に入ると、軽快な足取りで次の場所へ。


「……元気に跳びはねるセレーネさんを見られる機会って、そうそうないよな? 特に現実リアルでは」


 マリーの別荘に行った時も、楽しそうではあったが静かだった。

 似たような姿を見たのは……海事博物館に行った時くらいだろうか?


「うぅむ……そうだが、TBでは多いだろう?」

「鍛冶場でも元気ですよ」


 そう言われると、セレーネさんにとってゲームの存在は重要な気がする。

 あのご両親の前でだって、和紗さんはとても控えめな様子だった。

 ……画面を通して俺がいた手前もあるだろうけれど。

 しかし、心から興味のあるものを前にした時のセレーネさんは……。


「本当に楽しそうだな。今回のイベントは特に――」

「うん! 私にとっては凄く良いイベントだったよ!」

「――っ!? き、聞いていたんですか? セレーネさん……」

「うん。目当ての鉱石も欲しかった量に達したし、大満足だよ。これで新しいハインド君の……」

「えっ?」

「あ、ううん! 戦艦も前より好きになったし、その……修繕もそう、楽しかったよ。実際に乗ってみた後も、大砲の音とか衝撃が――」


 話が切れ目なく続いていく……。

 それにしても、もうセレーネさんの採掘は終わりか。

 相変わらず作業の進みが速いこと速いこと。

 他のメンバーはその様子を見て、口数を減らして手を動かし始める。


「ふんっ! 後三か所! ……って、今満足だったと言ったか? まだ終わっていないぞセッちゃん!」


 ただし、ユーミルだけは忙しく手を動かしつつも話に割って入ってくる。

 それと入れ替わるようにして、俺は目の前の岩にツルハシを叩きつけた。


「あ、そうだね……折角だから、勝って終わろうね?」

「うむ、当然だ! セッちゃん砲にも期待しているぞ!」

「う、うん……それはいいんだけど、その名前は何とかならないのかなぁ……」

「む?」


 もう浸透してしまっているので、今更変えるのは難しいと思われる。

 それはそれとして、その後は資源島をぐるりと一周。

 俺たちは上がり切ったポイントによる多数のレア素材を手に、最終決戦に向かう船へと戻るのだった。

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