掲示板の噂と決戦の機運
近頃、TBの掲示板にはこんな噂がある。
それはイベント最終日、終了直前に上位陣による大きな戦いがあるのではないか? という内容だ。
「ランキングに熱心なやつは、締め切りギリギリまで戦うだろうという予想からだな。大差ならあえて海に行かない選択肢もあるけど、見ての通り詰まっているから」
「ふーむ……」
じゅごーと、中身のなくなる音をさせてから未祐が口からストローを離す。
未祐が急にシェイクが飲みたくなったというので、俺たちは放課後に近くのハンバーガー屋で休憩中である。
しかし、結構肌寒くなってきたというのに……お腹の調子を崩さなければよいのだが。
「特に、1位のソールのギルマスさんはお前と同じ人種だしな」
「む? 同じとは?」
「お祭り好き」
ソールのギルマス、ソラールさんの性格なら必ず乗っかってくる。
そういう前提もあって、掲示板は来たる最終決戦を前に大盛り上がりな訳だ。
しかし未祐はどこに疑問があったのか、何故だか首を傾げる。
「私がお祭り好きだと? ただちょっとウキウキして、思わず参加してしまいたくなるだけだぞ? 自然と楽しくなってしまうだけだぞ?」
「人はそれを、普通は“好き”と表現するのではなかろうか」
「……今のをもう一回、亘」
「は?」
聞こえなかったという訳ではないだろうに、もう一度同じ言葉を要求される。
それこそ、祭りの前のようにワクワクした表情をしながら。
何なんだよ、一体……要約していいよな?
「お前のそれは、一般に好きと表現していいもんだ。これでいいか?」
「違う! もっと縮めて!」
「……お前は祭り好き」
「もっと! もっと圧縮するのだ! 具体的には、その中から単語を一つ抜いて! そしてお前は、ではなくお前が、で繋げるのだ! さあ、もう一回!」
「お前が祭り」
「違ぁぁぁう!? どうして祭りのほうを残すのだ!」
何を言わせたいのかは、さすがにそこまでされれば分かるが。
俺が触れるべきことではないのは重々承知だが、お前、三人で作った淑女協定とやらはどうした?
とはいえ内容を知らない上に、触れると大火傷しそうなので言葉にはしないでおく。
何故なら、後ろから鬼の形相をした理世が迫っているのから。
「くそう、もうちょっとだったというのに……あ、でも録音の準備をしていなかっ――いやいや、こういうのは己の耳で聞き、記憶に鮮明に焼き付けるほうが――」
「あなたにはこれがお似合いです」
「ほっぺが焼け付くっ!?」
理世ができたてのハンバーガーを未祐のほっぺたに押し付ける。
紙に包まれている上に、それほど熱い訳ではないだろうが……。
不意打ち気味の温度に、未祐は大きくテーブル席の奥側に飛び退いた。
「それほど熱い訳がないでしょうが……焼けた鉄板でもあるまいし」
俺の脳内の思考に近い言葉を発しながら、理世がその開いたスペースに座る。
普段なら俺の隣に座りたがるのだが……そうか、未祐を逃がさないためか。
その未祐はというと、頬を抑えながら理世を睨み返している。
「貴様ならやりかねん……はぁ、びっくりした。ところで、どうしてここにいるのだ?」
「それにしても、珍しいですね兄さん」
「無視か!?」
「ハンバーガーショップで待ち合わせなんて……軽く何か注文して来いと仰るので、こんなものを注文してしまいましたが」
「こんなものって……そう悪いもんじゃないだろう? 偶になら」
そういえば、理世は前に母さんと一緒にハンバーガーショップに行って失敗していたな。
服飾関係の店から近い場所には他に数店舗あるので、ここではないと思うが。
不意に、理世があらぬ方向に小さく手を振る。
なるほど、学校の友だちとここまで来たんだな。
「今夜は母さんが夜の内に帰ってくるだろう? ちょっと遅いけれど。それを待ってみんなで食事にするために、今の時間に軽く食べておくのもいいかと思ってな」
「そういうことでしたか」
「まぁ、店のチョイスは未祐がここに行きたいって言ったからだけど」
「………………そういうことでしたか」
「何だその微妙そうな顔と間は!? 泣くぞ!」
「どうぞ」
「泣くか馬鹿者!」
「どっちですか」
未祐が腹立ちまぎれにポテトを口に放り込む。
それ、俺のなんだけど……。
「で、理世は何を注文したんだ?」
「有機野菜のハンバーガーだそうです。兄さんの手料理でないのなら、せめて体に良いものを――と」
「……む、肉はどこだ?」
「ここにありますよ」
「……どこだ?」
「ここです、ここ」
「薄っぺら!?」
理世が見せてくれたハンバーガーでまず目を惹くのは、大量のレタス、トマト……。
そしてその間に、申し訳なさそうに収まる豚肉のパティ。
「本当だ、肉少ない……まあ、体には良い……のか?」
「お前の胸のように薄い肉だな! これでは腹の足しになるまい!」
「は? そういうあなたは、普段から肉ばかり食べて……さっさと太って、兄さんに捨てられればいいんです。体臭もその内、きつくなるんじゃないですか?」
「太るか、臭うか! 仮にそうなったとしても、亘ならきっと直すために色々してくれる!」
「そりゃあな。でも、お前が太る様子は今のところないけどな……無駄に消費が多いんだから。っていうか、捨てるって何だ? 前提がおかしくないか?」
もう俺の言葉は耳に入らず、睨み合う二人を置いてポテトを一口。
最近は色々なフレーバーがあるもんだ……ソースが付いていたり、予め粉が和えてあったり。
でも、やっぱり塩はシンプルで美味い。
ここのは油の切り方もしっかりしているし、きっと当たりの部類だろう。
とりあえず、このままだと人目が集まりそうなので二人の間にポテトを差し出して黙らせる。
「黙れ、そして食え。この後は買い物に行くから、荷物は分担だ。そこでその有り余ったエネルギーとカロリーを消費しろ」
「……う、うむ。分かった」
「……分かりました」
折角三人揃ったので、軽いものを二人に任せて大物を持って帰ろう。
確か調理酒と、醤油が安売りで――うん?
ポケットの中でスマートフォンが振動している。
店内の時計を確認すると、まだバイト先から連絡が来ることもある時間帯で……そうだとしたら、出ない訳にもいかない。
使い捨てのおしぼりで手を拭いて、一旦確認。
「――っと、和紗さんからだったか。メールだ」
「カズちゃん?」
「TBのお話ですか?」
この場にいなくても、喧嘩の仲裁じみたタイミングで送ってくれるとは……いや、偶然だろうけれど。
メールの中身は画像付きで、本文は少し前に送った手袋が届いた旨とそれに対する感謝が。
……喜んでくれているようで何より。
凄く丁寧に何度何度もお礼の言葉が書かれている辺り、とても和紗さんらしい。
続けて理世が言った通り、ゲームに関する話題がその後に書かれている。
「半分正解、後半はゲームの話題。ええと……掲示板にソールの船に関する記述が結構あるから、見ておくともしかしたら役に立つかもしれないよ? ――だってさ」
「おおっ! それは興味があるぞ!」
「そうですか……私たちもトップ10に入りましたし、チャンスがない訳ではありませんからね」
「ああ、最終日は俺たちも海戦に参加しような。ってことで折角和紗さんが知らせてくれたんだし、見ておこうか」
「見よう見よう!」
「はいはい。でも、まずはきちんと食べ終わってからにしような?」
見始めると食事が中途半端になってしまうので、マナー的にも消化の面でもよろしくない。
スマートフォンをポケットにしまい直すと、俺は少し冷めてしまった食べかけのハンバーガーに齧り付いた。




