表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
655/1114

上位陣との戦い 飽和攻撃 後編

 そしてその光が収まった時、そこには……。

 一隻も落ちずに健在な姿で浮かぶ、ラプソディ艦隊の姿が。


「なっ……! 馬鹿な!」

「さすがに落ちないか……」


 予想通りだった俺とは対照的な反応をユーミルがしている。

 呟きが聞こえたのか、疑問を顔一杯に張り付けてこちらを向く。


「どういう意味だ、ハインド!?」

「中型船以降の船は、対魔法金属を使えるって話をしただろう? 船体が重くはなるけどな。ラプソディの船は魔砲を対策済みだったって訳だ」


 とはいえ、全く無事という訳ではなく船体のHPはかなり削られている。

 だからこの結果に茫然としている暇はない。

 大事なのはここ、発射直後の動きである。


「行くぞ! このタイミングで一隻でも多く落として、敵の陣形に穴を開けなけりゃ――」

「負けが決まる、ですか?」

「そうだ。リィズ、ブリッジに行って針路の補佐をしてやってくれ。二人は操艦に集中、うっかり深追いすると俺たちのほうが沈む!」

「分かりました」


 リィズが三角帽子を抑えてパタパタと駆けて行く。

 砲手が一人減るのは痛いが、この場面で必要なのは火力よりも的確な位置取りだ。

 それにしても……。


「ほんっっっと、憎たらしいくらいに崩れないな! ラプソディ!」

「ギルド戦で見せたような隙はないでござるなぁ……平然と撃ち返してくる」


 加速を始めた『プリンケプス・サーラ』が砲撃に有効な位置につくまでの間は、一にも二にも状況確認だ。

 互いに声を出してそれらを行い、誤った判断を下さないために気付いたことを言い合う。


「というか、うみんちゅの旗艦が危なくないか?」


 ユーミルの声に双眼鏡をそちらに向けると、確かに魔砲を放ったうみんちゅの旗艦が砲撃に捉まり始めていた。

 小破……いや、いつ中破になってもおかしくない。

 それを見たセレーネさんが双眼鏡から目を離し、口元に手を当てる。


「魔砲の反動で速度が落ちているね……」

「そういうものなんですか?」


 リコリスちゃんが小首を傾げる。

 それに対し、セレーネさんが微笑んでから


「うん。あれって、機関のエネルギーを流用するデメリット付き兵装だから。撃った後は、オーバーヒートこそ起こさないけれど、機関の出力が下がっちゃうの」

「へー。強いと思ったら、弱点もあるんですね。それだったら、やっぱり大砲のほうが安定感があるような?」

「そうだね。魔法に強い金属の発見だけじゃなく、そういうデメリットの都合もあって、この世界の今の戦艦は大砲が多いってことになるかな」


 セレーネさんが詳しく解説してくれたように、その辺りは以前も触れたとおり。

 ただ、当たった時のリターンも大きいのが魔砲という武器だ。

 故に来訪者プレイヤーはそれらを引っ張り出し、必殺兵器として利用している。

 必殺し損ねた場合は……正に今、目の前にあるような光景になってしまう。


「撃ったは良いが、思った以上に相手の艦隊のHPが減っていなかったのでござるな……」

「出るのが遅いと思ったら、今度は焦ったみたいだな。しかし、まずいぞこれは。うみんちゅの旗艦が沈むと、全体の士気が下がる」

「むっ……どうやらそれが分かっているようだぞ? お前の妹は」


 船が侵入したのは、うみんちゅの旗艦の射線――の少し横。

 砲火に巻き込まれない位置を加速しつつ、『プリンケプス・サーラ』が横切って行く。

 そして俺たちはセレーネさんの下知に従い、砲を撃ち込む。

 撃ち込んだ後、相手がこちらを向くようなら離脱。

 そうでないなら攻撃を続行。


「いいぞ、リィズ! 二人の操艦も絶妙!」

「これはうざいでござろうなぁ、相手……」


 俺たちと同じような動きの野良の船も混じり、即席の連携で時間を稼ぐ。

 ……稼ぐどころか、そこそこのダメージを与えることに成功した。

 一隻の中型船を艦首大型バリスタ、通称セッちゃん砲で撃沈。


「ぬおおおっ、報復の砲撃が!」

「プリンケプス・サーラの防御力を信じろ、ユーミル! 旗艦が下がるまで粘るぞ!」

「わ、分かっている! みんなも気合を入れろ、正念場だ!」

「承知!」

「はいっ!」

「わ、分かったよ!」


 徐々に被弾が増え始めるが、粘っている間に左右から船影が見え始める。

 撤退するかどうか迷っていた野良の船たちの一部が、『プリンケプス・サーラ』の健闘ぶりを見て戻ってきてくれたようだ。

 入れ替わりで他の船が前に出てくれたところで、ユーミルが後方を確認する。


「うみんちゅの旗艦はどうなった!? 見えるか、セッちゃん!?」

「……どうにか体勢を立て直したみたい。後方に下がったよ」

「良かったです。ハインド先輩、この後はどうするんですか?」

「この後は……」


 後は純粋な押し引きだ。

 ラプソディは未だに陣形を保ってはいるが、散らばりつつあるこちらの野良プレイヤーの船に苦戦気味。

 こうなってくると集団戦の様相は薄れ、個人の戦績へと焦点がシフトしていく。


「後はどれくらい稼げるかだ。戦況が拮抗しつつ終盤戦にもつれ込んだ以上、全体の勝敗は関係なし!」

「関係ないんですか!?」

「関係なし! 少なくとも、野良参加の船にとっては。危なくならない程度に、はぐれた敵を狙い撃ちだ!」

「よぉぉぉし、そうと決まれば!」

「き、決まれば? ユーミル先輩?」


 ユーミルが拳を振り上げた状態で、リコリスちゃんの問いに固まる。

 その手をそっと下ろすと、今度は双眼鏡を静かに持ち上げた。


「……周囲の監視だな。まずは楽な侵入角、倒せそうな敵を見定めなければ……」

「凄い勢いだったので、突撃って言い出すかと思いました……」

「陣形が崩れていればそうするが……なぁ? ハインド」


 何日か船に乗って、ユーミルは海戦の流れや雰囲気がようやく掴めてきたらしい。

 これなら俺が指示を代行しなくても、ある程度任せられるような気がする。

 ……といっても心配なので、ついつい口を出してしまうのだが。


「よく分かっているじゃないか。凄いぞ船長」

「うむ。海戦で熱くなって良いのは、砲を撃つ時と白兵戦の時だけな気がするのでな。……やるか!? 白兵戦!」

「やらない」

「ちっ……」

「やりたいのでござるか……」


 こんな艦隊戦で足を止めていたら、周囲の敵船からボコボコにされてしまう。

 白兵戦が有効なのは、和風ギルドのようにある程度船を使い捨てにするか、もしくは……。

 一隻対一隻で雌雄を決しようかという状況だろう。

 イベント序盤はそういった場面が各地で見られ、砲の命中率もあって白兵戦が頻発したらしいが。

 戦いが大規模化した今となっては、本格的な白兵戦が起こり得るのか微妙なところだな。

 その後、ダメージがかさんだうみんちゅの旗艦が撤退したことによって戦いは終結。

 艦隊全体としては敗北だが、俺たちはラプソディ艦隊十五隻の内、中型船二隻撃沈の大戦果を挙げて帰港することとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ