上位陣との戦い 飽和攻撃 前編
「ポイントが上がらん……上がらんぞハインド……」
「ああ。そろそろ何とかしないと」
俺たちは和風ギルドとの戦いの後、ダメージを受けた船を直すために帰港。
その後、イベント海域に戻ってきたのだが戦果は芳しくない。
というのも終盤戦に入ってからというもの、海域全体の様子が違ってきているためだ。
「救援要請が少ないから、艦隊戦に参加しないと稼げないのがな」
海戦を主としない小型船の者たちのポイントは低めの位置で安定し、島との往復時に襲われることも減った。
引き換えに、海戦に注力している面々がやや高ポイント化。
一つ一つの戦闘が大規模化し、戦いの数自体は減ってしまっている。
「うむ。稼ぐなら、戦いが始まったばかりのところに駆けつけなければならないしな」
「先程から、終わりかけのところに二度遭遇しただけですしね」
ちなみに、先程のような引き分けの判定となる戦闘時間のカウント開始は「最初の船」が交戦に入った時点からである。
その後の援軍よって戦いが大規模化した際は、それに応じて制限時間も伸びるという仕組み。
「終わりかけのところに入れはしても、残党狩りは気が引けるのでござるよなぁ。かといって負けが確実に決まった側に回るのは厳しい……」
「さっきの戦いじゃなくて掲示板での書き込みだけど、残党狩り専門のプレイヤーも現れ始めたらしいね」
「そうなんですか? プレイスタイルは自由ですけど……報復されかねない上に、いざという時に他のプレイヤーから助けてもらえないような」
上位陣になると、和風ギルドのような小型船軍団はイレギュラーとして……。
戦闘力の高い中型船以上の大きさの船が艦隊の主力となってくる。
その中に複数人のプレイヤーが乗り込むわけだから、必然的に数が絞られて見知ったものも多くなる。
よってあまり悪印象を与えるのは、大事なところで損をしそうに思えてならない。
「逆に私たちは……どうなんでしょうね? ハインド先輩」
「そこそこ救援はこなしたと思うんだけど……こればっかりは相手次第だからね」
そんな話をしながらも、双眼鏡で血眼になって戦う相手を探す俺たち。
戦闘中の船影を探して周囲を見回す。
遠かったり他の船が邪魔な時でも、波が荒立っていれば戦闘している可能性がそれなりにある。
視界が悪い場合は音が頼りだ。
魔砲の甲高い音や大砲の腹に響く音が聞こえたら、もう間違いない。
――来た!
「シエスタちゃん! ミニマップの、ええと……南南西から大砲の音がした!」
「はいはい。そちらに向かいますよー」
そうして『プリンケプス・サーラ』が向かった先には……。
かつて俺たちに魔砲を放った「うみんちゅ」を旗艦とする船団が、「ラプソディ」相手に戦いを始めるところだった。
うみんちゅ側が編成上限一杯までの加勢を要請しており、ラプソディは相手の集まりを待ってから動き出そうかという余裕の体勢。
「おわっ、ガチガチの上位対決……ユーミル、どうする?」
「むぅ、折角だから魔砲を相手にリベンジしたいところだったのだが……」
「いや、分からないでござるよ? ラプソディにも魔砲が積んであるかもしれないでござるし」
「ふむ……まあ、ともかく加勢の受付をしているのがうみんちゅだけなのだ。答えは一つだろう?」
ユーミルが出した答えに、異論がないか少し待ち……。
なさそうだったので、俺はアイテムポーチに手を入れる。
「……よし。じゃあ、信号を送るな」
後はいつもと同じ手順だ。
信号弾を上げると、それを感知したシステムによって参加を表明した陣営のリストに加えられる。
ただし、あちらには参加する船を選ぶ権利がある。
うみんちゅは主力艦隊を餌に、俺たちが参加した野良艦隊を壊滅させた相手だ。
数隻分のポイントを奪って離脱に成功した俺たちに、もしかしたら悪感情を持っているかもしれないが……。
「お、キックされなかった」
「懐が広いのか、強敵を前にそれどころじゃないのか……どっちでござろう?」
「前者だと思っておいたほうが幸せだろうな」
ちなみに加勢と救援は扱いが違うので、この戦いが終わった後にうみんちゅと戦うことは可能だ。
実際にやるかどうかは置いておくとして、だが。
「確か、艦隊と野良で複合編成する時は両翼に付くのがお約束だったな」
「連携を阻害しないように、でしたね?」
リィズが言ったように、野良に対してギルドやフレンド同士などで固めた艦隊とは連携に大きな差がある。
それを邪魔しないために、野良艦隊は固まって左右に寄るのがお約束だ。
「そうそう。ってことでシエスタちゃん、頼むよ」
「ふぇーい」
機関の出力を落とし過ぎないよう、『プリンケプス・サーラ』がうみんちゅ艦隊の右へ。
続々と野良の高ポイント船が集まってくるが、ラプソディはまだ動かない。
一度は砲の前に立ったトビだったが、それを見て気が抜けたように大きく伸びをする。
「うーん……っとぉ。今の内に狙いの船でも探しておくでござるか? 高ポイントの」
「……その必要、あるか?」
「どういう意味でござるか?」
「メニューを開いて、向こうの船のリストを見てみろよ」
編成リストには、色々な情報が乗っている。
情報を切り替えて行くと、ポイントを一斉に表示できるのだが……。
トビが言われた通りに、メニュー画面を開いてポイントを確認する。
「――ぶはっ!? 何でござるか、このほとんど一律のポイントは!」
「……おそらくですが、一日の例外もなく艦隊行動しているのでは? 野良ではない方の艦隊編成には、撃破時のポイントを振り分ける機能がありますし」
「うん、俺もリィズと同意見。今更言うまでもないけど、ラプソディはそういうギルドだからな……」
整然とならんだあの艦隊を見れば、すぐに思い出せるだろう。
トビは納得したように何度が頷き、メニュー画面を閉じる。
「あー。廃プレイ集団な上に、厳格なルールがある勝利至上主義でござったな。っていうか、よく見るとどの船もそっくり……量産型みたいな。拙者はああいうグループ、苦手でござるなぁ」
「性格悪そうだったものな、あのギルマス! 船酔いしろ!」
「神経質そうでしたね。海に落ちればいいのに」
「仲間の神官さんを蔑ろにしないであげて欲しいかな……」
「辛辣ぅ!? ど、どうしてでござるか? ハインド殿を勧誘してきたから? あ、あれ、でも、そうなるとヘルシャ殿は……あ、愛想の差か!」
「ざっくり言うとそうだな。能力至上主義だし、ヘルシャとは似ているようで全く違う人種だろうよ」
「へー」
リコリスちゃんが分かったような分かっていないような顔で元気に頷く。
更に言うなら、レーヴは俺たちのギルドを下げるような発言をしたからな。
俺を勧誘した際に、間接的にとはいえ。
ただ、そんな彼もギルド幹部のソルダによると「あれはあれで面白いやつ」なんだそうな。
以前、ソルダと少し話をした際にレーヴを指のことをそう評していた。
そんなラプソディとレーヴであるが、戦闘開始と同時に――とてもらしい攻撃が飛んできた。
船の規格だけでなく、射程を揃えた大砲による一斉射撃。
そのタイミングに狂いはなく、大砲の轟音の連なりにある種の美しさすら感じさせる。
しかしながら、それを受ける側はたまったものではない。
『プリンケプス・サーラ』の船上でそれを見たユーミルが、慌てて叫ぶ。
「し、シエスタぁ! か、回避行動っ!」
「いやぁ、こんなん下手に動くと余計に当たりますってー。ダメージを抑える努力はしますんで、船よりも自分に砲弾が当たらないようにお気を付けをー」
「砲弾の直撃で戦闘不能って、中々にハードな散り様でござるな……拙者、星降りの丘のトラウマが……」
「経験したくないけど、中にはそういう人もいるよな……おお、こわ」
砲弾の雨が逃げ場なく、うみんちゅと野良による複合艦隊へと降り注いだ。




